第二次聖杯戦争から少しだけズレた平行世界での一幕   作:ささのき

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ここまで長かった。

評価感想ありがとうございます。


第5話 聖杯戦争、最初の戦い

 

 

◇◆◇

 

 

 聖杯戦争が始まる一か月前。

 即ち、生霊であるアルトリアが退去した直後の話。

 

 アルトリアの崩れた魔力が全て真下の陣に吸収される。

 

 描かれた召喚陣は鳴動する。

 それに繋がった地下全域に描かれている大魔法陣は、共鳴して空間そのものを揺らし始める。

 

「よし。再召喚と行きますかっ!」

 

 自らの手甲に刻まれたままの令呪や、今か今かと再召喚を催促せんと脈動が加速する召喚陣を見たエリゼブラッド・アルス・ワーグナーは、未だ聖杯戦争から敗退したわけではないと確信を得て、再びのサーヴァント召喚を試みる。

 

「素に銀と鉄。礎に石と契約の大公────」

 

 

 

 さてここで一つ解説を挟むとしよう。

 

 以前の話で割愛した、地下空間にびっしりと描き込まれた巨大な魔法陣について。これの効果は酷く単純だ。

 

 

 召喚するサーヴァントの土地補正を最大にする。

 

 

 これだけである。

 サーヴァントの強さは土地、知名度、マスター(魔力)で決まる。

 

 アルトリア・ペンドラゴン。

 アーサー王伝説として彼女の知名度は聖杯戦争の舞台、極東の田舎である日本でも非常に高い。

 そして彼女に供給される魔力も、マスターであるエリゼから与えられる一級品となる。

 

 これだけでも十分に強いのだが、如何せん土地が悪すぎる。

 聖杯は西洋の術式であるという都合上、東洋の英霊は呼べないので日本が舞台であれば、大半のサーヴァントは公平に土地の補正を受ける事が出来ない。

 

 原作においても第五次にてクー・フーリンが「日本でなければ城や戦車を引っ張ってこれた」旨の発言をしていることからも、大事なピースであることが伺える。

 

 通常霊基という上限こそ設けられているものの土地は日本。伝説の舞台であるイギリスとは星の反対側である。知名度と魔力の二つでは8割は引き上げれても、それ以上が難しい。

 

 そして今回の相手。

 召喚されるサーヴァントが原作と同じであれば、脅威となるのはイスカンダルとギルガメッシュになるだろう。英霊として覚醒したアルトリアだとライダーには十分勝てるが、ギルガメッシュ相手には不安を覚える。

 

 というよりも、ギルガメッシュは最強が過ぎるのでどれだけ準備しても満足などできるはずもない。

 

 以上の点から、サーヴァントの能力を極限まで高める為に召喚陣を利用した、ぼくのかんがえたさいきょうのさーばんと『アルトリア・ペンドラゴン』が必要になってくるのだ。

 

 

 場面を戻して。

 

 

「────抑止の輪より来たれ。天秤の守り手よ!」

 

 一度目に召喚した時と同じように、されど今度は接続された地下空間全てから極光が放たれた。

 

 そして彼は()()()をついた。

 

 運命構図。

 

(形から入るのは大事って言うからね!)

 

 流石はFateフリークなだけはある。

 端的に言って阿呆だ。

 

 極光の影響で目蓋越しにも焼かれるような感覚をエリゼは覚える。

 その全てが落ち着いた後、彼の目の前には間違いなくこの一か月の間みてきた姿。それでいて強烈な王威を纏わせた存在が居た。

 

「────問おう」

 

 明瞭な喉から響く美しい声音。

 

 エリゼは見上げるように呼び出したサーヴァントを見る。

 英霊は自らを呼び出した魔術師へと目を向ける。

 

「貴方が、私のマスターか?」

 

 お決まりのマスターとサーヴァントの契約を結ぶための問いかけ。しかし、それはあまりにも事務的で簡素なものだった。

 

「そうだ。オレが君のマスターだ」

 

「ここに契約は成立しました。サーヴァント、クラス・セイバー。我が剣は汝の為に振るいましょう」

 

