元凡人による悪への道のり~裏ボス枠になるために~   作:悪なれず

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生きてます。
展開をどうしようか悩んでいたらここまで遅れてしまいました。ごめんね。


28

 

 

 タイミングを見極めたアポイントメント。

 オーキド博士には、直接ポケモンリーグへ電話をかけて口添えをしておいて欲しいと頼んだ。

 キクコさんは、あの手この手で付添人になってもらった。

 昨今の流行りや噂を取り入れて新しくした企画書。

 いざという時のために用意した追加の資料。

 

 等々。

 念入りに設けた下準備。その結果は――まあ、かなりいい方向に進んだ。

 

 思っていたよりすんなり行ったのは、やはりポケモン界隈で顔の利く重鎮二人のおかげだろう。

 

 むしろ過剰戦力だったのではと思わなくもない。

 話し合いが始まって早々、真横で悠々と茶を啜っているキクコさんを見て、担当してくれたおっさんは汗を拭いつつもなんとか穏便に済ませようと必死になっていた。婆の圧が凄い。何もしてないのに。

 これにオーキド博士からの電話もあったんだから、子供だからと無下には出来なかったのだろう。おっさんには災難な現場だったに違いない。

 

 けど仕方ない。

 実績どころかジムバッジすら持っていないような子供の企画なんて、きっとまともに取り扱ってくれなかっただろう。

 下手したら途中で握りつぶされるか、場合によっては誰かに横取りされる可能性すら覚悟してた。組織が清廉潔白だけで成り立つとは思っていない。

 

 こちらも必死なのだ。権力を持った高レベルなジジババの力を借りた事を、どうか許してほしい。

 卑怯とは言うまいな。

 

 ちなみにジムバッジをとっていないのは、後回しにしていたら忘れたからである。馬鹿がよ。

 

――さて。

 

 ポケモンリーグからどのような条件を引き出せたか。或いは、どのような取り決めを為したか。

 

 正直、契約関連の文言って無駄に小難しい言い回しするよね。

 そのままだとややこしくて混乱しかねなかったので、自分なりに簡略化してみた。

 要するに

 

・施設に関連するあれこれは、補助金制度である程度まで負担する。

・運営の主体はこちら。リーグ側から口出しするけど拒否権アリ。

・施設で出た利益も基本的にはこちらが貰う。ただし何かあった時は責任を取ること。

・定期的に戦闘データを送り、優秀なトレーナーがいたら本人の同意を得た上で紹介してほしい。

・できる限りでいいからリーグ公認である事を周知させること。

 

 かみ砕くとこんな感じ。すっきりした。

 

 向こうからすれば、成功すれば万々歳、失敗しても『ちょっと善意で名前を貸しただけなんで』と言い逃れが出来る。看板を貸せば重鎮二人の面目が潰れる事もない。

 

 他にも何かあるのかもしれないけど、取りあえず、どちらも損をしていないことだけは確かだ。

 

 

 

「――さぁ。私の、このキクコの手を借りた対価を払って貰うよ」

 

 リーグ側の担当者が退室してしばらく。

 ほっとするのも束の間。湯呑を両手で持ったキクコさんが、横目で俺を見ながらそんな事を口にしてきた。

 

 助けてください! 茶をしばいてる婆が突然報酬を要求してきたんです!

 

「こんな子供から金をせびろうなんて恥ずかしくないの? 恥を知れ婆」

「誰が金を寄こせって言ったんだい」

 

 違うらしい。

 

「施設が出来たら強いトレーナーと戦わせるって話で片がついたじゃん」

 

 2週間くらい放置してた拠点の掃除したいんだけど。

 ハシバミのマンションに居候してた所為でテント周りの雑草やゴミが心配。……あれ、急に帰る気が失せたな。

 

「それはそれ、これはこれさ。いつぽっくり逝くかもわからない老いぼれをこき使っておいて、碌すっぽに目途も立っていない口約束で管に巻こうってんじゃないだろうね」

 

 なんだその無茶な屁理屈は。年寄り扱いしたら切れるくせに。

 

「言っておくがね、私がちょいと口を挟めば、あんたの企画を遅らせる事だって出来るんだよ」

 

 後出しで駄々捏ねやがって。権力を盾にして脅すとはなんと横暴な婆さんだ。

 

