「老舗手描き看板屋の跡取りウマ娘」……看板屋と聞くと、わたくしにとってはある人物を思い起こさせるところで、あの人がロゴタイプの父親だったらという見切り発車で書いた短編になります。

 ロゴタイプの一人称は「自分」なのでしょうかね?

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 時代は彼の年を中心に時代を前後させています。完全なエアプロゴタイプになりますがどうしても書きたい欲求を抑えることが出来ませんでした。


お父さんの夢

 自分の家は老舗の手描き看板屋で自分はその跡取りウマ娘。お父さんはこの道数十年の職人。だが、お父さんには主に夜に見せる別の顔がある。

 

 お父さんはある東京のプロ野球チームの応援団長をしている。それも自分が生まれる前から三十年近くもだ。東京に在るチームで応援団長を三十年近くも熱心に続けるほどのプロ野球チーム……みんな、日本一有名なあのプロ野球チームを想像したかもしれない。普通はそうかもしれないけど、自分のお父さんが応援しているのは東京に在る同じリーグで戦うもう一つのプロ野球チームだ。

 

 なんでも結婚する前にお母さんと野球場でデートした時にそのチームのファンが余りに少なくて相手チームのファンから酷い野次を飛ばされていたから見かねて応援し始めたらしい。

 

 ファンがいないというけど、チームも本当に弱い。お父さんに連れられて何回か一緒に応援に着いていったことがあるけど大人と子供が試合をしているんじゃないかと思う程全部が全部弱い。

 

 お父さん曰く、「昔このチームにはプロ野球史上最高のピッチャーがいたんだ」と何度か言われたことがあるけどとても信じられない。このチームは優勝はおろか三位に一回だけ入ったことがあるだけであとは万年ビリ争いの……お父さんが熱心に応援しているからこういうことは言いたくないけどお荷物チームと呼ばれている。

 

 ある日のこと、お父さんが台所でご飯を作るお母さんの後ろ姿をジっと見ていたら突然「それだ!」と叫んだ。次の日、やたらうるさい音で目が覚めるとお母さんがフライパンをカンカンカン! とけたたましく叩いていた。しばらくその様子を見ていたお父さんが手を叩いて「よし、決行!」とガッツポーズをした。自分は察した、フライパンを叩いて応援する気だ。

 

 それだけじゃない。看板屋の仕事の合間に横断幕やのぼりを造っては夜、球場に繰り出していく。だけど一生懸命お父さんが応援しても負けてばかりで一緒に応援してくれるファンは一向に増えない。

 

 またある時、工事現場をじーっと見ていると思ったらホームセンターで三角コーンを買ってきた。一個しか買ってきていないのでなんだろうと思ったら、両端を切り落として看板屋の腕で色を塗って特大のメガホンにしてしまった。三角コーンで造った特大メガホンなのでお父さんの応援は球場中に聞こえた。でも一生懸命応援してもまだ負けてばかりで一緒に応援してくれるファンは一向に増えない。

 

 本当にファンがいないのでガラガラの観客席を一杯にみせるにはどうしたらいいのか毎日そればかりお父さんは考えていた。ある日急に雨が降ってきたのでコンビニでビニール傘を買って帰るとお母さんからビニール傘が増えてもったいないと怒られてしまった。すると、お父さんが「そうか、これだ!」と閃いたようだった。次に応援に行く時に一緒に行くことになったが、雨の予報でもないのに家に溜まっていたビニール傘をあるだけ抱えて行った。球場に着くと他に来てくれた少ないファンに傘を配ってこれで応援しようという。自分も傘を開いて応援したけど試合には勝てなかった。

 

 身の回りにある物で変わった応援を思いつくお父さん。今度はお祭りの時に盆踊りで使う歌で応援しようと言い出した。傘と合わせるらしい。盆踊りの歌なのでみんな知っているので練習する必要は無く、歌に合わせて開いた傘を振る。相変わらずチームは負けてばかりでファンは少ないけどみんなと一緒に歌って傘を振るのは楽しい。

 

 お父さんは応援の時、一緒に応援してくれる人には厳しい。ある時グラウンドを向いて応援していた応援団員の人に「お前ぇナニ野球観てんだよっ!」と怒った時には理不尽極まりないと思った。「野球は客の顔見てりゃなにが起きてるか分かるじゃねぇか! 客が上観りゃフライだよ!」とお父さんは言うが、ちゃんとボールを観てなきゃ危ないじゃないかと思った。

 

 どうやらお父さんは野球ファンの間では有名人らしい。学校ではお父さんの応援のことで他のチームのファンの子にからかわれることもよくあることで、小学校高学年になってからは恥ずかしくなってきた。

 

「もうあのチームを応援するのやめてよ。何十年も優勝してないんだから無理だよ」

 

 その言葉を聞くと、お父さんは少し悲しそうに答えた。

 

「なあロゴ、お前はお父さんにとって大切な娘だ。でもな、あのチームもお父さんにとっては家族なんだ。選手やファンは子供もおんなじなんだ。親が子供見捨てちゃいけねぇだろ?」

