「彼女の寝相の悪さ、直ってる?」
「さあ、自分で確認してみればいいんじゃ?」
アスカと弐号機を載せたオーバー・ザ・レインボーは予定通り新横須賀港に接岸した。
予定通り、というのは、海上で使徒と遭遇することなく、という事である。
前までの世界では、アスカの来日は第4使徒シャムシエルや第5使徒ラミエルよりも後だったため、海上で第6使徒ガギエルを迎え撃つことになったが、まだシャムシエルさえ来ていないため無事に到着できたのだ。
「なんか、新鮮だね。」
「そうね、何事もなく到着するなんて初めてだし。」
「よう、はじめましてなのによろしくやってるのかい?」
よく言えばフランクに、正直に言えば胡散臭いイケボが後ろからした。
「加持さん…。」
「あらぁ加持さん、ミサトのところ行ったんじゃないのぉ?」
加持リョウジが後ろから声をかけてきた。
加持リョウジ。
今までの世界で、ミサトさんを最後まで愛し、そのために死んでいった。
「おっと、サードチルドレン碇シンジ君にまで俺の名前が知れているとは…。まいったなあ。」
そうやって頭をかく。その頬には真っ赤なモミジができていた。
「あの様子じゃミサトに手ひどくやられたみたいね。」
「そりゃ、あの女癖だもん。ビンタの1つや2つもらうだろうねえ。」
「おいおい、2人で勝手に話進めないでくれ。なんでシンジ君までそんなこと知ってるんだよ。」
さすがに煽りすぎたのか、訝しげに尋ねる。
「「さあねー?」」
そんな加持をもてあそぶかのように笑う二人であった。
「しかしシンジ君、君葛城と同居してるんだって?彼女の寝相の悪さ、直ってる?」
「さあ、自分で確認してみればいいんじゃ?ね?」
「ねー?」
早々に降りるため艦橋から姿を消す2人を呆気に取られて立ち尽くす加持。
「いったいぜんたいなんなんだ…。」
わからないことをわかるために三重スパイまでしているというのに、最近ますますわからなくなっている気がしている。
今回の来日とて、急に碇ゲンドウから電話があって
『2日後、国連艦隊のオーバー・ザ・レインボーでセカンドチルドレンや、弐号機、真希波博士もろとも来日するように。例のものも忘れずにな。』
と伝えられたのだ。
元々来日はもっと後に予定されていたものである上、ほとんど我々と関係のない真希波博士の名前が出るのも不思議な話である。その上、電話口のゲンドウの口調はどこか憑き物が落ちたように丸くなっていた。
信じられない事ばかりである。
予定の前倒しのため、多少無理をして密輸してきたアダムの幼体を抱え、こっそりと船を降りようとした時、加持のスマホがけたたましく鳴った。
「はい、こちら加持リョウジ…。え!?使徒襲来!?」
シンジたち一行がまさに船から降りようとタラップに足をかけた時、けたたましくサイレンが鳴り響いた。
『非常事態宣言発令!非常事態宣言発令!シェルターに避難してください!』
「使徒!?まさか!」
慌ててミサトがNERVへ電話をかけ、二言三言喋った後、
「アスカ!使徒はここから迎え撃つのが一番近い!行ってくれるわね!」
「もちのろんよ!行くわよシンジ!」
「え、ええ!?」
「ちょっとアスカ!?シンちゃんの初号機はないわよー!」
放置されるミサトたちである。
「お兄ちゃん、アスカ…。頑張って…。」
「ちょっと!どこ行くんだよ!」
「あんたも一緒に乗るのよ弐号機に!」
「まさかあのプラグスーツを…」
「そのまさかよ!」
前までの世界のガギエル戦にて無理やり女性用プラグスーツを着せられて弐号機にダブルエントリーした、シンジにとってはある意味『悪夢』がよみがえる。
アスカにとっては内心ガッツポーズものだった。
前の時は初めての戦いのため不安で仕方なく、周りを見る余裕があまりなかったが、そんな中でも弐号機プラグスーツを着たシンジは似合っていた。
(よおし!またあのシンジが見れる!)
