「……だからこの方程式を公式を使って」
キーンコーンカーンコーン
「ええ、では今日中に復習するように以上」
「起立! 礼!」
「「「「ありがとうございました」」」」
先生が授業の終わりをつげ、挨拶をする。その後、先生が教室から出ると各々話し始める。
「ああ、腹減ったー」
「やべ、俺寝てて全然聞いてなかったんだけど」
「さすがにやばすぎだろ」
「ねえ、放課後いいお店見つけたから一緒に行かない?」
「いいね、行こう行こう」
時刻は12時。皆昼休みに友達と一緒にご飯を食べたりスマホを弄っている奴など様々だ。
そんな僕はというと、
「じゃあ真嶋くん。行きましょうか」
「分かった」
愛莉が自分のお弁当箱を持って僕に話しかけてきた。
理由はもちろん愛莉の過去について聞くためだ。
元々イベストでも『ももいろの鍵』の時にアイドル活動が忙しくて元々仲の良かった”あゆみ”と疎遠になってしまったことが描かれていた。
それは公式が作ったものだから起こっていたとしても不思議には思わない。
でも、絵名は別だ。絵名は、高校生になっても仲良くしているはず。
なのに、この数か月間見ていた中でも彼女たちが話しているところを僕は見ていない。
たまたまならいいんだけど少なくとも絵名は、愛莉を避けているように思えた。
実際、絵名が話しかけてくるときは、決まって愛莉が仕事でいない日か近くにいない時だけだった。
一体どうしてこんな風になってしまったかは分からないけどきっと愛莉の話を聞けばすぐにわかるんだろうと思う。
そう思いながら、愛莉について行っていると屋上へと辿り着いた。
屋上は丁度風が心地よく、おまけに人もいなかった。
愛莉はこちらに振り返り話しかけてくる。
「人がいなくて良かったわ。あまり大勢には聞かれたくはない話だもの」
そう言い、適当な場所に座る。
「少し話が長くなるかもしれないけど、出来るだけ簡潔に言うわ」
「大丈夫だよ。ゆっくりでいいから」
愛莉は僕の言葉に少し安心したのか笑ってくれた。
「分かったわ。それじゃあ、話すわね。あれは今から1年前くらいのことよ」
==1年前、とある教室にて==
「う~ん、やっと授業が終わった」
「もう、絵名ったらそんなこと言ってるけどずっと寝てたじゃない」
「そ、そんなことないわよ。私だって少しくらいは、起きてたし」
最後のほうには小声になっている絵名をみてわたしは、思わず笑ってしまう。絵名はそれを見て少しほほを膨らませた。その顔も可愛いなと思いながら話しかける。
「ごめんなさい。さすがに失礼だったわね」
「別に気にしてないから良いわよ。それより今日は暇なの?」
「ええ、今日は収録とかイベントも特にないから一緒に遊べるわ」
「そうなんだ。じゃあ久しぶりに思いっきり遊べるじゃん」
「そうね。絵名はどこか行きたいところはあるかしら?」
「え、じゃあ愛莉が行きたがってた和菓子屋さんに行こうよ」
「え、いいの?」
わたしは、ついうれしくなって声を荒げた。その和菓子屋さんは、主に抹茶系統の和菓子を取り揃えているお店で和菓子好きなわたしとしては是非行っておきたいお店だったのだ。
「……ねえ、絵名。あゆみも誘っていいかしら」
「え? ああ、あゆみちゃん? 良いよ。私もあゆみちゃんともっと話してみたいし」
「ありがとう。それじゃあ、少し誘ってくるわね」
そう言ってわたしは、教室を出て、あゆみのいる教室へと向かった。教室に行くと、あゆみが教材を片付けているところだった。
「あ、あゆみー」
わたしがあゆみにも聞こえるように大きな声で呼ぶと、あゆみはビクッと体を震わせ、恐る恐るこちらへと顔を向ける。
「あ、愛莉。ひ、久しぶりだね」
「久しぶりね、あゆみ。……ねえ、なんだか少し疲れてない? 体調でも悪いのかしら?」
そう言ってわたしは、あゆみに触れようとした。
バシッ
いきなり手のほうに痛みを覚える。どうやら、あゆみがわたしの手を払ったようだった。何でこんなことになっているか見当もつかない。一体どうして。そう思ってあゆみの方を見ると、血相が変わってまるで何か恐ろしいものから自分を守るような顔をしていた。
「……あゆみ?」
わたしが言葉を投げかけると、あゆみは、ハッとした表情をしてすぐに愛想笑いをした。
「ご、ごめん愛莉。今日はちょっと体調悪いみたいだからもう帰るね」
「え、あ待って。あゆみ!」
わたしは逃げるように教室から出ていくあゆみに向けて手を伸ばしたが、空を切ってしまう。
あゆみ、一体あなたに何があったの?
