サイド7の受信機~アムロ・レイの隣で鳴り響く、もう二つのガンダムの叫び~ 作:寝て起きたら異世界じゃなくて会議室だった
アムロさんとララァ・スン。二人のニュータイプが触れ合った瞬間に解き放たれた「刻(とき)」の輝きは、時空の壁を突き抜け、私という未熟なレシーバーに宇宙のすべてを見せました。
それは、戦争という名の残酷なチェス盤ではありませんでした。
凍えるサイド6の雪、熱気に満ちた東南アジアの密林、そして今まさに砕け散ろうとしている要塞。それらすべてが、一つの命の環(わ)となって繋がっている光景。
ララァさんが示した「光の向こう側」には、悲劇も希望も、シローお兄ちゃんの愛も、クリスお姉ちゃんの涙も、すべてが等しく星の瞬きとして存在していたのです。
「カツ、レツ! 離れちゃダメだよ!」
ホワイトベースがア・バオア・クーの地表に不時着し、艦内は爆発と叫び声に包まれていた。
でも、キッカは知っていた。今、一番激しく戦っているのは、ここにいる大人たちじゃない。
もっと遠く。光の粒子が虹色に踊る、あの「刻」の裂け目の中で、アムロさんが戦っている。
(……温かい。悲しいのに、とっても温かい)
キッカの頭の中に、いくつもの景色が流れ込んできた。
それは映画のフィルムが燃えながら回っているような、不思議な光景だった。
リボ・コロニーの雪が降る森。そこで一人、ガンダムの残骸の横で立ち尽くすクリスお姉ちゃん。
雪山でアイナお姉ちゃんを抱きしめ、朝日を見つめるボロボロのシローお兄ちゃん。
そして、アムロさんの剣に貫かれながら、優しく微笑むララァさん。
『……ねえ、キッカ。見える? 人は、こんなに遠く離れていても、繋がることができるのよ』
ララァさんの声が、キッカの耳に直接届いた。
それは耳鳴りじゃない。宇宙そのものが、キッカに語りかけているような、透き通った音。
キッカが見てきた「戦場の断片」が、ジグソーパズルのように組み合わさっていく。
(ジャングルのお兄ちゃんが生き延びたのも。サイド6のお姉ちゃんが、ガンダムと一緒に傷ついたのも。全部、アムロさんが「アムロさん」でいられるために必要なことだったんだ……)
アムロさんの孤独な光を、世界中の誰かが立てた「生きるための音」が支えている。
シローの愛が宇宙の冷たさを和らげ、クリスの苦悩が「戦うことの意味」を問い、バーニィの嘘が少年の心に平和への願いを刻んだ。
それらすべての波長が、今、アムロさんのガンダムの背中を押し、彼を絶望から救い出そうとしている。
「……アムロさん、負けないで! ララァさんが、みんながついてるよ!」
不時着した艦内の煙の中で、キッカは叫んだ。
その瞬間、アムロさんの意識が、一瞬だけキッカの方を振り返ったような気がした。
ガンダムを捨て、壊れかけた要塞の中を走るアムロさん。
彼の目には、もう敵であるシャア・アズナブルしか見えていないかもしれない。
けれど、彼の魂の底には、キッカを通じて届けられた「世界中の鼓動」が、静かな勇気となって流れ込んでいた。
「……刻(とき)が見える……」
遠くで、アムロさんの声が響いた。
それは、過去と未来、そして現在戦っているすべての人々を肯定する、ニュータイプとしての確信に満ちた声だった。
キッカは、燃えるホワイトベースの壁に手を当て、静かに目を閉じた。
光の向こう側で、シローお兄ちゃんが笑っているのが見えた。
クリスお姉ちゃんが、空を見上げているのが見えた。
宇宙の耳鳴りは、いつの間にか、美しいシンフォニーに変わっていた。
ア・バオア・クー最終決戦。アムロ・レイとララァ・スンの精神的接触は、宇宙世紀における人間意識の拡大を決定づけた。その瞬間、極限まで研ぎ澄まされたアムロの感覚は、図らずも地球で生還したシロー・アマダや、サイド6で悲劇を経験したクリスチーナ・マッケンジーらの精神波とも共鳴したとされる。無数の「生」と「死」の意志が要塞周辺に集結し、戦争という狂気を超えた、一時の純粋な理解の刻が訪れていた。