元凡人による悪への道のり~裏ボス枠になるために~ 作:悪なれず
平穏な日常回です。早く悪役ロールをしろ。
あとがきにアンケートを設けます。協力して頂けると幸いです。
――わたくしの賭博場が乗っ取られていますわ!
劇的ビフォーアフターによって驚きの変貌を遂げたイトクリの登場により、あの夜以降、非合法の賭け試合を行っていた空き地は謎の方向へとシフトチェンジしつつある。
イメチェン初披露である初日の時点で既に不穏な空気が漂っていたが、二回目の開催で明確な変化が見て取れた。
最初からいたガラの悪い不良はともかく、そこにサイリウム振る奴とか半被と鉢巻の武装で応援してるこてこてのオタク染みた格好をする連中がちらほら混ざり始めたのである。何人か不良から転職してる奴いるだろ。
親し気に肩を組むな。応援グッズ分け合うのやめろ。
おかしいだろ、お前らなんで仲良く盛り上がってんだ。不良は大人しくオタクを見下してざまぁされてろよ。
何が悔しいって、イトクリの解説と実況が無駄に面白いことだ。
試合自体は正直大した内容じゃないのに、あいつの実況と解説が入ると急にエンタメの質が上がるんだわ。
手に汗握る展開に話を持って行くのが上手すぎる。
ちなみに賭博場だと本名を名乗っていないため「進行役さん」「司会くん」「MCちゃん」の呼び名があり、一番は、頭文字を抜き取ってローマ字読みした「エムくん」や「エムちゃん」などが通例となりつつある。
ええんか、それで。否定しないからいいんだろうな。
閑話休題。
そんで以って売り上げの方も悪くない。めっちゃ売れる。
これあれだ、お布施。スパチャ。推しに金を貢ぐファン。
試合に出てるポケモンを引き取りたいなんて言う奴もいた。そちらはまだ考えている途中だ。
この勢いでどんどん試合増やすと思うじゃん? ところがどっこい、12月の現在、今月は終いにするのである。
やるとしても、まずはもう少し先の年末年始、どこかのタイミングでちょろっとやるだけにするらしい。
そこからは週一から週二くらいの頻度に下げるつもりとのこと。理由は以前のように頻繁に開くと特別感が薄れるからだとか。
じゃあ収益はどうするのかと聞けば、そこは試合に出るポケモンの希少性を高めるグッズを作ったり、新しい景品を仕入れたりして補填すると言われた。元々儲けは度外視だから気にしないんだけどね。
非合法の賭博場じゃなくてこっそり活動してる推し活解会場みたいになってんなぁ。……乗っ取られていますわ!
「ねぇボスぅ~? クリスマス一緒に過ごしましょうよ~」
そして現在、おんぼろアパートでイトクリにダル絡みされている最中である。
なんやかんやあって我が家で先の予定を話し終えた辺りで、イトクリがふらふら~っと近づいてきて寄り掛かって来たかと思えば、そのまま流れでこうなった。
距離の詰め方えっぐ。なんだこいつ、エリカかよ。
「プレゼントの交換会しません? いいやつ見繕っておきますからぁ」
止め給え止め給え。
指を使って人様の胸の上に布越しで『のの字』を書くのを止め給え。
自分より年下の子供に上目遣いと甘い声で要望を通そうとするのを止め給え。
確かに顔が良さげだから容姿で売り出すことも想定内だが、それにしたって言動含めて諸々変わり過ぎだろう。前は陰キャみたいな感じだったのに、今は懐いた後輩キャラみたいになってる。こいつの方が年上だけど。
腰まで届く髪と、上下だぼだぼなユニセックス衣装にやや中性的な見た目と薄化生も相まって、ぱっと見じゃ色々わからんくらいのレベルに仕上がってしまっている。
ただ、密着されると、しっかりうすほそ体系なことが丸わかりだった。
この短期間で人間の体型がそこまで変わるはずないよなという安堵感と、短期間でここまで変化できる異常性を理解できてしまう。怖い。尊厳破壊されるレベルの催眠術でも掛けられてんのか。どこを目指してるんだお前は。
あと、将来悪役として大成したい身としてはボス呼びが素直に嬉しい。的確に俺のツボを突いて来てやがる。懐に入り込んでくるのが上手い。
「いやです……」
「なんでですか?」
「ほ、他に先客があるから……」
「嘘ですね?」
嘘である。
わたしオトギリさん。目を付けて雇用した従業員から目を付けられてるの。
腕をがっちりホールドされて逃げられないの。
うっす。ほっそ。たすけて。
「まあ、ボスが嫌だって言うなら諦めますけど。とりあえず、今日はこのまま帰ります」
「夕方まで家で遊んでかね?」
「それはちょっと遠慮しときます。夕方過ぎまでいたらまた体調崩すかもしれないし。……善意で言いますけど、引っ越した方がいいと思いますよ」
先程までイケイケで距離を詰めていたとは思えないほどのビビり具合である。
