第二次聖杯戦争から少しだけズレた平行世界での一幕 作:ささのき
複数のキャラクターが入り乱れる様を書くのってめっちゃ難しい。
評価感想ありがとうございます!
◇◆◇
「おおっ!! ジャンヌッ! ジャンヌではありませんか!? 我が麗しの聖処女よ!」
倉庫街よりほど近い場所。
探らせていた使い魔からの報告で、戦闘が行われる可能性があると情報を得た切嗣たちキャスター陣営は、戦闘の準備を手早く済ませて目的地にたどり着いた。
そして戦闘をしているサーヴァントを視界に捉えた時、切嗣が呼び出した英霊であるジル・ド・レェが大きな反応を見せた。
令呪とはいえ、効果が長引くほどに効力は著しく低下するのは当たり前。
切嗣が召喚直後に使用した令呪の効果は、ほとんど切れかかっていたのが現状だった。そして、キャスターがあるサーヴァントを目視した時、令呪の効力は完全に吹き飛んだ。
戦場に到着したばかりで、まだ久宇と切嗣が二手に分かれて行動をとる前段階。念のために張っていた沈黙の結界が無ければ、キャスターの大声は他の陣営全体に響いていただろう。
「なっ!? こいつ……【令呪を以て道具に命じる、思考を希薄化させろ!】」
「我が光! 私だけ、の…………」
今すぐにでも飛び出さんとする様子をみた切嗣は、驚愕しながらも一切の躊躇いも無く再度令呪を使用した。
ジル・ド・レェにとっては二度目の思考停止状態。
完全な沈黙を確認した切嗣は憂鬱に息を吐きだした。
「はぁ、どこまでも役に立たん狂人が」
(だが待てよ。さっきこいつはサーヴァントを見てジャンヌと言った。あの女英霊がジャンヌ?)
愚痴をこぼすも生産性がないために切り替えて、ジル・ド・レェが発した言葉を思い出した。フランスの英雄ジャンヌ・ダルクに心酔していたとされている狂人が、人違いを起こすとは思えない。
ジャンヌ・ダルク。
フランス軍に所属しジル・ド・レェの上司として百年戦争を戦い抜いた女傑にして聖女。
確かにジャンヌ・ダルク程の人物であれば英霊として召喚されるというのも理解できる。
(ここで敵サーヴァントの真名を把握できたのは予想外だが嬉しい誤算だ。それにジャンヌ・ダルクは聖女として生き、聖女として死んだ。この狂人とは違って、在り方が変質していることは考えられない。清廉潔白な英雄様のままだろう)
現状を
(……希望が見えてきた。
それは正しく『獲らぬ狸の皮算用』と言える。
しかし切嗣は英雄を嫌悪しているが故に、英雄と呼ばれるような人種がどういった行動をするかも粗方予想がついていた。
惜しむらくは、アルトリア顔などという世界の創造者が作り上げた奇怪な属性が存在した事。
また、実際にジャンヌだったとしても、聖女とはゴリラにして魔猪であることを予想できていなかったことから、どうせ失敗しただろうこと。
これらのことから、切嗣はこの聖杯戦争で強者として立ち回ることは出来ない悲しき運命に奔走するハメになるのだった。
(…………聖杯は僕が手に入れる)
◇
「AAAALaLaLaLaLaie!!!!」
決着がついたセイバーVSランサー。
既に戦いの雰囲気も終わりを迎え、各々で解散する流れとなりかけたその時、天より稲妻を伴ったチャリオットが降ってきた。
「おうおう。中々良い死合いであったぞ両人!」
巨大な馬二頭に牽かれた戦車から覗くは、大柄な益荒男と小柄で童顔の二人組。
「まっこと見事であった。この征服王の名を以て確約するとしよう」
そんな彼らの心中を、理解せずかはたまた全てを理解して尚か、完全に無視し会話を進めようとする。
聞き逃してはならない単語が出たのは、ご愛敬ということで。
「漁夫の利か……それに征服王だと?」
「俺たちが疲弊している所を獲るか。その名が本当だとすれば、略奪者に相応しい下劣な行為だ」
