第二次聖杯戦争から少しだけズレた平行世界での一幕 作:ささのき
GWが終わるまで毎日投稿します。
◇ ◆ ◇
城の地下
地下とは思えない程に広大な面積と高さで構成されたそこは召喚場。
四方八方どこを見ても、幾何学の紋様が地面や壁、天井に至るまで描かれており大儀式を思わせる。
中心に位置する場所に、大広間には似合わない程小さな祭壇があり、『聖剣の鞘』が鎮座している。
そして、その手前には唯一この地下空間内で何も描かれていない真っ新な地面があった。
────つい数分前までは。
「よいしょっと。後はここに線を描けば……ほい完成」
そこにいるのは、造られた大人の身体ではなく本体である幼子が一人。此度の第四次聖杯戦争のマスター、エリゼブラッド・アルス・ワーグナーであった。
彼は英霊召喚用の陣を描いていた。
見るからにおどろおどろしい雰囲気が醸し出されているこの地下は、サーヴァントに特殊な効果をもたらす異質な召喚場の予定であるが、今回は関係ないので割愛する。
何はともあれ、彼は今ここで聖杯戦争を共に駆け抜ける相棒たる存在を呼び出すのだ。
「始めますかっ!」
ふんすっ、と幼い子供がするには微笑ましい仕草。
なお、精神年齢は立派な大人である。
先ほど描き足された召喚陣に、剣に翼という形の令呪が宿った手を向けて、彼は目を閉じる。
「素に銀と鉄。
礎に石と契約の大公。
祖には人間に生まれ変わった魔術王ソロモン」
始まりを告げられた召喚陣は輝くと同時に、遥か遠い日本の霊脈と繋がり、英霊を形作る為の魔力を吸い上げる。
「降り立つ風には壁を。
四方の門は閉じ、王冠より出で、
王国に至る三叉路は循環せよ」
「
繰り返すつどに五度。
ただ、満たされる刻と破却する」
「────告げる
汝の身は我が下に、我が運命は汝の剣に
聖杯の寄る辺に従い、この意、この理に従うならば応えよ
誓いを此処に
我は常世総ての善と成る者、我は常世総ての悪を敷く者
汝三大の言霊を纏う七天
抑止の輪より来たれ、天秤の守りてよ────」
隙間なく淡々と放たれた詠唱に召喚陣は応え、より苛烈に輝きを増していき、最後には地下全体を極光で埋め尽くす。
徐々に全てを照らす光は落ち着き、目を閉じていたエリゼはゆっくりと瞼を開く。
虹の光に目蓋越しに眼がやられて未だにぼやける視界。
しかし、先程までは居なかった存在の輪郭が見えた。
「問おう」
召喚陣の上。
朧が正され画一とした形が見て取れるようになったそこには、一体のサーヴァントが佇んでいた。
「汝が私を招きしマスターか?」
その姿は間違いなく、彼が望んだ英霊。
────アルトリア・ペンドラゴン。その人であった。
◇◇◇
「しかし驚きました。貴方のような
「戦争に年齢なんて関係ないよ。特に魔術師だなんて呼ばれる存在は自らの歳なんて気にしないだろう?」
「…………そうでした。花の魔術師もあれでいて年寄りでしたね」
その後、マスター契約を結び終えた二人は地下の召喚場から出て、城の廊下を並んで歩いていた。原作同様にアルトリアは霊体化が出来ない為、生前の状態で召喚されているのは間違いないようだ。
なお、身体の成長が止まっているとはいえ、幼児と中学生では体格差が大きいためにセイバーは彼の歩幅に合わせている。
「それはそれとして、その姿で戦場に赴くのですか? 表に立つのは私ですが、それでも不安があります」
