サイド7の受信機~アムロ・レイの隣で鳴り響く、もう二つのガンダムの叫び~ 作:寝て起きたら異世界じゃなくて会議室だった
いえ、正確には、あまりに巨大な「白」が、世界のすべてを塗りつぶしてしまったのです。
ジオンの最終兵器ソーラ・レイ。それは数百万、数千万の人々の祈りと憎しみを光に変えて放たれた、絶望の奔流でした。
私の感覚は、その光が放たれる瞬間、宇宙そのものが悲鳴を上げているのを聴きました。レビル将軍、デギン公王、そして光の道筋にいた数えきれないほどの命が、言葉になる暇もなく粒子へと還っていく。
そのあまりに巨大な「死の声」に、私の心は砕け散る寸前でした。けれど、その漆黒の淵へ引きずり込まれそうになった私を繋ぎ止めたのは、地球の裏側、凍てつく雪山から届いた、小さくも力強い「生の灯火」だったのです。
「……っ!」
ホワイトベースの展望室。キッカは、窓の外で宇宙を真っ二つに裂いた巨大な光の帯を見て、その場に崩れ落ちた。
音がしない。なのに、頭の中が痛い。
今まで聴こえていた無数の兵士たちの心臓の音が、まるでロウソクを吹き消すように、一瞬で何万個も消えてしまった。
空っぽ。宇宙が、急に空っぽになったような、恐ろしい静寂。
(……みんな、いなくなっちゃった。パパも、ママも、みんな……)
あまりに多すぎる死を一度に受け止めてしまい、キッカの意識は深い闇へと沈み込んでいく。感覚が麻痺し、自分が誰なのかも分からなくなるような、冷たい無感覚。
その時だった。
凍えるような闇の底に、一筋の温かな「風」が吹き込んだ。
それは、遠い地球の、真っ白な雪山から届く鼓動。
『……寒いな、アイナ』
『ええ。でも……温かいわ、シロー』
あ。
キッカの瞼の裏に、幻が見えた。
吹雪の中で、寄り添い合って眠る二人。
シローお兄ちゃんと、アイナお姉ちゃんだ。
宇宙があんなに恐ろしい光に焼かれているのに、二人の周りだけは、穏やかな時間が流れている。
二人を繋いでいるのは、軍隊でも、ガンダムでもない。ただの「生きたい」という祈りと、相手を想う体温。
(……生きてる。お兄ちゃんたち、生きてるんだ)
宇宙で何万人が消えようとも、地球の隅っこで、たった二人の人間が強く抱き合っている。
その「生の光」が、ソーラ・レイの残虐な白さを打ち消すように、キッカの心を温め直してくれた。
「キッカ! 大丈夫か!」
駆け寄ってきたのは、アムロさんだった。
アムロさんの瞳には、今まで見たこともないような動揺が走っている。彼もまた、ソーラ・レイが奪い去った命の重さを、ニュータイプとして敏感に感じ取っていた。
「アムロさん……怖いよ。みんな消えちゃったよ……」
キッカが震える声で言うと、アムロさんはキッカの小さな肩を強く抱きしめた。
「ああ。……でも、まだ終わっていない。僕たちがここにいる限り、消えていった人たちの想いを無駄にはできないんだ」
アムロさんの声は震えていた。でも、その奥には、絶望を振り払おうとする強い意志があった。
アムロさんは、キッカが地球から拾っている「二人の体温」には気づいていない。
けれど、キッカが必死に何かに耐え、そして何かを信じようとしている姿を見て、自分もまた戦う理由を再確認しているようだった。
「……アムロさん。雪山のお兄ちゃんたちがね、笑ってるの。だから、私も頑張る」
「雪山……? ああ、そうか。君には、僕に見えない光が見えているんだね」
アムロさんは、一瞬だけ優しく目を細めた。
巨大な光が去った後、宇宙には再び静寂が戻ってきた。
けれど、それは先ほどまでの空っぽな静寂ではない。
明日、ア・バオア・クーで散る命。そして、戦いの後に芽吹く命。
それらすべてを受け止めるための、決戦前夜の静寂。
キッカは、アムロさんの温かな胸の中で、地球の裏側にいる二人の幸せを願いながら、最後の日への祈りを捧げた。