精霊幻想記 剣姫の円舞曲   作:パイタン

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最終章 この先の世界

 お茶会から十日ほど過ぎた頃、ロッテに誘われてガルアーク王国城にあるリオに下賜された屋敷に来ていた。

「本日はハルト様とシュリナ様、セリア様に依頼があって参りました」

 シャルロット王女が屋敷にやって来て我々にそう言ってきた。曰く、我々に貴人の護衛をする者達への戦闘指南や魔術指導をお願いしたいとか。

 なるほど、報酬が出るらしいので私に断る理由はない。

 翌日、屋敷の裏庭にある広場にて、最初の講義が行われる事となった。リオとは一度手合わせした事があるらしい沙月が、私との手合わせを希望して来た。

「よぉーし、よろしくお願いします、シュリナさん」

 そう言って模擬戦用のグレイブを構える沙月。

「よろしくね沙月ちゃん。構えが中々様になってるけど、薙刀でもやってた?」

「えぇ、中学生の頃から」

「なるほど。ちなみに私はハルトと違って優しくないから、最初から全力で身体強化して、本気で私を殺す気で掛かって来てくれ」

「えっ……そ、それじゃ、行きます!」

 ダッ、と私の方に向かってくる沙月。ふむ、中々の速さだ。だが。

 私は突き出されたグレイブを木剣で軽くいなし、彼女の脇腹に膝蹴りを喰らわせる。

「いっだぁ!?」

 十数メートル吹き飛ばされ城の壁に激突する沙月。周囲がしん、と静まり返る。ロッテやシャルロット王女など顔が真っ青になっている。

「気絶しないだろうギリギリの威力で蹴ったから意識はあるだろう? 結構なダメージが入ってると思うから即座に回復回復!」

「げほっ、ごほっ、……えっ? えぇ?」

 沙月が困惑した表情を浮かべる。

「こっちは金を貰って依頼を受けているんだ。生半可な指導をするつもりはないよ。もう一度言う、本気で殺すつもりで来い。何なら神装を使ってもいいぞ」

「えっ、えぇええ……」

「私は強くなると決めた幼き頃、剣の師匠に毎日半殺しにされていた。だが師匠の意志ではない。強くなると決めた私が望んだんだ」

 ゴウキが半泣きになりながら私に木刀を打ち込んできてたなぁ。懐かしい。

「沙月ちゃんも強くなりたいから今回参加したんだろう? なら中途半端な考えは捨ててしまおう」

「い、いやぁ~。私はそこそこ強くなれたらいいかなって感じで……」

「なるほど、そこそこか。なら王の剣と互角に渡り合えるくらいには強くなってみようか」

 私はにっこりと笑って木剣を構えた。

「ひっ、ひぃいいっ!」

 その後暫く沙月の悲鳴が城内に響き渡った。……ん? 何で美春が気絶してるんだ?

「後半大分動けるようになってたね。王の剣は無理でもその辺の魔剣の使い手くらいなら相手に出来るんじゃないかな?」

「……あれだけ木剣で打たれたり蹴られたりしてれば嫌でも動けるようになりますよ」

 膨れっ面で答える沙月。

「それでも普通の人間に比べたら大分成長が早い。勇者ってサ〇ヤ人みたいに怪我をすればするほど強くなる機能でも備わってるのかね?」

「確かにそれは私も感じたかも……」

「この調子で一ヶ月くらい集中的に修練すれば本当に王の剣と互角に渡り合えるくらいにはなるかな?」

「い、いやぁ~。明日はハルト君に指導してもらおうかな?」

 ふむ、これは飴も必要かな。

「ある程度強くなれたら空を飛べる技術を教えてあげよう」

「えっ、本当に? やりますやります!」

 ちょろい。

 ―――そして三週間ほどが経過した頃。

「おっ、おぉっ、うわっと……」

 沙月が全身から風を放出して五メートルくらいの高さを自力飛行していた。

 ゆらゆらと危なっかしいが、一度コツを掴んでしまえば自転車と同じで自分で上達していけるので、その内自在に空を飛べるようになるだろう。

 私のように音速で飛べるようになるにはそれなりの月日を要するだろうが。

「……凄いですねシュリナ。この短期間で沙月さんにこれ程のスキルを身につけさせるなんて」

「ハルトが優し過ぎるんだよ。この世界には幾らでも怪我を癒せる術があるのに、ハルトの指導を受けてる女性達、碌に怪我を負ってないだろ? 沙月ちゃんは毎日満身創痍になってでも私の修行に食らいついて来ていたからな。彼女、一日に何回気絶したと思う?」