 

 その時、自分はお父さんにとんでもないことを言ってしまったと気付いた。

 

「優勝、優勝するまで応援続けさせてくれ。優勝したら、キッパリ他の人に団長譲るから」

 

 チームの選手たちにもお父さんのことは知られているみたいだ。弱いチームなので監督が代わるのは日常茶飯事だが、自分の知る限りでは新しく監督になった人は必ずお父さんに挨拶に来る。選手の中にもお父さんのことを「オヤジさん」と呼んで慕う人がいる。

 

 それは自分がトレセン学園への入学がもうすぐという時のことだった、それまでの監督が成績不振でシーズン途中に休養となり、ヘッドコーチの人が監督代行をすることになった。弱いチームだからこういう事も珍しくないハズだった。

 

 新しく代行になった人はそれまでの監督さんの大学の後輩で、同じ東京に在る日本一有名なプロ野球チームで長くレギュラーだった人だという。銀縁のメガネを掛け、いかにも頭が良さそうな、自分の家の手描き看板屋のような仕事を、効率的じゃないといって融資を打ち切ってくるような意地悪な銀行の人みたいな感じがした。

 

「お父さんのことを大切にしなさい。君のお父さんのような人やウマ娘あってのプロ野球で、必ず報われなければいけないんだ」

 

 帰り際に、代行の人は自分にこう言って去っていった。それからあのチームは何が起きたか、外部のウマ娘の自分には分からないが勝てるようになってきた。

 

 自分はトレセン学園に入学したが、本格化がまだ始まっていないので専ら座学や基礎的なトレーニングを重ねる日々を続けていた。とある日、急に生徒会から呼び出しを受けた自分は、生徒会室の扉を叩いた。

 

「入ってくれ」

 

 中に入ってみるとあの生徒会長・シンボリルドルフさんが単身で自分のことを待ち受けていた。

 

「まあ掛けてくれ」

 

 応接用の長椅子に案内されるがままに座ると、ルドルフ会長も目線を外さずに腰を下ろした。

 

「ロゴタイプ、君の御父上はプロ野球チームを嘔心瀝血に応援しているようだな」

 

「すいません……」

 

 会長にもお父さんのことが知られているらしい。

 

「何を謝ることがある。トゥインクル・シリーズもプロ野球も、君の御父上のように一心不乱に応援し続けてくれる熱心なファンあってこそ成り立つんだ。もし君が、御父上の応援のことを恥と思っているようなら、それは大きな間違いだ。もし私の言葉を半信半疑と思うなら、ダートに行ってみることを勧める」

 

「は、はぁ……」

 

 自分は生徒会室をあとにして明くる日、ダートコースに行ってみることにした。

 

「ふぅ……」

 

「会長」

 

「あぁ、エアグルーヴ、ブライアンすまないな、外してくれて。まだまだ私も未熟だな。勝負は応援の熱量で決まるというわけではないのに、ロゴタイプの御父上のように熱心な応援を続けるファンを観ると、つい報われてほしいと願ってしまってね」

 

「アイツなら大丈夫だよ」

 

 明くる日、ロゴタイプの姿はダートコースに在った。そしてそこにはルドルフが彼女にダートに向かう事を勧めた理由もまた存在した。

 

「多分、ルドルフ会長が言っていたのは……」

 

 ハルウララ。その太陽のような明るさと朗らかさに隠れてはいるが連戦連敗、未だ一勝が遠いが何度でも立ち上がり続ける実は不撓不屈の精神を持つウマ娘。

 

「あっ! ロゴちゃん、どうしたの?」

 

「ウララさん……失礼かもしれないですがウララさんは、どうして走り続けるんですか?」

 

 ロゴの質問にウララは、ポカンとしながらそれがさも当たり前のように答えた。

 

「なんでって、一着になりたいからだよ?」

 

「でも、ウララさんはこれまで何度もレースに勝てなくて……その……無理だとか、諦めようとか、考えたことはないんですか?」

 

 その質問にウララは引っくり返らんばかりにいた。

 

「えぇーっ!? だって、次は一着になれるかもしれないよ!」

 

「せ、せめて掲示板にはって考えたことはないんですか?」

 

「け、けーじ? どうしておまわりさんなの? わたし、いつも一着になるって走ってるよ!」

 

「あっ……」

 

 お父さんは親が子供を見捨てちゃいけない。と言っていたが、よく言われるダメな子ほど可愛いではなく、本気であのチームが勝つと、優勝すると心の底から信じ続けているんだ。

 

「それに! 走るのは楽しいでしょ?」

 

 どんなにボロ負けしても、ボロ負けし続けても、お父さんはいつも楽しそうに応援していた。応援団の団員さんには厳しかった、ファンは全然いなかったけど、みんな楽しく一緒に応援して、負けても楽しかったねといって帰っていた。

 

「ウララさん、ありがとうございます!」

 

「え? じゃーまたねー!」

 