「今日から毎晩夜中に最低3回はおしっこに行きたくなる呪いを掛けてやる……」

「笑っちまうくらいに陰湿な呪いをかけようとするんじゃないよ」

 

 おむつの覚悟をしておいてください。

 

「で、何よ。どうして欲しいのよ」

「そんなに難しい事じゃない。ちょいとうちにいる小生意気な若いのとし合って欲しいのさ」

「なんでよ」

「会えばわかるさ」

 

 立ち上がって腰をぽんぽんと叩いた彼女は、着いてこいと言わんばかりに目で促してきた。めんどくさいですを前面に押し出して対抗するが、軽く小突かれたため渋々立ち上がる。

 

 歳月を重ねた足取りは、老人とは思えない程に素早い歩調だった。その背中を追いかけて、早く終わらせて帰りてぇなぁ……と。そんな事を思った。

 

 

☆☆☆

 

「距離詰めて」

「りゅうのいぶきで牽制しろ!」

 

 こちらの手持ちが動き出すよりも早く出された指示を実行したハクリューの攻撃により、オコリザルは動きを止めて回避に専念せざるを得なくなかった。

 

……んー……。

 

「――全速力で右回り。空いた場所から突撃」

「技を継続したまま薙ぎ払って近づけさせるな!」

 

 雑で曖昧な指示を汲み取るオコリザルを、ハクリューがなんとか押し留めようとする。

 それでも小回りはオコリザルの方が利くようで、俊敏な動きで攻撃を避けつつ、空いた隙を見つけて一気に距離を詰めた。

 

「――叩きつける!」

 

 しかし、易々と首をとれるほど、相手も甘くはない。

 ギリギリまで引き付けてからの、長い胴体を使って繰り出される強烈な一撃。食らったらHPが消し飛ぶこと間違いなしである。

 勿論、大人しく受けてやるつもりはない。

 

「避けて踏んでパンチ」

 

 半歩、体を逸らす事で即死級の一撃を避けさせ、勢いよく攻撃を透かしたハクリューの胴体を力強く踏みつける。

 脊髄反射で怯んだ隙を突いて、踏んだ箇所を足場に、強烈な右フックをハクリューにお見舞いしてやった。

 

「巻き付いて動きを止めろ!」

「避けて。無理なら片腕空けて」

 

 その場から離脱して躱そうとはしていたらしいオコリザルだが、向こうの方が少し早かった。

 仰け反ったまま激しく胴体を唸らせたハクリューにぐるりと巻き付かれたオコリザルは、しかし、せめて片腕だけは拘束されまいと死守していた。

 

「そのままりゅうのいぶきで止めを刺せ!」

 

――ここかな。

 

「顎」

 

 ハクリューが溜めていたエネルギーを解き放つ寸前、なんとか拘束を待逃れた右腕を振り上げてアッパー。

 

 ほんの一瞬、まさに刹那。

 

 もろに食らった攻撃で意識を飛ばしかけたハクリューは、殴られた反動でりゅうのいぶきをあらぬ方向に撃ち込み、その勢いで僅かに体勢を崩した。

 我が家のオコリザルが緩んだ拘束を見逃すはずもなく、抜け出すと同時に、地面に縫い付ける勢いで強烈なパンチをハクリューの顔面に叩き込む。

 

「押さえ込んで追撃」

 

 顔のやや下、付根――人間でいえば首元辺りに圧し掛かったオコリザルが、ガッチリと両足で挟み込んだ。

 そのまま、起き上がろうとするハクリューの顔を殴る。只管殴る。宛ら無呼吸連打。

 

 対してハクリューは、息つく間もなく繰り返される追撃を耐えつつ、胴体をくねらせて隙あらばオコリザルを振り落とそうと試みている。

 拮抗状態が崩れる前にどっかで重い一撃入れないと負けかねない。相手もそう考えているはず。じゃなきゃボコられている手持ちを黙って見過ごすはずもないだろう。

 

「――今だ!」

 

 静観していた相手トレーナーが高らかに指示を出したのは、まさしく俺が危惧していた、オコリザルのペースがほんの一瞬乱れた、その瞬間だった。

 

 今までなすが儘にされていたハクリューが、殴られながらも正確な動きで尻尾の先端をオコリザルの足首に巻き付けた。

 連なったビーズにも見える宝玉が煌々と輝き、ハクリューの身体が瞬時にばちばちと音を立てている。

 