「女性に怪我を負わせるのは流石に抵抗があるといいますか……」

 苦笑するリオ。

「甘いなぁ。今の沙月ちゃん、多分サラと互角以上に戦えるぞ」

 更に三週間ほど、私による修行という名の拷問に耐えきった沙月は、今アリアと模擬戦を行っていた。

「はぁっ!」「ふっ!」

 長物の武器を扱う沙月の懐にアリアが入り込もうとするも、「がはっ!?」とアリアが地面に叩き付けられる。

 沙月は剣をかわしながら電光石火の如き速さで胴回し回転蹴りをアリアの背中に叩き込んだ。おー、すっかり足癖が悪くなっちゃって。

「そ、そこまで! 勝者、サツキ様!」

 審判をしていたクリスティーナ王女の護衛、ヴァネッサが片手を上げる。

 最大限まで身体強化された沙月の蹴りは岩を粉砕する程の威力があり、アリアの意識は瞬時に刈り取られていた。

 周囲の人間が慌ててアリアに治療魔法(ヒール)をかける。

「す、凄い、沙月さん。まるでシュリナさんが戦っているみたいで、動きが速くて目で追うのがやっとでした」

 美春が沙月を称賛する。

「あははは、ありがと。なんかさ、壁を一枚破ったって感じがしてから、ここまで来たらとことん強くなってみたいと思うようになっちゃって」

 そう、私も不純な動機で始めた剣の修行だったが、気がつけば目的と手段が逆になっていた。

 そして遂に、夜な夜な城を抜け出し空を飛んでは、密かに荒野で練習していた「必殺技」のお披露目もする事となった。

「沙月ちゃん、投げるよー!」

「いつでもいいですよー!」

 神装を構えた沙月が返事をする。私は岩場から運んできた結構な大きさの岩を空へと放り投げる。沙月は「はぁあああ!」と声を張り上げ神装に魔力を収束させる。

「エクス、カリバー!!」

 神装から放たれた巨大な風の斬撃は、空中に放たれた岩を粉々に打ち砕いた。……薙刀っぽい形状の武器でその技名はどうかとも思うが。

 とはいえ、魔力を練り上げる「溜め」の時間が必要だが、威力も範囲も私の「風の太刀」より遥かに上だろう。まさしく対城攻撃。

「……」

 周囲の人間が啞然とした顔を浮かべている。今の沙月はまさしく聖典に記された勇者そのものだった。

 ―――その後、リオがカラスキ王国に里帰り中、ガルアーク王国城が襲撃されたらしいが、天上の獅子団の傭兵や魔物の群れを相手に沙月が大立ち回りをしたとか。

 空を飛んで空中から敵の集団目掛けて風の斬撃を放ちまくったそうだ。途中現れた巨大な骨の騎士も、「エクスカリバー」の一撃で粉砕したらしい。

 やっぱり仕掛けて来たなレイス君。ふっ、計画通り……。

 

◇ ◇ ◇

 

 そろそろリオがカラスキ王国から帰って来る頃だろうと、ガルアーク王国城にあるリオの屋敷に滞在させて貰っていた。私の家族の近況を聞いてきて貰う約束をしていたからだ。

 屋敷に滞在中、沙月が修行をつけて欲しいと頼んできたので、屋敷の裏庭にある広場で彼女を扱いていた。

「シュリナ様、ハルト様が帰還なされました」

 地面にめり込んで気絶している沙月を掘り起こしてると、シャルロット王女がリオの帰還を告げてきた。

「ハルト、お帰りお疲れさん。私の家族達は……」

「シュリナ様ぁあああ!」

「げぇゴウキ!? 何でここに居る!」

 応接室にはゴウキとその妻であるカヨコ、他にも何人かカラスキ王国の人間がいた。

 なんでもリオに仕えるべく、わざわざカラスキ王国からやって来たとか。何やってんだよ……。

「貴女様が出奔なされてから五年、ご立派に成長なされて……」

「あーうん、ゴウキ達も息災そうでなにより」

 ゴウキの王家への忠誠心は異常に高く暑苦しいので、若干苦手だった。

「それにしても上級武士の立場を捨ててまでシュトラール地方まで来るか普通……」

「何をおっしゃられるか。ゼンも立場を捨ててまでアヤメ様にお仕えしたのですぞ」

「こっちに来て早々叔母様とよろしくやったからハルトがここにいるんだろ」

「……おじさんが出てますよシュリナ」

 おっと。

「ところで、こちらでの立場はどうするんだ? この屋敷はハルトの物だから勝手に住んでも問題は無いだろうけど、よく思わない貴族もいるだろうから、ハルトに嫌がらせしてくる輩が出てくるかもしれないぞ?」