 自分の脚は自然と球場に向いていた。そこには、自分がトレセン学園に入学する前と変わらずに誰よりも情熱を燃やして応援するお父さんがいた。

 

「お父さん!」

 

「ロゴ、お前……」

 

「一緒に、一緒に応援する」

 

「……あぁ、こい」

 

 自分の本格化はまだ始まっていないが始まる兆候は感じている。しばらくしたら自分のレースに向けた道を走らないといけない。自分勝手なお願いなのは分かっているが、どうか今年優勝してほしい。

 

 少しベンチを観るとあの銀縁メガネの銀行員みたいな人、聞いた話では代行から正式な監督さんになったらしい。なんでも野球の人では三本の指に入る妥協しない人らしい。だから不満がある人も多いらしいけど、この人が監督になってから勝てるようになったのは間違いないらしい。

 

 勝つことが多くなってお父さんの応援にも一層熱が入る、ファンの人たちも一緒に熱くなって喜ぶ。選手の人たちにも伝わっているのか、監督さんが妥協しないで選手の人たちをトレーニングしたのもあって、もう自分が最初に観たときみたいな力の差はなくなって、むしろこっちが上回っているぐらいだ。

 

 そして、今日勝てば悲願の初優勝が決まるという大一番がやってきた。スタンドには当然お父さんがいる。本拠地・東京での試合だったから自分も来れた。試合は序盤から大量リード、選手の人たちにあのお荷物チームと酷い野次を飛ばされた姿は影もない。そして……

 

「オヤジさんに応援させるな! 優勝の瞬間を絶対オヤジさんに観せんだよ!」

 

「いいからこっち来て! アンタはしっかり見届けなきゃダメだ!」

 

 最後のバッターを打ち取って、ファーストの選手がボールを捕ったのが午後八時五一分一二秒のことだったらしい。マウンドの上ではこの試合を一人で投げ抜いたエースが何度も飛び跳ねて全身で喜びを爆発させている。色々なものが投げ込まれフラッシュが焚かれ、パニック寸前。

 

「やった……やった! 優勝、優勝だよ! お父さん!!」

 

 お父さんは何も言わない。いや言えなくなっていた。ボロボロに泣き崩れている。あんなお父さんを見たのは……いやこの先は言わないでおきましょう。自分とお父さんは他の応援団員の人たちにガードされ、記者の人たちがやってきてその人たちは輪の中に入れて沢山撮られた。

 

 しばらく興奮が続く中でグラウンドからお父さんを呼ぶ声がする、最後のボールを捕ったファーストを守る四番バッターの選手だ。優勝ペナントを持ってグラウンド一周するからお父さんも一緒に持ってくれというのだ。

 

「行きなよ。お父さん」

 

 断ろうとしたお父さんを自分がウマ娘パワーで持ち上げてグラウンドに下してお父さんも選手の人たちと一緒にグラウンドを一周した。誰も文句を言う人はいない。いなかったが様子が少しおかしい。どうもこっちに戻ってこれなくなっている。いつの間にか優勝インタビューを受ける監督さんの隣にいた。

 

 あれからいくつか変わったこと、変わらなかったこと、色々あった。あのチームは優勝の勢いのまま日本一になった。お父さんとは優勝したら応援団長を他の人に譲るという話をしていたけど自分はもっと続けてほしいと思っていた。だけど自分の本格化が始まり、お母さんからは娘のことも応援しないとダメだと言われた。

 

「おやっさんの魂や心意気は、俺たちがちゃんと伝えていきます! だからおやっさんはお嬢さんの応援に行ってください!」

 

 他の応援団員の人たちからも背中を押され、名誉団長として応援団に籍は残したままだが自分が走りを終える時まで自分の応援団長になった。トゥインクル・シリーズは週末開催でプロ野球は月曜日以外は試合があるんだから両立できると言っていたが、どちらも日本中を飛び回ることになるのでこれ以上無茶したら身体を壊すから自分の応援に集中するべきと言われたそうだ。

 

 自分も応援に行けなくなったが、なんでもあのチームは色々あったみたいでまた前のお荷物チームに戻ってしまったらしい。でも一流メジャーリーガーがやってきたり今後が楽しみな期待のホープが何人もいるらしいので、あの時みたいに野次を飛ばされてばかりのチームではないとか。また優勝するまでに自分も多くのレースで勝利を収めたい。

 

 トゥインクル・シリーズ、自分が出走するレースの会場にお父さんも来てくれている。フライパンを打ち鳴らしたり、開いたビニール傘を揺らせて応援することは出来ないがそこは看板職人の腕の見せ所だといつも趣向を凝らした横断幕を披露してこっちでもちょっとした有名人になっている。

 

 自分はお父さんがボロボロに泣き崩れた夜のことを忘れないと思う。そして、今度は自分がお父さんや応援してくれる人や支えてくれる人たちの心に忘れられないトゥインクル・シリーズの一勝を届けるんだとゲートに入る。

 

 夢は、終わらない。


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