第二次聖杯戦争から少しだけズレた平行世界での一幕 作:ささのき
◇◆◇
「ほうっ! 騎士王とな。確かに、あの剣からは星の力を強く感じるのぅ。エクスカリバー……この目で見る機会があろうとは。召喚された甲斐があったもんだ」
目の前のバーサーカーをランスロットと呼称したセイバー。そして自らを騎士王と名乗り出現させた聖剣。
それらの要素と、実際に聖剣の力を感じたライダーは感慨深く頷いていた。
「そう言ってくれるとありがたい。彼女を召喚するために結構苦労したからね」
そんなライダーに近づくのはエリゼ。
「おう、セイバーのマスターであったな。お前さんも中々豪胆な魔術師。どうだ、余の配下になる気は無いか?」
「お誘い感謝するよ征服王。残念ながら断らせてもらうけどね。逆に聞くけど、オレの傘下になる気は無い?」
「はっはっはっ! それりゃあ、無理な相談だわな」
お互いに笑いながら、勧誘、拒否、逆勧誘、拒否と言った流れがさらりと熟されたのを横から聞いていた為、ウェイバーは顔が真っ青になっていた。
彼はセイバーが戦場に向かった都合上、魔術師殺しに狙撃される危険性があるので図体が大きく遮蔽になりやすいライダーに近寄ったのだ。
ちなみにライダーはエリゼの意図を理解していたが、問題無しとしてそのまま会話を続けた。
場面戻して。
両手で握られた星の聖剣を地面へと突き立てたアルトリアは、目の前の狂戦士が湖の騎士であると看破していた。英霊としての知識から彼はそうなるという理由も分かっている。
気が付けばバーサーカーは完全に停止していた。
そして、ゆったりと彼が纏う幻惑のような朧が消え、その姿がはっきりとしてくる。鎧の造形すらも捉えられるようになると同時に、バーサーカーの手に一つの剣が握られていた。
元々は湖の乙女から貰い受けた由緒ある聖剣だったそれは、仲間を殺し、その血を吸ったことで魔剣へと変質してしまっていた『アロンダイト』である。
そして鎧の兜部分がパージして、隠された表情が月明かりに照らされ、その場にいる全員の眼に映し出される。
整っていたと分かるぐらいには端正な顔、それがバーサーカーのクラススキルである狂化によって歪められていた。その表情は誰かに対する執着、怒り、悔恨と様々なモノが入り混じっているのが見て取れる。
「Aaaa…rrrr……thuuuuurrrrrrッッ!!!」
先程まで抑えていたのだろう。
例え狂っていようと王の命である、強烈なまでに魂へ刻まれた騎士道が彼の狂気を肉体から切り離していたのだ。
しかし、それも限界だった。兜越しではなく至近距離に、自らが狂うに至った原因が存在している。どこまで行こうと彼はバーサーカーとして召喚された英霊、その狂気に逆らうことは出来ない。
「Aaaaaaaaaッッッ!!!!!!!」
獣のような俊敏さでアルトリアへと距離を詰め、振り上げたアロンダイトを彼女目掛けて斬り下ろす。
「いいでしょう。貴方の狂気、この私が斬り捨てます」
振り下ろされたアロンダイトを、アルトリアは自らの聖剣を盾にして防いだ。直後に斬り返しの技を放つも、ランスロットは本能に残る直感で危なげなく回避する。
「ゼェアッ!」
「Aaa…rrrッ!!!!」
お互いの剣は生前で何度も見てきた。両者ともに相手が何をやるのか、眼で捉えなくとも把握できる。全く同時のタイミングで斬り結ぶことで発生する鍔迫り合いや薄皮一枚にも満たない程の差で躱される攻撃。
確かにセイバーとバーサーカーは共に本気を出しているのだろう。その戦闘は、まるで戦いではなく舞であるかのように、力強くも美しい演目に映る。
「……ここだっ!」
「ッ!? Aaaaaaarrrrrrッッ!!!!!」
「甘い!」
斬り返し、斬り結び、受け流し、回避する。
一秒か、一分か、一時間か。実際の時間はそれほど流れてはいないはずなのに、その場にいた多くの者は、時間間隔がズレるほどに武闘へ魅入られていた。
しかし終わりというものは必ず訪れる。
「フッ……!」
「!?!?」
