いつもより長めです。
いらっしゃいませ。
不死のお客様。
牙猪騎士を斃したのですね。
呪いにより自我はおろか名前すら失ったあの強者を、よくぞ……。
王の器に選ばれるのも、よくわかります。
以前にもお話した通り、牙猪騎士は魔術に長けた魔術師でもありました。
書庫の出身故、シースの結晶魔術にも精通していたのは言うまでもないでしょう。
蝕みの老王は、その知識故に牙猪騎士を部下としたのかもしれません。
彼の目標である神の打倒……そのための術を新たに生み出すなら、書庫の知識は大きなヒントになる筈。
蝕みの老王は、闇の力に強い関心を抱いていたそうです。
そしてその力には、時に理力も求められるそうです。
……なんだか、邪推したくなっちゃいます。
呪いとは厄介なものですね。
他方で、闇の力は理力だけでなく信仰も必要とする場合がございます。
そして面白いことに、実は呪術は理力だけでなく信仰とも相性の良い業です。
今の時代の方には実感しにくいかもしれませんが、未来の国において呪術とは理力と信仰を併せ持つ者達の業とされているのです。
蝕みの老王がイザリスに現れたのも、その縁があるかもしれません。
蝕みの老王は神々を打倒するため、闇の力を求めた。
その力を我が物とするため、闇に近しい術を持つイザリスの知識を必要とした。
混沌に飲まれた本来のイザリスではなく、文明が未だ残るこのもう一つのイザリスを狙ったのも頷けます。
……さて、話しが長くなりましたね。
せっかくご来店いただいたのに、失礼いたしました。
この辺りで、お口直しは如何でしょうか。
お客様は今までお酒や料理を嗜んできました。
お口直しにはぴったりのものを、用意してありますよ。
◆
お客様は、たまごくだしをご存知でしょうか。
あのやけに苦すっぱぁ~いドングリであります。
はじめて喰らった時は酷い目にあいました。
ですが体に寄生したたまごを取り除く薬効があるだけに、一度も試さずに置くわけにはいかず……。
呪いとは厄介なものですね。
たまごは、人間性のゆりかごたるものだそうです。
それ故か不死を蝕む病ともされるそうで、だからかイザリスの子孫はそれを癒そうと試みたこともあったそうです。
その結果混沌の娘もまたたまご背負いとなり、それを和らげる術は人間性のみに限られましたが……。
人の身に宿るたまごならば、このドングリで癒せます。
私は酒と薬の神、マクロイフ神父に縁ある力を持ちます。
どうしてそのような力を持つのかは、もう私自身にもわかりませんが……この「工夫」を凝らす力なら、このドングリの薬効を活かせると考えました。
ドングリをアク抜きし、「工夫」により薬効をそのままにその苦味を取り除きます。
後はそれを細かく砕いて粉末にしてしまえば、良いお菓子の材料となるのです。
このもう一つのイザリスには、少なからず異国やアノール・ロンドからの文化もございます。
その文化の中には食文化もあり、例えばクッキーなんかも輸入されました。
時には、クッキーもまた国民食として親しまれる時代もございました。
そのクッキーに、たまごくだし特有の薬効とドングリ特有の香ばしさを混ぜました。
「たまごくだしのクッキー」です。
病や悪酔いにもよく効くお菓子ですので、きっと体に効きます。
ぜひご賞味あれ。
◆
おや、その鍵は……王の寺院への鍵ですね。
牙猪騎士が管理していたものでしょう。
王の寺院は、このイザリス市街地の大通りをまっすぐ進んだ先にある建物です。
酒場から一歩外に出れば、その外装を見上げることができます。
王の寺院。
その建築様式は、混沌の廃都イザリスとも共通するもの。
その名の通り、このもう一つのイザリスを治めた者達のための霊廟です。
それはイザリスの魔女達の子孫であったり、あるいはその祝福を受けた人間達であったり。
この地の歴史が、あの建物に刻み込まれているのです。
……ですが、そこもまた蝕みの老王の標的となりました。
神を憎み、その恩恵に与る人をも憎悪した老王にとって、王の寺院とは何としてでも貶めなければならない獲物だったのです。
故にその歴史は闇に溶け、寺院は老王の居城となりました。
今の寺院は、闇が蠢く地獄と化しています。
ひとたび内部に侵入すれば、深淵や深みに縁のある化け物が湧いて出てくる筈。
またイザリスの縁のある仕掛けも内部にあるかもしれませんが、闇により蝕まれている筈。
探索の際、それらは恐ろしい罠として機能するかもしれません。
王の寺院では、他のどの場所よりも恐ろしく難易度の高い冒険が待ち受けていることでしょう。
◆
王の寺院の最奥で、亡者と化している類稀な強者。
蝕みの老王。
どうやら奴は、罪の女神ベルカに縁のある力の持ち主だったようです。
如何なる縁があってそのような力を持つに至ったかまでは判然としませんが、代わりに絵画世界に縁があったことは判明しています。
