第二次聖杯戦争から少しだけズレた平行世界での一幕 作:ささのき
話が長いんだよ、作者め。)コーヒーバシャッ
もう少しくらい付き合ってくれても
イイだろうがぁぁあ!!!)長椅子ブゥーン
アルトリアがエリゼに召喚されて一か月が経過した。
聖杯戦争前に、それも数か月前に冬木以外で召喚しても問題ないのかと思うかもしれないが、聖杯のシステムに介入さえできれば、普通に可能である。
例として、原作でアインツベルンは開催地である冬木ではなくドイツで。しかも第五次に至ってはバーサーカーを開始の数か月前から召喚している。
ん、何故介入できるのかって?
前話でも説明したが、エリゼの高祖父とその時の当主が第二次聖杯戦争に参加して荒らし回って、聖杯システムについて大半の術式を調べ尽したからだ。
残った文献を活用して、介入したのが次期当主であるエリゼブラッドなのである。
この一か月、彼らが何をしていたのかと言うと、簡単に言えば絆上げである。
アルトリアはその実、かなりチョロい。
初日翌日以降、数日はギクシャクとした雰囲気があったが、やはり飯! 食事は全てを解決する。
また身体を動かすことも良い気分転換になるようで、国内で違法で活動しているゴミ、即ち国に害を齎すような封印指定や魔術犯罪者、死徒の討伐を一緒に熟したりもした。
食事と軽い運動。これを一か月も共に繰り返せば必然の結果ではあるかもしれない。食事という底なし沼に沈ませるのは面白かった。
絆レベル15には至っていないようだが、恐らくは10は超えたのではないだろうか。そう思えるくらいには、彼女から彼に対する距離というのは短くなっていた。
そんな生活を続けてきたが、この日はアルトリアを英霊として再召喚する日なのだ。
そも、何を……どうやって……。
そんなことが可能なのかという疑問はあるかもしれないが少し考えてみてほしい。
聖杯とは儀式である聖杯戦争を完成させるために、ある程度のぶっ飛んだことは平気でしてしまう性質である。『
それを前提として、特殊な召喚をされたアルトリアを見てほしい。
彼女が聖杯戦争に負ける。つまり退去すれば、魂が聖杯に取り込まれる前に"世界"が割って入り回収していくのだ。
七騎のサーヴァントの魂を必要とする大聖杯儀式なので、当然成立しなくなってしまう。
原作に置いて、アルトリアは常に最後まで残り続けた。
聖杯も正常と判断して特に反応を示すことは無かったが、もし仮に最序盤でアルトリアが退去したらどうなるだろうか。
エリゼが大聖杯儀式の文献を読み漁り、辿り着いた答えは。
────もう一騎、セイバー枠が召喚される。
これだった。
アルトリア英霊化計画を実行の決め手になった。
聖杯は何が何でも儀式を成功させようと躍起になるが、先の件からもマスターの選別は結構ガバガバである。また、以前マスターであった人物へ優先的に令呪を割り振る傾向にある。
故にアルトリアを説得して生前での聖杯奪取を諦めてもらい、英霊となって改めてエリゼが召喚するという法則が成り立つのだ。
ついでに何故、一か月も経った今に再召喚をするのかと言うと、いくつか理由がある。
この国、スイスは複数の霊脈が重なっている場所だ。
霊脈のハブとでもいうべきかもしれない。*1
召喚におけるエラーを減らす為に、霊脈が安定したタイミングを見計らう必要があるのだ。
他にも、アルトリアを呼ぶための触媒の準備という面もある。
エリゼが現在持っている『聖剣の鞘』はこの世界線のアルトリア用である。そしてこの世界でのアーサー王伝説にこれと言った違いはない。
すなわち、何かしら影響を及ぼすと考えられる英霊アルトリアは並行世界の存在になる可能性が極めて高い。
そうなった時、『聖剣の鞘』では呼べないかもしれない。
エリゼの記憶だけで触媒足りえないかもしれない。
その為に今、召喚されているアルトリア用の触媒が必要だった。
『血』『髪の毛』『魔力』
この三つだ。
特殊な処理を施し、彼女が退去した際もこれらを現世に縛りつける必要がある。その為の処置が終了するのに一か月かかったのだ。
並行世界のアルトリアだろうと、彼女とのつながりが深いこれらがあれば、大丈夫だろう。ようやく全ての準備が整ったと言える。
「さて……行けそうかな、アルトリア?」
