機動戦士ガンダム SilenceWar ~U.C.0096 The Legends Sing of UC Lullaby~   作:にわ@タイトル単位作品作成者

3 / 34
File.02 親展

U.C.0094 1月某日

 強襲揚陸艦ネェル・アーガマ 艦長室にて。

 

 寄港中の艦は、静かだった。

 

 振動のない艦内は、どこか落ち着かない。

 

 アムロ・レイは艦長室の扉をノックする。

 

「入れ」

 

 扉が開く。

 

 デスクの向こうにいるのは、ネェル・アーガマ艦長

 オットー・ミタス。

 

 その横に、副長

 レイアム・ボーリンネア。

 

「アムロ・レイ少佐。本日付で着任しました」

 

 敬礼。

 

「歓迎する。少佐」

 

 オットーはどこか柔らかい口調で応じる。

 

「νガンダムは確認した。本艦で運用することになる」

 

 事務的だ。

 余計な修飾はない。

 

 ……ありがたい。

 

 だが。

 

「少佐」

 

 レイアムが口を開く。

 

「確認させてください。アクシズ阻止作戦における最終局面――」

 

 一瞬、室内の空気が変わる。

 

 オットーが視線だけで制止しかける。

 

 だがレイアムは続ける。

 

「あなたは、最後までνガンダムで現場に残っていた。

 その後の状況を、どこまで把握していますか?」

 

 淡々とした問いだ。

 

 詮索ではない。

 記録の確認。

 

 アムロは数秒、沈黙する。

 

 巨大天体が光に呑まれた瞬間。

 

 そして――

 

 ……やめろ。

 

「最終照射を確認。アクシズの崩壊を視認。

 その後、宙域を離脱しました」

 

 必要最小限。

 

 それ以上は言わない。

 

 レイアムは視線を外さない。

 

「照射元の機体については?」

 

 踏み込んだ。

 

 だが、声色は変わらない。

 

 オットーが咳払いをする。

 

「副長、それは――」

 

「記録上、空白になっています」

 

 静かな一言。

 

 アムロはゆっくり息を吐いた。

 

「会計監査局代表より個人的に回された、民間企業製の機体です。

 詳しいことは、わかりかねます」

 

 アムロの声は平坦だった。

 

 室内に沈黙が落ちる。

 

 オットーは一瞬だけ視線を伏せる。

 それ以上を問うつもりはない、という意思表示。

 

 レイアムは端末へ視線を落とす。

 

 入力の指が、一拍だけ止まった。

 

「……了解しました」

 

 淡々とした応答。

 

 だが、それ以上の追及はない。

 

 軍の指揮系統外。

 政治案件。

 

 触れれば泥をかぶる類の話だと、理解している。

 

 オットーが咳払いを一つ。

 

「少佐。本艦では君を一パイロットとして扱う。

 特別扱いはしない」

 

「それで構いません」

 

 即答だった。

 

「では、本日よりロンド・ベル隊ネェル・アーガマ所属とする。

 詳細は副長から通達する」

 

「了解しました、艦長」

 

 敬礼。

 

 踵を返す。

 

 自動扉が静かに開き、そして閉じた。

 

――通路。

 

 寄港中の艦は、どこか落ち着かない静けさに包まれている。

 

 遠く、整備区画から工具の音が響く。

 

 νガンダムは、もう格納庫に収まっているはずだ。

 

 考えることは山ほどある。

 

 だが今は――

 

 機体の様子を見に行く。

 

 それだけでいい。

 

 アムロは歩き出す。

 

 艦内の灯りが、無機質に続いている。

 

 その先にある白い機体を思い浮かべながら。

 

 

 

同日同時刻

 

ネェルアーガマ格納庫にて

 

 巨大なハンガーの中央。

 

 白い機体が、静かに佇んでいた。

 

 ボッシュ・ウェラーは、その場で固まっていた。

 

「……うそだろ」

 

 思わず漏れる。

 

 特徴的な頭部形状。

 洗練された白の装甲。

 背部に接続されたフィン・ファンネル。

 

 νガンダム。

 

 ロンド・ベル隊の象徴。

 

 そして――

 

 アムロ・レイの機体。

 

 整備兵が周囲で作業している。

 

「本物だよな……?」

 

 思わず近づき、装甲に触れかけ――

 

「触るな。まだ固定が完全じゃない」

 

「す、すみません!」

 

 反射的に直立。

 

 顔が熱い。

 

 落ち着け。落ち着け俺。

 

 ただの機体だ。

 ただの配属先だ。

 

 アムロ少佐がいるだけだ。

 

 ……いるだけって何だ。

 

 その時、背後から足音。

 

 規則正しい軍靴の音。

 

 振り向いた瞬間、時間が止まる。

 

 そこに立っていたのは――

 

 アムロ・レイ。

 

 写真や記録映像で何度も見た顔。

 

 だが実物は、思っていたよりずっと静かで、

 ずっと普通だった。

 

 ボッシュの喉が鳴る。

 

「あ、あのっ!」

 

 声が裏返る。

 

 終わった。

 

 終わった俺。

 

 アムロは一瞬だけ目を瞬かせる。

 

「君は?」

 

「ボ、ボッシュ・ウェラー中尉!

 本日付で本艦に配属予定であります!」

 

 言い終えた瞬間、姿勢が微妙に崩れる。

 

 敬礼が半テンポ遅れた。

 

 最悪だ。

 

 だがアムロは小さく頷くだけだった。

 

「そうか。よろしく」

 

 それだけ。

 

 過剰な威圧もない。

 英雄の風格もない。

 

 だが、立っているだけで空気が違う。

 

 ボッシュは必死に言葉を探す。

 

「あ、あの、νガンダム……やっぱり凄いですね!

 あの作戦の時も――」

 

 言いかけて、止まる。

 

 整備兵の動きが一瞬だけ止まった気がした。

 

 アムロの表情は変わらない。

 

「整備中だ。近づくなら足元に気をつけろ」

 

 淡々とした注意。

 

 それだけ。

 

 ボッシュは、自分の口が勝手に回っていたことを悟る。

 

「は、はいっ!」

 

 何やってんだ俺は。

 

 だが、背を向けて機体を見上げるアムロの横顔は、

 

 どこか遠くを見ているようだった。

 

 ボッシュは、その背中を見て思う。

 

 ――やっぱり、凄い人だ。

 

 俺はこの人の下で戦うんだ。

 

 胸が高鳴る。

 

 そして同時に、

 

 少しだけ、不安もよぎる。

 

 あの人は――

 

 何を見ているんだ?




ボッシュ君が嬉しそうで何よりです。(遠い目
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。