サイド7の受信機~アムロ・レイの隣で鳴り響く、もう二つのガンダムの叫び~ 作:寝て起きたら異世界じゃなくて会議室だった
ホワイトベースが初めて地球の引力に捕らえられたあの日、私たちは文字通り、燃え盛る大気という障壁に身を投じました。激しく揺れる船内で、大人たちは生き残るために叫び、アムロさんはガンダムを守るために限界を超えようとしていたのです。
けれど、私を最も震えさせたのは、船を包む摩擦熱の轟音ではありませんでした。
はるか下界、東南アジアの鬱蒼とした密林から這い上がってきた、ある「覚悟」の音です。
アムロさんの、研ぎ澄まされた刃のような戦意とは違いました。もっと泥臭く、もっと「隣にいる誰か」を必死に守ろうとする、温かい重圧。それが、ガンダムの顔をした別の機体に乗る、あのお兄ちゃんから届いた最初のはっきりとしたメッセージだったのです。
ホワイトベースの壁が、悲鳴を上げている。
ガタガタ、ガリガリ。お船が壊れちゃうんじゃないかって思うくらい、外から大きな力が押し寄せてきている。
窓の外は、見たこともないくらいの真っ赤な炎。
アムロさんが、ガンダムと一緒に外にいた。
赤いズゴック……じゃなくて、赤いお顔をしたお船(コムサイ)を追いかけて、そのまま地球の空気の中に落ちていく。
「あつい……あついよお、フラウお姉ちゃん!」
カツとレツと一緒に、私たちは椅子を並べて、お互いの手をぎゅっと握った。
船の中の温度がどんどん上がっていく。お肌がチリチリして、火薬とは違う、何かが焦げるような嫌な匂いが鼻をつく。
(……アムロ。アムロ、きえちゃう!)
アムロさんの光が、真っ赤な炎に飲み込まれそうになっていた。
でも、アムロさんは負けていない。
「ガンダムを焼かせない」っていう強い意志が、炎を押し返しているのがわかる。
アムロさんの心は、今、とっても鋭い。まるでカミソリみたいに、触れたら切れちゃいそうな、冷たくて怖い「白」。
そのとき。
お船の底を突き抜けて、地球の奥底から別の音が聴こえてきた。
それは、真っ赤な炎よりももっと重たくて、じっとりした「緑色」の音だった。
『……よし、いくぞ! この陸戦型ガンダムなら、やれるはずだ!』
あ。
あの、どろんこのお兄ちゃんだ。シローお兄ちゃん。
お兄ちゃんは今、真っ暗なジャングルの中にいた。
アムロさんが空の上で炎と戦っているとき、お兄ちゃんは地球の地面を、大きな足で踏みしめていた。
(……おもい。とっても、おもいおと)
お兄ちゃんの乗っているロボットも「ガンダム」の顔をしていた。
でも、アムロさんのガンダムみたいに、お空を軽々と飛んだりはしない。
大きな木をなぎ倒して、泥の中に足を埋めて、一歩ずつ一生懸命に歩いている。
お兄ちゃんの心は、とっても必死だった。
「部下を死なせたくない」「自分がやらなきゃいけない」。
そんな、誰かのために自分を削るような熱い音が、私の胸に「ドクン」と響いた。
「キッカ、大丈夫? もうすぐお外の火が消えるからね」
フラウお姉さんが私の背中をさすってくれる。
でも、私の目には、青いお空が見える前に、ジャングルの深い闇が見えていた。
アムロさんは、空の上でガルマっていう金髪のお兄さんを倒そうとしている。
シローお兄ちゃんは、森の中で仲間たちと笑いながら、でも死ぬ気で地面を這っている。
ホワイトベースがガクンと大きく揺れて、炎の音が静かになった。
窓の外に、とっても広い、茶色い大地が広がった。
「……ついた。おっきな、じめんだ……」
アムロさんが、ガンダムと一緒に帰ってくる。
私は窓に額をくっつけて、遠い南のほうの空を見つめた。
そこには、まだ会ったこともない、でも、アムロさんと同じくらい必死に戦っている、もう一人の「ガンダムのパイロット」がいた。
「……お兄ちゃん。がんばって」
キッカは小さく呟いた。
重たい重たい地球の空気の中で、二つの光が、それぞれの「正義」を背負って動き出していた。
ホワイトベースが大気圏に突入。アムロ・レイはシャア・アズナブルの妨害を退け、単機での大気圏突入に成功する。同時刻、地球連邦軍極東方面軍のコジマ大隊では、シロー・アマダ少尉が率いる第08MS小隊が、陸戦型ガンダムを受領。初陣として東南アジアの密林に降り立ち、ジオン軍との泥沼のゲリラ戦を開始していた。