「無論、問題ありません。残してしまった過ちを清算してきます」
ある程度、絆を上げ終えたエリゼはアルトリアと『元の時代に戻ったらやるべきことリスト』を作り上げ、念入りに覚えさせた。
アルトリアがこれまで経験してきた聖杯獲得チャンスを覚えていたので、過去に戻っても役に立つだろうと考えたのだ。
現在の場所は、最初に召喚した地下空間。
これからアルトリアは元の世界に退去する。
「……ありがとうございます、エリゼ。貴方のおかげで私はより良い道を歩む事ができます」
「そうかなぁ? 結構傷つけるような事を言った自覚はあるんだけど」
「ふふっ。ええ、本当に。それでも、エリゼのおかげです。貴方と共に過ごした一か月はかけがえのないモノでした」
「…………分かったよ。その感謝、受け取っておくさ」
絆10を超えた関係はヤバい。
すっかり懐いてしまったアルトリアの破壊力は凄まじいの一言だ。
「それじゃ始めよっか」
「お願いします、エリゼ」
アルトリアが立つのは地下空間の中でも、召喚に使った儀式陣の上だ。
「いってらっしゃい」
「いってきます。死後に会いましょう」
そう言うとアルトリアは自らマスターとの魔力供給を断ち切り、自らの魔力を過剰に放出し始めた。竜の心臓から多少なりとも生成されるソレを上回る量を一気に放出した彼女は、徐々に身体が崩れ始める。
互いに見つめ頷き合ったのを最後に、現世におけるサーヴァントとしての彼女は終わりを迎える。
床に描かれた魔法陣がその全てを吸収した。
────令呪は未だ消えず。
◇◆◇
カムランの丘
ずっしりと身体に痛みと疲労感が戻ってきたアルトリアを襲う。
辺り一面が血の海に染まっている。彼女からしてみれば何度も繰り返し見てきた地獄。またここに戻ってきた……と。
しかし、今回ばかりは今までの彼女とは一味違う。
エリゼと二人で一緒に考案した、死ぬまでの命を有効活用しましょうリストを思い出しながら、アルトリアはモードレッドを探した。
探すまでもなかった。
モードレッドは彼女の足元に沈んでいたのだから。
アルトリアは叛逆の騎士と戦い、結末に納得できず、聖杯を求め様々な世界へと旅立った。元の時代に戻れば当然、その直後からの再スタートになるのだから。
「モードレッド……まだ、生きてますか?」
「……何……だよ……陛、下……」
「……そうですね、少しお話しをしましょう。互いに、終わりかけの命です。最後くらいはいいでしょう?」
「はは……今更、オレみたいな……叛逆者と……話すことなんて、ネェだろ……」
「……私は貴方を息子と認識はしていました」
「…………あ?」
そこから、彼女たち親子は少しだが言葉を交わした。
エリゼ監修。
『息子との接し方』
アルトリア用に作られた対モードレッド向けの小冊子。
読んでみれば当たり前、言わなくても分かることが多く書かれており、しかし言葉にしなくては鈍い相手には伝わりにくい事が内容になっている。
現世に召喚されている間にアルトリアがした過去対策その一だ。
──何故、息子と認めなかったか……少し違いますね。
──騎士や皆がいる前で息子と認めるわけにはいかなかった、が正しいのですが伝わっていなかったようですね。
──息子であること自体を否定しているように捉えられたようです。
──私とギネヴィアとの間には子供は居ない、産まれない。そんな中、いつの間にか現れた子供。ただでさえ苦しんでいた彼女には毒になってしまいます。
──だから認めませんでした。
──何故、王位を譲らなかったか。
──たわけっ、と言いたいですねこればかりは。
──卿のそれは先が無かった、ただ王になって終わり。王にさえなればなんとかなるという考えが透けて見えましたから。
──この国をどうしたいのか、理想の王の姿はどんなものか、これが欠如している貴殿には、まだ王位は譲れないと一蹴しました。
──それがしっかりしていたら譲るまではなくても一考する余地ぐらいはあったと思いますよ?
──あ、あとカリスマですね。全く足りてないです、出直して来なさい。
──モルガンの子であることは関係あったか……ですか?
──全くありませんよ、そんなもの。誰の子であれ騎士として国を守らんとする者は皆、私の配下であり友ですからね。
──貴殿の兄弟を見れば一目瞭然だと思いませんか?