 いち早く異変を察知したオコリザルは、しかし、先程の追撃によって体力を消耗したようで、尻尾を使っただけの拘束から逃れることすら難しそうだった。

 

 それなら、俺が出す指示は決まっている。

 

「全力で殴って」

「10万ボルト!」

 

 オコリザルの空気を切り裂く一撃がハクリューの顔を撃ち抜き、ほぼ同時に、ハクリューの身体から放出された稲光が、オコリザルの身体を覆い尽くした。

 

 

――そうして、ボンっ、と。

 

 二匹のいた場所が弾けたかと思えば、爆風染みた衝撃が吹き抜け、濛々と煙が立ち込め――

 

 

「……ハクリュー……」

 

 どこか呆然とした様子で、力なく倒れ伏す相棒の名前を呼ぶ相手のトレーナーに一瞬だけ目をやり、すぐさま視線を変えて自分の手持ちを確認する。

 

 オコリザルは、肩で息をしながらも、両足でしっかりと地を踏みしめていた。

 今までの戦闘が嘘のような静けさでこちらに戻ってきた彼女は、目の前で立ち止まってじっと見つめてきた。

 

「おつかれ」

 

 労いを一言。ついでにごわっとした毛を軽く撫でてからボールに戻す。

 リュックを漁ったら傷薬の補充を忘れていたので、あまり場に出しておきたくなかった。

 

……さて。

 

「ワータールくーん」

 

 ハクリューをボールに戻している少年の下へ軽快な足取りで近づきつつ、名前を呼ぶ。

 

 こちらを見やる赤毛でツンツン頭の少年は、顔に不機嫌さを滲ませ、しかしその瞳は気まずそうに逸らされていた。

 

「なんだっけ? 俺はぁ? 選ばれたエリートだからぁ? こんな相手から学ぶことはぁ? 何もないってぇ?」

 

 ぴょんぴょんと左右に跳ねながら言われた台詞を復唱する。

 うぇーい。今どんな気持ちー?

 

 

――という訳で対戦相手は、まさかの若きワタルである。

 

 年齢としては俺より幾つか年上程度なのだが、これがまぁなんとも生意気な少年だった。

 ポケモンリーグにあるバトルコートで自主練をしていたこいつの開口一番なんだったと思う?

 

『素人から学ぶことは何もない』

 

 まだ戦ってすらいないのにこの見下した態度と言われよう。

 

 勿論、彼にも選ばれて推薦されたトレーナーとしての自負がある事は理解している。

 だからと言って、こちらが傲慢な態度をとられる謂われようはないだろう。原作キャラだったとしても許さねぇからな?

 

 原作のお前はなぁ、格好がほんの少しダサくて、覚えるはずのない技を覚えたポケモンを所持していて、明らかにレベルが足りてないのに最終進化しているポケモンを堂々と使ってるけど、割といい奴だったんだぞ。

 

……お前チーターか? レベル40のカイリューはおかしいって。

 

 まあ、そんな感じで、キクコさんたっての頼みに便乗し、穏やかな心を持ちながら激しい怒りによって目覚めた俺は、紆余曲折あってワタルと戦うことを選んだのである。

 ちなみに、挑発しまくって向こうから自発的に試合を申し込ませた。

 

「おら、詫び入れろ。なんか奢れ。お前は敗北者じゃけぇ。げへへへ」

「うぐぐ……」

「ほら、その辺にしておきな」

 

 もっと追い詰めてやろうと思ったらキクコさんに止められた。

 ちっ、運がいいな小僧。命拾いしたことを感謝しろ。そこのしわくちゃな女神さまにな。……女神っつーか妖怪か。

 

「何か言ったかクソ坊主」

 

 俺の周りにいる女、俺が口に出してない陰口に反応するんだけど、探知能力が高くない?

 

「……ま、いいさ。ご苦労だったね、駄賃をやろう」

 

 言いつつ、キクコさんは懐から折り目がついたお札を手渡してくれた。

 広げて確認する。万札だった。太っ腹。羽振りがいいね。

 

「お婆ちゃん大好き」

「身の毛がよだつ……」

 

 なんてことを言うんだ。お婆ちゃん大嫌い。尿漏れしちまえ。

 

「さっさと帰んな。ワタル、あんたは此処に残るんだよ」

「……わかった。けど、その前に」

 

 貰った金の使い道を考えながら帰り支度をしていたら、じっとこちらを見据えるワタルと視線がかち合った。

 なんだぁ、てめぇ……?