「言うて俺なんも起きてないけど」
「何かあってからじゃ遅いんですよ……。ボクのところ、ここより少しだけ広いから、なんなら一緒に暮らします?」
「あ、結構です」
「振られちゃった」
ちぇーと拗ねた様に口を尖らせつつも、クリーム色のエコバッグを肩に掛けて玄関へと向かうイトクリを見送るため、尻尾のように揺れる髪を後を追いかける。
「じゃあボス。プレゼント、ちゃんと用意しておきますから。可愛い部下からの贈り物を楽しみにしててくださいね。――ばいばーい」
洒落たサンダルを履き終えたイトクリは、軽い調子で手を振ると、そのままドアを開けて出て行った。
「……」
しばらくその場に留まっていたが、なんとなくドアを開けて外を見渡す。
すると、既に一階まで下りて幾らかアパートから離れているイトクリの後姿が視界に入った。
――そうして、こちらが姿を視認するや否や、唐突にパッと振り返ったイトクリは、二階のドアから顔を覗かせている俺を見上げながら笑顔で手を振ってきた。
同じように手を振り返して部屋に引っ込んで、そのまま居室まで戻る。全身を使ったゾロアークの激しいスキンシップを適当にいなしながら、呟く。
「怖くね……?」
振り返るまでの予備動作が一切なかった。後ろに目でもついてるのかね。
イメチェンで陽キャになったと思ったらホラー適正まで携えてきやがった。乗っ取られてるんじゃないだろうな。いらないぞ、マジで。伏線でもないからな。
ままええやろ。部下としてプレゼントくれるって言ってたし、楽しみにしておこう。
……部下か。
正式な雇用関係を結んでる訳じゃないし本人の自称だけど、あいつがはじめての部下になるのか。
なんだか感慨深いな。一年ほど前の浮浪孤児生活から随分と出世した。努力の賜物ですよ。
去年の今頃って何してたかな……多分マンキー時代のオコリザルを毒餌で捕まえてからクチバの裏賭博で云々かんぬんだった気がする。色々あり過ぎて覚えてねぇや。
何かイベントをやった覚えもないから、クリぼっちだったんだろうな。メリークルシミマス。ポケモンがいたから精神的孤独で苦しんだ覚えないけど。忙しかったしね。
今年はどうすっかな……。別に先約も予定もないんだわ。嘘だったから。
まあでも? 折角可愛い部下が俺のためにプレゼントを用意してくれるって言うし?
ここは出来るボスとしてお返しの品も用意してやる必要があるだろう。
どうせだから他の知り合いのプレゼントも見繕っておこう。俺の自尊心と承認欲求を満たすために。敬い奉れ。
こういう地道な積み重ねが、周囲からの人望を集め、評判を高めてくれるのだ。
表社会でも裏社会でも有名になりたいんです。
金! 地位! 名誉! 全部くれ。殺してでも奪い取る。
『いつも優しいあの人が、あんなことする人だとは思えません』
将来悪事が暴露してニュースになった時は、ご近所さんにこれを言わせたい。このアパート俺以外誰も住んでないけど。どこかでご近所さんを調達せねば。
まあ、その前にプレゼントの調達をするわけだが。俺のセンスに脱帽させてやるぜ。
☆☆☆
「班長じゃーん」
「あ?」
リュックを背負ってタマムシデパートへと向かえば、昔から何かと世話になっているロケット団所属の班長と出くわした。下請けの仕事こそ貰わなくなったが、今でも偶に会って話すくらいの事はしている。
そんな彼だが、いつもの怪しい団員の装いではなく、ワイシャツにベルトを巻いたパンツと言う、非常にラフな格好だった。ちょい悪の雰囲気が出てますねぇ。
「サボり?」
「ちげぇ」
「クビか」
「休みだ」
「なるほど、邪魔だから家を追い出されたわけだ」
「ちげぇよ。上さんとチビのプレゼント探しに来たんだよ」
そう言えばこの人、家族のこと割と気に掛けてる人だったな。
悪の組織に所属していようとも、家族の前では一人の父に戻るのか。ちょっと面白い。
「お前はどうした」
「班長と同じ理由だよ。どうせだから一緒に探す? 文殊の知恵には足りないけど、一人よりマシくらいにはなるでしょ」
「あー……ガキの意見も役立つかもしれないな」
「戦闘後の回復は任せた!」
「なんの話だ」
知らんのか、ストーリーで同行者が増えるとダブルバトルになるんだぞ。そして一戦を終える度に回復して貰えるからアイテムの節約になるんだ。欲しい野生のポケモンが出た時は相方の手持ちを瀕死にさせる必要がある。
「目途は?」
「チビには玩具、嫁にはアクセサリーってところだな」
「無難だね」
「変に凝ったモンよりもいいだろ」
それはそう。
「お前はどうなんだ?」
「なんも考えてねぇ。上げたい知り合いの数を考えると10個以上買わなきゃ行けないんだよね」
「金は足りるのか」
「あるある」
節制と貯金のお陰で蓄えは十分だ。
