機動戦士ガンダム SilenceWar ~U.C.0096 The Legends Sing of UC Lullaby~ 作:にわ@タイトル単位作品作成者
同日同時刻
強襲揚陸艦ネェル・アーガマ 格納庫にて。
整備灯の白い光の下。
四肢を切断された白い機体が、整備架台の上で沈黙している。
RX-0――ユニコーンガンダム。
装甲は閉じ、いまはただの白い人型。
だが、アムロ・レイには分かる。
これは“ただの機体”ではない。
「フレーム自体は生きてるわね」
隣でチェーンがデータパッドを操作する。
「サイコフレームの反応値、まだ微弱に残ってる」
アムロは機体を見上げたまま答える。
「完全停止じゃない、か」
「ええ。少なくとも今は安定してる。
暴走は止まったはず」
“暴走”。
その言葉に、わずかな棘がある。
アムロはゆっくりと機体の胸部を見つめる。
「……確か“NT-D”と言ったか。
あれは、単純なオーバーロードじゃないな」
「“NT-D”……」
チェーンは言葉を噛み締めるように考え込んだ。
「発動すると機体が勝手に戦うらしい」
「それが“暴走”の正体なのね」
わずかな間。
アムロは無言で頷く。
「私も観測していたけど……。
あの時の加速……普通じゃなかった」
チェーンはデータパッドに視線を落とし、記録をなぞる。
「反応が速すぎる。
まるで……アムロが動かしているみたいに見えた」
「俺が?」
「あれだけの動きは、パイロットが先読みしてないと……説明がつかない」
チェーンは一度言葉を切る。
「でも、あの動きを機体がやっているとしたら……」
わずかに眉をひそめ、画面から視線を外す。
「増幅器、というより――
この機体のサイコフレームは……」
チェーンは少し考える。
「……機体全体で共鳴させているような感じがする」
首をかしげながら、アムロを見る。
「でも、理屈が通らないのよ。
データとしては成立してるのに、説明ができない」
チェーンはユニコーンの装甲を見上げる。
「少なくとも今までのサイコフレームの使い方じゃない」
アムロは静かに目を細める。
サイコフレーム。
精神感応素材。
だが、この機体はそれを“構造体そのもの”に組み込んでいる。
「確かにな。
だが、一番の問題は制御だ」
アムロが言う。
「リミッターの思想が見えない。
普通は段階的な安全弁を入れる。
でもあの時は違った」
アムロはユニコーンの胸部を見る。
「ある瞬間を境に、挙動が一気に変わった」
チェーンが苦い顔をする。
「……確かに」
「出力の立ち上がり方が普通じゃなかった。
まるで“意図的に”リミッターを緩くしているみたいだ」
沈黙。
二人とも、それ以上は言わない。
兵器としての完成度は高い。
だが――
「危険ね」
チェーンが静かに言う。
「ああ」
アムロは即答する。
「戦場で扱うには、意図が見えなさすぎる」
ユニコーンを見上げるアムロ。
「普通は……怖くなるはずだ」
「何が?」
「ここまで精神感応を使うならな。
必ずどこかに“ブレーキ”を入れる」
アムロは顔をしかめる。
「でもこの機体には、それが見えない」
「……確かに」
白い装甲が、整備灯に照らされて鈍く光る。
チェーンはしばらく黙ってユニコーンを見ていた。
「……ねえ、アムロ」
チェーンが視線を上げる。
「……あなたは、どう感じる?」
静かな声。
説明を求めているのではない。
“感覚”を聞いている。
アムロは白い機体を見つめる。
「危険をはらんでいるのは分かる。
だが、それ以上は掴めない」
わずかな沈黙。
視線は機体から外れない。
「敵意でもない。悪意でもない。
だが、安心もできない」
一拍。
「まだ“目覚めきっていない”感じがする」
チェーンは少し首を傾げる。
「……機体が、ってこと?」
「ああ。目を覚ましたらどうなるか……。
想像がつかない」
チェーンは小さく頷く。
「……それが一番厄介ね」
アムロも同意する。
未完成なのか。
それとも、完成に至る途中なのか。
分からない。
「封印は妥当だな」
「ええ」
しばらく二人は沈黙する。
整備員の工具音だけが響く。
その沈黙を、アムロが自分から切った。
「ところで、チェーン」
「何?」
「ハイパー・メガ・バズーカ・ランチャーの出力調整だが」
チェーンの表情が少しだけ変わる。
「……あれね」
「最大出力固定は扱いづらい。
状況に応じた可変が欲しい」
チェーンは首を横に振る。
「無理よ。
変更するためのインターフェースが存在しない。
出力制御ユニットがブラックボックス化されてる」
アムロが腕を組む。
「Hi-νの装備なら、こんな作りにはしない」
チェーンが視線を上げる。
「……どういう意味?」
「彼らなら、必ず“遊び”を残す。
出力調整の余地を消す設計はしない」
一拍。
チェーンは少しだけ逡巡してから口を開く。
「実は……。
そのハイパー・メガ・バズーカ・ランチャー、Hi-νのチーム製じゃないの」
アムロの視線が鋭くなる。
「何?」
「別の開発チームから回された装備よ。
急遽組み込まれた形になってる」
「……どこのチームだ?」
わずかな間。
「資料を引こうとしたけど、アクセス権限が足りなかった」
チェーンは小さく首を振る。
「開発母体の詳細は伏せられている」
沈黙。
アムロはゆっくりと息を吐く。
「……妙だな」
「ええ」
「だが、今は使うしかない。
現状の仕様で運用する」
チェーンは頷く。
「整備は万全にしておくわ」
アムロは視線をユニコーンへ戻す。
白い機体。
沈黙する未知。
そして、自分の機体に組み込まれた、
出所不明の武装。
「……表に出ているものだけが、“全てじゃない”か」
小さく呟く。
答えはまだ出ない。
ネェル・アーガマの格納庫に、静かな時間が流れていた。