乱入者の出現に先程まで緩い雰囲気を醸し出していたサーヴァントは戦闘態勢に入り、欠片とて隙を晒さない。
「そう邪見にせんで欲しいんだがのう。まぁよい、改めて名乗ろう。我が名は征服王イスカンダル、此度はライダーのクラスとして現界した!」
堂々とした二度目の名乗り。
聖杯戦争においてサーヴァントの真名というのは重要な情報だ。なにせ、英霊と言うのは良くも悪くも逸話に縛られる。
王を倒したから、王殺しの宝具。
蘇った逸話から、蘇生する宝具。
毒によって死んだので、毒という弱点を持つ。
と言った具合に。
能力を含めた弱点すらも、真名がバレれば推測されてしまい、基本的に外れることは無い。
だからこそ、基本的に聖杯戦争で真名を隠すのが当たり前。聖杯からの知識として英霊にインプットされている。しかし、かの戦士は生前に世界へと手をかけた古強者。聖杯戦争の道理なんてものに従うつもりは毛頭なかった。
「な、何を考えてやがりますか、この馬鹿はぁ!?!?」
その直後に響く悲痛な叫び声。
サーヴァントと共にチャリオットで来た小柄な男、手の甲に令呪が浮かんでいることから彼がライダーのマスターであることは明白だ。
制御できているかどうかは別として。
「ええい、騒がしい奴め。いいから見ておれ」
マスターの嘆きを完全にシャットアウトしたライダーは、戦車の上から尊大に眺めたと思いきや、ぐわっと両腕を広げて、用件を話し出す。
「うぬらとは聖杯を求めて相争う巡り合わせだが、矛を交えるより先に問うておきたいことがある。うぬらが聖杯に託さんとする願望は、天地を喰らう大望に比してなお、まだ重いものであるかどうか」
ライダーが聞くのは彼らが望む願いについてだった。
「貴様が何を言いたいのか、俺には全く理解できん」
戦いの後に入り込んできながら、一方的に告げてくる征服王が何を言いたいのかが分からなかったランサーは蔑視を向ける。
「うむ。噛み砕いて言うとだな」
ライダー自身、今の発言で理解してもらえるとは思っていなかったのか、ランサーの発言へ鷹揚に頷いて改めて話し出す。
「ひとつ我が軍門に降り、聖杯を余に譲る気は無いか? さすれば余は貴様らを朋友と遇し、世界を征する愉悦を共に分かち合う所存でおる!!!」
そうして告げられたのは、まさかの勧誘。
実質的な降伏勧告であった。
ふざけているわけではない。
ライダーは正真正銘、本心でソレを言っているのである。若干、争う相手が減れば儲けものぐらいにも思っているはいるだろうけれども。
しかし残念ながら、ここは聖杯戦争。
少なくとも、騎士として覇を競った二人の英霊は、戦わずして負けを認めることはない。
「征服王よ、俺が聖杯に捧げたる今生の主はマスターただ一人。貴様の軍門に降る気は一切ない!」
「同意見です。それに、既に死した身とはいえ私も国を束ねた王です。礼節を持ち合わせていない他国の王に垂れる
ランサーは聖杯戦争に自らを招いたケイネスにのみ忠誠を捧げていると一蹴し、セイバーも王としての威厳があるので他に降らないと返答した。
「…………報酬は弾むぞ?」
「「くどい!」」
断られたにも関わらず粘ろうとするライダーに、もう一度きっぱりとNOであると両者の口から揃って返される。
「こりゃー交渉決裂かぁ。勿体ないなぁ、残念だなぁ」
二人の様子から交渉の余地なしと判断したライダーは、口惜しそうにしながらもうだうだとしている。
「ライダー、どうするんだよ。征服とか何とか言いながら、結局は総スカンじゃないか! お前本気でセイバーとランサーを手下に出来ると思ってたのか?」
「いやまぁ、『ものは試し』と言うではないか」
「『ものは試し』で真名バラしたんかい!?」
「ガハハハハ!!」
征服王の勧誘劇は失敗に終わり、次に始まったのはライダー陣営の主従による漫才のような何かだった。
