機動戦士ガンダム SilenceWar ~U.C.0096 The Legends Sing of UC Lullaby~   作:にわ@タイトル単位作品作成者

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File.23 不信

同日同時刻

 強襲揚陸艦ネェル・アーガマ 格納庫にて。

 

 整備灯の白い光の下。

 

 四肢を切断された白い機体が、整備架台の上で沈黙している。

 

 RX-0――ユニコーンガンダム。

 

 装甲は閉じ、いまはただの白い人型。

 

 だが、アムロ・レイには分かる。

 

 これは“ただの機体”ではない。

 

「フレーム自体は生きてるわね」

 

 隣でチェーンがデータパッドを操作する。

 

「サイコフレームの反応値、まだ微弱に残ってる」

 

 アムロは機体を見上げたまま答える。

 

「完全停止じゃない、か」

 

「ええ。少なくとも今は安定してる。

 暴走は止まったはず」

 

 “暴走”。

 

 その言葉に、わずかな棘がある。

 

 アムロはゆっくりと機体の胸部を見つめる。

 

「……確か“NT-D”と言ったか。

 あれは、単純なオーバーロードじゃないな」

 

「“NT-D”……」

 

 チェーンは言葉を噛み締めるように考え込んだ。

 

「発動すると機体が勝手に戦うらしい」

 

「それが“暴走”の正体なのね」

 

 わずかな間。

 

 アムロは無言で頷く。

 

「私も観測していたけど……。

 あの時の加速……普通じゃなかった」

 

 チェーンはデータパッドに視線を落とし、記録をなぞる。

 

「反応が速すぎる。

 まるで……アムロが動かしているみたいに見えた」

 

「俺が?」

 

「あれだけの動きは、パイロットが先読みしてないと……説明がつかない」

 

 チェーンは一度言葉を切る。

 

「でも、あの動きを機体がやっているとしたら……」

 

 わずかに眉をひそめ、画面から視線を外す。

 

「増幅器、というより――

 この機体のサイコフレームは……」

 

 チェーンは少し考える。

 

「……機体全体で共鳴させているような感じがする」

 

 首をかしげながら、アムロを見る。

 

「でも、理屈が通らないのよ。

 データとしては成立してるのに、説明ができない」

 

 チェーンはユニコーンの装甲を見上げる。

 

「少なくとも今までのサイコフレームの使い方じゃない」

 

 アムロは静かに目を細める。

 

 サイコフレーム。

 

 精神感応素材。

 

 だが、この機体はそれを“構造体そのもの”に組み込んでいる。

 

「確かにな。

 だが、一番の問題は制御だ」

 

 アムロが言う。

 

「リミッターの思想が見えない。

 普通は段階的な安全弁を入れる。

 でもあの時は違った」

 

 アムロはユニコーンの胸部を見る。

 

「ある瞬間を境に、挙動が一気に変わった」

 

 チェーンが苦い顔をする。

 

「……確かに」

 

「出力の立ち上がり方が普通じゃなかった。

 まるで“意図的に”リミッターを緩くしているみたいだ」

 

 沈黙。

 

 二人とも、それ以上は言わない。

 

 兵器としての完成度は高い。

 

 だが――

 

「危険ね」

 

 チェーンが静かに言う。

 

「ああ」

 

 アムロは即答する。

 

「戦場で扱うには、意図が見えなさすぎる」

 

ユニコーンを見上げるアムロ。

 

「普通は……怖くなるはずだ」

 

「何が?」

 

「ここまで精神感応を使うならな。

 必ずどこかに“ブレーキ”を入れる」

 

 アムロは顔をしかめる。

 

「でもこの機体には、それが見えない」

 

「……確かに」

 

 白い装甲が、整備灯に照らされて鈍く光る。

 

 チェーンはしばらく黙ってユニコーンを見ていた。

 

「……ねえ、アムロ」

 

 チェーンが視線を上げる。

 

「……あなたは、どう感じる?」

 

 静かな声。

 

 説明を求めているのではない。

 

“感覚”を聞いている。

 

 アムロは白い機体を見つめる。

 

「危険をはらんでいるのは分かる。

 だが、それ以上は掴めない」

 

 わずかな沈黙。

 

 視線は機体から外れない。

 

「敵意でもない。悪意でもない。

 だが、安心もできない」

 

 一拍。

 

「まだ“目覚めきっていない”感じがする」

 

 チェーンは少し首を傾げる。

 

「……機体が、ってこと?」

 

「ああ。目を覚ましたらどうなるか……。

 想像がつかない」

 

 チェーンは小さく頷く。

 

「……それが一番厄介ね」

 

 アムロも同意する。

 

 未完成なのか。

 

 それとも、完成に至る途中なのか。

 

 分からない。

 

「封印は妥当だな」

 

「ええ」

 

 しばらく二人は沈黙する。

 

 整備員の工具音だけが響く。

 

 その沈黙を、アムロが自分から切った。

 

「ところで、チェーン」

 

「何?」

 

「ハイパー・メガ・バズーカ・ランチャーの出力調整だが」

 

 チェーンの表情が少しだけ変わる。

 

「……あれね」

 

「最大出力固定は扱いづらい。

 状況に応じた可変が欲しい」

 

 チェーンは首を横に振る。

 

「無理よ。

 変更するためのインターフェースが存在しない。

 出力制御ユニットがブラックボックス化されてる」

 

 アムロが腕を組む。

 

「Hi-νの装備なら、こんな作りにはしない」

 

 チェーンが視線を上げる。

 

「……どういう意味?」

 

「彼らなら、必ず“遊び”を残す。

 出力調整の余地を消す設計はしない」

 

 一拍。

 

 チェーンは少しだけ逡巡してから口を開く。

 

「実は……。

 そのハイパー・メガ・バズーカ・ランチャー、Hi-νのチーム製じゃないの」

 

 アムロの視線が鋭くなる。

 

「何?」

 

「別の開発チームから回された装備よ。

 急遽組み込まれた形になってる」

 

「……どこのチームだ?」

 

 わずかな間。

 

「資料を引こうとしたけど、アクセス権限が足りなかった」

 

 チェーンは小さく首を振る。

 

「開発母体の詳細は伏せられている」

 

 沈黙。

 

 アムロはゆっくりと息を吐く。

 

「……妙だな」

 

「ええ」

 

「だが、今は使うしかない。

 現状の仕様で運用する」

 

 チェーンは頷く。

 

「整備は万全にしておくわ」

 

 アムロは視線をユニコーンへ戻す。

 

 白い機体。

 

 沈黙する未知。

 

 そして、自分の機体に組み込まれた、

 出所不明の武装。

 

「……表に出ているものだけが、“全てじゃない”か」

 

 小さく呟く。

 

 答えはまだ出ない。

 

 ネェル・アーガマの格納庫に、静かな時間が流れていた。

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