「は、ははははは……何だよ……それじゃあ勘違いしたのも、何も見えていなかったのも……全部、オレの方じゃねぇかよ……」
アルトリアから聞かされた、言葉する必要もなかった真実を知ったモードレッドは自嘲気味に引き攣った声を上げる。
「それは……そうですね。ですが私も同じですよ。国の為と、民の為と嘯き、周りを省みることなく一人走り続けた結果、共に戦うと誓った騎士たちの心は離れ、国は崩壊してしまったのですから」
「……あんたは、これで良いのかよ」
「良くはありませんね、非常に悔しい気持ちです。如何なる国にもいつか必ず終わりが来る、ならばせめて緩やかな終わりであってほしい、笑顔で終わってほしい。今でもそういう願いはありますので」
王になってから積み上げてきた昔を思い出しながら、目の前にある結果に対して軽く笑うアルトリア。それを倒れ伏した状態から見上げた反逆者は複雑な感情を抱く。
「……はっ、国が終わるのを……良しとするってか。これがこの国の……結末であることを認める……のかよ」
「ええ、否定したい気持ちもあります。出来るならばやり直したい、王として国の崩壊を回避したいと思いますが、それ以上にどんな結末であろうとも抗い続けた国民たち、民を守らんと死んでいった騎士たちの行いを否定する事にもなってしまいます。それだけは絶対に駄目だと……痛感しました」
「あー……オレには……王は向いてねぇかもなー。民のため、騎士のため……か」
それを最後に沈黙が場を支配した……。
暫くして、モードレッドがポツリと呟いた。
「……すまん、父上……あんたの国、壊しちまった……」
悔恨を滲ませた、か細い声で小さく。
「赦しません、絶対に」
「っ……」
「……だから、これからは絶対に裏切らないで下さい。結構心にきたんですよ、息子の叛逆は」
「……っ……はは、任せとけって父上。オレは、これでも……忠義溢れる寡黙の騎士で……通ってんだぜ」
「ええ、そうでしたね。期待してますよ」
「ふいぃぃ……死にかけだっての……に……こんなにも清々しい、気持ちになれるだな」
壊れた兜から覗く彼女の顔は、先程とは打って変わりどことなくすっきりとしていた。
「最後にさ、これ……返すよ。勝手に持っていってごめん」
「受け取りました、私の手で宝物庫に戻しておきますね。そして、お疲れ様でしたモードレッド卿。私の息子よ」
「……ありがとう父上。……次こそは…最期まで、陛下とともに……戦い抜く…こと…を……」
王剣クラレントをアルトリアに返したモードレッドは、その言葉を最後に永遠の眠りについた。
「逝きましたか…………私も、何もせずに放置すれば数時間も無いといったところですか」
頭をかち割られたにしては長生きですね。
「さて次は、ええ……そうですね。早いところ済ませてしまいましょう」
────世界。
◇◇◇
生者はいなくなり、屍と血の海で満たされたその領域で聖槍と聖剣、そして返還された王剣を持ったアルトリアは中空に向かい言葉を投げる。
「聞こえているのでしょう、世界」
聞こえているはずだ。
何故ならば、アルトリアが今までのように戻って来たにも関わらず、次の舞台に飛ぶことがなく、モードレッドと話す時間が与えられたのだから。
そして理解しているはずだ。
これからアルトリアがどうするのかを。
「今回の契約、悪いが破棄させてもらおう。私は聖杯を求めない……この結末を受け入れる」
────────────────────。
静寂が彼女の身を包む。
先ほどの宣誓からどれほど時間が過ぎたか……1秒か1分か、もしくは1時間か、曖昧になってきた感覚に陥りながらも返答を待つ。
───────────。
────────────────。
─────────────契約不履行の意思を確認。
アルトリアの頭に直接響くような声が聞こえたと同時に、プツンッと内側にあった何かが切れる感覚が彼女を支配する。
契約が切れたのだろう、不思議と身体が軽く感じられる。
それ以降、世界の声が聞こえなくなった。
(……思いの外、あっさりと済みましたね。一悶着ぐらいは覚悟していたのですが。与えられたチャンスを全て逃してきたから、流石の世界も呆れてしまったのでしょう)
原作を識るエリゼよりSN√、UBW√でそれぞれアヴァロン、英霊の座に向かえたことから何も問題ないと聞かされていたが、実際に拍子抜けとなった。
流血溢れる辺り一帯を見渡したアルトリアは、身体から伝わる警鐘を無視してポツリと洩らす。
