サイド7の受信機~アムロ・レイの隣で鳴り響く、もう二つのガンダムの叫び~ 作:寝て起きたら異世界じゃなくて会議室だった
アムロさんの脱走。それは、連邦軍の英雄候補が起こしたただの反抗期などではなく、張り詰めた糸が限界を迎えて弾け飛んだ瞬間だったのだと思います。ガンダムという重圧、ランバ・ラルという巨大な壁、そして出口の見えない砂漠の熱。
ホワイトベース内に立ち込めるのは、救世主を失ったことへの不安と、置き去りにされた者たちの焦燥感でした。
けれど、私の意識は別の場所へと引き寄せられていたのです。
アムロさんの、研ぎ澄まされすぎて透明になった孤独とは違いました。もっと濁っていて、湿っていて、けれど力強い——泥にまみれて戦う兵士たちの「鼓動」。
東南アジアの密林。そこには、アムロさんのような天才ではない、ごく普通の人間たちが、明日を生きるために泥水を啜り、互いの肩を叩き合う、泥臭い戦場があったのです。
お船の中が、とっても静か。
でも、それは「平和」の静かさじゃない。みんなが息を止めて、何かを怖がっているみたいな、嫌な静かさ。
アムロさんが、いなくなっちゃった。
ガンダムと一緒に、お砂の向こう側に消えちゃった。
「アムロ、怒ってるのかな……」
レツが小さく呟く。フラウお姉ちゃんは、泣くのを我慢しているみたいにお口をギュッと結んで、ずっとアムロさんのお部屋をお掃除していた。
アムロさんがいた場所には、いつもパチパチとした電気みたいな光があった。でも、今はそこには「空っぽ」しかない。
キッカはお船の隅っこで膝を抱えた。
耳を塞いでも、遠くから別の音が聴こえてくる。
それは、砂漠の乾いた音じゃない。
じっとりとした湿気と、草の匂い。そして、たくさんの男の人たちの、騒がしくて温かい笑い声。
『……おいシロー、あまり無茶すんなよ! 隊長が先に死んだら、俺たちの給料はどうなるんだ?』
『分かってるよ、ミケル。死なない、死なせない。……それが俺のルールだ!』
あ。また、あのお兄ちゃんだ。
シローお兄ちゃん。
お兄ちゃんの周りには、たくさんの仲間がいた。
みんなアムロさんみたいに真っ白な綺麗な服じゃないし、お顔も泥だらけ。
でも、その人たちが出す音は、とっても賑やかで、力強かった。
「ガシャン、ガシャン」って、陸戦型ガンダムが泥を跳ね上げて歩く音が、まるでお祭りの太鼓みたいに聴こえる。
(……アムロ、ひとりぼっち)
(……お兄ちゃん、みんなといっしょ)
アムロさんは、凄すぎて誰にも分かってもらえなくて、独りになっちゃった。
でも、ジャングルのお兄ちゃんたちは、凄くないからこそ、みんなで手を繋いで、泥んこになって頑張っている。
その「どろ臭い」音が、私の胸のざわざわを少しだけ落ち着かせてくれた。
「キッカ、ごはんよ。食べないとアムロに笑われちゃうわよ」
フラウお姉ちゃんが呼びに来る。
「……ねえ、フラウ。ジャングルのほうにね、とっても元気なガンダムがいるよ。泥んこ遊びをしながら、悪いやつをやっつけてるの」
「……また変なこと言って。アムロがいなくて、寂しいのね」
お姉ちゃんは、私の頭を優しく撫でた。
でも、本当なんだよ。
アムロさんがいなくて、ホワイトベースがピンチのとき。
遠い密林では、お兄ちゃんたちが「生きるための戦い」を必死に続けていた。
アムロさんの光は、今は砂漠のどこかで震えている。
お兄ちゃんたちの鼓動は、ジャングルの湿気の中で熱く脈打っている。
いつか、この二つの音が混ざり合う日は来るのかな。
キッカは、泥の匂いがする風を心のどこかで感じながら、冷たくなったスプーンを握りしめた。
ブライト・ノアへの不信感から、アムロ・レイがガンダムと共にホワイトベースを脱走。砂漠を彷徨う。同時刻、東南アジアの密林では、シロー・アマダ率いる第08MS小隊が、ジオン軍の秘密兵器の情報を追って激しいゲリラ戦を展開していた。エリート部隊ではない彼らの「泥臭い戦い」が、連邦軍の勝利に不可欠なミッシングリンクを繋ごうとしていた。