サイド7の受信機~アムロ・レイの隣で鳴り響く、もう二つのガンダムの叫び~   作:寝て起きたら異世界じゃなくて会議室だった

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 大きなうねりが、地球を飲み込もうとしていました。
 「オデッサ作戦」。後に歴史書で、連邦軍による反攻作戦の要(かなめ)と記されるこの戦いの前夜、ホワイトベースの空気は鉄のような重さを帯びていたのです。
 マチルダさんの死、そしてアムロさんの心に刻まれた「喪失」という名の痛み。アムロさんの放つ光は、悲しみによってさらに純度を増し、まるで暗闇を切り裂くレーザーのように鋭利になっていました。
 けれど、その巨大な歴史の歯車が噛み合う裏側で、別の「意志」が火花を散らしていたことを、どれほどの人が知っているでしょう。
 アムロさんが黒い三連星という悪夢と対峙していた時、はるか東南アジアの深部でも、シローお兄ちゃんたちがジオンの秘密基地――死を運ぶ巨大な影――を追って、闇の中を走っていました。
 アムロさんの剣を支えていたのは、きっと、彼のような名もなき兵士たちの泥にまみれた「正義感」だったのだと、今の私にはわかります。


オデッサの前夜(U.C.0079.11.07)

 お外が、とっても暗い。

 もうすぐおっきな戦いがあるって、ハヤトさんが言っていた。

 お船の中の人たちは、みんな黙ってお掃除をしたり、鉄の塊を磨いたりしている。

 でも、アムロさんだけは、ずっと遠くを見つめていた。

 

(……かなしい。アムロ、泣いてるの?)

 

 アムロさんの心からは、冷たい風の音がしていた。

 マチルダさんっていう、とっても綺麗なお姉さんが死んじゃったから。

 アムロさんの光は、今までで一番細くて、一番鋭い。

 それは、マ・クベっていう悪いおじさんの出す「真っ黒な悪意」を、今にも刺し殺してしまいそうな、怖い光だった。

 

 キッカは食堂の椅子に座って、テーブルをトントンと叩いた。

 すると、その震動に混じって、また別の音が足元から伝わってくる。

 それは、アムロさんの冷たい光とは違う、もっと熱くて、一生懸命な音。

 

『……見つけたぞ。ジオンの秘密基地だ。ここを叩かなければ、連邦の連中は全滅する!』

 

 あ。シローお兄ちゃんだ。

 お兄ちゃんの声は、ジャングルの雨の音に混じって、とっても力強く響いていた。

 お兄ちゃんたちも、アムロさんと同じように、とっても悪いものと戦おうとしている。

 それは、お空から毒を撒き散らすような、おっきなおっきな「影」。

 

『やるぞ、みんな! 俺たちがここで止めなきゃ、オデッサの空は真っ黒になる!』

 

 お兄ちゃんが出す「正義感」は、アムロさんの「悲しみ」と、空の上でそっと触れ合った気がした。

 アムロさんは一人で、黒い三つのお星様(黒い三連星)と戦って、ガイアっていうおじさんをやっつけた。

 お兄ちゃんたちはみんなで、森の中の悪い影を追いかけて、一生懸命に火花を散らしている。

 

「キッカ、またぼーっとして。マチルダさんのこと、考えてるの?」

 レツが、私の顔を覗き込んだ。

「……ううん。アムロさんの剣がね、ジャングルのお兄ちゃんと繋がってるの。だから、アムロさんは負けないよ」

「何言ってるんだよ、キッカ。アムロが負けるわけないだろ!」

 

 レツは笑って、私の頭をポカポカ叩いた。

 でも、キッカには見えていたんだ。

 アムロさんが高く振り上げたビームサーベルの光が、遠いジャングルでお兄ちゃんたちが放ったミサイルの光と、一瞬だけ重なって、おっきな星みたいに見えたのを。

 

 マ・クベおじさんが、怖い爆弾(核ミサイル)を撃とうとしている。

 でも、大丈夫。

 アムロさんの「鋭い光」と、お兄ちゃんたちの「熱い勇気」が、今、地球をぐるっと囲んでいるから。

 

「……アムロ。お兄ちゃん。……がんばれ」

 

 キッカは、窓に映る自分の顔を見つめた。

 明日、オデッサの空が焼ける。

 その時、二つのガンダムのパイロットが、一つの運命を半分こにするのを、キッカだけはじっと聴いていた。




オデッサ作戦開始直前。アムロ・レイは黒い三連星のジェット・ストリーム・アタックを破り、ガイアを撃破するも、マチルダ・アジャンの死に直面する。同時刻、第08MS小隊のシロー・アマダは、ジオン軍の巨大MAアプサラスの秘密基地を特定。オデッサへ向かう連邦軍の背後を突くジオンの策源地を叩くべく、独断に近い形で突入を開始していた。
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