 エリゼからすれば、どこまでもこの一か月共に過ごした彼女であると理解はできる。

 英霊となることで若干の雰囲気の変化はあるが、間違いなく彼女のままであることは認識できた。

 

 それでいて、この反応。

 エリゼは一つ疑問を持って彼女へと声を掛けた。

 

「セイバー、少し聞きたいことがあるんだけどいいかい?」

 

「ん? 何でしょうかマスター」

 

 マスター。

 聖杯戦争の相棒と言う意味では問題ない呼称。

 

 しかしこの一ヵ月、彼女がエリゼをそう呼んだことは無い。

 

 その呼び方からある程度、察しのついた彼は確信を得るために言葉を繋ぐ。

 

「変なことを聞くけどさ、オレたちって初対面か?」

 

 その言葉にセイバーはきょとんとして、その後何かを思い出そうとする仕草を見せるも、思い浮かばなかったのか頭を振って視線をエリゼへと向ける。

 

「ええ、初対面のはずです。しかし、何故か貴方を見ると、心の奥底から溢れそうになる感情があります。記憶を辿っても私は貴方とは会っていないはずなのに…………」

 

「そうか、なら仕方ない。改めて君のマスター、エリゼブラッド・アルス・ワーグナーだ。エリゼと呼んでくれ」

 

「よろしくお願いします。エリゼ……エリゼ。ふふっ、良い名前です」

 

 エリゼ。

 この名前を口にすると何故か温かい感情に晒されるセイバー。彼女自身もこの温かいモノを受け入れるように、何度か言葉に出した。

 

「それはありがとうだな。さて、君の名前を教えてくれるかい?」

 

「はい。私の名前はアルトリア・ペンドラゴン。お好きなようにお呼びください」

 

「分かった。では人目が無い場ではアルトリア、第三者が居る場ではセイバーで通すよ」

 

 互いの自己紹介も終わった二人は地下の大儀式場から出た。

 

 ちなみに、特殊な召喚陣による土地補正の効果は成功だ。

 宝具やスキルが通常のそれを遥かに凌駕する凄まじいラインナップとなっている。

 

 彼らは儀式場から出て城内へと戻った。

 

 道中アルトリアは物珍しいといった様子を見せながらも、常に懐かしさを感じておりどこに何があるのか、この扉はどこに繋がっているのかが何となく分かるという不思議な現象に襲われていた。

 

 エリゼはそんな彼女を横目で見つつ、事態を把握していた。

 

(英霊召喚における記憶の調整か)

 

 英霊の座には時間軸の概念が無い。『聖杯戦争に呼ばれたが、既にその結末を知っている』なんて矛盾が起こらないようにある程度、サーヴァントとして持っていける記憶がアジャストされる。

 

(だが、あの時のアルトリアは生前の状態で召喚されている。なら生前の知識として普通に覚えているはず。だが現に彼女はオレや一ヵ月間過ごしたこの国のことを覚えていない)

 

 記憶は無いが身体は覚えている、という言い方が正しいのかは不明だが彼女の様子を見れば、完全に消されたわけではないと理解できる。

 恐らく英霊の座にいる本体記憶は、あの一ヵ月を記録としてではなく記憶として保持しているはずだ。

 

(ならば可能性は一つ、抑止力が記憶に干渉した。1000年前の英雄が聖杯から与えられる現代の知識とは異なる記憶を持って召喚されるのを良しとしなかったんだな)

 

 これから先も、もしアルトリアが召喚されるようなことがあったら、抑止力の干渉を受けてエリゼとの思い出は消された状態になるだろう。

 

(やってくれたな、抑止力。もし会うことがあったら絶対しばいてやる)

 

 悪態をつきながら、彼は思案する。

 本来なら記憶保持アルトリアと色々と連携を組んでするはずだった作戦の一部修正に加えて、願いの変化やお互いの価値観の共有などを改めてしなくてはいけなくなった。

 

 言ってしまえば、やるべきことが増えた。

 

(受肉だけじゃダメだな。聖杯の願望機としての機能を使う必要が出てきた)

