サイド7の受信機~アムロ・レイの隣で鳴り響く、もう二つのガンダムの叫び~   作:寝て起きたら異世界じゃなくて会議室だった

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 サイド6。戦火の絶えない宇宙にあって、そこは奇跡のように穏やかな「偽物の平和」に満ちていた。
 「中立」という言葉の響きは、幼い私にはとても甘く、魅力的に聞こえた。おもちゃ屋さん、ふかふかのベッド、そして戦争とは無縁の子供たちの笑い声。けれど、一歩コロニーの中に足を踏み入れた瞬間、私の耳は嘘をつけなかった。
 平和な街並みのあちこちに、鋭い「火薬の匂い」が混じっていた。
 それは、アムロさんが感じるような敵の殺気とは少し違う。もっとじっとりとした、暗い穴から覗き込むような視線。
 サイクロプス隊。後に知るその名を持つ男たちが、平和の仮面を被って街に溶け込んでいた。
 入り口はあんなにキラキラしていたのに、私の心には、拭いきれない不安が耳鳴りとなって響き続けていた。


中立の入り口(U.C.0079.12.13)

「わぁ、おっきい! おもちゃ屋さん、あそこかな?」

 キッカはカツとレツの手を引いて、サイド6の入港ゲートを駆け抜けた。

 真っ青なお空。地球よりもずっと鮮やかで、でもどこか絵の具みたいに作り物っぽい景色。

 ホワイトベースがドックに入って、久しぶりに地面の上を歩けるのが、とっても嬉しい。

 

 でも。

 クンクン、とキッカは鼻を鳴らした。

「……フラウ、ここ、なんだか変な匂いがする」

「変な匂い? 潮風かしら、それとも森の匂い?」

 フラウお姉ちゃんが首を傾げる。

 

(……ううん。火薬と、冷たい鉄の匂い)

 

 すれ違うトラック、角の喫茶店、そして笑いながら歩いている大人たちの影。

 その中の一人から、とっても暗くて「じりじり」とした音が聴こえてきた。

 それは、戦場にいるアムロさんの光とは違って、獲物を狙う蛇みたいな音。

 

『……よし、入港を確認した。あのおもちゃのような機体が、連邦の新型か』

 

 あ。

 低い、男の人の声。

 キッカが振り返ると、大きなトラックを運転しているおじさんが見えた。

 おじさんは、平和な街並みにちぐはぐな、とっても怖い目をしてホワイトベースの方を見ていた。

 

(……あのおじさんたち、悪いことしようとしてる)

 

 キッカは怖くなって、フラウお姉ちゃんのスカートをぎゅっと握った。

 そのとき、耳の奥でまた別の音がした。

 それは北極で聴いた、あのお姉さんの声。

 

『……クリス。今日からここが、あなたの新しい戦場よ』

 

 あ、クリスお姉ちゃんだ。

 お姉さんの声は、とっても緊張していた。

 お姉さんは今、このコロニーのどこか深い場所で、あの「もうひとつのガンダム」と一緒に隠れている。

 守ろうとしているお姉さんの「青い音」と、さっきのおじさんたちの「黒い音」が、この綺麗な街の中で静かにぶつかり合っている。

 

「キッカ、どうしたの? お顔が真っ青よ」

 アムロさんが隣にしゃがみこんで、私のお顔を覗き込んだ。

「……アムロさん。ここ、おもちゃ屋さんがあるのに、みんな隠れんぼしてるよ」

「隠れんぼ……?」

「……怖い人たちが、クリスお姉ちゃんを探してるの。ガンダムを、壊しにくるよ」

 

 アムロさんは一瞬、鋭い目をして周りを見渡した。

 でも、そこには平和な買い物客しかいない。アムロさんは少し困ったように笑って、私の頭を撫でた。

「……大丈夫だよ、キッカ。ここは中立のコロニーだ。戦いなんて、起きやしないさ」

 

 アムロさんはそう言ったけれど。

 キッカには、平和な空気に混じる「火薬の匂い」が、どんどん濃くなっていくのが分かっていた。

 

 「中立」っていう入り口をくぐったとき。

 キッカの耳には、もうすぐここで始まる「小さな、でもとっても悲しい戦い」の予奏が聴こえ始めていた。




ホワイトベース、修理と補給のため中立地帯サイド6のリボ・コロニーに入港。時を同じくして、ジオン軍のサイクロプス隊も、新型ガンダム「アレックス」を奪取・破壊すべく、偽装工作を施して潜入を開始する。平和を謳歌する市民の裏側で、二つの陣営の火種が、コロニーの内部へと持ち込まれた瞬間であった。
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