機動戦士ガンダム SilenceWar ~U.C.0096 The Legends Sing of UC Lullaby~ 作:にわ@タイトル単位作品作成者
同日同時刻
サイド6宇宙港にて。
コロニー内の人工重力が、わずかに身体を引く。
ネェル・アーガマのハッチを抜け、搬送デッキを渡り、サイド6のブロックへ。
明るい。
それが最初の印象だった。
戦場の閃光とは違う、穏やかな照明。
人のざわめき。
難民の列。
係員の誘導。
「……」
バナージ・リンクスは、歩きながらふと足を緩める。
ここに来るまでのことが、頭の奥で反芻される。
インダストリアル7。
コロニーの空に投げ出された少女――オードリー。
崩れ落ちる構造体。
託された鍵。
導かれるように乗り込んだ白い機体――ユニコーン。
クシャトリアとの戦闘。
圧倒的な圧力。
――勝手に、動いた。
制御不能の力。
そして――
ガランシェール。
保護。
瓦礫に取り残されたクラスメイト。
動けるのは、自分だけだった。
再びユニコーンに乗った。
赤い機体の襲撃。
――また、暴れた。
止められないまま。
ネェル・アーガマ。
再会。
安堵する間もなく、再び襲撃。
皆を守るために、もう一度ユニコーンに乗った。
――三度目。
表示される“NT-D”の文字。
そして。
気づいたときには、ユニコーンが四肢を失っていた。
――あれは、なんだったんだ。
「ちょっと、聞いてるの?」
「え?」
顔を上げる。
目の前に、頬を膨らませたミコット・バーチ。
「さっきから呼んでるんだけど?」
「あ、ご、ごめん……」
「もう。ぼーっとして」
軽く小突かれる。
横からタクヤ・イレイが覗き込む。
「どうかしたのか? 体、まだきつい?」
バナージは首を振る。
「いや……ここまで、いろいろあったなって思ってただけ」
タクヤが苦笑する。
「そりゃな」
「インダストリアル7、崩れるし」
ミコットが指を折る。
「避難誘導、全然追いついてなかったし」
タクヤが続ける。
「爆発は続くし」
「通信も切れるし」
「で、気づいたら軍に救助されてて」
三人で顔を見合わせる。
「……何が起きたのか、よく分かってないんだよな」
バナージは少し口を噤む。
彼は知っている。
原因も、戦闘も、赤い機体も、白い機体の暴走も。
でも二人は知らない。
だから。
「……うん」
それ以上は言わない。
そして、同時に小さく笑いあった。
「……ほんと、何だったんだろうな」
「現実味ないよね」
「でも生きてる」
その事実だけが、やけに重い。
歩きながら、話題は自然と広がる。
「そういえばさ」
タクヤが周囲を見回す。
「デニスたち、結局見つからなかったな」
ミコットの表情が少し曇る。
トム。マルコ。エスタ。
あの混乱の中ではぐれたままだ。
バナージも視線を落とす。
「難民、多かったし……」
「うん。あれだけいたら、探しきれないよね」
「きっと、どこかで元気にやってるだろ」
タクヤが言う。
根拠はない。
でも、否定する理由もない。
「そうだよね」
ミコットが無理にでも明るく頷く。
「きっとそのうち連絡来るよ」
それでいい。
今はそれで。
しばらく歩いたあと、ミコットがふと思い出したように振り向いた。
「そういえば」
「うん?」
「降りるとき、連邦軍の人に話しかけられてなかった?」
バナージは一瞬だけ言葉に詰まる。
「ああ……うん」
「何かあったの?」
「えっと……」
少しだけ視線を逸らす。
「モビルスーツに乗ってたことについて、後日連絡があるって。それと――しばらくはサイド6から出ないようにって」
「ふーん」
ミコットの目が一瞬だけ輝く。
「詳しくは?」
「それだけだよ」
「……なんだ」
あっさり興味を失う。
タクヤが苦笑する。
「軍の話なんて面白くないもんな」
「難しそうだし」
その会話が遠のく。
バナージは、ふと足を止めた。
振り返る。
遠く、ブロックの外壁越し。
見えるはずもないが、ネェル・アーガマのいる方向。
――ユニコーン。
この先、どうなるんだろう。
封印されるのか。
解体されるのか。
それとも――
「大丈夫よ」
隣から、静かな声。
オードリー・バーン。
バナージは目を瞬く。
「え?」
「きっと、大丈夫」
柔らかな視線。
「艦長さんは、冷静な方だった」
「だから、きっと良い方向に進めてくれるわ」
断言ではない。
祈りに近い言葉。
それでも、不思議と胸に落ちる。
バナージは小さく頷いた。
「……うん」
白い機体は、今は眠っている。
あの力が何だったのかは分からない。
でも。
守るために使ったのは、確かだ。
「行こう」
オードリーが歩き出す。
バナージも並ぶ。
タクヤとミコットが先で何か言い合っている。
人工の空の下。
戦場から切り離された世界。
それでも、昨日までとは少し違う。
何かが、確実に動き出している。
それを感じながら、バナージは前を向いた。
バナージ、オードリー、タクヤ、ミコットはここで物語から姿を消します。
民間人として人生を歩めることは素晴らしいことだと私は思います。