ライダーの奔放さに振り回されるウェイバーの様子が、この場にいる陣営や使い魔で確認している他陣営に垂れ流されている。
「お前なぁ! 笑い事じゃ────」
『なるほど、君だったか。ウェイバー・ベルベット』
「ひぃっ!?」
ウェイバーの返しを、ただただ笑いで通そうとするライダーに呆れながらも、彼が問いただそうとした瞬間。この場にいた第三者の声に遮られた。
『何が目的で、私が手を回していた聖遺物を盗んだのかと思えば、君自身が聖杯戦争に参加する為だったとは…………そうかそうか』
その場に響き渡るのは、先の対決でも空間に聞こえていたランサーのマスター、ケイネスの声だった。
その声は非常に冷たい。
『致し方ないなぁウェイバー君。君については、私が特別に課外授業を受け持ってあげるとしよう。魔術師同士が殺し合うという本当の意味──その恐怖と苦痛を、余すことなく教えてあげよう。光栄に思いたまえ』
内心ブチギレているのが言葉の端々から感じられる、皮肉がたっぷりと込められた殺意の宣言が響き渡った。
ケイネスの言葉が聞こえた時から、チャリオットの片隅で頭を抱えガクブルと恐怖に震えていたウェイバーだったが、サーヴァントのイスカンダルに優しく肩を叩かれ顔を上げた。
そこでウェイバーが見たのは、自身のサーヴァントであるイスカンダルの優しい表情だった。
「おう魔術師よ! 察するに貴様が余を召喚する腹積もりだったようだな。しかし片腹痛いわ!」
敵マスターに対して啖呵を切る様は、まさしく自身のマスターを守らんとするサーヴァントそのものである。
「余のマスターとなる者が、先の戦いを物陰でコソコソ覗き見る輩と同様な臆病者で務まる筈もない!」
「な、どういうことだよ!? ライダー」
「分からんか? 心惹く清廉で見事な決闘、これを無視できる英雄などおるまい。そして余がこの場に来てなおも、姿を晒さん奴らがまだまだおる」
イスカンダルが戦闘直後に時を見計らってやって来たように、セイバーとランサーの戦いを見ていた存在は確かにいる。
だが実際に姿を見せたのはライダー陣営だけだ。
「聞こえていよう! 己が胸に誇りを抱く英霊ならば今ここに、その姿を見せるがいい。なおも顔見せを怖じる様な臆病者は、征服王イスカンダルの侮蔑を免れぬものと知れ!!!」
轟音と言っていい程の大きな声は、倉庫街全域に広がりコンテナを反射して響き渡る。
これは紛れもない挑発だ。
対象に当てはまる全ての存在を威嚇しつつも、己が心に誇りと栄誉を持つ者が多い英霊であれば、見過ごす事が出来ないような内容だった。
────静寂
は、すぐに途絶える。
「よもや…………」
黄金。
地に足を着くサーヴァント達より高い場所より声が発せられる。その場にいた全員が視線を発声源へ向けると同時に、霊体化が解かれ金色の粒子は徐々に形を成していく。
黄金に輝く全身鎧を身に纏い、穢れ一つない金髪を逆立たせ、見ただけで全てを見透かすような紅い瞳を持つ英雄としての覇気を佇ませた存在が電柱の上に降り立った。
「この
尊大にして傍若無人というものが服を着ているかのような、視ただけで、肌で空気を感じただけで分かる王威を放っている。
「難癖付けられたところでなぁ。正真正銘イスカンダルたる余は、征服王として世界に刻まれておるぞ」
「たわけ。真の英雄は天上天下に我ただ独り、あとは有象無象の雑種にすぎん…………ん?」
彼らのすぐそばで地面に何かが着地する音が出る。そこまで大きい音ではないとはいえ、響きやすい周辺環境であることも相まって、全員がそちらを注視した。
視線を向けれられた先には一人の魔術師が立っていた。
エリゼブラッド・アルス・ワーグナーだ。
「マスターッ!」
「ああ、失礼。私はそこにいるセイバーのマスターを担っている者だ。アーチャー、貴方よりも高い場所に居るのは不敬かと思って、下に降りさせてもらったんだ」
