貧民街出身の青年マグヌスはこれを救ってくれた美少年ソールにある日呼び出される。

それはある魔法についてだった

※カクヨム様でも投稿しています。

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銀髪TS少女は迫ってくる!

 

「マグヌス! ここにいたのか」

 

 俺の名前を呼ぶ声に振り返るとそこには両手を組んで立っている……少年がいた。歳は俺より下のそいつはつややかな銀髪を短く切りそろえている。いわれなければ女性と見間違えるほどの整った顔立ちをしている。少しほほが赤い。なんかの研究がうまくいったときはたいていこんな顔をしている。

 

 ソール・フォン・ロスティディル。これがこいつの名前。

 

 白いブラウスの上から深い青のコートを羽織っている。そいつは空みたいに綺麗な瞳に俺を映しながら言った。

 

「私の研究がやっと完成したんだ。すぐに来てくれ」

「はあ、俺が……なんで?」

 

 面倒と思う間もなくソールは俺の手を引いた。

 

「わかった、行くから引っ張るな」

「それでいいんだ。私の研究していた魔法がやっと完成したんだからな。彼の『黒髪のマグヌス』に見てもらおうと思うんだ」

 

 ここは王宮の一角。そして俺は騎士団の一人だ。『黒髪のマグヌス』と言ってるのは俺に東方の血が入ってて黒髪だからだ。珍しいからあだ名にされている。

 

 子供のころからこいつは強引だった。俺は腰に佩いた剣の位置を直して、ソールについていく。大股で歩きやがる。貴族様のくせにはしたないやつだ。嬉しそうだな……。

 

 歩きながらソールは俺を見ながらしゃべった。前を見て歩け……危ないだろ。

 

「先に言っておくがマグヌス。お前には少し刺激の強い魔法かもしれない」

「はあ、そうですか。まあ俺には魔法の才能なんてないですからね」

 

 俺は剣だけでのしあがってきた自負がある。……いや正確に言おう。剣とソールが俺を引き上げてくれた。元々貧民街の出身の俺が騎士団の身分にあるのは多分にこの目の前をあるくお調子者のおかげだ。言わないが感謝している。

 

 ソールは一度止まった。なんだ。顔を覗き込めばいつになく深刻な顔をしている。

 

「……」

 

 上目遣いで俺を見る。男と分かっていてもドキッとする時がある。俺は頭を振った。

 

「どうしたんだ?」

「いや……。なあ、マグヌス。僕たちが出会ってもう何年になろうだろうか?」

「5年くらいか……?」

 

 何となく思い出す。

 

 このソルダート王国の都……その貧民街に俺は生まれた。名前はマグヌス。姓なんてしゃれたもんはない。

 

 東方の人間の血が入っている俺は黒髪で目立ったから、子供のころからいろんな奴と喧嘩になることが多かった。体がでかくなるにつれて喧嘩相手もでかくなっていったんだ。そのうち親はどっかに行った。俺を捨てたんだろうと思う。

 

 それから俺はさらに荒れた。ただ自分より弱いやつからたかるのは気に入らなかった。だから俺みたいにどうしようもないやつを殴って過ごした。狂犬と呼ばれていると後で知った。

 

 ある日、俺が18のころ路地裏でからまれている奴を見つけた。そいつは一目見るだけなら女と見間違えるようなむかつくくらいの美形だった。短い銀髪に仕立ての言い青い服、貴族様だろう。最初は放っておこうと思った。

 

 からんでいるのは近所でも有名な暴れ者のくずどもだった。身包みをはぎ取ろうとしているんだろう。

 

「お前男かよ」

「でも、見世物小屋に売ればいい金になるだろ、なーに剥いちまえば貴族様と分かんねぇさ」

 

 下種な声が聞こえてきたが俺には関係なかった。そもそも貴族様がこんなところにのこのこ来ているのが悪い。その中で声がした。透き通った声だから最初女の声かと疑った。からまれている貴族は堂々と胸をはってやがる。

 

「私の名前はソール・フォン・ロスティディルだ。ここに来たのは君たちの生活を改善するためだ!」

 

 はあ? 俺は振り返った。そこには美少女に見間違うほどの少年がチンピラたちに胸を張っている。そこにだけ光が差しているかのようだった。少しの沈黙の後にチンピラどもはぎゃははと笑っている。確かに意味がわからない。笑いたいと思うのはわかる。

 

「この貧民街と言われている地域は我々貴族の政治が原因だ。だからこそ君たちの意見が聞きたい。僕はそのために……うっ」

 

