ただし、その配信先は些か以上に特別で……?
かぐやのVRCライブが素晴らしかったので、そこの舞台裏をイメージしながら書きました。
本日3/1、ライブが再演されます。
VRCライブをもう見た方は勿論、これから見るよという方も是非お読みください。
「彩葉が過去に向けたメッセージ送信の研究をしている」という独自設定に基づいていますので、その点ご了承ください。
上記設定の背景として、投稿済のシリーズが別途ありますので、もし興味があればお読みください。
https://syosetu.org/novel/403750/
Pixivで投稿したものを、ハーメルン用に調整して再投稿しています。
「ねえ、ヤチヨカップ私たちが負けてたらどうしてたの?」
きっかけはかぐやがふと漏らした疑問だった。
再会して当初の頃はアバターボディが重いと零していたかぐやも、いまではソファーでだらけた姿勢を取っている。
体が馴染んだのはいいことだが、器用というか、ちょっと人に見せられないような前衛的な姿だ。
今日は研究に集中し過ぎてかぐやを放置していたせいか、どうも暇を持て余していたらしい。
そんなわけで、さほど深い意味があって聞いたわけではなかっただろう。
一方で、問われたヤチヨはそれはもう難しい顔になっていた。
一緒に暮らして結構長いけど、こんな顔初めて見たなって表情だ。
んー……と唸ること三度。
「……どうしてたかなあ」
「ノーアイデアだったんかい!」
かぐやが体を跳ね起こして突っ込む。
変なところでノリと勢いなあたり、やっぱりヤチヨの根本にはかぐやがいるんだよなあなどと思ってしまう。
そんな私の内心が伝わったのか、ヤチヨにしては珍しく早口で言い訳をしてきた。
「いや運命っていうかね、ヤチヨがここにいる以上きっとかぐやたちが勝つはずだっていう確信がね」
ヤチヨが存在するということは、かぐやが一度月に帰り、更にもう一度地球を目指さなければ矛盾する。
だが、その過程の成立においてヤチヨカップ優勝は必須ではない……とも言えない。
ヤチヨカップでの優勝によって、それまで憧れるだけの推しであったヤチヨとの接点が出来た。
ヤチヨとの接点が出来たからこそかぐやの卒業ライブがあった。
コラボライブや卒業ライブの鮮烈な想い出に後押しされ、私は去っていったかぐやを諦めることなくあの歌を作り上げた。
――そうして歌は遥か月にまで届いた。
もちろん可能性の話をすると、コラボライブがなくとも卒業ライブがなくとも同じ結果になっていた可能性はある。とっくに私にとってかぐやは大事な存在になっていたから。
いや、でもどうだろうな。
これが普通のエンディングなんだ、って受け入れてしまう可能性がなかったとまでは言えない。
「……実は結構、危ない橋だった?」
今更ながら、私たちの
「まあヤッチョも自分の体験した事しか知らないわけだから、確かなことは言えないんだけど」
そう前置きしたうえでヤチヨが語るには次のような話だった。
運命は存在する。
かぐやは彩葉と出会い、ヤチヨと出会い、そしていずれヤチヨになる。
その輪廻は確かにある。
そういうものだと『私たち』は知っている。
「かぐやだってわかってるでしょ?」
そうヤチヨは締めくくった。
かぐやの中にもヤチヨの記憶がある。
それは遠い昔の夢のように曖昧なものだが、それでも。
それを踏まえてのヤチヨの言葉だったのだが、かぐやはいまいち消化不良の様子だ。
「まー、それはわかるんだけどさ。でも、全部が決まってことだとは思いたくないんだよね」
理屈というよりも感情において、かぐやは運命というものを受け入れたくないらしい。
その気持ちには私も共感する。
かぐやがどうすれば優勝できるか、毎日一生懸命考えて、フルスロットルで走っていたことを知っている。
かぐやが去った後私がどれだけ苦しくて、それでもそれを乗り越えた想いを、私自身が知っている。
どれだけの気持ちを、ヤチヨが8000年抱えてきたか知っている。
その全てが、そうあって当たり前のものだったとは思いたくない。
かぐやと私の表情を見たヤチヨは、難しげだった表情を少し緩めた。
「そうだね。さっきはああ言ったけど、実のところ宇宙の分岐については月だってちゃんとわかっていないしね。一歩踏み出した足が右か左かだけで、こうしている
都合のいい考え方かも知れないけど、そうあってほしいと思う私がいる」
ヤチヨの言葉に納得――しかけて、それでいいのか? と思う自分がいた。
私たちには無限の可能性がある、こうしている
一方で「そうならなかった私たち」がいる事を、そういうものだと済ませていいのか。
私は現在を幸いに感じている。