そんなアスカのことなどつゆ知らず、憂鬱なシンジであった。
「キャー!シンジぃこっち見て!」
「あの、アスカ?そろそ出撃しないと…」
「いいのよ!どうせ第三新東京までだいぶ距離あるし、そんな急ぐことないわよぉ」
案の定アスカにキャーキャー言われながらスマホで写真を撮られるシンジ。例の如く女性用プラグスーツを着せられ内股になりもじもじしている。
「最高に可愛い!」
「恥ずかしいから撮らないで!!」
「へぇ~ワンコ君そんな趣味があるんだ~。」
「「げっ」」
ちょうど都合の悪いときにあらわれるでおなじみコネメガネ、真希波・マリ・イラストリアスである。
「君たちイチャイチャするのはいいけどこのままだとシャムシエルが第三新東京についちゃうよ。」
「うっさいわねわかってるわよ。なんならあんたが行ってくれてもいいのに。」
「残念ながらこの世界の私はエヴァパイロットにはなってないんでねー。」
「ならとっととシェルターへいけ!」
「それも無理。だってこのエヴァの現場責任者は私だもん。」
「嘘でしょ…」
慌てて臨時の司令所に駆け込んだミサトは目を疑った。
オーバー・ザ・レインボーの艦橋から飛び出した弐号機は現れたシャムシエルを圧倒、もはやリンチとも言えるほどであった。
「嘘でしょ、彼女、戦闘は初めてのはずよね?しかもシンちゃんとダブルエントリーでシンクロ率は下がるはずなのに、それどころか…それどころか上がってるじゃない!?」
シンクロ率は見る間に80%を超え、無理やりATフィールドをこじ開け、シャムシエルの体をみじん切りするが如く切り刻み始めた。
『ぎゃぁぁ!アスカやりすぎやりすぎ!酔う酔う!』
『こんにゃろー!見てなさい!切り刻んでやるわ!』
せっかく一緒に乗ったシンジの制止むなしく残酷なまでに切り刻まれていくシャムシエル。もはや形容しがたい悲鳴をあげている。
「アスカ!ちょっとアスカ!やりすぎよ!」
「だめです。あちら側からこちらの声がカットされています!」
この場にリツコがいない以上、通信に無理やり割り込んで指示を出すことができないミサト。
「あの子、いくら何でもバーサーカー過ぎない?」
使徒の粗みじんが完成したのちアスカは
「コアよ!」
というや否や弐号機でシャムシエルの赤いコアに噛みつき出した。
「「うぉえぇっ!!」」
S2機関を取り込むべく噛みついたが、エヴァは搭乗者とシンクロする以上、感覚がもろに伝わってくる。つまり、使徒をシンジアスカともどももろに味わう羽目になったのだ。
「なんじゃこの不味さは!!」
「生臭いというか、えぐみがあるというか、ぅおえぇっ!」
プラグ内でのたうちまわるふたり。
『うぉえぇっ!』
エントリープラグ内に溢れる嗚咽を唖然として見つめるミサト。
「あの子たち…」
今日ここまでのことを振り返っていた。
会うやいなや親しげに話すシンジとアスカ。ユーロにいたときにアスカと接点のあるミサトからすれば、ありえない打ち解け方である。
そこまでならまだしも、出会ってすぐの少年を自分の弐号機に乗せて戦うことなど考えられない。
しかもその戦い方は、シンジの初陣と似通ったものがあった。
偶然で片付けるには共通点が多すぎる。
弐号機はそのままの足でNERV本部に向かう。
「こんなに使徒ってまずいとは…」
「シンジはもう初号機に取り込んだんじゃないの?」
「そうだけど…あの時母さんに意識が呼ばれて、あんまり覚えてないんだ。取り込むのは母さんがやってくれたらしいけど…」
「ちょっとえぐみが強かっただけよ」と言った自分の母親が天然すぎてもはや恐ろしい。
「しっかしミサトはきっと帰ったらカンカンよね…。勝手に通信切って戦ったもんだから疑ってるだろうし。そもそも最初っから私たちが仲良いのも怪しんでるだろうね…。」