聖杯戦争というサーヴァント同士、魔術師同士で血みどろの殺し合いが行われる戦い。戦争とは名ばかりの魔術師の栄誉ある決闘と認識している大馬鹿野郎が何人もいるらしい。
「その不安はもっともだね。いくらオレが魔術に優れていても肉体は絶対的に負けているしね」
そう言って自身の小さな腕を前に出して拳を握ったり開いたりしている。
「だからこそ、対策はばっちりさ」
「対策?」
「そっ、子供の身体が不利ならば、大人になればいいだけのこと」
「? それは……いったい……」
話ながらもずっと歩き続けていた彼らは、気が付けばエリゼの自室の前に到着していた。魔術的な措置が取られている扉は、部屋の主人を認識すると自動的に開き始める。
「ここはオレの部屋。そして対策があるのもココ」
「誰か、ベッドで寝ておられるようですが……」
「それだよ。寝ているのは人形、オレの将来の姿を模して制作された人造の肉体さ」
「……なっ!?」
そう声が出たのはアルトリア。
見ただけでは、人と大差のない姿をしているそれが人形なのだ。無理もないだろう。
そんな彼女を横目に、彼は数時間前と同じように人形と隣り合わせて身体を倒す。手を重ね、意識して瞬き一つ。
「というわけで本体も連れていくけど、動く時は基本的にこっちになるかな」
起き上がった大人の身体で、アルトリアへと語りかける。それを見た彼女は呆然としながらも納得といった表情で頷いた。
「承知しました、マスター。それであれば私から言うことは何一つありません」
するとアルトリアは腕を振り、風の鞘が解かれ星の輝きを晒した剣を呼び出した。
両方で逆手に持ち、床に突き立てると同時に片膝を付き頭を下げた。
「改めて、騎士王アーサー。我が剣は貴方の為に」
その在り方は正しく騎士であり、騎士を束ねた王ではなく、騎士の中の騎士を体現する者がそこにはいた。
「うん。よろしくセイバー」
(明日以降の話し合いでは、お別れ必定なことになるだろうけど)
マスターとサーヴァント。
王であろうと聖杯戦争の華に倣い従者となる者。
幼いながらも肉体を変え圧倒的な魔術を持つ者。
理想ともいえる陣営が、不穏な心を翳しながらもここに完成した。
◇ ◆ ◇
昨日は霊体化の出来ないアルトリアを、用意していた寝室に案内して夕食を共にし、少し踏み込んだところまで話した。
そして今日。
昨夜に提供された食事が大変美味だったらしく、ブリテンとは比べ物になりませんと感激しながらガツガツと食べていたアルトリア。
朝から豪勢な食事が出されものすごい勢いで完食まで持っていった食欲には形容しがたいものがある。
「あれほどの料理を朝から食べたのはいつぶりでしょうか。ありがとうございます、マスター」
ここは次期当主の部屋。
椅子に座って脚をプラプラさせているのがアルトリアで、ベッドに腰を下ろしているのが部屋の主であるエリゼだった。
「気にしなくていいさ。オレとしても君には現世を楽しんでほしいからね」
霊体化できないアルトリアではあるが、サーヴァントとして召喚されている以上生身ではなく、本来は食事を必要としない。
多少の魔力回復にはなるが、彼女のマスターであるエリゼは魔術師としても非常に優秀で、生まれながらに持つ高性能な魔術回路から供給される魔力は中々のモノであり誤差にしかならない。
であるにも関わらず一緒に食事をするのは、偏に前世の記憶からくる彼なりの甘やかしであった。
(Zeroセイバーは可哀想だもんな。オレが精一杯甘やかしちゃる!)