エリゼはアルトリアの所まで歩きながら、金色の王へと弁明をした。
「ほう、雑種にしては殊勝な心掛けだ。良い、本来なら許しなく言の葉を紡いだ不敬を裁くところだが、貴様の矮小な心意気に免じて不問としてやろう」
「感謝するよ、アーチャー。原初の王よ」
「フンッ…………それにしても珍妙な雑種よな。魂は異界産で、肉体は人形ときた。まぁ、その程度は我の蔵に納められている故、別段欲しいとも思わんが」
現在の話の中心であるエリゼに、ギロリとした視線を投げた彼は珍しいモノを見たからか、召喚されて以降不機嫌でしかなかった気分が少しばかり上がった。
エリゼは、バレてると戦々恐々としながらも興味が向けられなかったことに安堵していた。
「マスター、あまり無茶な行動は控えてください。心臓に悪いですよ」
「ごめんごめん。だけど、この状況は君と一緒にいた方が良さそうだったからさ」
アルトリアは合流を果たした彼の腕をガシッと掴んでお説教を軽く挟むも、さらりと返される。
一連の様子を見ていた征服王は、訝し気に顎を撫でて黄金の王に問うた。
「ふーむ。どうしてかは知らんが、そこな魔術師は貴様の名前を理解している節があるな。どうだ、金ぴか。お主も一介の王ならば名乗ってみんか?」
あーあ。
「問いを投げるか? 雑種風情が、王たるこの我に向けて?」
せっかく、ほんのちょっぴり上がったアーチャーの機嫌は、ライダーからぶつけられた問いで急降下していった。
「我が拝謁の栄に浴してなお、この面貌を見知らぬと申すなら、そんな蒙昧は生かしておく価値すら無い!」
ご機嫌パラメータが一気に最下層まで突き抜けたアーチャーは、腕を組んだまま背後より光り輝く波紋を生む。
黄金の波紋からは一門ごとに武器が出現し、先日アサシンを倒した攻撃方法であることが窺えた。
(あれが《
アーチャーは嗜虐の混じった笑みを浮かばせ、不敬な問いを投げたライダーに砲門を向ける。出現している波紋の数は二つと少ないが、それでもアサシンとの戦闘映像を思えば十分脅威なのは明白。
パリッとした緊張が空間を支配する。
ライダーはもとより、その場にいるセイバーやランサーもいつ自身に向くか分からない攻撃に備えるように武器を十全に構えだす。
しかし、ここは聖杯戦争。
三つ巴は当たり前。更にそこから乱入者の出現やイレギュラーがやってくるのは、何ら可笑しいことではなかった。
セイバーたちが居る場所、アーチャーが立つ街灯、その両方から少し離れた場所に禍々しい魔力が迸る。
「AaaaaaRrrrrrッッッ!!!!!!!!」
仄暗い気配を垂れ流し、絶叫と共に現れたのは揺らめくの朧を身に纏う全身鎧のサーヴァントだった。
「なぁ、ライダー。アイツに誘いは投げんのか」
「誘おうにも、ありゃノッケから無理そうだわな」
新たなサーヴァントの出現に、ランサーは茶化すように先程自分を勧誘してきたライダーへ無茶振りを飛ばす。それに対して、明らかに理性が無く、無意味な雄叫びを空間に震わせるサーヴァントをバーサーカーと判断したライダーは、交渉の余地なしと一蹴する。
「Aaaaaaaaaa────────」
ふと、声が途絶える。
出現からずっと上がっていた叫びが消えたのだ。狂戦士の様子を窺えば、赤く光る眼光でただ一点をじっと見つめているではないか。
「……誰の赦しを得てこの
バーサーカーが見ているのは、この場の誰よりも高い場所に居る人物。遠坂時臣のサーヴァントとして召喚されたアーチャーであった。
無礼極まるその態度に顔を顰めたアーチャーは、ライダーに対して出していた砲門の射出口を狂戦士へと向けた。
「せめて散り様で
苛立ちの籠った声音。その直後に放たれた二つの武器は鋭く空気を裂きながらバーサーカーへと肉薄する。
ドゴンッッ!!!!!
