機動戦士ガンダム SilenceWar ~U.C.0096 The Legends Sing of UC Lullaby~   作:にわ@タイトル単位作品作成者

15 / 34
File.14 再会

U.C.0096 4月6日 夜

 L5宙域サイド4周辺にて。

 

 宇宙は、妙に静かだった。

 崩壊したコロニーの周囲とは思えないほどに。

 

 リディ・マーセナスはリゼルのモニター越しに、歪んだコロニー外壁を見た。

 

 インダストリアル7。

 

 外壁が裂けている。

 内部から光が漏れ、破片が帯のように漂っている。

 

「コロニーが……崩壊している!? 何が起きたんだ!」

 

『全機停止。状況確認』

 

 ノーム少佐の声が落ちる。

 

 リディは小さく息を飲んだ。

 訓練通り、思考を切り替える。

 

 拡大表示をかける。

 構造フレームの断裂。大規模爆発の痕跡。

 

 明らかな異常事態。

 

 ノームの判断は即座だった。

 

『三番機、ネェル・アーガマへ帰投。インダストリアル7崩壊の可能性ありと報告しろ。繰り返す、直ちに帰投』

 

『了解、帰投します』

 

 1機が反転し、最大推力で離脱する。

 

 残る3機は、コロニーへ向けて慎重に進む。

 

 そのとき。

 

「……ん?

 あれは……」

 

 リディの視界に、白い影が映る。

 

 瓦礫帯の向こう。

 

「隊長……白いMSが漂流しています」

 

『識別は』

 

「不明。推進停止。反応……微弱ですがあります」

 

『生存の可能性ありか』

 

 一瞬の間。

 

『リディ少尉。貴機は対象機の確保に当たれ。残りはコロニーへ向かう』

 

「了解」

 

 リディは進路を外す。

 

 白い機体へと近づく。

 

 純白の装甲。

 角のようなアンテナ。

 

 だが今は、ただ力なく漂っている。

 

「こちら地球連邦軍。応答せよ」

 

 返答はない。

 

 コクピット周辺をスキャン。

 

「……生体反応、確認」

 

 リディは息を吐いた。

 

「なんでこんなところに……」

 

 機体を抱え込む。

 

 推力を上げる。

 

 白いMSを抱いたまま、コロニーへと向かった。

 

 

U.C.0096 4月7日 早朝

 強襲揚陸艦ネェル・アーガマにて。

 

 ネェル・アーガマが宙域へ到着したのは、翌朝だった。

 

 帰投した三番機からの報告はすでに届いている。

 

 格納庫が開放される。

 

 リディは慎重に白いMSを収容スペースへ固定した。

 

 整備兵が取り付く。

 

「コクピット開きます!」

 

 ハッチが開いた瞬間、どよめきが起こる。

 

「子供……?」

 

 意識を失った少年が、シートに沈んでいた。

 

「医務室へ運べ!」

 

 担架が差し込まれ、少年は運ばれていく。

 

 リディはその後ろ姿を、無言で見送った。

 

 担架は格納庫を出て、艦内通路へと消えていく。

 

 ――意識の底。

 

 白い天井が、ゆっくりと焦点を結ぶ。

 

 バナージは小さく息を吸った。

 

 身体が重い。

 

 扉の開閉音。

 

 入ってきたのは軍服姿の男だった。

 

「目が覚めたか。気分はどうだ」

 

 落ち着いた声。

 

「……ここは……?」

 

「連邦の船、ネェル・アーガマの医務室だ。

 君はコロニー外で漂流していたところを保護された」

 

 淡々とした説明。

 

 男は端末を開く。

 

「名前を聞いてもいいか」

 

 一瞬の逡巡。

 

「……バナージ・リンクスです」

 

 指先が止まる。

 

 男は視線を上げた。

 

「バナージ・リンクス……君がそうか」

 

 わずかな間。

 

「インダストリアル7から収容した難民の中に、君のクラスメイトがいる。

 さっきまで“バナージがいない”と騒ぎになっていてな」

 

 バナージの瞳が大きく開く。

 

「みんな……無事なんですか!?」

 

「現在確認できている者はな。……立てるか?」

 

 うなずく。

 

 男は手を貸さない。ただ静かに歩調を合わせる。

 

 廊下の奥から、ざわめきが聞こえてくる。

 

 近づくにつれ、それははっきりした喧騒へと変わった。

 

 艦内通路の一角がざわついていた。

 

「……その、バナージって子は?」

 

 クルーが名簿を確認する。

 

「今のところ、この収容区画にはいません」

 

 沈黙。

 

「……やっぱり」

 

 落ちる声。

 

「昨日からいなかったし……」

 

「もしかしたら、まだ別区画かもしれないだろ」

 

「でも……コロニー、あんな状態だったんだぞ……」

 

 諦めきれないが、希望も薄い。

 

 その空気の中へ、バナージが足を踏み入れる。

 

「タクヤ!ミコット!」

 

 ざわめきの中で、何人かが振り向く。

 

 その一人が、目を見開いた。

 

「……え」

 

 次の瞬間。

 

「バナージ……?」

 

 信じられないものを見る目。

 

「おい……バナージだ!」

 

 堰を切ったように人垣が崩れる。

 

「生きてたのかよ!」

 

「どこ行ってたんだ!」

 

 怒鳴り声と涙声が混じる。

 

 昨日から続いていた不安が、一気に噴き出す。

 

 詰め寄られていたクルーが、ようやく状況を理解する。

 

 後ろで様子を見ていた軍服姿の男は、静かに確認する。

 

 ――バナージ・リンクス。

 ――収容難民名簿と一致。

 

 身元確認完了。

 

 それだけを整理する。

 

 喧騒の向こうで。

 

 小さな声が、こぼれる。

 

「……バナージ?」

 

 人混みの隙間。

 

 オードリーの視線が、揺れる。

 

 バナージが顔を上げる。

 

「オードリー……」

 

 互いに歩み寄る。

 

 言葉より先に、安堵が滲む。

 

「無事で……よかった」

 

「君も……」

 

 その瞬間。

 

 赤い残像が脳裏をよぎる。

 

「……赤い、MSが……」

 

 ぽつりと零れた言葉。

 

 医務室からバナージを連れてきた軍服姿の男――

 アムロ・レイの耳が、それを拾う。

 

「赤い?」

 

 静かな問い。

 

「インダストリアル7へ向かう途中で……。意識を失う前に」

 

 アムロは一瞬だけ目を伏せる。

 

 リゼル隊の報告には、回収した機体のみ。

 

 他機影なし。

 

「……覚えていることは後で聞こう。今は落ち着け」

 

 それだけを残し、通路を離れる。

 

 赤いMS。

 

 報告にはない。

 

 だが、あの少年の目は作り話をしているようには見えなかった。

 

 シャア?

 

 いや――。

 

 もし奴の目的が俺なら、もっと露骨だ。

 

 必ず意味を示す。

 

 今回は、それがない。

 

 別の目的か。

 偶発か。

 別人か。

 

 あるいは――

 まだ何か隠れているのか。

 

 答えは出ない。

 

 ネェル・アーガマは静かに針路を変える。

 

 難民を乗せ、サイド6へ。

 

 宇宙は何も語らない。

 

 だが――

 確実に、歯車は回り始めていた。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。