サイド7の受信機~アムロ・レイの隣で鳴り響く、もう二つのガンダムの叫び~ 作:寝て起きたら異世界じゃなくて会議室だった
あの日、私たちはその暗い通路で迷子になり、死の恐怖に直面しました。シャア・アズナブルのズゴックが迫り、ジムが次々と貫かれていきます。その阿鼻叫喚の裏側で、私の耳にはもう一つの「静寂」が届いていたのです。
それは、喧騒から遠く離れた場所で、ただ一点を凝視する冷徹なまでの集中力でした。
アムロさんの、熱くほとばしるような殺陣とは対極にある、静かな狙撃者の気配。
見上げるほど巨大な「敵」を止めるために、自分の鼓動さえ殺して引き金を待つ男たちの意志が、ジャブローの厚い岩盤を通り抜けて、私の震える背中を支えてくれたのです。
真っ暗で、ジメジメしている。
ジャブローの地下道は、どこまで歩いても同じ景色で、とっても怖い。
「こっちだよ、カツ、レツ!」
私は二人の手を引いて走った。でも、どこからか「ドーン」っておっきな音がして、天井からお砂がパラパラ落ちてくる。
(……赤い光。とっても、はやい音がする)
シャアっていうおじさんの音が、すぐ近くまで来ている。
アムロさんが戦っているけれど、今日のアムロさんは、迷路の中で自分の光を見失いそうになっていた。
お船の外では、たくさんのジムが、赤いズゴックに壊されている。
「助けて」っていう音が、暗い通路に響いては消えていく。
そのとき。
ジャブローのずっと、ずっと深い場所から、一本の細い「糸」のような音が聴こえてきた。
それは、とっても静かな音。
雪みたいに冷たくて、針みたいに真っ直ぐな音。
『……ターゲット、捕捉。逃がさん。この一撃で、すべてを終わらせる』
あ。
それは、シローお兄ちゃんの仲間かな。
お兄ちゃんみたいに熱くないけれど、とっても頼りになる「青い音」のお兄さん。
その人は、ガンダムの顔をした別のロボット……ジム・スナイパーに乗っていた。
お兄さんは、おっきな、おっきな影を狙っている。
ジャングルの空を飛んでいる、悪いお船。
そのお船を撃ち落とさないと、みんなが危ないって、お兄さんは分かっている。
(……しずか。心臓の音が、とまってるみたい)
赤いズゴックが近くで暴れているのに、その狙撃手のお兄さんの音を聴いていると、不思議と怖くなくなった。
お兄さんは、たった一人で、おっきな山を動かそうとしている。
その強い「一点」を見つめる力が、迷路の中で震えていた私の心を、ぎゅっと繋ぎ止めてくれた。
「キッカ、あそこに出口があるよ!」
カツが叫んだ。
私たちが外に飛び出した瞬間、ジャブローの森の向こう側で、何かが光った気がした。
アムロさんが、シャアのおじさんを追い返した。
そして遠いジャングルでは、あの狙撃手のお兄さんが、引き金を引いた。
「……あたった」
キッカは、泥だらけの手を胸に当てた。
ジャブローの地下は、死んじゃった人たちの悲鳴でいっぱいだったけれど。
でも、その闇を撃ち抜こうとする「静かな光」が、確かにそこにはあったんだ。
「キッカ、早く! ホワイトベースに戻るわよ!」
フラウお姉ちゃんが迎えに来てくれた。
キッカは、もう一度だけ、南の空を見上げた。
あのお兄さんも、お兄ちゃんの仲間たちも、まだ一生懸命に戦っている。
ジャブローの迷宮を抜けた私たちを待っているのは、もう一度、あのお空(宇宙)へ帰るための道だった。
ジオン軍によるジャブロー侵攻作戦。アムロ・レイはシャア・アズナブルのズゴックを撃退。同時刻、東南アジアの戦線では、第08MS小隊が、脱出したアプサラスIIを狙撃すべく、ジム・スナイパーによる長距離狙撃任務を支援していた。ジャブローという連邦の心臓部を守る戦いと、その脅威の源を断つための戦いが、地球の裏表でシンクロしていたのである。