 

 

 元々、彼らの計画はサーヴァントを一、二体倒した段階で小聖杯であるアイリスフィールより英霊の魂から抽出できる魔力を徴収し、それでアルトリアを受肉させる腹積もりだった。

 

 アンリマユが潜むのは大聖杯。英霊の魂を回収する小聖杯の段階では、まだその莫大な魔力は無垢のまま。詰め込まれる魂が多くなれば、徐々に大聖杯から干渉が始まり最終的にはFate/Zero最期の、泥が溢れるアレになる。

 

 なので早い段階で魔力のみを抽出して、Fata/Prototypeで行われた【令呪三画を消費したサーヴァントの受肉】を再現しようと考えていた。

 アルトリアなら竜の心臓より、無尽蔵の魔力を生み出せるので受肉以降も人喰らいなどしなくて済む。

 

 そも霊的存在に実体を与えることは、そこまで難しいことではない。

 普通に時計塔の降霊科(ユリフィス)で学ぶ事が出来る。

 ただ、サーヴァント級の存在を現世に実体ありきで縛りつけるとなると、一個人ではどうしようもない程の魔力と複雑な魔術式が必要になってくる。

 

 

 燃料は抽出した無垢の魔力、術式は魔術の結晶である令呪。

 これら二つを用いることで聖杯の願望機としての機能を使用することなく、サーヴァントの受肉が可能となる。

 

 

 

 だが、この召喚で分かった英霊アルトリアの記憶制限。

 

 あの一ヵ月の記憶が無いアルトリアは、少々エリゼには堪えた。表面上こそ取り繕っているが精神的ダメージは大きい。

 思い出してもらわないと困る。

 

 しかし聖杯はアンリマユに汚染されている。

 彼が考えるような願望機としての機能は使えないはずなのだが、エリゼが持つ()()()を行使すれば正常に機能させられる。

 

(身体への負担を考えれば止めた方がいいが、四の五の言ってられないしな)

 

 魔術回路、魔眼、属性、黄金律など、彼は多くの才、力を持ち合わせているが、その中でも究極的なモノが今言った『奥の手』なのだ。

 

 しかし、それを用いて聖杯を正常に使おうということは、もう一つ問題点が出てきたことを意味する。

 

 即ち、聖杯戦争に勝利すること。

 先ほどの案は勝者にならずとも、ある程度勝ち抜けば受肉して逃げることも視野に入れる事が出来た。

 

 しかし聖杯の機能はサーヴァントが七騎、またはそれに匹敵する量の魂が集まらなければ発動しない。『奥の手』で、発動した大儀式の最終工程を“()()”することは出来ても、まだ形になっていない魔術では無理だ。

 

 七騎分の英霊の魂を焚べる。アルトリアを抜いてとなるとギルガメッシュを倒す必要がある。

 とても難題だ。

 

 かの王が不機嫌でテンション低めの慢心王状態ならまだしも、そうでなければ倒すのは非常に困難を極めるだろう。

 それでも不可能でない当たり、英霊アルトリアのポテンシャルは高いのだ。

 

 

「ま、こうなった以上は仕方ないか。ある程度の道筋を決めたら臨機応変に行こう」

 

 まずは勝つことから。

 余計な考えは勝利した後でも出来る。

 

 

 そうと決まれば。

 

「アルトリア。聖杯戦争まで大体一ヵ月くらい猶予があるから、その間に戦略、戦術のすり合わせをしておこう」

 

「あっ。分かりました。けど、助けてください!」

 

 彼が声をかければすぐに返事が返ってくる。

 しかし、その声音は戸惑いと僅かな焦りが見られた。

 

「この後お茶でもしませんか?」「あれ、雰囲気変わった?」「押したら行けそうじゃない、今のアルトリア様」

 

 ワーグナー家に仕えるメイド複数人に言い寄られているアルトリアがそこに居た。滞在中は霊体化出来なかったので当然ながら、メイドたちには存在を周知されている。

 