「これで私の旅路も終わりですか、長かったですね」
非常に長い旅路になった。
幾度も聖杯を取らんとしてその全てで最終局面まで残り、そして目の前で奪われて壊されて最後にはこの地に戻される、その繰り返し。
そんな地獄から解放された彼女は自らの人生に終止符を打つ。
残してしまった因縁を断ってから、という注釈は入るが。
「マーリン、どうせ見ているのでしょう。分身でも構いません、出てきなさい」
先ほどと同様に、中空に向かって声を飛ばした。
姉に封印された程度で大人しくするほど、あの老獪な存在は甘くない。
そう思って。
「……やぁ、アルトリア、元気かい? 君が呼びつけるなんて珍しいね」
やはりと言うべきか、花のお兄さんはやって来た。
しかし、よく見れば本体ではない。これを閉じ込めるとは、姉ながら恐ろしい幽閉術だとアルトリアは思った。
「どうせ見ていたのでしょう? 見ての通り死にかけです。それについては別に、私の不徳の致すところですのでご心配なく」
「そ、そうかい? いや~、こんなシャッキリとした君の顔、他の"今"には殆ど無いからびっくりしてるよ、世界との契約で何か得たのかな?」
「えぇ、答え……とまでは言いませんがとても大事なものは得ました」
アルトリアは自身の胸に手を当て、血に汚れながらも美しい顔をはにかませながら答える。
それを見たマーリンは非常に心を揺さぶられるのを感じた。動くはずのない感情であるはずなのに。
「まぁ、それは後でいいでしょう。それより私はもうじき死にます。この傷では数時間が限界でしょう」
「…………あー、うん。その傷で未だ立ってられるのも凄いのだけどね? それで、私に何をしてほしいのかな」
「少しばかり延命を。残った因縁を片付けてきます」
停戦だけしてろくに話すことのできなかった親友。
王について行けず、去っていった家族にして騎士たち。
混沌な状況に怯え、理解できず蹲っている民。
そんな彼らに対して、何も言わずに死ぬことは許されないと感じていた。
「……お任せを。激しい移動や戦闘さえしなければ数ヵ月は生きれるように調整しておくよ」
「ありがとう、マーリン。最後まで頼ってしまってすみません」
「な~に、最後くらいは宮廷魔術師らしい事しないとね」
「ふっ、貴方は変わらないな」
「半分夢魔だからね~……よし調整終わり、くれぐれも戦闘しないでくれよ?」
「分かっています、対話をしに行くだけだ」
昔からの気安い掛け合いが続いていく。塔に幽閉された人外は、アルトリアが死んだ後も世界を見守っていく。
「それではマーリン、これにてお別れです。それと私は死後、アヴァロンには行きませんのであしからず」
「うーん、やっぱりそういう決断になるか。私一人では寂しいから来てほしかったんだけどね」
「ふふ、お断りします。私には待ち人がいますので」
「そうかい、元気にやるんだよアルトリア……
その言葉を最後にアルトリアはマーリンに背を向け歩き出す。
今生で彼女たちが会うことはもはや無いのだろう、そう思わせる雰囲気。
堂々としたその背中を見えなくなるまで視続けた魔術師のみがそこに残った。
◇◇◇
その後、アルトリアはそのままの状態でキャメロットに帰還した。モードレッド卿の討伐には向かわずに民を守らんと国に残っていた騎士たちが、帰ってきたアルトリアの姿を見て驚愕していた。これほどに憔悴した姿を配下の前で見せたことはなかったからだ。
臣下を集め、帰還した彼女は現状を説明した。
もうすでに死にかけており、マーリンの手によって延命されていること。
王国が崩壊すること。
残された時間で確執を取り払いに行くこと。
難色を示した者が幾人かいたが最終的には全員が王の命に納得した。
正直に言ってしまえば、現在のアルトリアに戦闘能力は皆無に等しく、謀反や武力で以た抵抗が無かったのが奇跡と言えた。
そしてアルトリアは国民に今回の一件について説明をした。自身の不徳、失態、多くのミスを一切隠さずに全てを話した。これまで国を支えた民に対して、既に崩れ去った信用の為だけに話さないのは不義理になるという理由で。
当然、反感を買った。
騎士たちのように納得してくれるものではない。
自らの生活がかかっているのだから、そうなってしまうのも無理はないだろう。
しかし起こってしまった結末は変えることは出来ない。
自身を恨んでくれていい、せめて前を向いて進んでいってほしい。アーサー王が終わろうともブリテンが終わるわけではない、神秘が消えようとも民が死に絶えるわけではない。