 その時ソールはチンピラの一人に胸ぐらをつかまれた。

 

「そうかい。じゃあ俺達に身包みはがされてくれよ。ぎゃははっがっは?」

 

 俺はそいつの顔面に飛び蹴りを食らわせていた。その時はなんだかよくわからないがそうしたくなった。チンピラどもは俺を見てひるんだ。

 

「狂犬だ!」

「マグヌスだ!」

 

 そうだよ、俺だよ。そう思って笑った。そのあとの数十秒の記憶はない。全員を叩きのめしたというのは後で気が付いた。殴った後は痛みが両手にある。チンピラどもが全員倒れているのに気が付いた時袖で俺は顔をぬぐった。血がついている。

 

「おい、お前」

「……ぼ、ぼくか」

 

 ソールはすごくおびえた顔をしながら両手を組んで胸を張ったちぐはぐな姿でそこにいた。

 

「ぼ、僕は貴族だからな。こんなことに動じてはいられない。君、助けてくれてありがとう」

「……貴族様がこんなところを歩くもんじゃないぜ。けっ」

 

 自分でもなんでこんなのを助けたかわからない。それから帰ろうとしら俺の服をソールが引っ張った。

 

「君! 僕を手伝わないか? この貧民街を豊かにするんだ!」

「なんで俺が」

「僕を助けてくれたじゃないか! 君には正義の心があるに違いない」

「せいぎだ?」

 

 はっと笑い飛ばした。ソールはそんな俺をキラキラした目で見てやがった。

 

「とにかく来てくれ」

「お、おい引っ張るな」

 

 ……出会った時から強引だったことを思い出して少し笑う。

 

 だが結論からいうとこいつは本気だった。貧民街を俺をボディガード代わりに歩き回り、いろんな奴に話を聞いて、有力者というか盗賊みたいなやつらにも熱心に話を聞いた。

 

 ソールは私財で井戸を整備して清潔な水いつでも安全に飲めるようにした。もともとどれくらい昔に作られたかわからない汚い井戸があっただけだった。中にはいろんなものが捨てられてたから使えなかった。

 次は荒れ果てた道の補修に貧民街の連中に賃金を払って仕事を与えた。それで俺のようなどうしようもないやつらには兵士としての職を斡旋した。辺境は魔物が出るようになったから人手が必要だったらしい。

 

「君は彼らを統率してくれ!」

 

 人差し指を俺に向けてソールは俺に言った。集めた連中なんてくずの掃きだめだ。放っておいたら盗賊になりかねない。

 

「俺が盗賊になるかもしれねぇぞ?」

「君はならないよ、マグヌス」

 

 にっこり笑ったそいつの顔に毒気を抜かれた。そして俺は辺境や様々な事件で運よく功績をたてて騎士団に入団することになった。

 

 ただ逆にソールの家は傾いている。そりゃあそうだ、無駄に他人のために金を費やしたんだからな。ただもうこいつには親もいないらしい。聞いてみれば俺より年下だという。今では魔法の腕でなんとか王立研究所に所属して食い扶持にしているような状況だ。

 

 いろんな奴がソールには感謝しているはずだ。ただこいつ自身はなんでこんなことをしたのか聞いたことがない。

 

 ――おい。

 

「おい、マグヌス」

 

 はっとした。いつの間にかソールの工房にやってきていた。床に魔法陣が描かれていてほのかに光を放っている。

 

「ああ、悪い。なんとなく昔を思い出していた」

「そうか」

 

 なぜソールは靴を脱いではだしになっている。白い、そして小さな足だ。魔法陣の上に載ってぺたぺたとなんだか間抜けな音がする。

 

「それでなんの魔法なんだ。ソール」

「それなんだか、正直怖いんだ」

「怖い? はっ、貧民街を立て直した異常者が言うじゃねぇか」

「その言い草はひどいな。もう少し敬ってもいいんだよ」

 

 敬ってはいるよ。心の中だけでいう。ソールは返事をしない俺に少し怒ったようにむっとした。とはいってもリスが怒ったようで、要するに怖くもなんともない。

 

「君は変わらないな」

 

 ソールはつづけた。

 

「なあ、マグヌス。一つだけわがままを聞いてほしい。この魔法が成功したときに君にも思うところがあるだろうが、僕のお願いを聞いてくれないか? 一日だけでいい」

「どんな願いだ?」

「それは……後にしてくれ。僕は約束だけ……してほしい」

「……いいだろう。俺は約束する。お前のわがままがどんなことでも聞いてやるよ」

 

 それを聞いてソールは安心したように笑った。それから両手を広げて呪文を詠唱する。

 

「天におわします豊穣の女神アライマスよ。わが不浄の身を捧げ、時の中のかけらの一つをこの世に顕現させん。シューラ、ファルト、ダスティネス!」

 

 魔法陣の光が強く放たれる、俺は目を閉じた。

 

☆☆

 

 はっとした。ここは貧民街か。というか俺なんか格好がみすぼらしい? 