 しかし再召喚のことは伝えていないので、彼女達からしたら目の前のアルトリアはこの一ヶ月過ごしたアルトリアと同じであることは変わらないのだ。

 

 再召喚前のアルトリアであれば華麗に受け流す事が出来ていたが、英霊アルトリアは召喚されてまだ一時間と経っていないので難しいようだ。

 

「あー、君たち。アルトリアとは話があるんでね、終わったらオレの部屋に頼むよ」

 

「エリゼ!?」

 

 救援を求めるアルトリアを無視して、いつも頑張ってくれるメイドを労る主人の鑑。

 

「はーい!」「やっぱり押したら行けるって」「次期当主公認きたこれ」

 

 メイドの荒波に呑まれていくアルトリアを見送ったエリゼは、うんうんと頷き自室へと戻っていった。

 

 これから過ごしていくのだから早いうちに慣れてもらわねば困る。

 

 

 

 ◇◆◇

 

 

 

 一ヶ月後、第四次聖杯戦争が始まった。

 

 現在エリゼたちが拠点としているのは、未遠川で東西に分けられる冬木市の東側、通称『新都』の一角。

 

 そこの双子館だ。

 第三次聖杯戦争においてエーデルフェルト家が建てた館だが、当時の双子当主は非常に仲が悪く、冬木市の西側『深山町』にも同一の作りの館が存在している。

 

 第三次以降、魔術協会に売り払われた館はしっかりと管理されてきており、人一人住んでいない割に綺麗だった。

 

 ある程度魔術で整備すれば問題なく使えるようになった。

 

 

 ◇

 

 

 エリゼは自国スイスにいる間も、時計塔に所属させている家の者から情報収集をしており、アルトリア召喚以降も連絡は欠かさなかった。

 そして再召喚からアルトリアが城に完全に馴染み、普通にグータラ食事生活を始めそうになった頃、ようやくケイネスとウェイバーが動き出したという報告を受けた。

 

 速攻で冬木に向かい拠点を形成し、ついでにアルトリアに龍之介を討伐させたのが昨日の夜。

 

 では現在、何をしているのか。それは────。

 

 

「エリゼ、ここは本当に賑わっていて、それでいて綺麗ですね。多くの人が行き交っているのに道路はゴミ一つ落ちていない」

 

「冬木市で新都の顔と言われるくらいだから。確か、清潔な街並みがモットーだっけ?」

 

 デートである。

 

 新都で有名なデートスポットの一つである駅前パーク。

 大型百貨店ヴェルデ、ブティック、ボウリング場が並び、その賑やかさは冬木随一とされている。

 

 一昨日に遠坂家の茶番劇が起こったことを見るに昨夜は静観。痺れを切らしたランサー陣営が、挑発がてら気配全開の練り歩きを敢行するのが今日であると推察したエリゼは、セイバーVSランサーは見てみたいということで、順序を立てるために外で活動しているのだ。

 

 決してアルトリアとデートがしたかったからではないと、ここに明記しておく。

 

 外人のイケメン()()&金髪碧眼の美少女が着飾って街を歩く姿は非常に目立つ。SNSがそこまで発達していない時代だからこそ、拡散されることは無かったが彼らは現在パークに遊びに来ていた人達から注目の的だ。

 

 エリゼは当然だが橙子謹製の大人ボディで、一応ワーグナー家の血筋という次期当主であることは隠して偽りの身分で参加している。

 

「それでは夜まで遊ぶということで良いのですか」

 

「それでいいよ。基本的に神秘の隠匿の都合上、主戦場は夜だ。それにこの状態を狙われても君がいれば、何も問題ないだろう?」

 

「そ、そうですね。私に任せてください!」

 

 そうして二人のデートは幕を開けた。

 

 ヴェルデというショッピングモール内で複数のテナントを梯子したり、外に並ぶキッチンカーでクレープを食べ合ったり、ブディックでアルトリアが着せ替え人形になったりなど。*1

 

 ◆

 

 半日かけて歩き回り、お互い共に十二分に楽しむ事が出来たデートになった。最後はボウリングで締めようと会場で交互に投げ合っていると…………。

 