雷が落ちたかのような轟音と衝撃波が周囲一帯を貫いた。ライダーは戦車に備わる耐性を活用し、セイバーは風を用いて自身のマスターたちを守った。
「今の……動きは……」
「奴め、本当にバーサーカーか?」
そしてアーチャーが放った二撃がぶつかる瞬間を戦士としての眼で捉えていた面々は、バーサーカーの見せた技量の高さに驚きを隠せなかった。
セイバーはその動きにとある既視感を覚える。
煙が晴れるとそこには、アーチャーの武器の一つを握りしめたバーサーカーが無傷で佇んでいた。
「なっ!? 無傷だって、そんな馬鹿な!」
「何だ坊主。見えんかったか?」
サーヴァントは目視で、エリゼは原作知識で何をしたのかを知っている。この場で唯一状況を理解できていなかったウェイバーにライダーが教え始めた。
「あやつは飛んできた一個目の武器を難なく掴み、続く第二波をその武器で打ち払ったのだ。バーサーカーとは思えん程に芸達者な奴よ」
「そんな馬鹿な!?」
彼は眼を剝いてバーサーカーを見た。その英霊の手には剣が握られている。アーチャーが放った武器は狂戦士が接触している場所を起点として、紅い線が広がり侵食しているような印象を受ける。凄まじい神秘を内包している宝剣は魔に染められていた。
「汚らしい手で我が宝物に触れるか……! どこまで死に急ぐつもりだ、狗ッ!」
さらに激昂したアーチャーは先程よりも多く、それこそ最序盤で行われた茶番のアサシン討伐で見せた数より多くの波紋を出現させた。波紋から顔を見せる武具は、どれもが一級品を超えた宝具に匹敵するモノばかりだ。
「その小癪な手癖の悪さでもって、どこまで凌ぎ切れるのか──さぁ見せてみよ!」
急遽始まったアーチャーVSバーサーカーによる戦い。
それは戦いとすら呼べるものではない。弓の英霊らしい弾幕*1を無限とすら思えるほどに張り続けており、それとは対照的にバーサーカー、そのクラスの名に似合わない圧倒的な技量で捌き続けている。
放つ武器を変え、射出する角度をずらし、着弾のタイミングを重ねる等の細々した、しかし極限状態では致命的な変化をアーチャーは施しているが、その悉くを迎撃し続けている。
そんな中、矛先がいつ向いても大丈夫なようにマスターを庇える位置にいたアルトリアは、目の前で繰り広げられている"弾幕ごっこ"を呆然と見ていた。
いや、厳密にいえば
「大丈夫かい? セイバー」
その様子を見たエリゼは彼女の心境を理解して、寄り添い声を掛ける。
「マスター…………ええ、大丈夫です。ですが…………」
「ああ、分かっている。君の予想は当たっているよ」
「ッ…………そうですか。確かに、かの騎士は十二分に狂う機会、素養はありました。しかし実際にその姿をこうやって見てしまうと、黒いモノが心の奥底から込み上げてきます」
彼女らが話しているのはバーサーカーの真名のことだ。
あの狂戦士が誰なのか、当然ながらエリゼは理解している。そしてアルトリアも英霊の座に招かれたことで、英雄たちの記録を閲覧する事が出来、共に国を守り抜いた円卓の騎士についても調べることも可能だった。
そして
「全く…………本当に生真面目な友だ」
それらの記録と生前の記憶を思い出し、懐かしいような悲しいような複雑な苦笑いを浮かべるセイバー。
「それでどうするか決まったのかな?」