絵画世界には、邪教の武器を生み出す術があります。
おそらくその術の一つを持ち出し、神への打倒を試みた。
ですが、それだけでは不足だったのでしょう。
だから理力を学び、あえて信仰も深め、呪術の知識を求めた。
このもう一つのイザリスを蹂躙しながら、神々を打倒するための力を蓄えようとしたのでしょう。
それらの知見を得て、蝕みの老王は闇の力に手を付けて……そして闇に飲まれた。
仮にも神族の身であったのなら、自明の結果だった筈。
それでも止まれなかったのは、何か理由があったのか……今となっては、もう何もわかりません。
ともあれ、もう一つのイザリスは新たな支配者をも失い荒れ果てたようです。
しかし、状況が変わりました。
お客様です。
お客様には、王の器があります。
今は手元にはなくとも、一度は手にしたという事実そのものが、亡者化した蝕みの老王に最後の火を灯した。
如何なる術か、本来のロードランとこの地を再び繋げ、お客様をこの地へおびき寄せた。
考えられる目的は、ただの一つに限られます。
闇の王。
その称号を以て、神々の世を終わらせ打倒する。
そこに最後の望みを懸けているのでしょう。
◆
我ら神族には大いなる罪がございます。
それがどのようなものか……それを私の口から話すことは、許されておりません。
まぁもうぶっちゃけ、なーんも覚えてねぇっつうのが実情なんだけどな。
おっと失礼、呪いとは厄介なものですね。
ただ……もしその罪を裁く者がいるとすれば、罪の女神ベルカはそれを試みたのかもしれません。
彼女の影響が色濃い絵画世界には、邪教の武器を鍛える術が眠っています。
それは神狩りのための力ですが……根拠のない言いがかりですが……もしかしたらそれは、神を裁くための力だったのかもしれません。
罪とは罰せられるものであれば、それを定義し、罰を執行する。
それが罪の女神ベルカの役目とされました。
あるいは、神を裁くことも目的としたのかもしれません。
ですが、私の意見は異なります。
もし我ら神族を裁く者がいるのだとすれば、それは選択の力を持つ人の王に限られる。
神が人を裁くこともあれば、人が人を裁くこともありましょう。
ですが、神が神を裁くというのは、個人的にはとても滑稽なように思います。
ましてや、そのために闇の王になるなど……。
蝕みの老王がやろうとしていることは、何かが破綻しているように思うのです。
私は、人が好きです。
そんな人が神々の時代を拒否するというのなら、喜んで受け入れましょう。
既に神々の時代は終わりつつある今……その景色を受け継ぐ誰かが一人でもいただけでも、我々にとっては十分な救いであると存じます。
ですが、だからこそ。
蝕みの老王という偽りの闇の王だけは、受け入れられない。
闇の王とは、人の闇を肯定するための王である。
それを神を裁くための手段とすることは、もはやすべてに対する冒涜でしかないのです。
どうか、お願い申し上げます。
あの偽りの闇の王を、おくってください。
私では、あの闇に対抗できない。
人であるお客様だからこそ、闇に適応し、あの王を討てる。
お客様が、もはや真の闇の王に至れないその運命に同情しているにしろ、それとももう一つのイザリスでの所業を罪と見なすにしろ。
奴はもう、討たれるしかないのです。
そしてそれはきっと、新たな大王の素質を持つお客様にとっても有益な儀式であると存じます。
◆
行かれるのですね。
どうか、貴方の旅に寄る辺があらんことを……おっと失礼、呪いとは厄介なものですね。
やはりお客様に対しては、こちらの方が相応しいでしょう。
またのご来店、心よりお待ちしております。
貴方様の行き先や使命の果てがどこであれ、お立ち寄りくだされば、またお酒や料理をお作りいたしますよ。
ここはイザリスの酒場ですから。
・たまごくだしのクッキー
イザリス市街地で酒場を経営する、名もなき神族による菓子料理。
苦すっぱいドングリに「工夫」を凝らして甘いクッキーにした、持ち帰り用の品。
体に寄生したたまごを取り除き、HPを回復する。
異国から持ち込まれた菓子に、伝統のドングリの薬効を混ぜたもの。
だが酒と薬の神、マクロイフ神父にも通ずる力のおかげで、より暖かい祝福が施された逸品。
かつての酒場では、病に苦しむ客や悪酔いした客にも供されたという。
・蝕みの老王のソウル
王の寺院にて鎮座していた蝕みの老王のソウル。
もともとは罪の女神ベルカに通ずる力の持ち主だった。
かつて老王はとある人を愛した。
その人は火守女となり、人間性に蝕まれ、神々に殺された。
その時に彼は神としての名を棄て、人間を憎み、神々の欺瞞を暴くことを目指した。
その末路が、不完全な闇の王であることを知りながら……。