サイド7の受信機~アムロ・レイの隣で鳴り響く、もう二つのガンダムの叫び~   作:寝て起きたら異世界じゃなくて会議室だった

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 大学の講義で「ニュータイプ論」を耳にするたび、私はいつも奇妙な疎外感を覚えます。教授が語るそれは、進化した人類の可能性だとか、空間認識能力の拡張だとか、そんな記号的な言葉ばかりです。
 でも、私にとってのそれは、もっと泥臭くて、生々しい、暴力的なまでの「音」の奔流でした。
 あの日、サイド7の空が燃え始めたとき、私はわずか四歳でした。まだ「戦争」という言葉の意味さえ知らなかった私に、宇宙(そら)は最初の一撃をくれたのです。
 アムロさんの覚醒は、あまりにも劇的でした。でも、私には分かっていました。その鋭すぎる光の裏側で、シローさんのような「持たざる者」たちが、必死に泥を這いずりながら歴史を支えていたことを。
 私の耳鳴りは、あの日から一度も止まることはなかったのです。


サイド7の赤い炎(U.C.0079.09.18)

 お空が、真っ赤だった。

 いつもは偽物の太陽が優しく笑っているサイド7の天井が、今はバリバリと嫌な音を立てて引き裂かれている。

 火薬の匂い。焼けた鉄の匂い。そして、たくさんの大人が泣き叫ぶ「真っ黒な音」。

 

「キッカ、離れちゃだめよ! カツ、レツ、こっちへ!」

 フラウお姉さんの手が、ぎゅっと私の腕を掴んでいた。お姉さんの手は震えていて、とっても冷たい。

 

 避難する人たちの列の中で、私は思わず立ち止まって振り返った。

 そこには、フラウお姉さんの幼馴染のアムロさんがいた。アムロさんは、真っ白なロボット――ガンダムの前に立っていた。

 

(……いたい。アムロ、いたいよ)

 

 アムロさんの体から、見たこともないくらい鋭い光が溢れ出していた。

 それは針みたいに尖っていて、私の頭の中をチクチクと刺してくる。アムロさんがガンダムのコックピットに乗り込んだ瞬間、その光は爆発したみたいに大きくなって、サイド7の空を真っ白に塗りつぶした。

 

 アムロさんがガンダムを動かすたびに、私の耳の奥で「キーン」という高い音が鳴り響く。

 それは、アムロさんが誰かを殺そうとしている音。

 そして、アムロさんに殺されようとしている、青い服を着たおじさんたちの「死にたくない」っていう、こびりつくような黒い音。

 

 でも。

 その嵐のようなノイズの向こう側に、ふっと別の音が聴こえてきた。

 

『……全機、突入だ。これが俺の、最初の仕事になる』

 

 あ。

 それは、アムロさんよりも少しだけ高い、とっても真っ直ぐな、お兄ちゃんの声だった。

 そのお兄ちゃんは、アムロさんのいるサイド7にはいない。もっとずっと遠い、地球に向かって飛んでいる、小さなお船の中にいる。

 

(……どろんこの、お兄ちゃん)

 

 お兄ちゃんの周りには、ジャングルみたいな深い緑の匂いが漂っていた。

 お兄ちゃんは怖がっていない。「みんなを守らなきゃ」っていう、熱い、お日様みたいなエネルギーが、アムロさんの鋭い光とは対極の場所で、静かに燃えていた。

 

「キッカ、どうしたの? 早く行かなきゃ、置いていかれちゃうわよ!」

 カツとレツが私の背中を押した。私はもう一度、ガンダムが戦っている方を見た。

 

 アムロさんの「白」。

 お兄ちゃんの「熱」。

 二つのガンダムのパイロットが、今、この宇宙のどこかで同時に産声を上げたんだ。

 

 キッカは、自分の小さな耳を両手で塞いだ。

 でも、音は止まらない。

 これから一年間、世界中が壊れていく音が、私の頭の中に全部流れ込んでくる。そんな予感がして、私はフラウお姉さんの背中に顔を埋めて、初めて「戦争」のために涙を流した。




サイド7においてRX-78-2ガンダムが起動。アムロ・レイはザクIIを二機撃破し、ニュータイプとしての片鱗を見せる。同時刻、地球へ向かう輸送船の船団の中で、シロー・アマダは宇宙に放り出された味方を救うため、先行量産型ボールで高機動型ザクIIと交戦。後に「08小隊」と呼ばれる男たちの、泥濘の戦いへの序曲が奏でられた。
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