そして、この後行われる
(ごめんよ。でも、鞘すら持ってこれていないセイバーじゃ、この魔境の第四次聖杯戦争に勝て……はするけど、完全勝利が出来ない)
彼が狙うは原作のようなギリギリの死闘の末、何とか辿り着いたギルガメッシュとの最終決戦with小聖杯破壊カリバーではなく、全てをなぎ倒してアルトリアさん大勝利!ルートである。
というわけで…………。
「それじゃあ、お互いの認識のすり合わせを行おうか」
「はい。しかしすり合わせとは? 昨日の段階でお互いにかなり話しましたが」
「そうだね。でも一番重要なことは話せていないんだ」
「それは…………?」
昨夜、夕食を共にして彼らは互いに話し合った。
聖杯戦争において何よりも大事だと思うのは、主従間のコミュニケーションだから。
母の日スティンガーさんは英雄だの騎士だのを盾に対話を拒否してギスギス空間一直線だったが、流石に御免被るのだ。
その心情の下、戦略の有無や戦術の連携、心意気を交わしていた。
だが、聖杯戦争で大事な
「ずばり、聖杯に望む願いだ」
「っ!?」
その言葉に大きな反応を見せるアルトリア。
確かに話していなかった。
そんな心境が伝わってくる。
「お互いの願いを共有しよう。例えば、世界平和を願う人と世界を壊したいと願う人が組めるわけないだろう?」
「…………極端な例ではありますが、必要なことですね」
「聖杯戦争の開幕までまだ時間はあるから、もう少し後で聞いても良かったんだけど、早く済ませるに越したことは無いさ」
「道理です。分かりました、私も誠意をもって答えさせてもらいます」
先程まで椅子の上で脚をプラプラさせていた人物とはとても思えない程に、ピシッとして凛々しい顔つきでエリゼを見つめるアルトリア。
「ではセイバー、君の願いを教えてくれ」
「いいでしょう…………私の願いは祖国ブリテンの救済です」
それはFate/Zeroで王たちが囲った聖杯問答の時と同様の願いであった。
「私は王として国を守ることが出来ずカムランにて敗れました。だから時間を遡り、やり直したい。次こそは民のために祖国を守り抜きたいのです」
彼女の願いである祖国救済。それはとても貴いモノではあるが、その反面、致命的に脆いモノでもあった。
ちなみにsn時空でアルトリアが聖杯の願いとして掲げている"選定のやり直し"は第四次聖杯戦争で親友であったランスロットの狂い様を見て、自身が王になったことを後悔した結果だ。*1
「なるほど…………祖国の救済か」
「はい。それが私が聖杯に望む願いです」
「いいね、悪くない。次はオレ……と言いたいけど、少し横に逸れてもいいかい?」
「? ええ、私は構いませんが」
「ありがとう。君の素晴らしい願いについてなんだけどね」
アルトリアの願いは綺麗なものだ。
それ故にエリゼは心を痛めた。
何故なら、これから彼女の願いを徹底的に否定しなくてはいけないから。
「どうかされましたか?」
「その願いは、ダメだ」
「…………えっ?」
アルトリアの願いは綺麗であると同時に、綺麗事なのだ。
「まず前提としてなんだけどさ、君は純粋な英霊ではないよね?」
「っ!? な、何故それを…………!」
「霊体化出来ない、聖剣の鞘を所持していない。この二点から凡そ分かっていたよ。そして今、君のその願いを聞いて確定した。セイバー、君はまだ死んでいないんだね?」
嘘である。
彼は転生者。Fate好きな前世の知識からある程度識っているが、違和感を持たれないように表面上の情報を集めていたに過ぎないのだ。
「英霊の座に招かれ正しく聖杯戦争に召喚されたとしたら、祖国の救済、即ち歴史の改竄という選択はしないはず……いや、出来ないはずだ、君ほど清廉な人ならば」
このセイバーは特殊な召喚をされている影響で、通常のサーヴァントならば持っていて当然の知識が備えられていない。
後世に伝わる自分自身の偉業だ。
自らがどのように伝聞されているのか、それによって世界にどれほど大きな影響を与えたのかが全然分かっていない。
騎士王アーサーが存在したからこそ、伝説に憧れ英雄へと至った人物も多くいる。そんな彼ら後輩たちの想いを一切に考慮せず、まだ終わっていない自国を救わんと足掻くアルトリア。
