第二次聖杯戦争から少しだけズレた平行世界での一幕 作:ささのき
母の日スティンガー
父の日コンテンダー
最近Fate/Zeroを読み直して、ネットの反応を漁ってるんだが、やっぱりこの単語が強過ぎるwww
◇◆◇
アインツベルン城 礼拝堂
「切嗣よ。以前にそなた、英霊は"魔術師"か"暗殺者"が良いと申しておったな」
「……聞かれていらっしゃいましたか、お耳汚し失礼いたします」
「構わん。本来は最優である"剣の英霊"を用意する手筈であったが、ついぞ目当ての聖遺物が見つからなかったのでな。そなたの要望通りのクラスで召喚を執り行おう」
「痛み入ります、当主殿」
「ただし、触媒はこちらで用意する。そなたには"魔術師の英霊"を召喚してもらおう」
ここは聖杯戦争の儀式を起こした御三家が一角、ホムンクルスの大家にして聖杯を担う一族・アインツベルンの敷地内。
只人であったはずの傭兵────衛宮切嗣が踏み入ることなど許されるはずのない領域。そこには現当主にして八代目の管理者であるユーブスタクハイト・フォン・アインツベルンと衛宮切嗣、そしてその妻であるアイリスフィールがいた。
切嗣はアイリスフィールを妻に迎えることと、これから先に行われる第四次聖杯戦争にて優勝し聖杯を持ち帰ることを条件に、敷地に踏み入ることを許されているのだ。
そこでの会話。
待ちに待った聖杯の起動。
それに伴うサーヴァントの召喚。
ユーブスタクハイト────アハト翁は英霊の中でも性能的にもスキル的にも非常に優秀とされるセイバークラスのサーヴァントを試みる予定であった。
しかし、時間を考慮すれば十分に見つかる予定であった触媒の未取得に加え、切嗣の魔術師暗殺者発言から予定の変更を行った。
まぁ、見つかったところで、既にセイバーの枠は使用済みである為に出来るはずもないが。ちなみにサーヴァントの召喚を確認する魔術礼装はかなり希少で、聖堂教会以外に所有しているのは間桐の虫爺くらいなものだ。
彼が腕で示すのは祭壇。
いや、その祭壇に鎮座している聖遺物だった。
祭壇の上には、如何にも危ない物ですと言わんばかりに厳重に封印され尽くした箱が一つだけ置かれている。
「この触媒を使えば、例え"最弱のクラス"だろうと聖杯を勝ち取れよう。扱いに多少難はあるだろうが、そなたならば問題なく英霊を使いこなしてみせよ」
「感謝いたします」
「これは、そなたに対するアインツベルンからの最大の援助と思うがよい」
往々に示された上位者としての態度に、膝を突き手を胸に当てて臣下の礼を取る切嗣。
落ち窪んだ眼窩の奥をギラリと光らせ、さらには顔を狂気に滾らせながら目の前にいる二人の男女に対して視線を向ける。
囚われた妄執である人類の救済を手に入れんがために。
「切嗣、そしてアイリスフィールよ、此度こそ第三魔法、天の杯を成就せよ」
「「……御意に」」
向けられる視線を、頭を垂れ了承の意を持って、見ることなく俯いた状態を保つ。
その様子に満足したアハト翁は、一つ頷くと両者を下がらせた。
◇
礼拝堂から離れ、毎日のように使っている自身の私室に妻であるアイリスフィールを連れて戻った衛宮切嗣。
それから程なく、城のメイドであるホムンクルスから届けられた荷物が置かれた机を見て大きなため息を一つ吐く。
「アハト翁にも困ったものだよ。まさかこんな危険物を用意してくるなんてね」
切嗣の視線を釘付けにするのは手元にある資料だった。
アハト翁が用意した触媒、その取扱い説明書のようなものだ。
頑迷な翁は普段ならそんな気遣いする筈もないのだが、先程の扱いが難しいと言った発言からも分かる通り、かなり危ない触媒でありアハト翁からしても、聖杯戦争へ参加する前にやられては困るという考えの下、制作された資料だ。
ただでさえ
「これは、どんな英霊を呼べるの?」
内容を知らず純粋無垢なアイリスフィールは興味本位で切嗣に質問しながら、放たれる邪気に気付かず収められた箱へと手を伸ばそうとする。
「あぁ、アイリ。説明してあげるからそれには近づかない方が良い、危ないよ」
切嗣はさっと彼女の身体を捕まえて、箱とは反対側へ彼女をするりと移動させる。そして与えられた資料の情報を伝える。