「ええ、それは既に確定しています。部下が仕出かしたら、罰を与えるのが王の役目ですから。マスター、少し離れますので周囲の警戒を密にお願いします」
「分かった。セイバーも気を付けて」
エリゼに告げた後、彼女は一人で歩き出した。
武器の嵐が吹き荒れる戦場に向かって。
セイバーを見たのか、それとも貯蔵が尽きたのか。
彼女が到着したタイミングで、武器の雨が止んだ。着弾現場は土煙に埋め尽くされ、アーチャーの攻撃を凌いでいた狂戦士の姿は見えない。
しかし、あれほどの力量を見せたバーサーカーがやられたとはこの場にいる誰も思っていない。
その瞬間、土煙の中から二つの武器が飛び出てくる。十中八九バーサーカーが投げたモノだろう。その軌道は本来の武器の持ち主であるアーチャー目掛けて一直線。このまま行けば、アーチャーが立っている街灯を斬り崩すことになるはずだった。
だが、戦場の近くには直接争った二人以外にもサーヴァントがいる。それも観戦を決め込むランサーやライダーではなく、介入する気マシマシのセイバーが。
跳躍。
両者の間に割り込んだセイバーは、投擲された武器を叩き落とし、アーチャーの近くに降り立った。
「何の真似だ、雑種。この
「申し訳ない、アーチャー。私の騎士が無礼を働いた」
「……何?」
狂犬に手を噛まれたが如く苛立ちを募らせたアーチャーは、割り込んできたセイバーに対しても波紋を向けた。確かに、彼女は乱入者という立場ではあるモノの引けない理由があった。
「我が剣は此処にあり」
セイバーがそう呟くと、彼女の周囲にはいくつもの剣が浮かび上がる。アーチャーの宝物庫とは異なり、波紋があるわけではなく実体と霊体の境目のような状態で、侍るように彼女の周りに展開される。
そしてその一本一本が宝具であるのは明白だった。
その中の一つを握ると、それは世界で輪郭を帯び始めた。それはやがて極光の煌めきを放ち、不朽の輝きとなってその手に収まった。
実物を知らなくとも、英霊の座から知識を得ているサーヴァントならば一目見ただけで分かってしまう、世界最高知名度を誇る伝説の聖剣。
『エクスカリバー』
そしてその担い手となれば…………。
「我が名、騎士王アーサー・ペンドラゴン。バーサーカーよ、狂い果ててなお衰える事のないその技巧、隠せるものも隠せないぞ」
「Aaaa……rrr…tthu……uurr……」
「もしそこに、一片でも生前の忠誠が残っているのなら兜を脱ぎ私に顔を晒すがいい。サー・ランスロット」
凛とした声音から放たれる、否定を許さない王の言葉。
セイバーはバーサーカーの真名を告げた。
◇
「ん、おやおや~?」
そこは、銀に装飾された世界。
荒れ狂う吹雪の中に佇む少女が一人。
雪など一切関係なく白に染まった少女は、遠方より放たれた戦争の気配を過敏に感じ取っていた。
──ここは南極。ひっそりと建設された施設に、とある目的で滞在していた少女は狂気を宿した声音で紡ぐ。
「アハハ、そう言えば彼、マスターとして参加してるんだっけ?」
少女が思い出として記憶から呼び起こしたのは、以前に暇潰しで"黒血の月蝕姫"へちょっかいを掛けた出来事。その日以降【霊長の殺人者】に『肉体を乗り換えた0.001秒後には特定され即座に殺害される』を年単位で繰り返され続けた期間。