「君は英霊ではあるが死んでいない。死の間際に英霊となった君の物語は終わっていない。だからこそ歴史を、後世を顧みずに祖国の救済を願う。違うかい?」
「た、確かに私はまだ死んでいません! モードレッドを討った直後から、ここに来ています。ですが苦しみ喘ぐ民を、祖国の救済を願うことが悪なのですか!?」
「何も悪だなんて一言も言っていない」
そこからエリゼは一つ一つ、ゆっくりと伝えていった。
アルトリアの願いは悪ではない。
彼女の国の状況を鑑みればそう思うのは仕方ない。タイムリープして過去をやり直したいなんて万人が一度は思うことだ。
しかし、救済はダメでしょう。ブリテンが滅ぶのは世界が決定していることで、逆らうということは世界の意に背くことになる。それに彼女を最高の王として付き従ってきた騎士たちを裏切ることにもなるだろう。当時の騎士王に仕えたのは間違いだったのだと。
歴史という観点から見てもアーサー王という存在が居たからこそ英雄を目指した、かの王に憧れた人たちを否定することにもなってしまう。
国のため、民のためと言っているが実際はこの結末に彼女自身が納得できていないだけなのだと。そうでなければ必死に生きた国民の頑張りを否定したいなんて考え出てくるわけないのだ。
「少しきつく言ってしまうけど、それはどこまでも君のエゴ。身勝手な自己満足の願いなんだ」
「そ、そんな…………私のコレが、自己満足?」
願いを否定され思わず立ち上がっていた彼女はヘナヘナと床に腰が落ちる。
「君はどうやって救済するつもりだったのかな?」
「えっ?」
「歴史を捻じ曲げる。ブリテンが破滅した原因と言うのは、そう簡単に理解できるものじゃない。様々な因子が絡み合った果ての終わりだ。もし仮に君が聖杯へ『過去に戻る』ことを願ったとして、また同じことの繰り返しじゃないのかい? 神代の終わり、世界は最後の神秘である君たちを何処までも殺しにかかるはずだ」
ただでさえ精神に大ダメージが入った彼女に更に追い打ちをかけるエリゼ。傍から見れば鬼畜だ。
「君と共に時代を駆け抜けた同胞の想いを、自分が満足できなかったという理由で、足蹴に出来るのかい?」
「そんな……こと……っ」
クリーンヒット。
状況を説明すればこの単語がふさわしい。
愉悦った言峰が見ればワインが巧くなること間違いなし。
「うん。何故オレがここまで君の願いを否定したかと言うと、ちゃんとした理由があるんだ」
「理由…………ですか?」
彼は無類のFate好き。
そしてアルトリア系列が特に好きだ。
そんな彼が心を鬼にしてまで、彼女の願いを否定したのにも考えがあってこそ。
いくつか理由があるが、聖杯問答にて王たちに説教&笑われないようにする為。前世で買物王と慢心王にコテンパンにされるアルトリアを見た彼はそれはそれは怒りました。
セイバーをいじめていいのは自分だけだと。*2
だから、早い段階で彼女に自覚させようと思っていた。
次に、これは……というより、本命は真に英霊になってもらいたかったから。
彼女は確かにそのままでも強い。
しかし征服王や英雄王を相手にしたら、弱いといっても過言ではない。
当然だ。
星の聖剣しか逸話に謳われる宝具を持ってこれていないのがその証左。
だからこそ、彼女には生前における聖杯を諦めて、英霊となってから改めて聖杯を手に掴んでほしい。
祖国の救済という願いを持つ、宝具の昇華不足。
どちらも生きたまま英霊になったが故に、起こってしまった出来事なのだ。
「ズルいじゃないか。他の皆はどんな結末であれ、終わった後に英霊となった。終わったからこそ求め始めた願望機なのにさ」
「あっ…………」
「それなのに君だけが、まだ終わっていないと結末は決まっていないと、聖杯を求めるなんて」
「うっ……あァ……」
その発言を最後に限界を迎えてしまったアルトリアは、肢体をぐらりと傾かせ床に倒れ伏す。直前にエリゼが支えたことで事なきを得るが、気をやってしまったようだ。
「…………追い詰めすぎた?」
まさか、というほどでもないが言葉の応酬のみで、騎士王と名高い彼女を気絶させてしまった。
言葉は凶器。
はっきり分かんだね。
「起きるまで待つか」
彼はアルトリアを抱えベッドに寝かせる。
本体の隣に降ろすことで完成する、女子中学生と小学校低学年で構成された"おねショタ"の図。
いいね!