「これはね……ラヴクラフトがその友人たちと書いた創作神話、その原本さ」
「ええっ!?」
驚くのも無理はない。通常の神話とは異なる、邪神が主体の物語。そこから召喚されるとなると大半が超常を越えた存在もしくは、想像の埒外にあるような『ヤバい』に分類される奴らばかりになる。
「あれ? ちょっと待って切嗣。確か、これって完全に架空のお話になるんでしょ? 他の神話はテクスチャから剥がれ落ちた失われた歴史って聞いてるけど……」
造られてから時間があった為に城の書庫から得た知識。
ちょっぴり博識なアイリは、創作神話が英霊とは関係ない筈だと語る。
「あぁ、そこからだね。まずアイリも言っていたけど、この創作神話は一から百まで人が考えた物語さ」
煙草を口にくわえた切嗣はお勉強の時間だと言って、軽くこの神話について話し始めた。
「でもね、その架空の存在たちはいたんだ。世界の外側に」
「世界の外側?」
「そう。ラヴクラフトたちは、偶然にも本当に存在する邪神たちのことを想像だけで完全に一致させてしまった」
ラヴクラフトの創作神話。
世間一般にはクトゥルフ神話として知られる作品群。
本来どこまでいこうと架空に過ぎなかった神話だが、一つ異常があるとすればそれは第二魔法が及ぶ範囲からも外れた、この宇宙とは全く関係ない界域にいた存在を言い当ててしまったことだ。
そして言い当てるだけなら大丈夫だった。現実に存在していないも同然の架空に過ぎないもので、天文学的な確率で「繋がる」ことはあっても彼らはこの宇宙に気が付いていないのだから。
しかし知っているだろうか。
聖杯探索の世界で発生した亜種特異点。
幼き少女を邪神の巫女に据え世界を書き換えようとした事件を。
書き換え自体は失敗したものの、邪神の力を持ったサーヴァントであるクラス・フォーリーナーは完成してしまった。
それによって、今まで繋がりはしても気づきはしなかった超常を超えた存在が、この宇宙を認識してしまった。
特異点、並行世界、異聞帯。
どこまで行こうとも所詮は一宇宙の中の話。
宇宙の外側にいる
過去を含めたこの宇宙文明に干渉を始めたのだ。
「第二魔法範囲内で、傍迷惑な誰かが外宇宙に感知される何かをしたのだろう」
繋がった経緯こそ把握していないが、『伝承科』のブリシザンから「禁忌の知識」として大まかな情報は魔術関係者に伝えられており、一定以上の階級に到達している者には閲覧許可が出されている内容となった。
切嗣はその階級に達してはいなかったが、知り合いの伝を頼り調べてもらったことがあるから知ってる。
「そして目の前にある箱の中身は、定義されてしまった外宇宙の情報が書き記された呪物に該当する。だから外宇宙に関わりのある英雄なら誰でも召喚出来てしまう、そんな代物さ」
例え、この原書に記載がなくとも、外宇宙としてその存在を世界に定着させてしまった遺物であるが故に、邪神と関わっていれば誰もが召喚対象になるモノ。
説明を終えた切嗣は、ようやくといった様子で一服をすませていた。話だけでも頭が痛くなってくるような劇物だ。
「そんな危険な物だったのね、大お爺様も焦っているのね」
「だろうね……後、予定していた聖遺物が見つからなかったってのも影響してそうだ」
「セイバー、最優の騎士だものね。それが召喚出来ないとなると生半可なサーヴァントは呼べないってことね」
だからと言って邪神に連ねる脅威を呼び出そうとは、考えはしても実行まではしないだろう。流石は第3次聖杯戦争でやらかした一族といえる。
切嗣はアイリに説明しながらも、これから自身が呼び出す英霊についてを考えていた。
(召喚される英霊…………ファラオ関係ならまだ良い、少なくとも王としてある程度の自制心を持っているだろうし。だが、狂気に魅入られただけの奴らとなってくると最悪は令呪を使ってでも操作していくしかないね。言うことを聞いてくれない道具ほど邪魔なものはない)
いくつものパターンを想定して作戦を練っては解け、練っては解けを繰り返していく。
と、そこへ……贅を尽くした豪奢な部屋に似つかわしくない、軽薄な電子音が二人の会話に、そして切嗣の思考に割り込んできた。