生き抜いてほしい、足掻いてほしいという思いを込めて。
アルトリアには時間がなかった。
次に彼女は、去っていった騎士たちに会いに行った。
アルトリアが出会えた同胞たち全員がまず最初に謝罪をしてきて、彼女は大いに驚いた。全ては私の責にあると考えていたからだ。話を聞けば皆が自らの行いを後悔していた。
自分が去った後に国が壊れたことを。
自分がいれば防げたかもしれないと。
彼女は謝罪を受け入れて逆に謝罪した。国を守ることすら出来ない王ですまないと。それからはもう謝罪合戦になった。
探した果てに出会えた全員と謝罪の応酬を繰り広げていた。
特にトリスタンとのやり取りは酷いの一言だ。
ブリテンの終わりを知り、自らの発言を悔いていて、自決しようとすらしていた。アルトリアは必死になって止めた。
それ以降も簡単にとは口が裂けても言えないが、多くの騎士たちと和解を済ませる事が出来ていた。なんだかんだで彼らからすれば彼女は理想の騎士王だったのだ。
◇
フランス
さて、多くの離反者たちと死に際の時間を過ごしたアルトリア。最後に残すのは最大の裏切者にして親友、ランスロットだけとなった。
本来、最初に会いに行きたい気持ちもあったが、場所が場所だけに後回しにせざるを得ず、気が付けば最後になってしまっていた。
彼が今いる場所は、祖国フランス。
ブリテンとは海を挟んだ向こうにある国だ。
どうしたって時間がかかる。
それでも合わないという選択肢は彼女の中にはあるはずもなく、スピュメイダーという使用者と使用者の周囲にいる人間に飛行能力と雷の力を与える剣を用いて、フランスまで飛んできた。
マーリンの誤魔化しも限界が見え始め、身体の動きが鈍くなってきた為にベディヴィエールを伴っての再会を果たした。
「さて、お久しぶりですね。ランスロット卿」
「えっ、ええ。また、こうしてお会いできたこと、こっ光栄に存じま、す」
そして今、アルトリアの前にランスロットがいる。
すごく気が動転しており、オロオロして円卓最強の騎士だった頃の姿は見る影もなかった。
マーリンの幻術で隠してはいるが、現在の彼女はかなり悲惨な状態だ。本当に生きているのかも不思議な感じではあるが、流石はマーリンの見事な延命術と言ったところか。
大半の騎士はその姿に違和感を覚える程度で、最上位に位置する円卓の騎士たちのみ、彼女の現状を正しく認識する事が出来ていた。
目の前にいるランスロットも同様だ。
隠されてはいるがその内側から覗き見える死者に等しい姿。
かつて、いや今尚も陛下と仰ぎ、理想の王は彼女であるという確信を持つランスロットからすれば、自らの裏切りでこうなってしまったと絶望にも似た感情に囚われるのも無理はない。
そこから始まったのは、アルトリアがカムランの決着から今までしてきたものと同様のモノだ。
騎士として仲間として共に、時代を駆け抜けた親友と喧嘩別れ(大規模)した状態で終わりたくないという思いから発露する。
「へ、陛下っ! 私は……」
「いいのです、ランスロット卿。貴方が何に苦悩しているのかは知っています」
対策その四か五くらい。
バサスロ概念を知っているエリゼから詳細を伝えられ、絶大な信頼を寄せていたランスロットとの間に出来てしまった確執を理解したアルトリア。
彼女からすれば苦しみに喘ぐギネヴィアを救ってくれたことへの感謝しかないが、視点を異なればこうも変わってくるのかと痛感した。
実際にランスロットと会うことで確信できた。
それが真実であるということを。
「私は貴方に罰を与えに来ました。感謝こそすれ裁く気はなかったのですが、貴方は違うようですので」
「あ、ああっ。陛下…………」
どさりと膝を突き、自らを罪人であると認める姿勢を取る。
裏切りから、そこまで月日は経っていない。
であるにも関わらず、ランスロットの心は引き裂かるような『良心の呵責』で軋みを上げていた。
離反からすぐ、モードレッドの叛逆とアーサー王の訃報(ギリギリ生きてる)を聞き、中途半端に許され宙ぶらりんの状態で放置されたこの現状が自身を一生苛み続けるのかと軽く発狂しかけた。
そんな中訪れた、まだ生きているアーサー王との会合。
ランスロットの中にあるのは理想たる王の裁きを受ける事、ただそれだけだった。
「では改めて、サー・ランスロット。貴方には罰を下します。見届けの証人として、サー・べディヴィエールを立てます。異論はありませんね?」
