サイド7の受信機~アムロ・レイの隣で鳴り響く、もう二つのガンダムの叫び~   作:寝て起きたら異世界じゃなくて会議室だった

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 12月30日。その夜、宇宙から色が消えました。
 いえ、正確には、あまりに巨大な「白」が、世界のすべてを塗りつぶしてしまったのです。
 ジオンの最終兵器ソーラ・レイ。それは数百万、数千万の人々の祈りと憎しみを光に変えて放たれた、絶望の奔流でした。
 私の感覚は、その光が放たれる瞬間、宇宙そのものが悲鳴を上げているのを聴きました。レビル将軍、デギン公王、そして光の道筋にいた数えきれないほどの命が、言葉になる暇もなく粒子へと還っていく。
 そのあまりに巨大な「死の声」に、私の心は砕け散る寸前でした。けれど、その漆黒の淵へ引きずり込まれそうになった私を繋ぎ止めたのは、地球の裏側、凍てつく雪山から届いた、小さくも力強い「生の灯火」だったのです。


ソーラ・レイ(U.C.0079.12.30)

「……っ!」

 ホワイトベースの展望室。キッカは、窓の外で宇宙を真っ二つに裂いた巨大な光の帯を見て、その場に崩れ落ちた。

 

 音がしない。なのに、頭の中が痛い。

 今まで聴こえていた無数の兵士たちの心臓の音が、まるでロウソクを吹き消すように、一瞬で何万個も消えてしまった。

 空っぽ。宇宙が、急に空っぽになったような、恐ろしい静寂。

 

(……みんな、いなくなっちゃった。パパも、ママも、みんな……)

 

 あまりに多すぎる死を一度に受け止めてしまい、キッカの意識は深い闇へと沈み込んでいく。感覚が麻痺し、自分が誰なのかも分からなくなるような、冷たい無感覚。

 

 その時だった。

 

 凍えるような闇の底に、一筋の温かな「風」が吹き込んだ。

 それは、遠い地球の、真っ白な雪山から届く鼓動。

 

『……寒いな、アイナ』

『ええ。でも……温かいわ、シロー』

 

 あ。

 キッカの瞼の裏に、幻が見えた。

 吹雪の中で、寄り添い合って眠る二人。

 シローお兄ちゃんと、アイナお姉ちゃんだ。

 宇宙があんなに恐ろしい光に焼かれているのに、二人の周りだけは、穏やかな時間が流れている。

 二人を繋いでいるのは、軍隊でも、ガンダムでもない。ただの「生きたい」という祈りと、相手を想う体温。

 

(……生きてる。お兄ちゃんたち、生きてるんだ)

 

 宇宙で何万人が消えようとも、地球の隅っこで、たった二人の人間が強く抱き合っている。

 その「生の光」が、ソーラ・レイの残虐な白さを打ち消すように、キッカの心を温め直してくれた。

 

「キッカ! 大丈夫か!」

 駆け寄ってきたのは、アムロさんだった。

 アムロさんの瞳には、今まで見たこともないような動揺が走っている。彼もまた、ソーラ・レイが奪い去った命の重さを、ニュータイプとして敏感に感じ取っていた。

 

「アムロさん……怖いよ。みんな消えちゃったよ……」

 キッカが震える声で言うと、アムロさんはキッカの小さな肩を強く抱きしめた。

「ああ。……でも、まだ終わっていない。僕たちがここにいる限り、消えていった人たちの想いを無駄にはできないんだ」

 

 アムロさんの声は震えていた。でも、その奥には、絶望を振り払おうとする強い意志があった。

 アムロさんは、キッカが地球から拾っている「二人の体温」には気づいていない。

 けれど、キッカが必死に何かに耐え、そして何かを信じようとしている姿を見て、自分もまた戦う理由を再確認しているようだった。

 

「……アムロさん。雪山のお兄ちゃんたちがね、笑ってるの。だから、私も頑張る」

「雪山……? ああ、そうか。君には、僕に見えない光が見えているんだね」

 

 アムロさんは、一瞬だけ優しく目を細めた。

 

 巨大な光が去った後、宇宙には再び静寂が戻ってきた。

 けれど、それは先ほどまでの空っぽな静寂ではない。

 明日、ア・バオア・クーで散る命。そして、戦いの後に芽吹く命。

 それらすべてを受け止めるための、決戦前夜の静寂。

 

 キッカは、アムロさんの温かな胸の中で、地球の裏側にいる二人の幸せを願いながら、最後の日への祈りを捧げた。

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