サイド7の受信機~アムロ・レイの隣で鳴り響く、もう二つのガンダムの叫び~   作:寝て起きたら異世界じゃなくて会議室だった

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 地球から届いたシロー・アマダの「生の咆哮」が、冬の宇宙を温めたのも束の間。同じ日の午後、私の耳を貫いたのは、それとは真逆の、あまりに静かで重い「断絶」の音でした。
 サイド6、リボ・コロニー。
 かつて私がおもちゃ屋さんの前で感じたあの小さな幸せの波長は、無残にも引き裂かれました。ガンダム・アレックスを駆るクリスお姉ちゃんと、ザク改に乗ったバーニィお兄ちゃん。
 お互いの正体を知らぬまま、お互いを「倒すべき敵」と信じて引き金を引く。その皮肉な悲劇が、雪の降る森の中で完結しようとしていたのです。
 「戦争は終わった」という叫びは、あの日、誰の耳にも届きませんでした。
 私は、ホワイトベースの冷たい廊下で、一人の青年が「ただの肉塊」に変わる瞬間と、一人の女性が「大切な人を殺した」という罪をその魂に刻印される瞬間を、ダイレクトに受けてしまったのです。


ポケットの中の葬列(U.C.0079.12.25 後編)

「キッカ、どうしたの? そんなところで丸まって」

 カツとレツが不思議そうに覗き込んでくるけれど、キッカは答えられなかった。

 廊下の隅に座り込み、両手で耳を強く塞ぐ。でも、音は外からじゃなくて、キッカの頭の中から溢れてくるんだ。

 

(……やめて。もう、やめて。バーニィお兄ちゃん、そこに行っちゃダメ!)

 

 リボ・コロニーの森の奥。

 そこには、もう「兵士」なんてどこにもいなかった。

 いるのは、震える手で操縦桿を握る、怖がりなクリスお姉ちゃんと。

 そして、嘘を突き通すことでしか自分を保てなかった、優しいバーニィお兄ちゃん。

 

 お兄ちゃんのザクが、森をかき分けて飛び出す。

 お姉ちゃんのガンダムが、反射的にビームサーベルを振り下ろす。

 

『当たれ……当たってえぇぇ!!』

『……アル、あばよ!』

 

 ドォォォォン……。

 

 キッカの目の前が、真っ赤な光で塗りつぶされた。

 それはアムロさんが戦場で見せる「勝利の光」とは違った。

 もっとドロドロして、熱くて、ひどい鉄の匂いがする……「死」の音。

 

「……あ、ああ……」

 キッカは廊下に膝をつき、そのまま倒れそうになった。

 バーニィお兄ちゃんの音が、ぷつりと途切れた。

 まるで、さっきまで回っていたレコードがいきなり壊れたみたいに、何も聴こえなくなった。

 お兄ちゃんは、もうどこにもいない。

 

 代わりに、キッカの耳を狂わせんばかりに襲ってきたのは、クリスお姉ちゃんの絶叫だった。

 

『嘘……私が、私がやったの……? 何なの、この機体は! なぜこんなに簡単に……!』

 

 お姉ちゃんはまだ、自分が誰を撃ったのか知らない。

 でも、ガンダムの手を通して伝わってきた「命を潰した感触」が、お姉ちゃんの心をズタズタに引き裂いていた。

 アレックスという名の怪物は、お姉ちゃんの意志を無視して、ただ効率的に、一人の若者の命を終わらせたんだ。

 

「……お姉さん、今、大切な人を撃っちゃった」

 キッカの頬を、涙が伝う。

 アルくんの泣き叫ぶ声も、遠くから聴こえてくる。

 サンタさんのプレゼントを待つはずのクリスマスに、この森では「葬列」が始まっていた。

 

「キッカ、しっかりして!」

 騒ぎに気づいて駆け寄ってきたアムロさんが、キッカの肩を抱き上げた。

 アムロさんの表情は険しい。ソロモン周辺に漂う不穏な気配を感じ取っているのか、それとも、キッカが受信しているこの「悲劇の余波」を、彼なりの感覚で拾っているのか。

 

「……アムロさん。あのお姉ちゃん、もう戦えないよ。ガンダムが、お姉ちゃんの心を食べちゃったもん」

 アムロさんは、キッカの言葉に目を見開いた。

 彼は知っていた。自分が乗っているガンダムもまた、いつか自分の心を食い尽くすかもしれない怪物であることを。

 

「……そうか。僕に届くはずだった『アレックス』は、そんな悲鳴を上げているのか」

 

 アムロさんはキッカを抱きしめたまま、一瞬だけ、サイド6の方角……誰にも看取られずに散ったザクの残骸がある場所へ、哀悼のような視線を向けた。

 アムロさんの耳には、バーニィの声は届かない。

 けれど、キッカの涙が、彼に「名もなき死」の重さを伝えていた。

 

 12月25日。

 地球ではシローお兄ちゃんが愛を掴み取り、リボ・コロニーではバーニィお兄ちゃんが愛のために散った。

 ホワイトベースの廊下で、キッカはただ泣き続けた。

 宇宙の耳鳴りは、これまでで一番、残酷な音を奏でていた。




リボ・コロニー内森林公園にて、バーナード・ワイズマン伍長の駆るザクII改と、クリスチーナ・マッケンジー中尉のNT-1アレックスが交戦。アレックスは大破し、バーナード伍長は戦死。終戦を告げる知らせが届くわずか数時間前の出来事であった。この戦闘により、アレックスのアムロ・レイへの受領は永久に不可能となる。一人の少年の「嘘」が守ったコロニーの中で、ガンダムは主を失ったまま、雪に埋もれていった。
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