彼は代わりに空いた椅子に腰を下ろし、何故こうしたのかを思い出す。
「この聖杯戦争を彼女で勝ちたい。だが、アヴァロンを持たない状態では、かの英雄たちに勝てる道理はない。全盛期の必要がある」
「英霊になった彼女の姿を純粋に見たくもあった。原作ではついぞ見ることが適わなかった英霊として覚醒したアルトリア」
「不幸な目に会ってほしくない。聖杯問答、ランスロット、切嗣、第五次。彼女の苦難は多すぎる」
そうした思考をアウトプットしては空気に溶けて、アウトプットしては空気に溶けるを繰り返し、エリゼは彼女が起きるのを待った。
◇◇◇
「んっ……むぅ……」
眠っていたアルトリアは身動ぎをすると共に、ゆっくりとその瞼を開いた。回らない思考が長々と続き、少しずつであるが戻り始める。
そうしてただボーっとする時間が幾分あり、彼女はようやく覚醒と呼べる段階に到達した。
「っ! ここは……っ」
「起きたかい? セイバー」
「マスターッ…………」
思い出されるは、最新の記憶で脳裏に焼き付いている二人で行われた聖杯問答の事だろう。
「精神負荷が許容量を超えたんだ。まさかサーヴァントが外傷以外で気を失うとは思わなかった」
そう言って彼は横たわるアルトリアの背中に腕を通して、そっと起き上がらせようとする。
「っ……マスター、貴方は…………」
彼の支えのもと、ゆっくりと起き上がろうとしたアルトリアだったが、ふと力が抜けベッドに倒れる。
必然的に起こそうとしていたエリゼも彼女に覆いかぶさるような姿勢となる。
「おっと、まだ起き上がるのはキツかったか?」
「…………私が、私が聖杯を求め続けたのは無意味だったのでしょうか」
ベッドに背中から倒れ込んだアルトリアは心配の声を無視して、腕を顔に乗せ表情が見られないようにしてから、自らを言い負かしたマスターへ問いかけた。
「私が、考えていたのは…………卑劣で、下衆なことだったのでしょうか」
「……………………」
「ともすれば、私の人生に……価値なんて、無かったのでしょうか」
彼女が頭の中で振り返るは、これまでの人生。
生まれ、選定の剣を抜き、王となり、騎士を束ね、国を守り、裏切られ、ここに至る。
その全てが無価値だったのかと、強く思ってしまう。
「……はぁ、ネガティブが過ぎる。が、オレが攻めすぎたのが原因みたいなもんだし、文句も言えんか」
それを聞いたエリゼは思い込みの激しいアルトリアを見て、これもまた良い……と考えながらも次の一手を打つ。
腕を掴んで動かし、隠された彼女の顔を間近で見る。
目尻に少量の涙が浮かび口を歪ませた表情は、酷く
覆いかぶさった状態で顔を近づけ、顔面の距離が隙間ない程になり、目線を合わせる。
「無価値なんかじゃないよ。何度も言うけどさ、君の聖杯を求めるという行いはダメというだけで悪でも無価値でも無い。セイバーが生きた人生も同じ」
むしろ貴いとすら言えるモノだ。
「もし君が無価値で卑劣で下衆な王だったとして、そんな人間に、君が認めた友人にして円卓の騎士である彼らは付き従うと思うかい?」
「…………思いません」
「だろう? オレが君の心を脆くしちゃったから、自分を信じるのは難しいかも知れない。だから、君と同じ道を歩んできた友を信じてほしい」
彼は覆い被さったアルトリアを両方の腕を上に抑える。
当然、抗おうと思えば即座に抜け出せるだろうが、彼女は動かなかった。