 特にグレゴリー公爵とかいう無能なくせにやたら態度のでかい貴族あたりが。

「それは、ハルト様に仕える従者、という立場にさせて貰おうかと思っております」

 要するにこの屋敷に仕える使用人って事か。それはそれで宝の持ち腐れな気がする。

「シャルロット王女。彼は私の剣の師匠でして、王の剣に匹敵する実力者でもあります。何か立場は用意出来ないでしょうか」

「……そうですわね。先日の襲撃に対するサツキ様の大立ち回りは城の多くの者が目にしておりますので」

 土まみれになった沙月は今湯浴みをしている。ボロボロになっている彼女を見た美春が涙目になっていたが、心配しなくてもそんなやわな鍛え方はしてないよ。

「サツキ様をあそこまでお強く鍛え上げられたシュリナ様のお師匠様であれば、対外的にサツキ様の補佐官という立場になって頂けるなら、子爵位程度でしたらお父様から与えられるかと」

 巨大な骨の騎士を沙月が「エクスカリバー」で粉砕した際には、王城周辺の住民から歓声が上がり勇者沙月様コールが沸き起こったらしい。まさしく神魔戦争の勇者再来という感じで住民達は熱狂したとか。

 ……勇者沙月饅頭でも作ったら売れるかな。

「どうするゴウキ? 沙月ちゃんは既にゴウキと互角に渡り合えるレベルにいるけど、経験が足りないから鍛錬の相手としてなら申し分ない」

 私と違って優しいから美春が泣かないだろうし。

「ふむ、そうですな。いかがいたしましょう、ハルト様?」

「いいんじゃないでしょうか。特に用事がない時は、基本的に俺はこの屋敷に滞在しているので」

 そんな形で勇者沙月の補佐官、ゴウキ=サガ子爵が誕生した。

 

◇ ◇ ◇

 

「クリスティーナ王女達とアルボー公爵がガルアーク王国城で対談する?」

 特に目ぼしい依頼が冒険者ギルドに無かったので、ロッテと乳繰り合おうと彼女の屋敷を訪れると、ロッテからそんな話を聞かされた。

「……」

「どうしました、シュリナさん、何か気になる事でも?」

「うん、レイスの匂いがプンプンして鼻が曲がりそう」

 という事でやって来ましたガルアーク王国城。陛下に頼んでその対談の場に参加させて貰える事となった。一応リオにも付き合って貰うか。

 ―――そして対談当日。クリスティーナ王女とアルボー公爵が対談していた。

 (茶番だな……)

 中身の無い水掛け論が延々と続いていく。

 翌日、レストラシオンとベルトラム王国本国との間で幾つか協定が結ばれ、捕虜になっていたシャルル=アルボーが解放されアルボー公爵と共に本国へと帰って行った。

 ま、これで終わりじゃないだろうな。ロダニアに帰る準備をしていたクリスティーナ王女に話しかける。

「クリスティーナ王女、私も同行させて貰えませんか? ハルトも付き合ってくれるか?」

「えぇ、構いませんが……」「勿論」

 二人が了承してくれる。リオも何か嫌な予感を感じ取っているようだった。

「私達も同行しましょうか?」

 サラがそう申し出てくる。

「サラ達はこっちに残って、聖女を騙るイカレた女が襲撃してくるような事態が起きたら、沙月ちゃんやゴウキと連携して事に当たってくれ」

「……そんな人がいるんですか?」

「いや例えばの話だ」

 ……確かに妙に具体的な例えだったな。

 その後、私とリオは、クリスティーナ王女やセリア嬢と共に魔導船に乗ってロダニアに向かった。翌日―――、

「敵襲ーー!!」

 街中に警鐘が響き渡る。……ほうら来た。

 私とリオは、リオの屋敷から外に出る。上空には魔導船と少数の空挺部隊。視力を最大限にまで強化する。……あれはシャルル=アルボーか?

「シュリナ! 先頭の亜竜に乗っているのが勇者レンジです!」

 あれが……。勇者レンジがレストラシオンの空挺部隊を氷漬けにし始めた。……これが狙いか!

