機動戦士ガンダム SilenceWar ~U.C.0096 The Legends Sing of UC Lullaby~   作:にわ@タイトル単位作品作成者

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File.13 真紅

U.C.0096 4月6日 同時刻

 インダストリアル7宙域にて。

 

 行かなきゃならない。

 

 置いてきた。

 守れなかった。

 

 だから――

 今度こそ。

 

 白いモビルスーツは加速する。

 コロニー外壁が視界の端に映る。

 

 みんな、まだ中にいる。

 

 タクヤも、ミコットも、

 ――オードリーも。

 

 その時。

 

 警告音。

 

 高出力反応、急速接近。

 

 赤。

 

 視界に飛び込んできたのは、流れるような曲線を持つ紅い機体だった。

 

「なんだよ、あれ……!」

 

 考えるより先に、引き金を引く。

 

 ビーム・マグナムの閃光が宇宙を裂く。

 

 しかし。

 

 当たらない。

 

 赤い機体は、軌道を“知っている”かのようにかわす。

 

 そして一瞬で間合いを詰めてくる。

 

 衝撃。

 

 白い機体が蹴り飛ばされる。

 

「ぐあっ!」

 

 体勢を立て直す。

 

 しかし――

 

 次の瞬間、側面。

 

 肘。

 

 装甲が軋む。

 

「なっ……!」

 

 見えている。

 

 だが追いつかない。

 

 姿勢を崩される。

 

 圧倒的だった。

 

 技量。

 経験。

 反応。

 

 何もかもが違う。

 

 まるで、大人と子供だ。

 

 追い詰められる。

 

 息が荒くなる。

 

「やめろ……!」

 

 その瞬間。

 

 視界が――赤に染まる。

 

(まだ……俺は……)

 

 警告音。

 

 限界。

 

 フレーム展開。

 

 赤い光。

 

 ――NT-D。

 

(また……これか……!)

 

 意識が遠のく。

 

「……っ……」

 

 闇。

 

 白い機体は、しかし止まらない。

 

 人の意志を超えた動きで赤い機体へ襲いかかる。

 

 ビームの奔流。

 

 異常な加速。

 

 常識外れの反応速度。

 

「暴走か」

 

 赤い機体――“シナンジュ”。

 そのコクピットで、

 フル・フロンタルは冷静に呟く。

 

 猛攻を紙一重でいなす。

 

 踏み込み、軌道をずらし、回り込む。

 

 そして――

 

 近接。

 

 蹴り。

 

 掌底。

 

 関節部への打撃。

 

 白い機体を破壊せず、しかし確実に削る。

 

 NT-Dの光が不安定に明滅する。

 

 やがて。

 

 動きが鈍る。

 

 停止。

 

「終わりだ」

 

 赤い機体が、ビーム・アックスを構える。

 

 狙いは、コクピット。

 

 振り下ろされる刃。

 

 その瞬間――

 

 轟音。

 

 視界を覆う影。

 

 巨大な赤い機体が割って入る。

 

 流線型の巨躯。

 

 両肩から広がる大きな装甲。

 

 振り下ろされたアックスを、巨大なビーム・トマホークが受け止める。

 

 閃光が炸裂する。

 

「……何だと?」

 

 フロンタルの声に、初めて明確な動揺が混じる。

 

 通信が割り込む。

 

 低く、よく通る声。

 

『……気に入らんな、その振る舞いは』

 

 その声。

 

 知っている、という次元ではない。

 

 忘れようのない声。

 

 ――シャア・アズナブル――

 

 フロンタルの瞳が見開かれる。

 

「……そんなはずは」

 

 巨大な赤のトマホークが、ビーム・アックスを押し返す。

 

『どうした?