なにはともあれ、こうして、ロケット団と孤児の謎コンビが結成されたのである。
☆☆☆
「――よし、お互いに欲しい物は手に入ったな」
コンビ解散。
道中のイベント? そんなものはない。
「満足いく結果で良かったねぇ。感謝しろ」
「なんだこのクソガキ。……まあ、お前の助言を取り入れたのは事実だ。ありがとうよ。これもな」
ぶっきらぼうに袋を見せつけてくる。
班長がプレゼントで買った物が入った紙袋ではなく、俺が渡したビニール袋だ。
中身はちょっといい肉とか、お茶請けとか、スープセットのようなインスタント詰め合わせ。少し早いクリスマスプレゼント。万が一のために、班長の家族のアレルギーがないかも確認済みだ。
班長とは一番長い付き合いではあるものの、無駄に凝った品を送るような仲かと言われるとそれも違う気がしたため、こういう形と相成った。
なんでもかんでも金を掛ければいいもんじゃない。
班長からはタマムシデパートで使える5000円分の商品券を貰った。ほぼプラマイゼロである。
その後は何事もなくお互いにさよならをして場を後にした。晩御飯はあの肉を使って何か作るらしい。
俺は運よく割引弁当があったからそれとサラダ。これが格差社会。
「……ん?」
買い物袋とリュックの重みに満足感を覚えながら帰路に就く最中、ふとケーキ屋が目についた。
ショーウィンドウの向こうに置かれているのは、季節限定のクリスマスケーキ……の食品サンプル。
光の当たり具合や艶でどう考えても偽物だと分かるそれが、イヤに美味しそうに見えた。
ガラス越しにそれを眺めていると、ちりんちりんとベルを鳴らしながら、家族連れが楽しそうに店から出てくる。
……んー……。
「買うか」
昔は買えなかった。今は買える。
これでこの体の持ち主である惨めな浮浪クリぼっちのトラウマを上書きしてやるのである。
もう漁ったゴミを担いで横目で通り過ぎるだけの人生ではないのだ。
勝手に死んだ後の身体使わせて貰ってるんだからこれくらいはね。憑依したとき約束もしたし。俺はそんじょそこらのちゃちな悪役ではないのだ。義理を果たし申す。
行くぞー。でっでっでででで。かーん。
「――いらっしゃいませー」
……一人でレジの受付してるあの店員、どっかで見た事あるな。具体的にはポケセンの受付でよく見るジョーイさんと似てる。ほら、寝ぼけ眼みたいな半目がそっくり。
「ジョーイさん?」
「え……ち、違います」
「副業ってありなの?」
「私はこの道一筋ですよ?」
「もしもしポケセン?」
「やめてください」
携帯電話で掛ける振りをしたら慌てて止めに入って来た。やっぱ本人じゃねーか。
「み、見逃してくれると嬉しいかなーって……」
まあ人には話せないことの一つや二つあるからね。これだって軽いおふざけの一環だから、誰かに言いふらすつもりもないのである。
でもいつか野次馬根性で問い詰めに行くから、その時まで震えて眠れ。
それはそれとして、当初の目的を果たそう。
「ケーキください。予約で」
「あ、はい。こちらが予約申込書になります。ただ今こちらの商品を組み合わせ自由のセットでご予約いただきますと――」
へー、早期予約特典でお得に。
じゃあこれとこれの組み合わせでお願いします。
申込書に受け取り日時と氏名……どうぞ、終わりました。
身分証と支払いはトレーナーカードでお願いします。
「――はい、ありがとうございます。こちら事前予約の特典となります。
残りは次回お越しいただいた際にお渡しいたします。またのご来店お待ちしております」
なんか十センチくらいのドードリオの玩具が入った箱を貰った。
「……尻尾を軽く引っ張ると首がピンと伸びますよ。お家で試してみてください」
いらねぇ。
――帰宅後
『クェェェッ!』
尻尾引っ張ると鳴くのかよコイツ。
うるせぇ。
いらねぇ。
主人公の環境を説明する回といった感じですかね。
時期がおかしいのは見逃してください。なんでもはしません。
前書きで書いたアンケートはイトクリの口調に関するものです。
敬語にするか、それとも親し気な口調にするか。
「ボスぅ~? クリスマス一緒に過ごそうよ~」
前者だと本文の通りで、後者だと上記の口調になります。
是非ともご協力いただければ幸いです。あなたの一票が彼の属性を左右します。
イトクリちゃんくんの口調。
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やや崩した敬語
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親しい間柄の口調
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使い分ける