サイド7の受信機~アムロ・レイの隣で鳴り響く、もう二つのガンダムの叫び~   作:寝て起きたら異世界じゃなくて会議室だった

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 12月24日。世界が愛を語らうはずの聖夜に、宇宙(そら)は緑色の光に焼き尽くされていました。
 ソロモン攻略戦。それは、アムロ・レイという「光」が、もはや一個人の限界を超え、戦場そのものを支配する神話へと変わっていく過程でした。アムロさんの意識は、敵の殺意を線として捉え、未来の数秒先を歩いていました。
 けれど、その輝かしい無双の裏側で、私はアムロさんの心に生じた、小さな、けれど決して無視できない「空白」を感じていました。
 自分を追い越していく自分の感覚。それに応えられない今のガンダム。
 そして、サイド6から届くはずだった「贈り物」が、もう二度と自分に届くことはないという、予感にも似た寂寥感。
 アムロさんは無敵でした。でも、その無敵さは、同時に彼から「誰かに救われる権利」を奪い去っていったのです。


ソロモンの悪夢(U.C.0079.12.24)

「すごい……アムロ、また堕としたわ!」

 ブリッジから聞こえるフラウお姉ちゃんの驚きと歓喜の声。でも、今のキッカには、それがどこか悲しい合唱のように聴こえていた。

 

 窓の向こう、遠くソロモンの空域で、ガンダムが閃光のように舞っている。

 アムロさんの心から届くのは、怒りでも憎しみでもない。ただ、冷徹なまでに研ぎ澄まされた「最適解」の羅列。

 敵が動く前に、そこへビームを置く。敵が引き金を引く前に、その影を断つ。

 

(……アムロさんが、いなくなっちゃう)

 

 キッカには分かっていた。アムロさんの魂は、今、このホワイトベースにはいない。もっと高く、もっと速い「どこか」へ昇ってしまっている。

 アムロさんは今のガンダムを愛していた。けれど、今のガンダムは、もうアムロさんの「早すぎる思考」の檻(おり)になり始めていた。

 

「ねえ、アムロさん。アレックスっていうお姉さんのガンダム、待ってる?」

 キッカは、出撃前にそう問いかけたアムロさんの寂しそうな横顔を思い出していた。

 アムロさんはその時、一瞬だけ動きを止めて、こう言ったんだ。

「……待っているよ、キッカ。僕のこの『苛立ち』を鎮めてくれる機体があるなら、それは僕にとって、神様からの救いかもしれないからね」

 

 でも。

 聖夜のノイズの中に、キッカは聴いてしまった。

 リボ・コロニーの隅っこで、ザクの修理に汗を流すバーニィお兄ちゃんの、震えるほど真っ直ぐな決意。

 そして、重い義務感に縛られながらアレックスを整備する、クリスお姉ちゃんの迷い。

 

(……届かない。あのお姉さんのガンダム、アムロさんのところには、もう来ないよ)

 

 キッカには見えていた。二つの運命が、ソロモンの火花を置き去りにして、サイド6の深い森の中で正面衝突しようとしている未来が。

 バーニィお兄ちゃんがガンダム(アレックス)を壊そうとすることは、アムロさんの「救い」を壊すことと同じだった。

 けれど、それをお兄ちゃんに教えることはできない。だって、お兄ちゃんはアムロさんのことなんて知らないし、自分の大切な場所を守るために必死なんだから。

 

「アムロさん……頑張って。一人になっちゃっても、頑張って」

 キッカは窓をぎゅっと掴んだ。

 ソロモンから放たれるソーラ・システムの眩しい光が、キッカの瞳を白く染める。

 

 その光の渦の中で、アムロさんは一瞬だけ、ガンダムの反応が一呼吸遅れたのを感じて歯噛みした。

 そして、ふと思った。

 ――僕のために用意されたという『あのアレックス』は、今、どこで何をしているんだろう。

 なぜだろう。もう会うこともない誰かに、背中を強く押されているような、あるいは、泣きながら引き止められているような、奇妙な耳鳴りが止まらない。

 

「アムロ、全機離脱だ! 急げ!」

 ブライトさんの怒号が、聖夜の戦場を引き裂いた。

 

 アムロさんの光が、ドズル・ザビという巨大な執念を焼き切り、ソロモンは堕ちた。

 勝利の歓声が艦内に溢れる中、キッカだけが、地球から届き始めた「別の戦場」の序曲を拾っていた。

 明日、12月25日。

 それは、愛のために軍を捨てる男と、愛を隠して死に行く男が、同時に咆哮を上げる日。




ソロモン攻略戦において、連邦軍はソーラ・システムの投入によりジオン宇宙要塞を陥落させる。アムロ・レイの戦果はもはや伝説的領域に達していた。しかし、この戦勝の裏で、中立地帯サイド6ではアレックス受領のためのスケジュールが決定的な狂いを見せ始める。サイクロプス隊の生き残り、バーナード・ワイズマンによる「最終作戦」の準備が完了したのである。連邦の最強の剣と、それを支えるはずだった最強の盾。二つの運命は、交わることなく並行し、それぞれの悲劇へと舵を切った。
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