 

 なんだこれは。どうなってんだ? ていうか周りがなんか復興前の感じがする……。その時声が聞こえた。

 

「でも、見世物小屋に売ればいい金になるだろ、なーに剥いちまえば貴族様と分かんねぇさ」

 

 聞いたことのある声。ソールと初めて会った時の場所……そんな馬鹿な。俺は混乱しつつも走った。そこには青い服を着たソールがいた、ただ少しだけ髪が長くて……胸がある?

 

 ソールは俺を振り向いた。それからぱあっと笑う。

 

「マグヌス! 来てくれたんだね」

「あ、おい」

 

 チンピラを押しのけてソールが俺に抱き着いてきた。固まる俺、チンピラどもはあっけにとられている。

 

「狂犬様の女かよ。ひゃはは」

 

 そんな笑い声が遠くに聞こえるように感じた。俺は混乱していたんだ。俺の胸元に抱き着く少女はソールによく似た誰かなのか、ここはどこだ、俺はなにをしている。とにかく俺はがしっとその少女をだきよせて走った。後ろから追ってくるような気がしたが、仕方ない。お姫様のようにソール似の少女を抱いて走る。

 

 おかしい騎士団で鍛えたはずなのに疲れる。だが必死になって走った。

 

 チンピラどもを巻いて、貧民街にある丘の上に来た。せり出した丘の下には住居がひしめいてる。

 

「ぜえ、はあはあ。あんた誰だ」

「私はソールだ。君はマグヌスだろう?」

 

 少女が答えた。微笑んだ姿にどきりとした。

 

「どういう……ことだ」

「マグヌス……君は今、時の中の可能性の一つにいる。単に私が女の子だったという可能性だ」

「はあ? 何を言っているんだ。……お前はさっき工房にいたはずだろう」

「そう、だから僕の完成させた魔法でここに来た」

「……時をさかのぼる魔法……。いやそれより何が目的なんだ」

「目的?」

 

 ソールは少し恥ずかしそうに下を向いて、それから俺を見た。

 

「私は……私はね。君のことが好きだ」

 

 時が止まったように感じた。ソールはほほを紅くして顔を手で覆う。そのまま話した。

 

「き、きみはき、きもちわるいかもしれないが、きょう、この日に君に助けられてからずっと好きだって気持ちがあったんだ。そ、それで魔法で女の子になって……ど、どうだろう」

 

 赤い顔のままソールは俺に迫る。

 

「ぼ、ぼくはどうだろう。本当におんなのこなんだ。そういう可能性なんだ。か、かわいいとか……そ、そういうのはないか」

「……ちょ、ちょっと待ってくれ、俺は混乱している」

「そ、そうだろうね。わかる。でも安心してくれ。結局この魔法は無理やり僕たちの可能性を見せているだけだ。効力は持って一日だ。だからマグヌス。私のわがままを聞いてくれ」

「わがまま?」

「そう、そうだよ。今日一日でいい、ぼ、ぼくとデートをしてくれ!」

 

 俺は固まった。だが、こいつに約束したのは事実だ。

 

「は、はい」

 

 そう頷くしかできなかった。それを聞いてぱあとソールが笑顔になった。心底うれしそうなその顔は愛らしい少女そのものだった。

 

 

「マグヌス! 手をつないでくれ」

「……」

 

 ソールが俺と手をつないで歩く。本当に楽しそうにしていた。小さな手が俺の指に絡みつくようで少しドキリとする。横を見れば美少女がいた。こいつが本当にソールだと忘れそうになると頭を振って邪念を払う。

 

 まず食事に行く前に服装を整えた。新しいシャツを買ってソールは俺に着せる。そりゃあそうだ、貧民街時代の俺の服装なんてみすぼらしいものだ。狂犬なんて言われていたんだ、街中から忌み嫌われてもいた。

 

「こっちこっち」

 

 そんなことお構いなしにソールは俺の手を引きやがる。あいつの指は細くて少し冷たい。触り心地がいいなんて思うところで頭を振って邪念を払った。

 

 来たのは町中のカフェ。貴族の住む街に近いから人通りも多い、大通りにパラソルたててその下にテーブルが並んでいる。ソールはその店に来て開口一番「パフェ! 大きいの!」と頼んでいる。そんな頼み方があるか……あとパフェは食事になるのか?