「ハルト、あの勇者を止める……いや殺すぞ!」

「分かりました!」

 私とリオは、空中へと浮かび上がり勇者レンジの元へと一直線に飛翔して行く。と、レンジが神装に魔力を収束し始めた。

 あ、これアカンやつだ。

「エンドレスフォースブリザード」

 相手は死ぬ。

「がぁっ!?」

 私とリオは前方に障壁を張り、吹き荒れる氷の嵐を耐えしのぐ。……やってくれたな。私は勇者レンジへ迫ろうとすると―――、

転移魔術(テレポート)

 黒ずくめの男がレンジに近づき消え去ってしまった。……もしかして今のがレイスか? まあいい、本当に欲しい首は残っている。

 私はシャルル=アルボーへと迫り、

「き、貴様……!」

「こんにちは。死ね」

 一刀のもと、シャルル=アルボーの首を刎ね飛ばした。

「ハルト、この首頼む。私はもう一つ獲ってくる」

「分かりました」

 リオに首を渡し、旗艦らしき魔導船に乗り込むと、操舵室のドアを蹴破った。

「……なっ!?」

「ビンゴ。先日ぶりですね、ヘルムート=アルボー閣下。その首貰いに参りました」

 そう言って周囲の騎士を斬り捨てアルボー公爵へと迫る。

「ま、待てっ……!」

「お断りします」

 刀を一閃しアルボー公爵の首を刎ね飛ばした。首を持って表に出る。

「アルボー公爵とシャルル=アルボーを討ち取った! 貴様らの負けだ、撤退しろ!」

 アルボー公爵の首級を掲げて叫んだ。

「そ、そんな、公爵様……」

 船上に居た者や周囲を飛んでいた空挺騎士が啞然とした顔をする。私は再び空を飛んでリオと合流し領館へと向かった。

「……」

「クリスティーナ王女、アルボー公爵とシャルルの首を獲って参りました」

 目まぐるしく変わる状況に彼女の頭は理解が追いついていないようだった。

「殿下……?」

「えっ、あ、ありがとうございます……」

「殿下、これは本国へ反転攻勢を仕掛ける好機では? アルボー公爵は王女殿下姉妹を殺害しようとした大罪人。アルボー公爵家を取り潰せる十分な理由足り得るのでは?」

「……! そうですね、ユグノー公爵、王都へ向かうわ。準備してちょうだい」

「承知しました」

「シュリナさん、お願いが……いえ、依頼を受けて頂けませんか? 事態がある程度収束するまでの間、私とフローラの護衛を」

「えぇ、承りましょう」

「私も同行させて頂けませんか?」

 リオが同行を願い出る。セリア嬢を護りたいんだろう。

「勿論です。アマカワ卿にも来て頂けるなら守りは万全、大変助かります」

 こうして先遣隊として王女姉妹、ユグノー公爵、クレール親子、勇者弘明、ロアナ、その他護衛騎士達、そしてリオと私がベルトラム王国城へと向かう事となった。

 城の玉座に国王フィリップが座り、玉座の間にはベルトラム王国の主だった貴族達が集められていた。

「お久しぶりです父上。こうして再びお会い出来た事、大変嬉しく思います」

「元気そうだねクリスティーナ。フローラも。こうして再び会えて私も嬉しい」

「はい。ですが本日は大変残念な提案をしなければなりません。ロダニアにいた私とフローラを、事もあろうかアルボー公爵が殺害しようとしてきたのです。もしガルアーク王国の名誉騎士、カラスキ卿とアマカワ卿に助けて頂けなかったら、私とフローラは今頃、アルボー公爵の手によって亡き者とされていた事でしょう」

 後ろに控えていた私が、持っていた袋からアルボー公爵とシャルルの首を取り出し床に転がす。

「あ、アルボー公爵!?」「なんという事だ……」

 周囲の貴族が驚愕の声を上げる。

「第一王位継承者の私を殺害しようとしたアルボー公爵は大罪人。アルボー公爵家の取り潰しを提言します」

 周囲の貴族がざわめき始める。

「なっ! 幾ら何でもそんな横暴……ひっ!?」

 私は抜刀して叫び始めた貴族の首に刃を突き付けた。

「何を喚く必要がある? 貴様の家も殿下の殺害に関与しているのか?」

「そ、そんな事はしていない!」

「なら大人しく話を聞いていろ」

「……くっ!」

 あれが剣姫シュリナ、王の剣アルフレッド卿を打ち破ったシュトラール地方最強の剣士と噂の……等と周囲の貴族がヒソヒソと話す。

 だから最近は最強じゃないんだってば。

 ―――こうして、アルボー公爵派の貴族は誰一人反論する事が出来ず、アルボー公爵家の取り潰しが決まった。

 公爵家に嫁いでいた女性は子供を連れて実家に帰る事となり、アルボー公爵の子(シャルルの弟妹達)は没落となり、国王フィリップに嫁いでいたアルボー公爵の娘と王女ロリスは自室に軟禁される事となり、重要な人物と連絡を取る事が禁止された。