「……っ……あっ!」

 

 アルトリアが戦う者特有の身体操作にものを言わせた、実に堂の入った投げでストライクを連発し、初挑戦だというのに次のセットでパーフェクト達成というタイミング。

 

 投げる直前、何かに反応したかのようにびくりと震え、そのせいでブレたボールは無軌道を描きガーターへとガコッと突っ込んだ。

 

「…………何かを感じたかい?」

 

「うぅ、はい。気配全開の、恐らくは挑発の意も込められた類のそれを感じました」

 

「そのせいでミスっちゃったか」

 

「あう。い、言わないでください、恥ずかしい」

 

 騎士でありながら、敵の気配一つに身体の制御を乱したことを恥じるように顔を真っ赤にしているアルトリア。

 それを軽く笑うエリゼ。

 

「じゃあ、デートはここまでか。随分と満喫しちゃったな」

 

「とても楽しい時間でした」

 

 お互いに非常に満足のいく一日の過ごし方が出来たようだ。

 しかし、まだ今日という時間は終わっていない。

 

「行こうか、セイバー」

 

「ええ。勝ちましょうマスター」

 

 魔術師の顔、騎士にして王の顔。

 カチリと切り替わった表情からは先程までの緩い雰囲気は一切感じられず、そこに居るのは間違いなく、戦争に挑まんとする覚悟を決めた者だった。

 

 

 

 ◇◇◇

 

 

 

  冬木 倉庫街

 

 

 中天に根差した太陽は沈み、夜の帳が幕を下ろす時間。

 ある魔術師によって張られた結界により一般人が寄り付かず、ただ静寂が支配するそこには二つの人影があった。

 

「よくぞ来た。今日一日この街を練り歩いて過ごしたものの、どいつもこいつも穴熊を決め込むばかり。俺の誘いに応じた猛者はお前だけだ」

 

 長さの異なる二振りの槍を持つ男は、銀の鎧を身に着け青のマントを棚引かせる眼前の女英霊へと声を掛ける。

 

「その清澄でありながら洗練された闘気、セイバーとお見受けしたが……如何に?」

 

 朝から冬木市全体を気配全開で歩き回ったサーヴァントは、ようやく釣れた敵陣営に喜色の笑みを向けながら問いかける。

 それに対し、接触を図った側のサーヴァント────セイバーのアルトリアは、《風王結界(インビジブル・エア)》で透明状態にした抜き身の剣を両手で構えた。

 

「如何にも。そう言う貴公はランサーで相違ないな?」

 

 アルトリアからの問いかけに双槍を二刀流で構えることで、言葉こそ無いが自らをランサーとして認めた男。

 

 互いにセイバーとランサーであることを認識した事で周囲の空間に緊張が走る。

 

「尋常な勝負の前に名乗りを上げることが出来ないのが少々心残りではあるが……これも聖杯戦争の醍醐味、か」

 

「そう悲観することもないでしょう。名乗り合わずとも武を競えば、自ずと分かるというものです」

 

「ほう、そうか……であれば、一合手合わせ願おう」

 

「いいでしょうマスターからも許可もあります。真っ向勝負と行きましょう」

 

 お互いに武器は構え合っている

 高まり、張り詰めていく空気が溢れかえる。

 

 瞬間────。

 

「ハッ!」

 

「セイッ!」

 

 二人の姿は掻き消え、その中間地点にて火花が散る。

 

 第四次聖杯戦争、最初の戦闘が始まった。

 

 

 

 ◇

 

 

「失礼。貴方はランサーのマスターでよろしいですか? ロード・エルメロイ」

 

 多くの倉庫が建て並ぶ場所で、現在セイバーとランサーが相争う地点を見下ろすことが出来るコンテナの上。 

 視覚、聴覚、魔力を欺く隠蔽術式を施し、両者の戦いを観ていた魔術師にふと、声がかかる。

 

「…………ふむ。即席とはいえ、私の魔術隠蔽を看破するとは見事だ。賞賛を以てその問いに応えよう、私がランサーのマスターだ。君は誰かね?」

 