「これはちょっとマッチポンプかも知れないけどさ………」
「……?」
「オレは君に、君はオレに会えた。それだけでもセイバーが走ってきたここまでの道のりは無駄ではないよ」
ただでさえ近かった二人の顔は更に距離が消えていく。
「それに、どうやらオレは君のことが好きみたいだしね」
「…………えっ」
「王でありつつ騎士を貫こうとするその姿勢、何処までもマスターの道具であろうとする心、その狭間で垣間見えた女性らしさ」
画面の向こうではなく眼前で深く知ることが出来たエリゼは、それはもう有頂天に昇らんとするほどだった。
「当たり前だけど容姿もね。輝くほど綺麗なブロンドに、吸い寄せられるエメラルドの瞳、華奢過ぎる小柄な身体」
弁明するが彼はロリコンではない。
「全部が全部、この眼で見れば見るほどにオレは君に惹かれてる」
「な、何を……言って………っ!?…ッッッ〜〜〜!」
出会って数日と思う事なかれ。彼からすれば前世含めて10年来の付き合い(一方的)なのだから。
アルトリアの方は突然の発言に、気にしていなかった自身の体勢に気付き、赤面を露わにする。
エリゼに押し倒されているアルトリアという図になるが、力関係だけで見れば問答無用で剥がす事が出来るはずなのに、彼女は彼に両腕を抑えられていることに抵抗を示さない。
いや、抵抗自体はしているが軽い身動ぎくらいで、全然抜け出そうとしない。
「い、いまさっきまで……真面目な話をして…………」
「慣れてないのかな? 乙女が隠せてないね」
「ひゃうっ!?」
造られた眼。その奥にある魂から向けられるソレを感じ取ったアルトリアは身体を硬直させて自身の意思によって動かなくなる。
唯一動いているのはピコピコと跳ねるアホ毛くらいなものだ。
先ほどまでの話が全て頭から吹き飛んだ彼女は、肉体同士の接触を阻むのが互いの衣服だけと言えるほどに密着した状態から何をされるのかを想像し、目を瞑りそれを無意識に受け入れていた。
とまあ、ここまで来たはいいけどこの話は全年齢版。
中々のカッティングだがルートを変えざるを得んな。
◇◇◇
のぼせ切った頭でフワフワとしている彼女から名残惜しむように離れるエリゼ。
「さて、本当の話はここまでにしておいて…………」
感じていた体温が消えて正常な思考が戻ってきたアルトリア。つい先ほどまでの自身の醜態に今も顔は真っ赤なままだ。
「……そういう冗談は感心しま……あれっ、いま何と?」
「ぶっちゃけた話をすると、今回の聖杯戦争はヤバい連中が勢揃いなんだよね」
「あ、はい…………あれ、えっ?」
アルトリアからの問いを完全に無視して話を始めたエリゼ。彼女は混乱から未だに立ち直れては居ないが、変に生真面目な性格から遷移する話に流されていく。
「今のセイバーでは勝てないから色々と準備をするぞって感じなので、よろしく!」
「えっ、あ、分かりました。よろしくお願いします」
詳細は分からないが了承の意を返事するアルトリア。
「大丈夫、聖杯戦争が幕を開けるまで時間はかなりある。まだまだ話したいこともあるだろうからね、気が済むまで付き合うよ」
かくして、急展開から急展開が続く精神的に激動な一日が終わりを迎える。
1994年、9月の出来事だった。
◇ ◆ ◇
ゼルレッチは変態。
イリヤを見れたら分かる、ドスケベな奴やん。