機動戦士ガンダム SilenceWar ~U.C.0096 The Legends Sing of UC Lullaby~   作:にわ@タイトル単位作品作成者

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File.03 鼓動

U.C.0094 2月某日

 強襲揚陸艦ネェルアーガマ演習航海にて。

 

 宇宙は、静かだった。

 

 演習宙域。

 実弾は使われない。爆炎もない。

 だが、撃墜判定の光は冷酷に瞬く。

 

 実弾は使われない。撃墜も爆炎もない。ただ判定光だけが宇宙に瞬き、冷たいシステム音声が結果を告げる。

 

 それでも、ボッシュの鼓動は本物だった。

 

(今日は見せる)

 

 再編された部隊。

 その中で、自分は少佐の部下だ。

 

 アムロ・レイ少佐の。

 

「各機、隊形維持。突出するな」

 

 冷静な声が通信に流れる。

 

 わかっている。

 理解している。

 

 だが――

 

 視界の端で、模擬敵機が一瞬孤立した。

 

(今だ!)

 

 スラスターを踏み込む。

 

 推力計が跳ね上がる。

 

 加速。

 距離が縮まる。

 

 いける。

 

 次の瞬間、背後に複数のロックオン警告。

 

「――っ?」

 

 遅い。

 

《ボッシュ機、撃墜判定》

 

 無機質な音声が宇宙を切った。

 

 視界が暗転する。

 

 そして、通信。

 

「……ボッシュ」

 

 低い声。

 

 それだけで、背筋が冷えた。

 

 帰投後、格納庫は妙に静かだった。

 

 誰も責めない。

 それが余計に堪える。

 

 ブリーフィングでは簡潔な総評。

 

「単独突出により戦術崩壊」

 

 短い。

 だが十分だった。

 

 呼び出しを受けたのはその直後だった。

 

 ネェル・アーガマの廊下。

 人の気配はない。

 

 壁面照明だけが白く伸びている。

 

 その中央に、少佐は立っていた。

 

 腕は組んでいない。

 壁にも寄りかからない。

 

 ただ、まっすぐにこちらを見ている。

 

「ボッシュ」

 

「はっ」

 

「お前が落ちた理由を言ってみろ」

 

 即答しようとして、言葉が詰まる。

 

「敵後方支援機の存在を――」

 

「違う」

 

 遮られる。

 

 声は荒れていない。

 だが鋭い。

 

「技術の問題じゃない」

 

 沈黙。

 

 心臓の音がやけに大きい。

 

「憧れで動くな」

 

 その一言が、胸に刺さった。

 

「少佐ならあの角度で抜けられる、そう思った顔をしていた」

 

 見抜かれている。

 

 何もかも。

 

「状況で動け。人で動くな」

 

 逃げ場がない。

 

「実戦なら、お前は死んでいる」

 

 廊下の空気が凍る。

 

 怒鳴られたわけじゃない。

 だが、これ以上ない重さだった。

 

 ボッシュは拳を握る。

 

「……はい」

 

「次はどうする」

 

 問いではない。確認だ。

 

「状況を見ます。隊形を崩さず……突出しません」

 

「違う」

 

 まただ。

 

 視線が逸らせない。

 

「突出するな、じゃない。突出するなら、生きて戻る算段を作れ」

 

 その言葉に、胸が震えた。

 

 止められているわけじゃない。

 

 切り捨てられてもいない。

 

 ――生きて戻れ、と言っている。

 

「焦るな」

 

 最後の一言。

 

「……以上だ」

 

 それだけ。

 

 少佐は振り返り、歩き去る。

 

 足音が遠ざかる。

 

 一人残された廊下。

 

 ボッシュは直立したまま動けなかった。

 

(実戦なら死んでいる)

 

 本気だった。

 

 あの声は、本気でそう思っていた。

 

 技量不足でも、失望でもない。

 

 死ぬぞ、と。

 

 胸の奥が熱くなる。

 

 叱責だ。

 本気の叱責だ。

 

 視線を落とし、そして小さく笑いそうになるのを必死で堪える。

 

(俺……本気で叱られた)

 

 認められている。

 

 部下として。

 

 守る対象として。

 

 ――生きて戻れと言われた。

 

 ゆっくりと息を吐く。

 

 次は。

 

 次は状況で動く。

 

 推力じゃない。

 

 目で見る。

 考える。

 生きて戻る。

 

 廊下の照明が静かに伸びている。

 

 ボッシュは背筋を伸ばし、格納庫へ向かった。

 

 空転は、まだ止まらない。

 

 だが――

 

 少しだけ、軸が出来た気がした。

 

 

 

U.C.0094 4月18日

 地球連邦軍所属施設某所にて。

 

 重厚な扉が閉まる。

 

 外界の喧騒は遮断され、室内には空調の低い駆動音だけが残った。

 

 壁一面の窓の向こうに、青い地球が広がっている。

 机上には数枚の報告書と端末のみ。

 

 表題。

 

 ――オービタル・リーダー戦闘記録解析報告――

 

 向かいに立つ男が、低く問う。

 

「……本当によろしいのですか?」

 

「かまわん」

 

 即答だった。

 

 わずかな沈黙ののち、部下は慎重に口を開く。

 

「しかし……残っている情報はこのカタログと……整備士の整備メモのみです……」

 

 端末に表示された記述は、驚くほど簡潔だった。

 

 砲最奥部構造──理解不能。

 独自制御系二種──解析不能。

 その他部位──既成技術にて再生産可能。

 

 それだけだった。

 

 高官は最後まで読み終え、静かに言う。

 

「未知の部分は……三割にも満たん」

 

 わずかな間。

 

「……だが、長い年月はかかろう」

 

 沈黙。

 

「承知の上だ。」

 

 即断だった。

 

 高官は視線を上げる。

 

「我々は今まで、英雄という奇跡に頼り過ぎていた。違うか?」

 

 沈黙。

 

「英雄が居ることは否定せん。だが――依存するとなれば話は別だ」

 

 声に熱はない。

 

「再現できぬ力に国家の命運を預ける構造は、健全とは言えん」

 

 わずかな間。

 

「完成までに時間はある」

 

 窓の外の地球を一瞥する。

 

「その間に、連邦を正す」

 

 視線を戻す。

 

「受け皿が歪めば、力もまた歪む」

 

 静かな断言。

 

「力の再現と是正。並行して進める」

 

 わずかな沈黙。

 

「G-プロジェクトを始動する」

 

 即時承認。

 

 電子署名が記録される。

 

 音もなく。

 

 計画は、水面下で動き始めた。




空回りして叱られて…でも叱られたことまで喜ぶボッシュ君です。
辛いことがあった時にそれを考えている暇がないぐらい振り回してくれる存在ってありがたいですよね。
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