きっとヤチヨやかぐやだってそうだろう。
そうならなかった二人なんてもの、想像するだけで苦しくなる。
「あり得たかもしれない私たち」を何か手助けすることは出来ないのか。
そこまで考えて、思いついた。
月の超テクノロジーは可能性の分岐さえ超えられる――か、どうかは分からないけれど時間は超えられるのだ。
「出来る事、あるかもしれない」
いずれ私たちが出来るようになることだ。だったら、それが今日じゃない理由なんてない。
◇◇◇◇◇◇
「かぐやを宣伝する?」
二人が揃って目をしばたかせる。
こういう何気ない表情、当たり前だがそっくりだなと思いながら、二人に計画を説明する。
「そ。かぐやがヤチヨカップで優勝する、ひいてはこうして私たちが再会できている状況を作るために、"時間を超えて"かぐやのファンを増やす」
ヤチヨカップでの優勝に必要なものは、かぐやというライバーの知名度を上げ、かぐやのファンにすることだ。
そのためにかぐやの宣伝をする。
ヤチヨカップよりも、かぐやがライバーデビューするよりも更に前の時点で。
はーい、と手を挙げるかぐや。
「初期ファンを増やしておこうってことはわかるんだけど、それどうやんの?」
まあ当然の質問だろう。
「私たちはいずれ時間を超える、そのために月の技術の再現を目指していたじゃん。……ようやくって感じだけど、簡単なデータくらいは送れそうなんだよね」
人手が増えたこととか色々と理由はあるが比較的小さいデータ、たとえば短い動画データとかくらいなら過去に送れる目途は立ちつつある。
そうして、かぐやの配信映像を過去に向かって流せるのではないかというのが私のアイデアだ。
はいはーい、と今度はヤチヨの挙手。
「動画送るって言ってもどうやって見てもらうの? 配信サイトに投稿する?」
「一瞬考えたけどね。それも難しそうかな」
決して月の技術を完全再現できたわけじゃない。
おそらく、こっちから出来るのは配信映像を一方的に垂れ流すくらいだろう。
時間を超えた生配信とでも言おうか。
勿論、私はかぐやと出会う以前にかぐやの配信なんて見たことがない。
かぐやが有名になった後でもそんな配信があったとは聞いたこともないから、少なくともこの世界においては存在していなかっただろう。
けれど「こことは違う可能性の世界」における私たちへの手助けにはなるかもしれない。
「なるほどねー。送るとするなら月夜見での配信に割り込む形がいいのかな?」
『向こう』の私が気付けばサポートもするだろうし、とヤチヨからの提案だが、首を振らざるを得なかった。
「うーん……月夜見のデータは桁違いに大きいんだよね」
月夜見のフォーマットに合わせる形にすると、配信データのサイズが一気に跳ね上がる。これは単純な視覚と聴覚だけではない、多くの情報を再現する月夜見ならではなのだが、そのデータを扱えるほどのキャパシティが、今の私に扱えるテクノロジー上にない。
月夜見ほどの情報量ではなく、ある程度ダウングレードした3Dモデルデータならなんとかという感じだろうか。勿論2D情報ならもっと簡単になるが、出来るだけかぐやの魅力をそのままに伝えるものでありたい。
「じゃあ私が3D配信をして、その映像を過去に向けてえいやー! っとするの?」
まあ大体そんな感じと伝えると、わかった! と叫んでかぐやは飛び起きた。
「配信内容考えてくる!」
走り出すかぐやの背に、長いのは無理だからね! と投げかける。
「まったく……。まだ詳しい話もしていないのに、すぐ突っ走るんだから」
出会った頃からブレーキのない所は変わっていない。
そんなかぐやの様子に頭を抱えていると、ヤチヨの楽しそうな顔が目に入った。
「かぐやはねー、彩葉なら絶対何とかしてくれるって知ってるからだよー」
私だってそう知ってるもん。
そんな風に言われたら、なんとしてでも成功させなければいけない。
私は母や兄のような天才ではないけれど、かぐやとヤチヨに関することでなら誰にも負ける気はしない。
◇◇◇◇◇◇
――失敗した。
いや、あくまで一回目の挑戦が上手くいかなかったというだけなのだが「あの二人のためなら私に出来ないことはない!」くらいに茹って、もとい盛り上がっていたところなので少しへこんだ。
計画を立ててから1週間。
短い配信時間でかぐやの魅力を叩きこむためには、やはり歌がいいのではないかという結論になった。
歌うのはかぐやのデビュー曲だ。
新曲を作る時間もないし、そもそも過去からすればかぐやの歌は全て新曲だ。
ということでかぐやの方は「いつでも行けるよ!」と自信満々。
月夜見のものからはダウングレードしたソレだが、3Dデータを使って1曲歌う生配信。