 

 マジででかいのが来た。

 

 氷の魔法を使って作られた砂糖菓子……アイスとかいうのになんかよくわからんフルーツとチョコレートが付いたパフェだ。貧民じゃこんなもん食べることはできない。それが2つも来た。

 

 ソールはそれを見て目をキラキラさせて

 

 それから大きいスプーンでそれを掬って、アイスにたっぷりのチョコをほおばる。それからすごく幸せそうな顔をした。

 

「ほら、マグヌスも食べなよ!」

「俺は……いい」

 

 こんなもの食べるの恥ずかしい。正直そう思った。だがソールは自分のパフェにスプーンをぶっ刺して、さっきより大きく掬った。大き目のスプーンにのったアイスの塊を俺に向けてくる。

 

「ほら、あーんしろ」

「や、やめろ」

「貧民街にたっぷり投資しただろ、ほら、お願いを聞いてくれてもいいじゃないか」

「卑怯だろ」

 

 くそ、食べればいいんだろ。俺は一口で目の前に向けられたスプーンを咥えた。冷たいし、甘い。高そうだなと思った俺の貧乏症が悲しくもなる。ガキの頃からなんか固いものとかはよく食ったからよく噛んで食べることが癖になっているが、これは十分に柔らかい。

 

「お前、俺のスプーンもあるんだから、ソールのを使う必要はなかっただろ」

「……あ」

 

 ソールは自分のスプーンを見つめてからだんだんと赤くなっていく。

 

 

「これはどうだい? マグヌス」

 

 服飾店に来たことなんてなかったが、中は多くの洋服があふれていた。それを試着するスペースがある。ソールは白いワンピースを着てそこから出てきて、俺に聞いた。

 

「ああ、いいんじゃないか」

「……君、てきとうにいっているだろ」

 

 ばれたか。

 

 服なんてどうでもいいだろ。言いかけたがそれを言ったら蹴られそうな気がする。

 

 ソールは店にある大きな帽子をかぶった。黒いリボンのついた麦わら帽子だった。流れるような銀髪に白のワンピースと帽子。体に張り付いたラインが見える。

 

「上着……お前に似合いそうなのがあればいいな」

 

 それを聞いて

 

 ソールは

 

 くるりと振り返って笑った。嬉しそうだが、どこかいたずらっぽく。

 

「私に似合いそうなのを君が決めてくれ」

 

 単に体のラインに張り付くワンピースの上から何かを羽織れと言いたかっただけだが、なんか、嬉しそうなこいつの顔を見ると訂正もできない。しかし、わかるわけないだろ。さっきから隅で固まっている定員に目を向けるとぐっとがんばれのポーズをしてくる。いや……俺はお前に助けを求めているんだ。

 

「仕方ねぇ。おれがそんなの選べるわけないからな。へんなの選んでも恨むなよ」

「はやくはやく」

 

 ワクワクした顔で来るなよ。服なんてわからん。とりあえず羽織るもの。こいつに似合うもの……。

 

 棚には多くの服がたたんである。壁にもよくわからんが服がかけてある。くそ、わからん。一度ソールを見る。

 

「とりあえずお前がかわいく見える服を選べばいいんだろ」

「かわいい?」

 

 それを聞いてソールはぽっと赤くなって目を背けた。

 

「そ、そうだね。眼を見ながら言われると恥ずかしいかな」

「さっきお前は俺の目を見ていってきただろ」

「それとこれとはちがうんだよ!」

 

 何が違うんだ。まあ、女、女ならピンクとかか。いや、こいつ男だったな。いや……今は違うか。ええい。どうすればいい。俺はとりあえずかけてあったピンク色の丈の短い上着を手に取る、羊毛か……。これも高そうだな。

 

「おい、これでどうだ」

「おっ、じゃあ着せて」

「着せて!?」

 

 ソールはくるっと後ろを向いて右手だけをかるく上げる。袖を通せって事か。お、俺は召使じゃないぞ……まあ今日はいいや。俺はそうやって着せてやる。左手も通す。

 

 白いワンピースに麦わら帽子、それに淡いピンクの上着を着たソールがくるっと後ろを向いた、にかっと笑う。

 

