サイド7の受信機~アムロ・レイの隣で鳴り響く、もう二つのガンダムの叫び~ 作:寝て起きたら異世界じゃなくて会議室だった
オデッサ。ジオンの地上拠点。そこを巡る決戦の最中、マ・クベという男が放った核ミサイルは、勝敗を超えた絶望の象徴でした。けれどアムロさんは、その絶望をその手で、ガンダムの剣で断ち切ったのです。
テレビのニュースや歴史の教科書では「英雄の奇跡」として語られるその瞬間、私の頭の中は、形容しがたい衝撃波に貫かれていました。
アムロさんの、極限まで研ぎ澄まされた「拒絶」の意志。それと同時刻、はるか南方の山岳地帯で、シローお兄ちゃんが巨大な怪鳥――アプサラス――と対峙した瞬間の「覚悟」が、私の脳内で一本の線として繋がったのです。
守りたい。ただ、その一心で。
地球の端と端で放たれた二つの蒼い光が、磁石のように惹かれ合い、空を一周して重なりました。あれは、戦争という巨大な闇を照らす、あまりにも儚く、そして力強い命の閃光だったのです。
お空が、変な色をしている。
ホワイトベースの窓から見えるオデッサの空は、火の粉が舞って、地面がずっと「がらがら」と震えていた。
でも、その震えが突然、ピタッと止まった。
(……くる直前。とっても、こわいのがくる)
キッカは、自分の小さな胸をぎゅっと押さえた。
アムロさんの光が、今まで見たこともないくらいに膨らんで、真っ白な太陽みたいになっている。
マ・クベおじさんが撃った、おっきな、おっきな爆弾。
それに触れたら、みんな消えてなくなっちゃう。お花も、お船も、フラウお姉ちゃんも。
「アムロ、だめ! いかないで!」
キッカは叫んだ。でも、アムロさんの光は迷わずに、その黒い塊へと飛び込んでいった。
そのとき。
足元から、空を突き抜けるような別の叫びが聴こえてきた。
それは、ジャングルの雨の匂いを纏った、あのどろんこのお兄ちゃんの声だった。
『……させるかぁ! アイナの夢を……こんな人殺しの道具にはさせない!』
あ。シローお兄ちゃん。
お兄ちゃんは今、真っ暗な雲の中にいた。
目の前には、お月様みたいにおっきな、不気味な顔をした機械が浮かんでいる。
お兄ちゃんの出す音は、アムロさんの「白」と同じ、蒼い火花を散らしていた。
(……ふたりとも。ふたりとも、いっしょだ)
アムロさんは、みんなを消さないために、お空の上で剣を振るう。
お兄ちゃんは、大好きな人の心を守るために、雲の中で叫び声を上げる。
ドォォォォォンッ!
頭の中で、おっきなガラスが割れるような音がした。
アムロさんのガンダムが、核ミサイルの先っぽを切り落とした瞬間。
お兄ちゃんの陸戦型ガンダムが、巨大な影とぶつかり合った瞬間。
二人の意志が、地球をぐるっと回って、キッカの頭の中でひとつに溶け合った。
それは、とっても熱くて、とっても眩しい、蒼い爆光。
「……あ」
キッカの目から、一粒だけ涙がこぼれた。
怖くない。ただ、アムロさんの「守りたい」っていう心と、お兄ちゃんの「愛したい」っていう心が、あんまり綺麗に響き合ったから。
「キッカ、見て! アムロが……アムロが爆弾を止めたわ!」
フラウお姉ちゃんが、私の肩を抱いて喜んでいる。
お外では、連邦軍の人たちがみんなバンザイをして叫んでいる。
でも。
キッカには見えていた。
ボロボロになったアムロさんのガンダムが、夕焼けの空で静かに息をついている姿。
そして、遠い遠い山の向こう側で、煙を出しながら地面に降りていくお兄ちゃんのガンダムの姿を。
「……よかった。ふたりとも、生きてる」
キッカは窓に指でお花を描いた。
オデッサの戦いは、連邦軍が勝ったって大人が言っている。
でも、キッカにとっては、二人のガンダムのパイロットが、この広い空の下で「繋がった」ことのほうが、ずっと大事なことに思えた。
オデッサ作戦佳境。マ・クベ中将が放った水爆ミサイルに対し、アムロ・レイは空中換装という離れ業を経てガンダムでこれを迎撃。弾頭を切り離し、未曾有の惨劇を阻止する。同時刻、東南アジアの山岳地帯では、シロー・アマダ率いる第08MS小隊が秘密兵器アプサラスIと交戦。シローは自らの機体をぶつける捨て身の攻撃でアプサラスを撤退させる。地球上の二つの地点で、同時多発的に「ガンダム」が歴史の破滅を繋ぎ止めていた。