ブルーアーカイブがもしもオープンワールドになったら 作:ゆき@自我
最後にログインしたのは、三日前だった。
画面には誰もいないロビー。
マッチング待機時間――推定二十七分。
「……終わったな」
はやひとはキーボードから手を離した。
かつて国内最大級だったFPSも、いまや同じ名前を何度も見かける過疎サーバーになっていた。大会は消え、配信者も去り、残ったのは惰性で撃ち合う古参だけ。
撃ち合いは好きだった。
勝つために考える時間が、何より好きだった。
だからこそ――終わったゲームに居続ける理由もなかった。
そんな時、SNSで流れてきた広告。
【フルダイブ対応】
美少女学園世界投影型
オープンワールドFPS
サービス開始
「……なんだこれ」
正直、半信半疑だった。
だが“オープンワールドFPS”の文字だけで購入ボタンを押していた。
視界が白く弾ける。
次の瞬間、無限に広がるスタジオ空間。
目の前には自分のアバター。
「……自由度、高すぎないか?」
骨格調整。
身長。
体格。
顔面パーツ。
声質。
性別制限以外はなし。
はやひとは少し悩み、結局、美少女アバターを作った。
「どうせなら普段できない方がいいだろ」
完成した銀髪ショートの少女が軽く瞬きをする。
少し自分に正直になってしまったらしい。
キャラメイク完了。
次の画面が表示される。
【学園効果を選択してください】
並ぶ説明文。
アビドス
得た資金の70%を借金返済へ自動徴収。
代わりに全ステータス補正。
トリニティ
初期装備・資金が豊富。
ただし夜間危険区域へのアクセス制限。
アリウス
高性能装備支給。
所持金概念なし。社会的権利なし。
ゲヘナ
完全自由。初期支給なし。
ステータス微補正。
※高確率で風紀委員会と交戦状態になります。
「最後物騒すぎるだろ……」
スクロールする。
そして。
無所属
・完全自由行動
・低品質装備支給
・ステータス補正なし
・武器制限なし
・スキル自由取得可能
※死亡時:全装備ロスト
「……あー」
はやひとは笑った。
理解した。
これは。
――ハードコアモードか。
「これだな」
迷いなく選択。
すると、ゲームを開始します。
という画面とともに、ロードが始まった。
視界が暗転する。
次に目を開けた時、そこは街だった。
少し大きな通り。
そんな場所に立っていた。
「スポーン場所はランダムなのか。」
目の前にあった飲食店に入ってみる。
理由は、料理の味がどのように感じられるのか、それを知りたかったから。
少し油の匂いが残る空気。
壁紙は剥がれ、椅子は軋む。
「……リアルすぎない?」
メニューに一通り目を通すと、本日のおすすめが書いてあった。
オムライス。
これでいいかと思い、NPCらしき店員に声をかける。
「オムライスください。」
数分後。
出てきた皿を見て、はやひとは固まった。
ケチャップと米。
僕の知っているオムライスではない。
なぜなら……本来一番目立つはず、オムライスの代名詞とも言える卵がなかったから。
「ひでぇ……」
思わず呟いた、その瞬間。
隣の席。
少女四人組が同時に箸を止めた。
そのうちの一人――銀髪の少女が、無言でテーブル下からボタンを取り出し、押した。
嫌な予感がする。
次の瞬間。
――爆発。
視界が白く飛んだ。
衝撃波。
HPバーが一気に四分の一削れる。
「っ!?」
気付けば建物の壁が消えていた。
店は半壊。
少女達の姿はもうない。
遠くから声だけが聞こえる。
「私まだ全然食べれてないんだけど!?」
「……自由すぎるだろこのゲーム」
呆れた瞬間。
別方向から足音がした。それも多数。
はやひとは反射的に瓦礫の影へ滑り込む。
そして銃口だけを出す。
一応だ。
その集団は武装していた。
全員が銃を持っている。
(狙われてる? )
頭部へクロスヘアを置く。
その時、手が滑った。
「あ……」
気づいた時にはもう遅い。
トリガーは引かれてしまったのだ。
弾は真っ直ぐと飛んで、その武装集団のうちの一人に当たった。
「……」
即座に次。
リコイルを抑え、頭へ修正しもう一人ダウンさせる。
一人やってしまったなら全員倒した方が手っ取り早い。
さらに撃つ。
適当に撃っても、頭に当たれば落ちる。
今使っている銃は、敵の頭に当たったとき高いダメージを出せる、AUGと呼ばれる銃種。
胴体に当たった時の威力は低いが、頭に当たったときは通常プレイヤーを2発で倒せる威力をもつ。
弱点を挙げるとすれば……
一回で撃てる弾が少ないこと。
弾倉にマックスで入る数は30発。
そして今、残り2発だ。
「まずいな」
スモークグレネード投擲。
白煙展開し伏せる。
理由としては被弾率を下げるため。
白煙を展開すれば実質無敵に等しい。
正確に弾を当てることが求められるゲームにおいて、白煙によって姿が見えないというのはかなり強い
マガジン交換。
稼ぐ時間は大体三秒程。
煙を突き抜け少し横に回る。
正面からは出ない。
今は数的不利だ。
正面から出れば複数人に大量の弾を当てられてしまい、おしまいだ。
丁度死角。
FPSというゲームにおいて一番反応しにくいのは真横からの弾だ。
そして、煙幕を張っていた間、武装集団はかなり近づいていた。
距離が縮まり、当てやすい。
丁度一直線上に敵の頭が並ぶ。
トリガーを引いてそれらを全て撃ち抜いた。
その時。
耳元を掠める音がする。
ぱしゅんっ。
(狙撃)
弾がすぐ耳元を通ったのだ。
即座に弾の発射元へと視線を振る。
少し離れた場所、そこにいたのは…ライフル銃を持ち、立ったままこちらを狙う狙撃手。
「……botか?」
通常、狙撃手は伏せてから狙撃する。
立っていれば目立ってしまう。
狙撃手にとって一番嫌なのは位置がバレること。
なぜなら狙撃手は背後が見えない。
背後に回られてしまえば為す術がないのだ。
落ち着いてスコープを除く。
ギリギリこの銃の射程圏内だ。
二発しっかりと命中させた。
ヘッドショット。
狙撃手は崩れ落ちた。
静寂が流れる。
足音はない。
画面端に小さな通知が出た。
【警告】
風紀委員長接近中
「……は?」
同時刻
通信機越しの声。
「ヒナ委員長。34番街にて、美食研究会追跡中の第14部隊が全滅しました。至急応援を願います」
短い沈黙。
そして、少女は答える。
「……了解」
通話終了。
机の上の巨大な機関銃を持ち上げる。
紫の瞳が静かに細められた。
「また面倒なことを……」
彼女――空崎ヒナは、ゆっくりと立ち上がった