それくらいならなんとか時間を超えて送れるだろう、という試算も立った。
送り先はVR機器で接続する仮想世界、月夜見のオリジンとでもいうべき世界を目指すことにした。
これには理由がある。
実のところ、過去に向けてのデータ送信は現状そこまでコントロール出来ていない。
率直に言うと最大で10年位の誤差は出てしまう。
そうなると普及してからの歴史が浅いスマートコンタクトではなく、2000年代前半から普及が始まったVR機器の方をターゲットにした方が見てもらえる可能性が高い。2010年にスマートコンタクト向けの映像を配信したところで、スマートコンタクトは存在すらしていないのだ。
受け皿となるプラットフォーム、対象の仮想世界も同様だ。
月夜見よりも長い歴史を持つ、かの仮想世界であれば送信先の年代に誤差があっても届く確率が高くなる。
仮想世界上の配信をジャック……もとい一時的にお借りしてかぐやの生配信とつなげようという計画だ。
時間軸のターゲットには私とかぐやが出会った2030年より10年前、2020年を設定した。
これより遅い時間をターゲットにすると、配信先の時間が後ろにズレた場合に「かぐやのライバーデビューより後」になってしまう確率が高まり意味がない。
逆にこれより早い時間をターゲットにすると、配信先の時間が前にズレた場合に「VR機器が普及するより前」になってしまう確率が高まる。
というわけで、ターゲットとなる年代選定とかぐやの配信準備、両方がそろった状態でデータ送信開始! と意気込んだ、わけなのだが。
「いろはー……なんか配信がめっちゃカクカクするんだけど……」
配信を開始し最初の挨拶を元気よく決めたかぐやだが、みるみるその元気が萎んでしまった。
データ送信は2020年から多少のズレを起こしながらも成功したはずだ。
ただし、あくまでデータが送れただけ。
ログを見るに、こちらからのデータは確かに『向こう』に送られているものの、その前の段階、過去に送信可能なフォーマットに変換する段階でデータの欠損が大量に発生していた。
欠損したデータはこちらの時間軸でも正常に再生されていない。『向こう』では再生すらできていないだろう。
やはり、時間を超えるのはまだ早かっただろうか。
いずれ私たちが辿り着かなければいけない場所だとしても、それは今ではないのか。
少し弱気になった私をしかし。
「いろはぁー……」
だからその顔ずるいって。
決して私がチョロいんじゃない、かぐやがずるいんだ。ズルかぐや。
「――1日だけ、待って」
退路は断たれてしまった。
この1週間も結構なハードスケジュールでやってたんだけど、そうも言っていられない。
久々にエナジードリンクのお世話になるしかないようだ。
アレ、もうこの歳になると後が辛いんだけどな。
◇◇◇◇◇◇
そして、きっかり24時間後。
再びグリーンバックの前に立つかぐや。
理論上、昨日の問題は解消した、はず。
過去へのデータ送信も、テストで送ったダミーデータの反応を見る限り問題ない。
誤差はおおよそ6年というあたりだろうか。
受信側で発生する時間的な誤差と送信エラーを考慮し、この配信は過去に向けて複数回同時に送信する事にした。
そうすることで、たとえ幾つかが上手く届かなくても一つ、二つくらいは誰かの下に届くのではないかという期待を込めている。
同じ映像を送っているから全く同じ配信が違うタイミングで再生される可能性はあるが、そこはまあ許容範囲だろう。
配信の準備を終え、スタンバイするかぐやの顔を見る。
かぐやにしては珍しく、少しの緊張が見られる。
なにせ『その時間』においてかぐやは誰にも知られていないのだ。
誰もファンがいない状況でライブをするのは、かぐやをしても緊張するのだろう。
さて、なんと声を掛けようか。
そんな風に思っていたらそれより早く、脇に控えていたヤチヨがかぐやの頭を撫で始めた。
「大丈夫。かぐやのこと、きっとみんな好きになるよ。いつの時代、どんな場所でも」
……そうだ。私だって保証する。
たとえいつ出会っていたとしても、私がかぐやに惹かれていたのは間違いないのだから。
いつ、かぐやが現れたって必ず見つけていた。
よっし、と気合を入れなおしたかぐやからGOサインが出る。
過去へのデータ送信を開始。
どうか、時間さえ超えてあなた達へ届きますように。
私の
きっと一瞬でときめかせてしまうから。
そして配信が始まる。
「かぐやっほー!月からやってきたかぐやだよー!!」
/完
初日の配信延期も含め、リアルなVRCライブでの体験と紐づけたいなという気持ちで書きました。
実際のライブ上でのかぐやのセリフとは整合性が取れていないのですが、ご容赦ください。