 

「次は負けない」

 

 戯言をほざいたかと思えば、こちらの返事を待つ間もなく、ワタルはさっさとキクコさんとの会話に戻ってしまった。なんか変な対抗心持たれてて草なんですわ。ツンツン頭と同じくらい尖った発言をしていた人物とは思えない。

 またこいつとポケモンバトルをする機会があったら、受けるかどうかはその時の気分で決めよう。リーグに来る頻度を考えると、顔を合わせることも早々ないだろう。

 多分、次は負けるぜ、俺。カイリューに進化したら勝てるヴィジョン見えないし。

 

「じゃあ俺帰るから」

「また会おう」

「まだいたのかい。早く帰んな」

 

……帰る前に受付のところでオコリザルを治しておこう。

 

 打って変わって、気持ち悪いくらい掌返しで素直になったワタルと、相変わらずなキクコさんに背を向けて、今度こそ場を後にした。

 

 

☆☆☆

 

 

 陽もまだ落ちていないため、キクコさんから貰った万札の半分を掛金に、タマムシのスロットで少し抓んだ。使った分を失った。ふぁっく。二度やらんわこんなクソゲー。次は負けない。

 

 タマムシデパートで打ち上げに必要な飲み物と食べ物を、買い漁ってビニール袋いっぱいに詰め込んだ。

 

 俺と、完全に回復したオコリザルで二袋ずつ。ずっしりと重みのあるビニール袋を持ち上げ、帰路に就く。

 いつの間にかボールから抜け出していたヒスイゾロアが、足元をちょろちょろと駆けまわっていた。

 

……ハシバミのマンションに転がり込んだ二週間。初日に着替えや日用品を取りに行って以降、タマムシには一切近寄らなかった。

 

 少し前まで、諸事情でピリついていたロケット団の影響を受けて重々しかったタマムシ都内も、今ではすっかり落ち着きを見せている。

 

 まあ、相変わらずロケット団を筆頭に、その他ガラの悪い連中が蔓延っていることに違いはないが。

 前者は兎も角、後者に関しては以前より少し増えているような気さえする。

 

 ともあれ、それらを含めてどこか浮足立っているようにも思えた。

 

 なんと言えばいいのか。

 祭りが終わった翌日以降の、楽しかった記憶と、それが終わってしまった物寂しさ、そこからぽっかりとした空虚の名残と言ったところか。

 

 タマムシに戻ってきた印象は、そんな感じだ。なんか詩的ね。

 

 感傷に浸るのも程々にしよう。帰ったら拠点回りの掃除が待っている。

 二週間だぞ……? 野晒しのテントと周辺がどうなっているか想像したくない。

 今からハシバミのマンションに戻るの気まずいし時間も足りないから、ポケセンに泊まろうかな。

 

 いや、負けた気がするから、やっぱり大人しく拠点回りを掃除して気持ちよく打ち上げしよう。もう帰路途中の路地裏に入っちゃったし。

 

 荷物の入ったビニール袋を握り直しながら、ふらふらと路地裏を抜けてマンションの裏手に。

 木々に囲まれて周りから見えないそこは、正しく秘密基地。

 

 そうして、懐かしの拠点が視界に入った。

 

――は?

 

 伸びた雑草。

 あちこちむき出しになって焦げた地面。

 散乱する煙草の吸殻。

 空き缶含めた見覚えのないその他諸々のゴミ。

 

 崩れて骨組みの折れた年季の入ったマイハウス改め、ぼろテント。

 

…………

……

 

「――は?」

 

 

 二度目の疑問は声に漏れ、それと同時に荷物がどさりと地面に落ちた。

 





着地点と合間合間のイベントは決まってるんですけど、そこに至るまでの過程が中々決まらなくて……

口の悪い長寿系ヒロインとプライドが高いエリートヒロインを出すくらいしかできませんでした。申し訳ない。

ちなみにポケモントレーナーとしての腕前はワタルの方が上です。そりゃそうじゃ。
雑な指示で勝利をもぎ取ってくるオコリザルがおかしい……おかしくない?


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次回の更新日も未定です。どうか許して。
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