機動戦士ガンダム SilenceWar ~U.C.0096 The Legends Sing of UC Lullaby~ 作:にわ@タイトル単位作品作成者
U.C.0096 4月8日
強襲揚陸艦ネェル・アーガマ 医務室
薄く白い天井が視界に入る。
消毒薬の匂い。
ゆっくりと焦点が合う。
「ここは……」
「医務室です。昨日の戦闘後に意識を失いました」
落ち着いた声。
「現在は容体も安定しています」
そこで、はっとする。
「ユニコーンは――」
軍医は視線を外さずに答える。
「戦闘不能です。四肢部は大破しています」
胸の奥がひりつく。
声は出なかった。
「艦長が、目を覚まされたら話をしたいと」
静かな通達。
「……分かりました」
ほどなくして扉が開く。
オットー・ミタスが入室した。
「気分はどうだ?」
「大丈夫です」
嘘ではない。
ただ、軽くもない。
オットーは椅子を引く。
「君の乗っていた機体の事についてなんだが……」
視線が合う。
「君が気を失った原因についてだが……
戦闘中、機体の動きが途中から変わったように見えた。
……何か、思い出せることはあるだろうか」
話そうとするが言いよどむ。
荒唐無稽すぎて信じてもらえる内容じゃない。
オットーが困ったように笑う。
「……実のところ、あの機体のシステムは解析できなかった。
こちらで得られる情報がほとんどなくてね……。
どんな些細なことでもいい、何か覚えていることがあれば聞かせてほしい」
こんな話をしてもいいのか、自分でも判断がつかない。
「……信じてもらえるかはわかりませんが」
思い出そうとした瞬間、あの感覚が蘇る。
見覚えのない表示。
視界の奥に、焼き付くように浮かんだ文字列。
「あの機体は……戦っていると“NT-D”と言う表示が勝手に出てくるんです」
「……“NT-D”?」
「はい。確かにそう表示されていました。
あの表示が出た後は急に機体の制御が効かなくなって……。
急激な動きに体が振り回される感覚までは覚えているのですが……」
身体が引き裂かれるような衝撃。
視界が白く弾けて――。
「……次に気が付いた時には医務室のベッドにいるんです」
「……そうか。
制御が効かなくなった、か……」
オットーは視線を落とす。
「ユニコーンについてだが……
当面、修復を凍結したいと考えている」
言葉を選ぶように続ける。
「事実上の封印になる」
短い沈黙。
そして、少しだけ声の調子が変わる。
「そこで君の意見を聞きたいのだが……どうだろうか」
その言葉で、空気が止まる。
父の顔がよぎる。
“託す”と言った声。
拳がわずかに震える。
「……すぐには、答えられません」
それ以上、言葉が続かない。
「少し、考える時間を……ください……」
オットーは即答しない。
「……わかった。
決まったら、教えてくれ」
バナージは小さく頷く。
オットーは立ち上がる。
「急いで結論出せる話ではないだろうしな……」
扉へ向かう。
開いた瞬間、誰かとぶつかりかけた。
「っと、失礼」
「いえ……」
オードリーだった。
オットーは一瞬だけ彼女を見る。
「……ああ、どうぞ」
そう言って退室する。
静かな足音。
オードリーがベッドの傍らに立つ。
「具合は?」
「平気、です」
少しの沈黙。
「……話、聞こえていました」
正直な告白。
バナージは目を伏せる。
「ユニコーンが存在する限り、それを巡る争いは終わりません」
静かな声。
「あなたを守るためにも、そして多くの人のためにも」
感情を抑えた響き。
「あれを戦場に出し続ければ、いずれ取り返しのつかない事になります」
責めない。
強制もしない。
ただ事実だけを置く。
「……父さんは」
言葉が詰まる。
「託したんです。俺に」
「ええ」
否定しない。
「ですが、どう使うかを選ぶのは、あなたです」
長い沈黙。
重い。
でも、逃げ場はない。
「……あれが、誰かを傷つけるなら」
父の望みでも。
それでも。
「眠らせます」
決意というより、静かな諦め。
オードリーは何も言わない。
ただ、深く頷いた。
やがて軍医が戻ってくる。
オードリーは席を立つ。
「無理をしないで」
それだけ残して退室。
扉が閉まる。
天井を見上げる。
白い。
何もない。
「……艦長に伝えてください」
軍医に視線を向ける。
「ユニコーンは、封印してください」
声は震えていない。
「承知しました」
静かな返答。
医務室は再び静寂に包まれる。
少年は、父から託されたものを――自らの意思で手放した。