「ここまでスムーズに事を進める事が出来たのもお二方のお陰です、本当に感謝しております」

 ベルトラム王国城の一室でクリスティーナ王女が私とリオに感謝の意を伝えてくる。部屋には先遣隊の面子が全員揃っていた。

「私は殆ど何もしてません。特にアルボー公爵派の貴族に反論の余地を与えなかったのは、シュリナが常に彼らを威圧していたからかと」

「ハルト君の名はベルトラム王国でも有名になりつつあったからね。居てくれただけでも十分効果はあったはずだよ」

 宰相になる事が決まっているユグノー公爵が愉快そうに話す。あんたが一番棚ぼただもんな。取り敢えずあんたの馬鹿息子を勘当してみない?

「我が国をあるべき本来の姿に戻す事が出来たのもお二方のお陰。十分な恩賞を用意する事をお約束しましょう」

「私は結構です。自分が好きでやった事ですので」

 こいつはまたそんな事を……。

「受け取れハルト。私だけ受け取ったら私が卑しい奴になっちゃうだろうが」

リオの胸元を掴んで頭を揺らす。

「わ、分かりました、分かりましたからっ」

 私の腕をタップするリオ。全く、はじめからそう言えばいいのに。

「あと半月程度様子を見て、問題なさそうなら依頼は完了、という事で構いませんか?」

「えぇ、十分です。本当に今回は何から何までありがとうございました」

「いえ、レイスの企みを潰すのが私の目的でしたので」

 結局何をしたかったのか分からず終いだが。あとは―――、

「ハルト、少しいいか?」

「なんでしょう?」

 ベルトラム王国城で貸し与えられている私の部屋にリオを連れて来る。

「どうしたんですかシュリナ?」

「事もひと段落した事だし、そろそろセリア嬢と美春、どちらかを選ぶべきじゃないか?」

「それは……」

 顔に陰りを覗かせるリオ。

「どちらかを選んで、もう片方を泣かせたくない?」

「……」

 その沈黙は肯定しているようなものだぞ?

「そこで人生の先達から少しばかりの助言だ。リオが自分の意思を少しばかり捻じ曲げてしまえばいい」

「俺の意思……ですか?」

「セリア嬢と美春、二人とも貰ってしまえばいい」

「それは……」

「やっぱり気が進まないか?」

「……えぇ」

「ふむ、なら少しばかり後押ししてやろう」

「えっ? ……んむ!?」

リオの身体を両腕で抱きしめ、唇を重ね合わせた。

「んっ、ぷはっ! な、何をするんですか!」

 珍しく顔を赤くして抗議してくるリオ。

「これでリオのファーストキスの相手は私になった。少しは私の案も選びやすくなったんじゃないか?」

「それは……」

「まぁ自分の人生だ。ゆっくり考えるといいさ」

「……。えぇ」

 ―――その後、国王フィリップは退位を宣言。クリスティーナが女王に即位する事が決定。

「それでは、私はひとまず帰ります。戴冠式には必ず出席させて頂きますので」

 ベルトラム王国城の城門前。私の周囲には今回の関係者が勢揃いしていた。

「えぇ是非、お待ちしております」

「ハルトはまだ残るのか?」

「えぇ、セリアの様子をもう少し見ていたいので」

 ……セリア嬢はリオの補佐役だからどっちにしろ一緒にガルアーク王国に帰る事になると思うんだが。

「では、ひとまず帰ります。それではまた」

「お気を付けて。今回は本当にお世話になりました」

「皆によろしく伝えておいて下さい」

「あぁ」

 私は体を浮かばせ、王都の上空へと飛翔する。まずはアマンドへ行こう。ロッテに聞かせたい土産話が沢山ある。

 王都の空はどこまでも青く澄み渡っていた。あぁ、風が気持ちいい。願わくば、この先の世界の人々に幸あらん事を。

 

 

 

 

 

精霊幻想記 剣姫の円舞曲 了

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