機動戦士ガンダム SilenceWar ~U.C.0096 The Legends Sing of UC Lullaby~ 作:にわ@タイトル単位作品作成者
U.C.0096 4月9日
強襲揚陸艦ネェル・アーガマ艦橋にて。
視界いっぱいに広がる、コロニーの人工の光。
サイド6外壁。
接岸ドックがゆっくりと拡大していく。
「進入角、良好。速度、基準値内です」
低く落ち着いた声。
航海長、ヘルム・コンバースが計器から目を離さずに報告する。
「ドック誘導ビーコン捕捉。補正誤差ゼロ・〇三」
オットーは頷く。
「……そのまま寄せる。行けるか?」
「了解。スラスター出力三%、姿勢安定」
戦闘帰りの艦だ。
推進系も、姿勢制御も万全とは言えない。
何より――艦内には難民がいる。
外部誘導ビーコンが点灯する。
「ドック指定来ました。第3ブロック、Bバースです」
「了解。最終アプローチ」
静かな緊張。
戦場のそれとは違う、神経のすり減る静寂。
やがて――
「接岸完了。係留固定」
「機関停止」
微かな振動が収まる。
「……よし」
オットーは小さく息を吐いた。
「入港完了だ」
誰かが、ほんのわずかに肩の力を抜く。
だが、仕事はまだ終わっていない。
「ボラード」
「はい、艦長」
「……連邦軍本部へ優先回線で繋げ。暗号レベルは艦長裁量だ」
「了解。暗号シーケンス開始」
レイアム副長が一瞬だけ視線を寄越す。
その意味は分かっている。
――これは“重い報告”になる。
「回線確立まで三十秒」
艦橋が再び静まり返る。
オットーは、言葉を整理する。
事実だけを述べる。
感情は挟まない。
だが、責任は回避しない。
「繋がりました。連邦軍本部」
メインスクリーンに、連邦軍紋章。
音声のみの回線だ。
『こちら連邦軍本部。ネェル・アーガマ、要件を述べよ』
低く抑えられた声。
オットーは背筋を正す。
「こちらネェル・アーガマ。艦長オットー・ミタス」
「インダストリアル7における非常事態、及び当艦の交戦経過について報告します」
淡々と。
崩壊の経緯。
ネオ・ジオン残党――いわゆる“袖付き”との交戦。
被害状況。
難民の保護。
数字と事実のみを並べる。
そして。
一拍。
艦橋の空気が、わずかに変わる。
「――続いて、RX-0《ユニコーンガンダム》について報告します」
レイアムの視線が鋭くなる。
オットーは続ける。
「当艦は同機を回収しました」
『……続けろ』
「戦闘中、ユニコーンは制御不能状態に陥りました」
言葉を選ぶ。
「結果として、同機は四肢を大破。現在、自力戦闘は不可能です」
艦橋の誰もが、あの光景を思い出す。
赤い発光。
敵味方を問わないその見境の無さ。
止められない挙動。
「同機は極めて高い戦闘能力を有する機体です。
しかし、戦闘中に突如“NT-D”というシステムが起動し、
パイロットの制御を離れた状態で行動します」
「起動中、操縦者は意識を喪失していたとの証言を得ておりますが、
その間、敵味方を無差別に攻撃する挙動が確認されました」
「現状のまま運用を続ければ、味方戦力、及び民間区域に重大な被害を及ぼす可能性が高いと判断します」
静寂。
そして、はっきりと言う。
「よって、当艦艦長として上申します」
「RX-0の運用凍結、
および封印を具申します」
艦橋の空気が凍る。
軍人として、それは異例だ。
最新鋭の機体の封印を
艦長自ら具申したのだから。
回線の向こうで、短い沈黙。
やがて。
『……内容は受領した』
感情の読めない声。
『対応を検討する』
それだけでは終わらない。
『追って指示を出す。それまでネェル・アーガマはサイド6にて待機』
『難民を降ろし、艦の整備を優先せよ』
『ユニコーンは現状維持』
オットーは頷く。
「了解しました」
『以上だ』
通信が切れる。
スクリーンが暗転する。
艦橋に、静かな空気が戻る。
レイアムが口を開いた。
「……どう出ますかね」
オットーは小さく息を吐く。
「……さあな」
正直なところ、予測がつかない。
政治の匂いがする機体だ。
アナハイムの思惑。
上層部の打算。
そんな、軍人の手には余る類の代物だ。
だが――
「こちらの判断は上げた。あとは……本部が決めることだ」
それ以上は、我々の仕事ではない。
レイアムが視線を巡らせた。
「各員、難民降艦の準備。医療班は総動員」
「了解」
艦橋が再び動き出す。
オットーは、その様子を静かに見ていた。
戦いは終わった。
だが、“後始末”はこれからだ。
オットーは窓の向こうを見る。
人工の青空。
平穏を装ったコロニー。
その裏で、どれだけの力が動くのか。
――ユニコーンは、眠らせるべきだ。
あれは、兵器としてあまりにも危うい。
再び戦場に出せば――次は、この艦が標的になるかもしれない。
「……待機、か」
小さく呟く。
今はただ、命令を待つのみ。
ネェル・アーガマは静かに、ドックに佇んでいた。