そう思っていると、教室内で笑い声が響く。
「アハハハハハハハ。愛莉振られてんじゃん」
「……祥子、まさかあゆみに何かしたんじゃないでしょうね」
いきなりわたしに喧嘩腰で話しかけてきたのは、北上祥子。
わたしの学年ではかなり権力というか、女子から恐れられている子。
何故か知らないけど、わたしにやたらと突っかかってくるのよね。
「嫌だなー。何もしてないよー。……あ、でもさすがに私の周りの子たちの行動まではわからないかなー。なんてアハハハハハハハ」
「そ、分かったわ」
高笑いをする祥子にわたしは、わざと素っ気なく言う。
それが通用したのか祥子はチッっと舌打ちした。
これ以上祥子と話してもお互い空気が悪くなるだけだと思い、早々に教室を出た。
「あ、愛莉。あゆみちゃんどうだった?」
「絵名。……なんか体調が悪いみたいで来れないらしいわ」
「そっか、残念だけど仕方ないね」
玄関に行くと絵名が待っていてくれていて真っ先にあゆみのことを聞いてくれた。こういう気遣いができるところは、絵名の良いところよね。
「それじゃあ、行きましょう。わたし、お腹ペコペコなの」
「あ、愛莉待ってよー」
先に校舎を出たわたしのすぐ後ろに絵名がついてきてくれている。
絵名やあゆみといると、少しだけアイドルの時のわたしを忘れてしまう程心地がいい。
今日のあゆみは少し様子がおかしかったけど、これからもこの子たちと仲良くしていきたいわね。
そう思いながら、わたしは絵名と和菓子屋さんへと向かった。
ただ、今振り返ると思うのわたしは少し見落としていたのかもしれないって。
あゆみの辛そうなまるで助けを求めるような顔も絵名の顔に若干の隈があって、いまにも壊れてしまいそうな花瓶のような雰囲気が偶にほんの一瞬出てくることを。
わたしはただ、この関係が続ければいいって、そうやって目を逸らしていたんだわ。
あれから数か月が経過した。
あゆみは、未だにわたしを避けているようだった。
その態度が気になって、何とか本人から話を聞こうとしたけど、あゆみは話してくれなかった。
それでも何とか彼女の助けになれないかと思って自分と関わりのある女子に聞いて回ったりした。
けれど、皆知らないの一点張りで、中々情報を得ることはできなかった。
そんな時、あゆみが話があると言ってきた。
いったい何があるんだろうと思いながら、わたしは指定された教室に向かう。
「あゆみ? いるかしら」
「あ、愛莉」
教室に入ると、既にあゆみが待っていた。久しぶりに見たあゆみは、どこかやつれて見えた。
「あゆみ、どうしたの? 少し疲れているように見えるわ」
「疲れてる? ……うん、そうかも。ちょっと疲れちゃったのかも」
そう言ってあゆみは顔を伏せる。表情が見えないせいか分からないけど、何かすぐに言葉をかけなきゃいけないと感じた。
「あゆみ?」
「ねえ、愛莉」
あゆみは、ゆっくりと顔を上げ、何か決心したような顔をした。
「わたし、遠いところに引っ越すんだ」
それを聞いた瞬間わたしの目の前が真っ暗になったように感じた。
「と、遠いところって具体的にどこなの?」
「……ごめん、言うことできないや」
「じゃ、じゃあなんでいきなり」
「それは……実はわたし、いじめられていたんだ」
「い、いじめって誰に!」
いじめという言葉を聞いてわたしはあゆみに詰め寄った。誰が、一体どこのどいつがあゆみを……
「ごめん、愛莉。言えない」
「え? なんで? 言ってよ、わたしたち友達でしょ? 何か困ったら絶対助けるから」
「だからだよ」
あゆみから発せられた言葉は一瞬どういう意味か理解することができなかった。
いや、理解したくなかったのが正解なのかもしれない。
「愛莉は、友達だから。だから、迷惑をかけたくない」
「そ、そんなこと。わたしは!」
「あるんだよ。このままだと愛莉にも被害が及ぶ。それにね」
そう言うと、あゆみは涙を流し始めた。
「わたしだって、わたしだって! 引っ越したくないよ! でも、無理なんだよ。これ以上、耐えられないの!」
あゆみの本音を聞いてわたしは、ふと数か月前のことを思い出した。
『嫌だなー。何もしてないよー。あ、……でもさすがに私の周りの子たちの行動まではわからないかなー。なんてアハハハハハハハ』
あの祥子の言葉、もしかして!
