サイド7の受信機~アムロ・レイの隣で鳴り響く、もう二つのガンダムの叫び~   作:寝て起きたら異世界じゃなくて会議室だった

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 12月19日。その日は、サイド6の青い空が最も醜く濁った日として記憶されています。
 ホワイトベースのブリッジから見えたのは、コンスコン隊のMSが次々と光に変わる、アムロさんの「圧倒的な力」の儀式でした。けれど、私の耳が捉えていたのは、その輝かしい勝利の音ではありません。
 コロニーの壁の向こう側――リボ・コロニーの美しい市街地を、無慈悲に焼き払う「銀色の獣」の咆哮でした。
 公式の記録では、それはジオンの特務部隊による小規模なテロに過ぎなかったのかもしれません。でも、私には聴こえていたのです。初めて「兵器としてのガンダム」の力に恐怖し、震える指でトリガーを引いた一人の女性の、悲痛な叫びを。
 一方では完璧な救世主として完成されていくアムロさんと、もう一方では化け物に跨がって震えるクリスお姉ちゃん。二人のガンダム・パイロットを分かつ運命の残酷さが、爆煙となって空に立ち上っていました。


銀色の悪魔(U.C.0079.12.19 前編)

 「すごい……アムロ、やったわね!」

 フラウお姉ちゃんの明るい声が、ホワイトベースの観測デッキに響いた。

 窓の向こうでは、アムロさんのガンダムが、まるで魔法使いみたいにジオンのモビルスーツを次々とやっつけていた。コンスコンっていうおじさんの軍隊が、12機も一気に爆発して、宇宙(そら)に小さなお星様がたくさん生まれたみたいに見えた。

 

 でも、キッカは笑えなかった。

 アムロさんの背中から届くのは、もう「頑張れ」なんて応援する隙間もないくらい、冷たくて鋭い……鏡みたいな音。

 そして、それよりもずっと怖かったのは、さっきまで私たちが歩いていたリボ・コロニーの「中」から届く、地獄の音だった。

 

(……あ、街が。おもちゃ屋さんがあったところが、燃えてる)

 

 キッカは、コロニーの向こう側で上がる「黒い煙」を見つめた。

 耳の奥を、あのミーシャおじさんの笑い声が突き抜ける。

 

『……酒の肴には最高だ。燃えろ、燃えちまえ!』

 

 青い悪魔……ケンプファーが、街の中を銀色の閃光みたいに駆け抜けている。

 平和だった街は、一瞬でお墓みたいに真っ黒になってしまった。

 そして、その炎の海に、無理やり引きずり出された「光」があった。

 

『……やめて。もう、やめて! 動いて、アレックス! お願い!』

 

 クリスお姉ちゃんだ。

 お姉ちゃんは、あの「もうひとつのガンダム」の中にいた。

 でも、その音はアムロさんとはちっとも違っていた。

 アムロさんの音は、もう機械と一つになって、どこまでも自由なのに。

 お姉ちゃんの音は、重たい鎧を着せられたまま、真っ暗な穴に落ちていくみたいに、苦しくて、怖くて……震えていた。

 

(……お姉ちゃん、ガンダムが怖いんだ)

 

 キッカには分かった。

 あのお姉ちゃんにとって、ガンダムは「みんなを守るヒーロー」なんかじゃない。

 自分の心も体も、ぐちゃぐちゃに振り回してしまう「恐ろしい怪物」だったんだ。

 お姉ちゃんの震える指が、初めてガンダムの大きな銃を撃つ。

 その瞬間、お姉ちゃんの心の中に走ったのは、勝利の喜びじゃない。

 「人を殺してしまう」という、取り返しのつかない絶望の音だった。

 

「……あ、あ……」

 キッカは自分の肩を抱いて、震え出した。

 アムロさんが無敵になればなるほど、遠くの街で戦うクリスお姉ちゃんが、ボロボロに壊れていくのが聴こえる。

 同じ「ガンダム」なのに。

 一人は神様みたいになって、一人は生け贄(いけにえ)みたいに泣いている。

 

「キッカ? どうしたの、そんなに震えて……。アムロは勝ったのよ?」

 フラウお姉ちゃんが、キッカの冷たくなった手を握ってくれる。

「……お姉ちゃん。ガンダムがね、泣いてるの」

「え……?」

「……アムロさんのじゃないよ。遠くの、森の中にいるお姉ちゃんのガンダム。あのお姉ちゃん、ガンダムに乗って、とっても悪いことをしちゃったって……ずっと泣いてるよ」

 

 その時、宇宙での戦いを終えたアムロさんが、ホワイトベースに帰ってきた。

 コクピットから降りてきたアムロさんの顔には、表情がなかった。

 12機も墜としたのに、嬉しそうでも、悲しそうでもない。

 ただ、遠くを見つめるアムロさんの視線の先に、キッカは「銀色の悪魔」に焼かれた街の幻影を見た。

 

 アムロさんは、一瞬だけ足を止めて、コロニーから立ち上がる煙の方を振り返った。

 ニュータイプとして目覚めた彼の感覚が、クリスチーナ・マッケンジーという「もう一人の自分」の叫びを、一瞬だけ、ノイズのように拾ったのかもしれない。

 でも、アムロさんは何も言わず、重い足取りで更衣室へと消えていった。

 

 宇宙では歓声が上がり、コロニーでは悲鳴が上がる。

 12月19日。

 キッカは、アムロという光が強くなるたびに、その影で誰かが深い闇に沈んでいくのを、ただ聴いていることしかできなかった。




サイド6の領海外にて、アムロ・レイ少尉はコンスコン機動部隊をわずか3分で壊滅させる。その異次元の強さは連邦・ジオン双方を驚愕させた。しかし、同刻、リボ・コロニー内ではサイクロプス隊のケンプファーが蜂起。テストパイロットのクリスチーナ・マッケンジーは、未完成のアレックスを駆り、初めての実戦に臨む。市街地を戦火に包み、アレックスの圧倒的なスペックに「乗らされる」恐怖に直面した彼女の戦いは、アムロの華々しい戦果の影で、凄惨な傷跡を刻んでいた。
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