「はっ。不浄なる身、如何な罰も受け入れましょう」
────騎士は王によって裁かれた。
◇ ◆ ◇
Side 隻腕の騎士
陛下は……変わられたと思う。カムランの丘から帰還なされた陛下は、なんというか憑き物が落ちたような、何かから解放されたかのような、そんな表情をされていた。あれ程の傷を負っているにも関わらず何処までも清廉で理想の王を体現していた。
同時に、自らの限界も理解されていたようだ。時間がないと嘯き、やり残しを清算しにいくとお出になられた。そして、最後の旅に陛下は私をお供に選ばれた。
ランスロット卿との再会は……少し気分が弾んでいたように見えます。離反しようと友であることは変わらず、会えたことを喜んでいらっしゃった。残り時間が少なく駆け足での会談となってしまったのが残念でしたね。
陛下はご自身の不調を表に出さないようにしていらしたが、あれでは私どころか鈍感なランスロット卿にすら、隠された姿同様の状態だというのも気付かれていることでしょう。私に託すような眼差しを向けてきたのがその証拠です。
「湖が見えてきましたよ、陛下」
もはや微動だにしなくなった陛下だが、弱々しいながら脈はあった。
「ありがとう、ベディヴィエール卿。では、近くの畔に私を寝かせてください」
私は陛下の言に従い移動して、ゆっくりと馬から降ろし横たえる。
「寝かせましたよ、陛下」
恐らく、もう身体の感覚がないであろう主に報告する。
「助かりました。……最期にいくつか…お願いしても…いいですか?」
「なんなりと、お申し付け下さい」
「ありがとう……まず、預かった品をこっちに……」
陛下の言う"預かった品"というのは、円卓の騎士たちの遺品であったり授かった物のことです。死ぬのなら皆に看取られて……というお願いらしく、存命の騎士から預かり受けたということです。
「失礼します、陛下」
横たわる主の周りに様々な品を配置していく。
太陽の騎士 武勇の証たる帯
湖の騎士 血塗られ墜ちた聖剣
嘆きの騎士 竪琴に使われた弦の一本
聖天の騎士 昇天後に残された白亜の盾
白光の騎士 万象を癒す聖槍の穂先
叛逆の騎士 出自を隠すために被っていた兜の欠片
etc…
「これで……よし。終わりましたよ、陛下」
「そうか……いや、まだ卿のが無いぞ」
「……そうでしたね、失礼しました」
殆ど感覚がないにも関わらず、こういったことはすぐに分かってしまうようだ。
私は、そうですね……では義腕を。
「……揃ったな。ありがとう……ベディヴィエール卿」
「お気になさらず、私は陛下を手助けできて嬉しい限りです」
「ふふっ、相変わらず……だな」
王という名はあるが衣を捨てた影響か、ここ最近の陛下はよく笑われる。私が陛下と呼んでいるのも癖のようなもので、最初はよく否定されていたが呆れられたのか訂正されることはなくなった。
「では……最期に、聖剣を……湖に返してきてほしい」
聖剣……エクスカリバー。湖の乙女より授けられ、幾度も我々を救ってくれた神造兵装、星の聖剣。
アーサー王の象徴にして、キャメロットを体現するもの。それの返還はアーサー王の終わりを意味する。
「承知いたしました、行ってまいりますので暫しお待ちを」
◇
それから2度、陛下に噓をついてしまった。どうしてもアーサー王の終わりを感じると体が動かなくなってしまう。
聖剣を返さず、嘘をつくたびに咎められた……。さすがは陛下、バレバレでしたね。ですが、これで本当に最後です。
「……陛下、聖剣を湖に返還しました。先ほどの偽り、いかようにも罰は受けましょう」
「誇りなさい……貴方は、私の願いを聞き届けてくれたのだぞ? ここまで……よくやってくれました。感謝を、ベディヴィエール」
「滅相もありません、陛下もここまでお疲れさまでした」
「あぁ、私はもう寝る……中々に……大変な人生、だったな……」
その言葉を最後に、周囲を沈黙のベールが包み込む。
「長きに渡る理想の体現、お見事でございます……ゆっくりと休まれますよう」
召喚枠
英霊アルトリアを召喚したいがために、大聖杯くんには頑張ってもらいました。
絆レベル
1ヶ月間、パーティに編成して毎日クエスト消化すれば10くらいは行けるでしょ。(ティータイム等必須)
スピュメイダー
史実のアーサー王伝説においてラムレイ、ドゥン・スタリオンに続く馬として登場しているが、型月世界では剣らしい。
(キャストリア談?)