「祥子なの?」
「え?」
「いじめの相手、祥子なの? それともその取り巻きかしら?」
「ちが、違うよ愛莉」
「そうなのよね。……わたし、今すぐ文句言いに行ってくるわ」
そう言ってわたしは、教室を出て祥子のところへ向かおうとする。
この前、聞いて回った時放課後でも長い間残っていたことを覚えている。今の時間帯なら絶対にいるはずだ。
「もうやめて! 愛莉!」
教室から出ようとしたわたしをあゆみが大声で止める。そして、目に涙を浮かべながらもしっかりとこちらに顔を向ける。
「もう、……いいんだよ。もう大丈夫だから。これ以上愛莉に心配かけたくない。だから、引っ越すの」
「そ、そんな迷惑なんて」
「フフフ、やっぱ愛莉は優しいね」
そう言ってあゆみはゆっくりとこちらに近づいてわたしの手を握った。握られた手は少しだけ震えていた。
「愛莉、2年くらいの付き合いだったけどとても楽しかった。愛莉はすごいよ。本当にアイドルになって、みんなを笑顔にしてるんだもん」
「そ、そんなの。あゆみも笑顔じゃなきゃわたしは」
「わたしは大丈夫。遠く離れるかもしれないけど、愛莉の活躍をテレビで見て応援するから」
「駄目よ。きっと何か他に解決策は」
「これが最善なんだよ。愛莉は、悪くなんかない。悪いのは、わたしの方だから」
何か言わないといけない。
でも、何を言えばいいのかわからない。
一体、一体どうすれば?
そんなことを考えている間にあゆみは、扉のほうへと向かい出ていこうとする。
「それじゃあ、愛莉。いきなりだったけど、今までありがとう。ごめんね」
あゆみは、まるでわたしに懺悔するかのような口調で謝り、そして教室を出た。
追わなきゃいけないと頭が主張してくるが、体がまるで石になったかのように動かなかった。
あれからわたしは、家に帰ったけれど、どうやって帰ったのかまるで覚えていない。
「あら、愛莉。おかえりなさい。ご飯できてるわよ」
家に入ると、お母さんがキッチンからわたしに声をかける。
「……ない」
「え?」
「いらないわ。ちょっと気分が悪いから部屋で休むね」
「え? 愛莉?」
お母さんが何か言っているけど、どうにも頭に入ってこない。
わたしは、部屋に入るなりすぐにベッドに身を委ねた。
何もやる気が起こらずわたしは、そのまま目を閉じた。
再び目を開けると、朝になっていたのか窓から光が差し込んでいた。
時間を見ると、いつもよりも遅い時間に起きてしまった。
急いで支度をして学校へと向かう。
けれど、時間が足りないせいで多少は髪がぼさぼさになってしまった。
登校すると、絵名が一番に話しかけてくれた。
「おはよう、愛莉。珍しいね、遅刻しかけるなんて」
「す、すこし寝すぎてしまったみたい。でも、これから取り戻していくわ。これでも、……これでもアイドルだから」
「これでもって、愛莉は、アイドルでしょ」
そう言った絵名にそんなことはない、と言いたかったが、先生が教室に入ってきて授業が始まる。
あゆみのことを絵名に言ってもいいのか迷うが、絵名ならきっと真摯に聞いてくれるだろうと思い、昼休みにでも相談しようと思った。
それから、淡々と授業をこなしてあっという間に昼休みになった。
すぐに絵名をお昼ご飯に誘って相談を始めた。
わたしの話を聞いた絵名は少し驚いた表情をした後、怒りが込み上げてきたのか鬼の形相になっていた。
「何よそれ。絶対にその祥子ってやつが関わってるじゃん」
「やっぱり絵名もそう思うわよね」
「当たり前じゃん。今すぐそいつに文句言いに行こう」
「……絵名、そのことなんだけど」
絵名は、こちらを向いて不思議そうな顔をする。
わたしが絵名に話をしている間に段々と自分の中で整理することができた。だから、わたしは
「わたしは、行かないわ」
「え? な、なんでよ」
「だって、あゆみが言っていたんだもの。これ以上迷惑をかけたくないって。もしわたしがここで行ったらそれこそあゆみの気持ちを無下にすることになる。ただでさえ、あゆみがいなくなったのに最後に言われたことを無視なんてできないのよ」
「何よ、それ。それは、あゆみの事情であって、愛莉が気にすることでもないでしょう。愛莉は、大切な友達を奪われた。そしてその犯人も確定ではないけど見当はついているんでしょう? ならもう行く以外ないじゃん」
「……ごめんなさい。今のわたしに到底することはできない。できないのよ」