 不意のように掛かったそれに一切の動揺を示すことなく、鷹揚に応えるのは時計塔の若き天才。最年少で色位(ブランド)の地位に就いた実力派、ケイネス・エルメロイ・アーチボルトその人。

 

 人は彼をロード・エルメロイと呼ぶ。

 

「セイバーのマスターです。プライベートが関わりますので、名前は控えさせていただきますが、ワーグナー本家の縁戚とだけ」

 

 空間が砕けるように割れるとそこにはケイネスの姿があった。そしてケイネスから少し離れた場所。

 空間から徐々に浮き上がるかのように姿を見せるのは、大人体のエリゼだ。

 

 お互いが不要と判断したことで両者の姿が世界に映る。

 

「ほう。永世中立国における代表魔術貴族ワーグナー、その血筋がまさか斯様な魔術儀式に参加されるとは」

 

「それを言ってしまえば、貴方も同じ穴の狢になってしまいますよ、時計塔の最高権威殿?」

 

 エリゼの発言に機嫌を悪くしたのか、ケイネスは顔を顰め腕を組んだ。

 

「フン。私は箔をつけるために参加したのだよ。聖杯などという俗物に興味は無い……それで、一体何の用かね?」

 

「いえ、聖杯戦争とはマスターと使い魔(サーヴァント)が揃って初めて陣営と言えます。使い魔同士が戦闘を開始したのですから、マスター同士でも戦っても問題はありませんよね」

 

「…………なるほど、一理ある。よかろう、隠蔽を見破った点からも君は一定以上の魔術師だ。私が直々に相手をしようではないか」

 

 エリゼから発される魔術対決の提案。

 情ではなく合理で説かれ、それを承諾した。

 

 

 何故エリゼが原作には無い事をしようとしているのか。

 

 Fate/Zeroの話では、終始ケイネスは切嗣のやられ役としか描写されていない。しかし後続の作品が出回る毎に、彼の魔術としての実力の高さが分かるようになるのだ。

 

 エリゼは思った。彼の実力を生で知りたい、と。

 純粋にそれだけ。

 

 それに現在の彼はまだ強いとは言えない。いや、一般的に見れば十分に優秀だろう。しかし強者よりも上の存在に並び立てるかと言われるとノーと答える他ない。

 

 だからこそ、型月世界にでも最上位の魔術師として知られるケイネスを理解し、得るものがあれば成長も一押しだろうと考えた。

 

「それでは、神聖なる魔術の決闘を始めるとしよう」

 

「ええ、胸を借りるつもりで挑ませてもらいますよ」

 

 両者から放たれた言葉はそれぞれの魔術を起動させる。

 

大気よ(Luft,)我が声に応えろ(stimma folgen)!」

 

沸き立て(Fervor,)我が血潮(mei Sanguis)

 

 互いに魔術師による決闘という範囲ではあるものの、マスター同士の戦闘も幕を開けた。

 

 

 ◇◆◇

 

 

*1
詳しく書きたかったけど、いつまで経っても聖杯戦争が始まらなそうだったのでスキップ。もしかしたら、番外編で書く可能性もあったりなかったり





・英霊アルトリア
詳細はその時々で紹介する予定。
今のところ、マジ最強ぐらいの認識で大丈夫。
残念ながら抑止力の影響で『抑止力と契約してからエリゼに出会い過去を終わらせる』までの記憶が無い。


・ケイネス・エルメロイ・アーチボルト
アーチボルト家9代目当主にして若くして色位(ブランド)の階位に到達した、時計塔の鉱石科(キシュア)の君主。
経歴を見れば分かる凄い人やん。
近い将来死ぬことが確定している。


・マスター同士の決闘
最高位の魔術師が真っ当に戦うシーンってあったか? と言わんばかりに魔術師殺しが暴れ散らかしていたので、今作では出番が与えられた。


・エリゼ
現在7歳の最年少マスター。使用している肉体は20代。
今の実力は純粋な魔術師としては典位(プライド)の下位相当。
奥の手含めた使えるもの全て使えば…………。
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