 それでは“名”が泣くぞ』

 

「――ッ!」

 

 再びアックスを振るう。

 

 しかし。

 

 またしても受け止められる。

 

 圧倒的な出力差。

 

 押し返される赤。

 

「私は……!」

 

 一瞬だけ、言葉が途切れる。

 

 フロンタルが叫ぶ。

 

「私こそが“シャア・アズナブル”だ!」

 

 再び踏み込む。

 

 渾身の斬撃。

 

 だが――

 

 受け止められる。

 

『ほう……やはりな』

 

 返る声は、冷ややかだった。

 

 確信。

 

 見極めは終わったとばかりに、

 その声に、感情はない。

 

 見透かされた感覚に、内側が軋む。

 

 次の瞬間、ビーム・アックスが弾かれる。

 

 そして。

 

 赤い巨体の蹴撃。

 

「……ぐっ!」

 

 衝撃が走り、シナンジュは後方へ弾き飛ばされる。

 

 巨大なモノアイが、静かに光を増す。

 

『……足りんな』

 

 声に怒気はない。

 

 嘲笑もない。

 

『貴様には“その名”を背負えんよ』

 

 ただ、事実を述べている。

 

 決定的な差。

 

「……足りぬ……?」

 

 その一言が、深く刺さる。

 

 反論はある。理屈もある。

 

 だが――

 

「――ッ!」

 

 声にならない。

 

 次の瞬間、シナンジュは距離を取っていた。

 

 シナンジュが踵を返す。

 

 加速。

 

 赤は、宙域から離脱する。

 

 巨大な赤――“ナイチンゲール”は追わない。

 

 その巨体の中で、シャア・アズナブルは、

 ただ、静かにもう一つの赤を見送る。

 

 その時。

 

 別の気配。

 

 複数の推進反応。

 

 識別信号――連邦。

 

「……連邦か」

 

 わずかな間。

 

「思っていたより動きが良い」

 

 巨体の向きが変わる。

 

 静かな加速。

 

 赤は、戦場から消えた。

 

 一方、ガランシェールの艦橋は騒然としていた。

 

「……今の機体」

 

 マリーダが呟く。

 

 赤く巨大な機体が、船のすぐ傍を通過する。

 

 その瞬間。

 

 マリーダの呼吸が止まった。

 

「……」

 

 似ている。

 

 フロンタルに。

 

 だが――違う。

 

 深い。

 

 重い。

 

 圧倒的な“存在”。

 

 魂を直接掴まれるような気配。

 

 名が浮かぶ。

 

 あり得ないはずの名。

 

「……シャア・アズナブル……?」

 

 艦橋の空気が凍りつく。

 

 ジンネマンが振り向く。

 

「……何だと!?」

 

 その名。

 

 象徴。

 

 旗印。

 

 ネオ・ジオンという理想の中心。

 

「マスター……あれは、大佐と同質の……いえ、それ以上の……」

 

 言葉が途切れる。

 

「……本物だというのか」

 

 視線は、去りゆく赤に釘付けのまま。

 

 だが確信だけがある。

 

 その時。

 

「艦長!識別信号、連邦の機体が三機接近中!」

 

 報告。

 

 次の瞬間――

 

「進路変更!全速で先程の赤い機体を追う!」

 

 艦橋がざわめく。

 

「しかし箱の鍵は――!」

 

「馬鹿者!」

 

 怒号が響く。

 

「我々にとって何が最優先か、分からんのか!」

 

 拳がコンソールを叩く。

 

「総帥を見失う方が致命的だ!

 あれを追え!」

 

 ガランシェールが姿勢を変える。

 推進炎が噴き上がる。

 

 ――シャア・アズナブルを追う。

 

 それだけが、今の艦の意志だった。

 

 白い機体――ユニコーンガンダムは、その場に静かに漂う。

 

 戦闘の余熱だけを纏いながら。

 

 だが今、彼らにとって優先すべきは“鍵”ではない。

 

 総帥。

 

 その存在そのものだ。

 

 宇宙に残されたのは、

 白と赤の残光だけだった。

 

 歴史は、

 静かに軋み始めていた。

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