そういったわたしに絵名は、少し失望したような顔をした。そしてそのままどこかに行こうとする。
「ちょ、ちょっとどこに行くつもりなの?」
「その祥子って奴に文句言ってくる」
「え、絵名は、気にしなくていいの。わたしはただ相談したいだけで」
わたしがそう言うと絵名はこちらにゆっくりと振り向いた。
その時、わたしは彼女を止めることをできないと思った。
だって、絵名の目が訴えてくるのだ。大事な友達を泣かせた奴が許せない。
「それじゃあ、私行ってくるから。……大丈夫だよ愛莉。ちゃちゃっと文句言うだけだから」
わたしが絵名の思っていることを察していたのか。
絵名は穏やかな笑顔を見せた。
この笑顔がずっと見たい。
一度わたしは、取りこぼしてしまった。あのとてもいい笑顔の彼女を。
だから次は次こそは、守るんだ。だって、わたしはアイドルだから。
アイドルは、笑顔を送る仕事だから。だから
「わたしも行くわ」
絵名だけに背負わせるわけにはいかない。
絵名は、一瞬驚いた顔をしたが、すぐにニコッと笑い、手を差し出した。
「じゃあ、行こっか」
「ええ」
そう言ってわたしと絵名は祥子のもとへ向かった。
「だから~、私は知らないって言ってるじゃ~ん。これ随分前に愛莉に言った気がするんだけど~」
祥子はそう言ってニヤニヤしながら言った。
絵名はその言い方に腹が立ったのか多少怒気のこもった声で話し出す。
「あんたがやってないだけで命令とかしたんじゃないの?」
「やだな~。私がそんなことするわけないじゃ~ん。まあ、けど周りのことまではわからないから~ごめんね~」
絵名の発言はそよ風だといわんばかりに余裕そうに祥子は、のらりくらりとした感じだ。
一方絵名は、苛々して、どんどん口調が荒くなっている。
それを見て楽しんでいるのか祥子の目が少し笑っている。
何とか止めないとと思い、制止しようとしたとき、祥子がある発言をした。
「ていうかさ~。愛莉のことよりも自分の心配をしたら~」
「心配って何のことよ!」
「え? 言っちゃってもいいの~? まあ、私は別にいいから言っちゃおうっかな~」
そう言った祥子の雰囲気が少し変わった。
「大丈夫なの? 進路のこと? どちらにも否定されて、もう諦めたら?」
祥子の言ったことをわたしは理解することができなかった。
でも、それを聞いた絵名が急に真っ青な顔をして口をわなわなとさせていた。
「ど、どうしてそのことをあんたが知っているのよ」
「さあね~、まあこれは、誰にも知られたくないものだよね~。知られたくないなら~愛莉と交友関係を切ってよ~」
「え?」
それを聞いたわたしは、思わず反応する。
「何よそれ。そんなこと絵名がするわけないじゃない。絵名もそうよね」
そう言って絵名のほうを見ると、思っていたのと違う顔をしていた。
「え、絵名?」
「……ごめん。愛莉」
その一言でわたしは、目の前が真っ暗になる。
「う、嘘よね絵名。そんなの……冗談でしょ?」
わたしは、なんとか言葉を紡いだが、相手からの返事は来ない。
「あらら~、ま~たふられちゃったね~。愛莉。あゆみにも、絵名にもふられっちゃったね~」
その祥子の言葉を聞いた瞬間わたしは、逃げ出した。あの空間にわたしがあのままいたらここが壊れてしまう。そう思ったからだ。
もう、わたしに友達という人が消えてしまった。
そんな現実をわたしは、認めることはできなかった。
だから、今までよりもアイドルを頑張った。アイドルをやっているうちは、わたしの心も紛れるからだ。
でも、虚しさはずっと心の中で燻ぶったままだった。
==現在、学校の屋上==
「これが、わたしと絵名に起こったことよ。……正直今でも怖い。でも、いつかは乗り越えなきゃいけないから。真嶋くんに話させてもらったわ」
そういった愛莉を見ると、若干手が震えており、本当に勇気を出して言ってくれたんだと実感した。
愛莉の話を聞いて気になった所がある。
それは、シナリオの崩壊だ。
プロセカ公式では、北上祥子なんて登場していないし、そいつが登場したことによってシナリオが変わってきている。
一体どういうことなんだ? 絵名の動揺はイベストでも描かれていたから分かるけど、あゆみが消えたことは明らかな相違点だ。
その時僕は、一つの結論を出した。
……もしかして、北上祥子は僕と同じ転生者なのか?