「どうだい?」

 

 何回目かわからないが目を奪われた。いかんな、何か言わないといけない。

 

「ま、いいんじゃないか」

「なんだいそれは」

 

 少し不満そうだった。

 

 

 ソールは俺の手を引いて町中を見て回った。勝手知ったる過去の街なのだが、こうやって女連れで歩くことはなかった。まあ、こいつは男のはずだが。

 

 町全体が見渡せる丘の上に来た。遠くの海に太陽が落ちていくのが見えた。

 

 手すりがついた展望台だった。俺の横にソールが帽子を飛ばされないように手で押さえている。なんとなくそちらをみると白い肌に整った顔立ちの少女。美しいと思ってしまった。だが、顔を背けた。

 

「今日は楽しかった、マグヌス」

「ああ」

「私のわがままに付き合ってもらってうれしかったよ」

 

 互いに顔を見ずにそう言葉を交わす。すぐそばにいても表情を見るのは怖い気がした。

 

「あの日が落ちた時にこの魔法は解ける。私たちは元の時代に戻ってそして……」

 

 そこで言葉を切る。ソールの言葉を先に何があるのかはなんとなくわかった。

 

「まあ、明日からはお互いに元通りになるってことか」

「……っ」

 

 自分で言ってて自分を殴りたくなるとは思わなかった。別に媚びたいわけでも機嫌を取りたいわけでない。ただソールは今の俺の現実的な言葉を俺の口からききたくなかったはずだ。なのになんで言った?

 

「そうだね。君の言うとおりだ。だからマグヌス。今日、最後のお願いをしたい」

「なんだ」

 

 ソールは俺の袖を握った、ぎゅううっと力を込めた。俺は彼女の顔を見る。

 

 大きな瞳で俺を見つめるソール。彼女の小さな唇が不安げに動く。

 

「……きす……してほしい」

「……………」

 

 すぐには反応できなかった。

 

 俺は今までのこいつとの思い出が頭に駆け巡っていく。

 

 貧民街で出会った間抜けな貴族様。

 

 何がしたいのかわからんが自分を捨てで街ごと救ってくれた恩人。

 

 それとは関係なくいつも明るい友人。

 

 俺に好意を持っていたということ。今日のこと、いろんな場所を回ったこと。

 

「…………」

 

 しばらく黙っていた。

 

 日が落ちていく。空に浮かんだ星が顔を出していく。それはこの魔法が解ける合図でもあるんだろう。

 

 ソールと俺はしばらく見つめあった。

 

「……なんてね」

 

 ソールは笑った。寂しそうに。何かをあきらめたようなその表情に俺は苦しくなった。

 

 

 ––世界が不意に光に包まれていく。

 

 これはこの世界に来た時、いやソールの魔法だった。

 

 

 気が付けば俺は魔法陣の上に倒れていた。はっと起き上がれば騎士団の服装をしている。

 

「戻ってきたのか」

 

 言って気が付いた、ソールはどうした。

 

 すぐに見つかった。魔法陣の上で倒れている。短い銀髪の少年がそこにいた。何かうなされている。近寄ってみたらそのほほを涙が流れているのが分かった。

 

「……おい、起きろ」

「ん、ん?」

 

 倒れている彼を抱き起す。ゆっくりと瞳を開ける。

 

「やあ、おはよう。マグヌス」

「ああ、おはよう」

 

 寂しそうに笑うソール。

 

「魔法、楽しかった」

「そうだな」

 

 俺にはそうは聞こえなかった。無理にそう言っている気がした。

 

「なあ、ソール」

「なんだい」

「俺はお前に感謝している。俺を取り立ててくれたことも俺たちの町を救ってくれたこともな」

「はは、いろいろと脅して悪いけど、そんなこと気にしなくていいよ」

「いや、これはけじめだ」

 

 俺は今までこいつにちゃんとお礼を言わなかった。

 

「お前がそういうのを理由に魔法を使ったからな、だからあえて言った」

「……そっか」

 

 ソールはあの時の寂しそうな笑顔を作った。

 

「だから、お礼を言ったからには貸し借りはなしだ」

「えっ?」

「貸し借りでやったわけじゃない」

「何を言っていの? マグヌ––!」

 

 俺は引き寄せたソールの唇に重ねる。

 

 ソールの手が驚いたように動く。俺の服をつかんでぎゅっと握る。だがすぐに力を抜いて抱き着くように身を寄せてきた。

 

 

 


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