「あぁ、ようやく届いたか」
そして切嗣は先ほどまでの思考を一度止めて、送られてきた書類──情報屋の知人に頼んで作らせた聖杯戦争参加者についての情報が記載された書類──の精査をすることに切り替えていった。
◇◇◇
アハト翁から触媒を下賜されてから数週間。
ここ数日で立て続けに外部の魔術師が続々と冬木入りしていると報告を受けた切嗣は、ある程度の準備と参加者以外で危険な魔術師の対策などを取り、いよいよ召喚の刻となった。
彼は礼拝堂の祭壇に触媒を載せて、その手前の床に簡素な召喚陣を描き込んでいた。
「こんな単純な魔法陣で大丈夫なの?」
その魔法陣を見たアイリスフィールは、自身が今まで見たことのある大儀式用の術式陣に比べてあまりにも簡素な召喚陣に切嗣へ疑問を呈した。
何せ聖杯戦争というアインツベルンの歴史そのものともいえる大規模な儀式であるのに対して、その要となるサーヴァントを呼び出すのが、簡易陣とくれば疑いたくもなるのだろう。
「拍子抜けかもしれないけどね。サーヴァントの召喚には、それほど大がかりな降霊は必要ないんだ」
水銀と術者の血という特別な素材を使わない普遍的なモノで描いた紋様に、失敗がないか確認しながら、切嗣は未だ無垢な彼女へと説明していく。
「実際にサーヴァントを招き寄せるのは術者ではなく聖杯だからね。マスターは、現れた英霊をこちら側の世界に繫ぎ止め、実体化できるだけの魔力を供給さえできれば問題ないんだ…………うん、問題ないね」
その通り。
基本的には大聖杯が触媒から英霊の選定、召喚と一手に引き受けてくれる。マスターがやることと言えば、軽く召喚陣を描いて呼び出すだけだ。
エリゼの地下空間のような仰々しい儀式場なんて、本来は必要なかったりする。
まぁ彼の場合、特殊な事をしようとしているので例外なのだが。
描き終えた召喚陣を眺め、ミスが無いことを確認した切嗣は一つ頷き立ち上がる。
彼の目線の先には、今なお悍ましい雰囲気を垂れ流す呪物。
召喚陣と触媒。
両者に問題がないことを理解した彼は英霊の召喚に挑む。
「さあ、これで準備は完璧だ」
◇
間もなく切嗣は詠唱を開始した。
魔法陣が光り輝いていく中、自身の内にある魔術回路が焼けるような感覚を味わいながらも、彼は呪文を集中していく。固唾をのんで見守るアイリスフィールも、祭壇にて召喚を切望する邪神の書も、今だけは切嗣の思考に介在する余地はなかった。
そして…………
「────抑止の輪より来たれ、天秤の守り手よ!」
切嗣がサーヴァント召喚における最後の一節を唱え終えると同時に、召喚陣は目を開けられぬほどの極光を放ち、近くにいた全員の目を閉ざす。
瞼の上から焼くような輝きが落ち着きを取り戻し目を開けば、召喚陣の上、切嗣の目の前には一人の大柄な男が居た。
「問おう」
甲高く、それでいて細く柔らかい声が切嗣を貫いた。
だが、それ以上に彼は感じていた。
この男から感じる外道の気配を、絶対に気を許してはならない存在特有の悪魔のような雰囲気を。
「我を呼び、我を求め、キャスターの
ジル・ド・レェ。
呼び出されたサーヴァントの名前。
中世フランスにて、聖処女ジャンヌ・ダルクとともに戦争を駆け抜けた軍師にして騎士。そこだけ聞けば立派かもしれないが、使われた触媒は邪神の書。ならば呼び出される側面は青髭のモデルとなった怪人だろう。
ジャンヌの処刑以降、狂気に身を宿し誘拐した少年を陵辱し惨殺するようになった悍ましい下衆に成り果てた愚人。
キャスターの真名を聞き、悍ましい気配からその在り方を理解した切嗣の判断は非常に早かった。
「僕がお前のマスターだ。名前だが【令呪を持って道具に命ずる。自意識、思考を希薄せよ】」
「っ!? なんと…………」
切嗣がマスターであると認めると同時に互いに契約が結ばれる。直後に彼は躊躇う事なく令呪を一画使用し、不意を打ちキャスターに楔を設けた。
この狂い果てた存在は、喋るだけで周囲を壊すと判断したからだ。
そして二の句を告げることなくキャスターは動かなくなった。
「はぁ、外れ……か」
