機動戦士ガンダム SilenceWar ~U.C.0096 The Legends Sing of UC Lullaby~ 作:にわ@タイトル単位作品作成者
U.C.0096 4月13日午前
トリントン基地 野外MS母艦係留場にて。
鋼鉄が軋む音が、朝の湿った空気に響く。
ネェル・アーガマの舷側から伸びたクレーンが、ゆっくりと荷を降ろしていく。
四肢を失った白い機体――ユニコーン。
両腕、両脚を切断されたその姿は、兵器というよりも、役目を終えた遺物のようだった。
アムロは腕を組み、黙ってそれを見つめていた。
隣にはチェーン。少し離れた位置に整備員たち。誰もが口数は少ない。
「……終わった、のかしらね」
ぽつりとチェーンが言う。
「……さあな。少なくとも、もう戦わせることはない」
トレーラーが横付けされ、固定具が掛けられていく。
行き先は核兵器貯蔵庫。
厳重な封印。二重三重の監視。
これで、終わりだ。
そう思うと、不思議と胸の奥が重くなる。
――あれは、本当にただの兵器だったのか。
戦闘中の挙動を思い返す。
急な動きの変化。
敵を迷いなく捉える早さ。
そして、あの“感覚”。
何かがそこにあった。
だが、それが何だったのかまでは分からない。
「お久しぶりです、アムロ少佐」
振り向けば、そこに立っていたのは ユウ・カジマ だった。
「ユウ大尉か。……無事だったようだな」
「はい。おかげさまで」
形式張った敬礼はない。だが口調は崩れない。
「で、何をそんなに見ているのですか、少佐」
ユウは視線を白い機体へ向けた。
「危険性のある兵器が封印される様子だ」
アムロは答える。
「二度と暴れないよう、厳重に封印される場所へ運ばれていく。それを見届けている」
「危険性、ですか?」
わずかに首を傾げるユウ。
チェーンが口を挟む。
「戦闘中に暴走したの。パイロットの意思とは関係なく」
「明らかにおかしかったの。
パイロットが気絶しているのに、動き続けてて……」
伏目がちにこちらを見るチェーン。
「敵だけでなく……アムロまで攻撃してた」
ユウは真剣な表情で聞いている。
アムロが補足する。
「機体が“意思”を持っているかのような……。
勝てると確信している動きだった」
一瞬の沈黙。
そしてユウが、慎重に言葉を選ぶ。
「……失礼ですが。それは、EXAMシステムのようなものでは?」
アムロは首を振る。
「いや、パイロットは“NT-D”と言っていた。違うはずだ」
「NT-D……?いや、言葉の意味として……あるいは……」
考え込むユウ。
アムロは訝しむ。
「……そんなに引っかかるものなのか?
EXAMシステムというのは」
ユウは小さく息を整え、説明に入る。
「一年戦争時に開発された対ニュータイプ用システムです。機体性能を飛躍的に向上させますが――」
「実際には、機体の挙動にパイロットが縛られる形になります」
「適合できる者でなければ耐えられません。精神的・肉体的負荷は極めて高い」
チェーンが眉をひそめる。
「そんな危険なものを……」
「試験中に亡くなったパイロットもいたと聞いております」
アムロが横目で見る。
「やけに詳しいな」
一瞬だけ、ユウの表情が硬くなる。
「……自分は一年戦争時、そのシステムを搭載した機体に搭乗しておりました」
チェーンが息を呑む。
「ですが、搭載機は全て破壊されています。記録上、EXAMは消失しているはずです」
アムロは再びユニコーンを見る。
「思想は似ているかもしれないな」
「……はい」
ユウも静かに頷く。
ニュータイプを兵器として制御する発想。
……ならば、封印は妥当だ。
「ところで少佐」
ユウはアムロに向き直る。
「一つ、以前からお伺いしたかったことがあるのですが……
よろしいでしょうか」
「何だ?改まって」
「少佐には……宇宙は何色に見えているのでしょうか」
「宇宙の色?また唐突だな」
おかしなことを聞く。
だが、ユウの表情はいつになく真剣だった。
「是非、お伺いしたく」
こちらを真っ直ぐ見つめるユウ。
俺の感覚に固執している?
いや、ニュータイプという存在を特別視しているのか。
――だとしたら。
アムロは短く息を吐くと、困ったように笑う。
「……君たちと同じさ」
ニュータイプも結局は一人の人間だ。
そう思いつつ再びトレーラーに視線を移す。
「……そうですか」
ユウもそう返すとトレーラーへ視線を戻した。
「……?」
このやり取りにチェーンは不思議そうな顔をするだけだった。
金属音が響く。
トレーラーが動き出す。
白い機体は、基地の奥へと運ばれていく。
二度と――表の世界には出ない場所へ。
三人は並び、黙ってそれを見送った。