機動戦士ガンダム SilenceWar ~U.C.0096 The Legends Sing of UC Lullaby~   作:にわ@タイトル単位作品作成者

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File.12 決意

U.C.0096 4月6日 午後

 ガランシェール艦橋にて。

 

 艦橋の窓に映る宇宙は、静まり返っていた。

 

 だが、バナージ・リンクスの頭の中は、静寂とは程遠い。

 

 ――今日の、午前中。

 

 ほんの数時間前の出来事が、遠い昔のように思える。

 

 あの日は、本来ならコロニービルダー――“カタツムリ”の見学の日だった。

 インダストリアル7の象徴。

 巨大な構造物を組み立てる、あの設備を間近で見られるはずだった。

 

 だが、急な中止。

 

 代わりに受けた講義は、内容が頭に入らなかった。

 

 そして――

 

 空から、少女が落ちてきた。

 

 あの瞬間の衝撃は、今でも鮮明だ。

 

 作業用プチモビに飛び乗り、夢中で追いかけた。

 間に合うかどうかも分からないまま。

 

 救い上げたときの、あの温もり。

 

 彼女―オードリー―は言った。

 

 戦争を止めるために、“カタツムリ”へ行きたい、と。

 

 理由も分からなかった。

 でも、放っておけなかった。

 

 連れて行った先で、戦闘に巻き込まれた。

 

 モビルスーツが暴れ、爆発が街を引き裂く。

 逃げ場のない恐怖。

 

 そして――

 

 父だと名乗った男。

 

 その手に託された、白いモビルスーツ。

 

 ユニコーン。

 

 何も分からないまま、操縦桿を握った。

 襲い来る敵を、ただ必死で退けるために。

 

 光。

 衝撃。

 叫び。

 

 ――その先は、途切れている。

 

 気が付けば、この船――ガランシェールにいた。

 

 今、自分が立っているこの場所に。

 

 だけど――

 

 窓の外には、崩れ始めたインダストリアル7。

 

 まだ救助の船影は見えない。

 

 それなのに――

 

 この船は、もうすぐ宙域を離れる。

 

 今なら、まだ間に合う。

 

「……艦長」

 

 バナージは、艦橋中央に立つ男へ視線を向ける。

 

 ジンネマン。

 

 重く、沈んだ目をした男。

 

「コロニー内に、友達がいます。

 まだ、取り残されているはずなんです」

 

 声が震えるのを、必死に抑える。

 

「助けに行きたい。

 行かせてください」

 

 艦橋が静まり返る。

 

 ジンネマンはすぐには答えない。

 

 腕を組み、わずかに視線を落とす。

 

 思案。

 

 計算。

 

 重たい沈黙が流れた。

 

 やがて――

 

「……船は停泊させておく」

 

 低い声。

 

「行ってこい」

 

 バナージの目が見開かれる。

 

「ただし、連邦が嗅ぎつける前に戻れ。

 時間はそう長くない」

 

 一瞬、言葉の意味を理解できなかった。

 

 だが次の瞬間――

 

「ありがとうございます!」

 

 反射的に叫び、踵を返す。

 

 艦橋の自動扉が開く。

 

 バナージは振り返らない。

 

 ただ走る。

 

 迷いを振り切るように。

 

 扉が閉まり、艦橋に静寂が戻る。

 

「マスター。よろしいのですか?」

 

 静かな声。

 

 マリーダ・クルスが問いかける。

 

 ジンネマンは窓の外を見たまま答えない。

 

 やがて、低く呟く。

 

「ここで不和を生んで離反されるぐらいなら……」

 

 ゆっくりと振り向く。

 

「戻れる環境を作って、自ら戻らせた方がいい」

 

 マリーダの瞳がわずかに揺れる。

 

「連邦に見つかる危険はあります」

 

「承知の上だ」

 

 ジンネマンは短く言う。

 

「戻れる場所だけ用意してやればいい。

 ああいう小僧は、自分で戻ってくる。」

 

 ――確実に、ユニコーンを運ぶ。

 

 そのための判断。

 

 感情ではない。

 

 計算でもある。

 

 しかし、それだけではない何かが、そこに混じっている。

 

 マリーダは小さく頷いた。

 

「了解しました、マスター」

 

 ガランシェールは、静かに宇宙へ溶け込む。

 

 嵐の前の、わずかな静寂。

 

 そして――

 

 白い機体が、再び宇宙へ飛び出す。




連邦の到着が史実より遅いので考え方どうこうより友達や知り合いの命を優先するバナージがいます。
それゆえの直談判回でした。
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