完全に沈黙したのを確認した切嗣は、大きなため息とともに意気消沈した様子で近くの椅子へと腰掛ける。
そんな彼を見たアイリスフィールはすぐに駆け寄り、励ましに似た声を掛ける。
「元気だして切嗣? 大丈夫よ」
「大丈夫なものか。ジル・ド・レェ、確かに『螺湮城教本』……盟友フランソワから譲り受けたイタリア語訳の『ルルイエ異本』を持っているから触媒とは一致するだろう。だが、こいつは聖女が処刑されたことがきっかけで狂い殺人鬼に堕ちた反英雄だ。軍師時代ならまだしも、なんだってこんな奴が召喚されるんだ」
愚痴を一息に吐き出し、一画使用され残り二画となった手の甲にある令呪を見る。
(咄嗟だったとはいえ令呪の使い方も悪かった。あんな命令じゃ、一日も経てば効果が切れてしまう。何とか別の対抗策を用意しないと)
令呪は具体的で期間が短ければ短い程、効力がアップする。
何処まで言っても魔力の塊でしかないのだから、効果時間を圧縮すれば当然のことだ。
しかし今回の命令は明瞭な期間が定められていない不安定なモノだった。
故に、御三家名代として令呪についての資料を読み込んだ切嗣は、自我の封印が長く続かないことも理解している。
「最初から完全に道具と割り切って使っていくしかない。最悪、使い潰して他人の英霊を奪うって手もある。それにサーヴァントが無くても魔術師は殺せる」
召喚された英霊を貶しながらも、しっかりと戦略を組み立てていくのは、長年傭兵をやって来た経験と言ったところか。
切嗣の目的はあくまで聖杯の獲得。
別に聖杯戦争の参加者であり続ける気は必要はない。
勝者が決まった後に、そいつを殺せば自分の勝ちだと言えるぐらいには彼の覚悟はキマっている。
「さっそくだけど冬木へ行こうアイリ。令呪が有効な間に使い潰してしまった方が、むしろ相手の隙を作れるかも」
「えっ、もう行くの! ていうか、今日!?」
これからの方針が確定して、時間が有限になった切嗣は自らの妻であるアイリスフィールへすぐに支度を済ませるように告げた。
その後、本当にその日のうちにアインツベルンを出立し冬木入りした彼が聞いたのは、英霊七騎の召喚が確認され聖杯戦争が幕が開けたと教会から発表されたこと。御三家の一つである遠坂家が呼び出した黄金のサーヴァントの手によって、アサシンがやられたという報告だった。
彼が最も警戒していた神父、言峰綺礼が召喚したサーヴァントだったらしく、アサシンがやられてすぐ聖堂教会に保護してもらったという。この一件で彼は教会に対して不信感を募らせる事となる。
もとより信用してはいなかったが。
◇◆◇
そこは冬木の廃工場。
周囲一帯も同様で、この区画に堅気は誰も立ち寄ることは無いと言われる工業地区。
こんな辺鄙な場所に来る人間はどちらかと言えば裏側に住まう住民で、後ろめいたことに使うのは明白だろう。
ホラースポットにすら選ばれない危険な場所には何故か人影があった。
「うーん? 同じ日本語なのに言葉が古すぎてわっかんねー!」
彼の名前は雨生龍之介。
職業はフリーターで、
Fate/Zeroにおいてキャスターを召喚したマスターになった人間だ。
この世界では、エリゼが枠を喰うようにセイバーを召喚し、余った切嗣の所にキャスターが割り振られた結果、普通の殺人鬼として冬木にて活動する人間的に見ても魔術師的に見てもアウトな存在になっている。
原作と同じように実家から古文書を見つけた後、書物から読み取れた情報を基に何人も殺して、素材として活用している。
今日もいままでと同じように、殺した人間の血液を利用して下手くそな魔法陣を描いていた。
「血ってノリは良いけど量が少ないよな~」
冬木入りしてから幾度目かの挑戦だ。
殺す際に、派手に出血させたり殺し損ねて無駄な血が零れたりで、うまい具合に血液を採る事が出来ずに召喚陣を描き切れなかった。
しかし何かしらを招来する魔法陣という、マンネリを解消してくれる存在のおかげで今日も飽きることなく、殺人を楽しんでいた。
だがそれも終わりを迎えることになる。
「ようやく見つけました」
龍之介以外に生者は居ないと思われていた空間に、人の声が響き渡る。
そして現在においても生者は龍之介以外には存在していない。