女神が残した情報の波と言えど。乗り換える肉体は人間であることには変わりない。アルテミット・ワンである水晶の大蜘蛛に匹敵するほどの殺戮速度を持つとされる存在に敵う筈もなかった。
無限に等しい間、殺され続けるしかなく、命乞いどころか「ぎゃふん」をする時間さえも与えられなかった彼女であったが、つい一年程前に殺人がパタリと止んだのだ。
しっかりと肉体の乗り換えが終わり、適当に思いついた謎の儀式を一晩中しても殺されることは無かった。
そして彼女は不思議に思い、霊長の殺人者ことプライミッツ・マーダーを探しに行った。そこで見つけたのが、中立国にある魔術貴族の次期当主だった。彼の傍には月蝕姫とプラ犬が一緒におり、存在を認識され殺されかかったのを止めたのが次期当主──エリゼブラッド・アルス・ワーグナーなのだ。
『場をかき乱すヤバい奴なのは知ってるが、一応ここは中立国のスイスなので、ころすのはやめてくださいね~』
そこから時折だが交流を持つようになった、関係を言葉にすれば恩人になるだろうか。彼女からしても、あの国では騒ぎを起こす前に国内に張り巡らされた防衛機構に阻まれ、何も出来ずに終わるのは目に見えているので行動することは無い。
そんな彼が、この度、聖杯戦争に参加するのだという。
第三次から興味を持ち、その混沌具合に惹かれて次回も観測しようと考えていた彼女。
現在は所用で南極に来ていた為、そのことをすっかり忘れてしまっていたようだ。
「いけない、いけない。さてっと、今はどんな感じかな~?」
第三次はマスターたちこそ混沌とした面子で、見ているだけで楽しかったが、今回はどうなるか。そんな思いを抱く中、エリゼにマーキングしておいた位置情報から観測を開始する。
「…………えっ」
ああ、なんということでしょう。
エリゼは、彼と実際に接触はしていない。
場所も100m近く離れている。
にも関わらずエリゼを観測しただけで感じる事が出来た、少女にとって唯一の大親友、それも自らの手で堕としきった後の存在。
「うっそ~! もしかしなくても、ジル?」
英霊として召喚されたジル・ド・レェの気配。
「すごいすごーいっ! これはもう行くっきゃないよね☆ むしろ来てって聖杯くんも言ってるはずだよ!」
するりと立ち上がった真っ白な少女。
あまりに滑らかに動くその様は、人のようには感じられず、まるで人形遊びのような肉体の動きだった。
「えー、おほん。それではこの私、フランチェスカ・プレラーティが、ここ南極から冬木まで超々音速で駆け抜けたいと思います! よーい、すたーとぉ!」
一気にハチャメチャなテンションになった少女はまたたく間に消えた。あとに残るのは何もない銀世界と、ソニックムーブによって生じた残響だけだった。
厄災は訪れる。
◇◆◇
・キャスター陣営
今作最大の被害者。ジル・ド・レェの抑制の為、既に令呪2画消費した。この後もっと悲惨な目に遭う。
・ギルガメッシュ
台詞を考えるのが難しすぎたので、一部を除いて基本的に言ったことのある台詞をいい感じに継ぎ接ぎして喋らせてます。
・「我が剣は此処にあり」
宝具ではない。アルトリアが生前使ってきた剣群を周囲に浮かばせるだけ。プロトギルのアレが一番近いかも。
・パンフレット買った?
Fakeめっちゃ良かった。
コイツ凄くカワイイ……性格終わってるけど。