「まあね。リツコさんも加持さんも確実に疑ってるし、怪しんでるだろうね。」
山の中を自動で歩くエヴァ。エントリープラグから思案顔で空を見上げる。
「でも、どう足掻いてもどこかで本当のことを3人に話さなきゃ行けないと思う。」
いくらズボラで偏屈でキザでも国連組織NERVの職員なのだ。その能力は超一流なのだ。そう簡単に騙せるものではない。
「だとしたら、早い方がいいんじゃないかな?もう父さんとは話がついてるし。」
「本当!?よくやったわね…」
「母さんが、父さんを説得するメッセージを残してくれたんだ。初めてみたよ、父さんが泣いてるの。」
「あの司令が…?」
そのままNERV本部へ直帰することになり、ケージへ格納されるや否やリツコから無線で連絡が入る。
「あなたたち派手にやってくれたわね。」
「リツコ…」「すみませんリツコさん…」
「まあ、アスカははじめまして、よね。私は赤木リツコ、エヴァの責任者よ。これからよろしく。」
「こちらこそよろしく、リツコ。」
そういうと、少し考えるような間を置いたあと、
「聞きたいことは山ほどあるけど、とりあえず置いておくわ。ミサトも今日は事後処理で帰って来れないだろうし。」
「ありがとう、リツコさん。」
「今日はもう遅いから本部に泊まって行きなさい。」
疲れ切ってシャワーを浴びたあと、シンジは男子の仮眠室のベッドに倒れ込んだ。睡魔に引き摺り込まれる寸前、誰かが仮眠室の扉に静かに近づく気配を感じた。咄嗟にリツコから護身のために渡されていたSAAを構え、セーフティを外し、いつでも激鉄を起こせるよう構えた。ベッドの影にあわてて隠れる。
扉がゆっくり開き、廊下の薄ら明かりが差し込む。誰かが足を踏み入れた瞬間、シンジは銃を構え飛び出した。
「誰だ!」
「な、何よこれぇ…」
そこにはアスカがびっくりして両手を上げて突っ立っていた。
「なんだぁ、アスカか…」
「なんだって何よ!びっくりしたじゃない!」
顔を真っ赤にしてムキになって怒るアスカに、シンジはどっと力が抜けた。
アスカが怒ったのは一瞬で、すぐさまシンジに抱きついてきた。
「いつからそんなに物騒になっちゃったんですかぁ?だ・ん・な・さ・ま?」
「そういうアスカだって、いつから夜這いに来るほど変態になったの?」
「自分の恋人に会いに来てなにが悪いのよ!」
一方そのころ、新横須賀。
NERVのために用意された仮眠所に一人、綾波レイがいた。
かつて、前までと違って感情がない、ということはない。むしろ、どこか不満げであった。
ちょうどミサトは事後処理に奔走しているため、仮眠所はレイしかいない。
窓から空を見上げぽつり。
「いいなぁ。」
レイはこれまで、前世まではロボットのように過ごしてきた。
自分はエヴァンゲリヲンのパイロット。それ以外に意味はない。
その思いは結局最後まで変えられることはなかった。
でも出会ってしまった。
似たようなにおいの少年。
渚カヲル
なんでこんなに彼に惹かれるのかわからない。
そもそも前世を見ても、かかわりがあったことなど数回しかない。その中でもちゃんと話したのは1回?あるかどうかだ。
でも、どの記憶にも、彼を悪く思ったことがない。
不思議な少年だ。
本能的に彼があっているのか、と思う。
無論そのようなスピリチュアルなことを信じるたちではないが。
自分によく似ていて、それでいて自分と正反対に見える。
うらやましいような、そうじゃないような…
これまで、
何千回の人生で初めての感覚だ。
シンジとアスカは早々に再会できた。
じゃあ私は?
これが、嫉妬?
窓から月を見上げ、柄にもない感情に駆られる。
「会いたい…。」
⭐︎次回予告
カヲルへの恋心をついに自覚したレイ。
しかし、二人の距離はあまりに遠かった。
その時カヲルにSEELEの魔の手がせまる!
次回「転」