何故か。
「ん、誰だぁ?」
龍之介が声の聞こえた方へ顔を向ければ、そこには
「この剣を用い暗殺という手法で魔女を殺しました。アレは明確な悪であったとはいえ、あまり思い出したいことではありませんね」
影から出てきた存在は、一目で見れば蒼銀の鎧を身に纏った麗人。手に持つ剣は星の輝きを示す聖剣ではなく、純白の柄に、どこか曖昧で仄暗い印象を受ける漆黒の刀身を持つショートソード。
龍之介は知るはずもないがサーヴァント。
現代を生きる生者にあらず、呼び出された死者なのだから。
「なぁ! あんた、いま影から出てこなかったっ!? …………マジかよ、さいっこうにクールじゃね?」
龍之介は手に持った古文書をひらひらとさせながら、いきなり現れた存在に話しかける。
あったらいいな、ぐらいにしか認識していなかった超常現象を目の当たりにして、彼は興奮を隠さなかった。
「もしよければさ────あれ?」
「外道と言葉を交わす気は無い」
頬と指を血で濡らした男とその足元で解体されている死体を認識した騎士は、龍之介には反応できない速さで距離を潰した。
唐突にいなくなったと思ったら目の前にいた。
彼視点ではそう映るだろう。
…………もっとも、それよりも遥かに大変なものが、
(あれ? なんで、浮いてるんだ?)
走馬灯のようにゆっくりと視界が動いていく、そして見つけた首の無い身体。あれが、自身の身体だと思うのにもそこまで時間はかからなかった。
(うっわー、スゲー綺麗な断面……紅いなぁ)
掠れゆく意識の中、見えた光景は死に美学を持つ彼にとって最高のものだったのだろう。
どさり、と崩れ落ちる身体。
べちゃり、と転げ落ちる首。
稀代の殺人鬼として、世間を恐怖で震わせていた雨生龍之介はその生を瞬く間に終わらせることになった。
それを成した実行犯は首と胴が別たれた死体を一瞥し、次いで原型の無い被害者へと目を向けた。
「謝罪しましょう。もう少し早ければ貴方を救えたのかもしれません」
刀身に付着した血を振り払い、犠牲となった市民へ黙祷を捧げた。
「さて、目的は達しました。十中八九アサシンも生きているでしょうし、ここで無駄な時間を過ごす必要もないですね」
漆黒に染まった小剣を携え、来た道を引き返していく。
歩き辿り着くのは何もない工場の一角、しいて言えば影が他の場所よりも多いくらいだろうか。
「真名解放、《
自らが持つ宝具の真価が発揮する。
漆黒の刀身からどろっと零れ出した黒い影が、強い粘度を持たせてながら地面へと落ちていく。そして地面の影と溢れ出る影が触れると実体のなかったはずの地面の影が波立ち始める。
揺れる影の真上にいた彼女────セイバーは呑まれるように沈んでいく。それに対して一切の動揺や感慨を向けずに開け放たれた天井から空を見る。
「始まるのですね、聖杯戦争が」
彼女のマスターから告げられた全マスターの冬木入り。
サーヴァントの召喚も済まされ、これより繰り広げられるは英雄たちによる戦争劇。
呟いた言葉を最後に、完全に影に呑まれて消える。
ある方向に向かって影が波打つように揺れ、次第にそれもなくなる。その場に残されたのは、二つの物言わぬ死体だけだった。
◇◆◇
《
・ランク:A
・種別:対人宝具
・レンジ:1
・最大捕捉:1人
使用者を影に潜ませる忌剣。
潜影中は気配遮断:A相当の隠蔽効果をもたらす。
セイバーが生前に魔女殺しで用いた短剣。影に隠れるという騎士として相応しくない動きしか出来ない為、あまり好んで使うことは無い。
・ジル・ド・レェ
セイバーがエリゼに行った都合上、スライドされた。
召喚された直後に何もする事が出来なくなった可哀想…でもないや、凄く残当な人。
・雨生龍之介
聖杯戦争に関わらなくとも冬木には来る。
残しておいても面倒なだけだったので作者の都合で死んだ可哀想…でもないや、普通に消された残当な人。
キャスターに関しては、本来ならその触媒で呼べないだろとか、契約者との相性なりで呼べないだろとかあると思うんですけど、こいつを呼びたかっただけなんですよ。
許して?
ようやく始まりますよ、聖杯戦争!
評価感想ありがとうございます!