完全に噛み合った攻撃。
予定調和の如く、最初から決まっていたと言わんばかりに、綺麗にハマった最後の一撃だった。
「これで、終わりです」
刹那にも満たない僅かな隙を捉えたアルトリアが、バーサーカーを真正面から聖剣で穿つ。
それは間違いなく、かの騎士の霊核を破壊した。
彼らのとても短い決闘は、象徴たる宝具を使うことなく決着が付いた。いささか拍子抜けに思えるかもしれない。
だが互いに分かっていたのだ。
このような場での私闘、それも片方は狂気に身を染めている。そんな状態で本気で死合えるはずもなし。
ガクリと全身の力が抜けたランスロットは、もたれかかるように自身を貫くアルトリアへと倒れる。
「⋯⋯申し訳ありません我が王よ」
「気にしません。あの時、貴方が抱える苦悩の全てを取り払えなかった私の責任でもありますから」
「ははは……本当に、どこまでもお優しい人だ」
先程までとは打って変わり、バーサーカーから狂気が完全になくなっていた。歪められた表情は完全に消え、元の騎士道溢れる精悍な顔つきになっていた。
「王よ、最期にお願いしたい義がございます」
「いいでしょう、述べなさい」
「ありがたき……我がマスター、
もはや潰えるしかない先がない英霊は僅かな力を振り絞り、王であるアルトリアへと願い出る。
「もし余力がございましたら、その手を彼に差し伸べてほしいのです。私では狂うだけで彼を助けることは叶いませんでした」
「…………これは聖杯戦争、確証は出来ません。ですが最大限に取り計らう事を誓いましょう」
「ええ、分かっておりますとも。そのお言葉だけでも十分でございます。陛下、私のような不忠者の言葉を聞いていただき……」
「何度でも言おう、我が友よ。気にする必要はない。その見事な忠誠、私は嬉しく思う」
「ふっ。この私には、最大の賛辞でございます…………」
その言葉を最後にバーサーカー、湖の騎士・ランスロットの魔力で構成された肉体は崩れ現世より退去した。
自身の生前の配下である騎士の言葉をしっかりと聞き届けたアルトリアは、ランスロットが完全に退去したのを確認し聖剣を格納した。
次いで振り返り、自身を見下ろす裁定者へと謝罪した。
「身内の醜聞。お恥ずかしいモノをお見せした」
「かまわん。貴様らの演目は中々のモノであったのは事実だ。しかし、この
褒めるモノは褒める。王として当たり前の行為。
だが、それはそれとして唯一の王であるアーチャーの行いを遮ったのもまた事実。身内の醜聞という王に見せるに値しないモノは、先の武闘と言う名の演目で帳消しにされたが、それでもまだ負債は残っている。
「有象無象を間引いたのは褒めてやろう。しかしアレは
そう言って出現させるのは、あり得ない量の波紋。百や二百は下らないぐらいの砲門から顔を覗かせる武器群。
今までのような怒りに任せた物量ではなく、多少は認めてやったが上で相応しいと思った数である。
「ありません。私が手前勝手に判断したのであって、貴方に対して、何かしら伝えられることは無いでしょう」
アーチャーの言葉に対して、返せるものなどは無いとアルトリアはきっぱりと答えた。
「よく吼えたっ! ならば、この数を以て貴様への罰としてやろう」
波紋はズレ動き、アルトリアの全周を囲うように移動する。360度、もはや逃げ場のない弾幕が襲い掛かる──
──僅か1秒前。
「ッ! 貴様如きの諫言で、この
御三家が一角、遠坂の当主。
アーチャーのマスターである遠坂時臣が、それに口を挟んだ。主従間に繋がっている念話でアーチャーにのみ聞こえる声。
令呪によって願われた撤退。
「……雑種、いや、セイバー。貴様はこの
アーチャーは忌々しげに撤退を了承した。そして、セイバーに他の英霊を討伐する任を与えた。その視線を受けたセイバーもまた頷き返した。
「いいだろう。私はこの聖杯戦争で全てのサーヴァントを倒す。そして最後は貴様だ、アーチャー」
「フンッ…………つまらん現世かと思ったが、少しばかし面白くなってきたではないか」
アーチャーの身体が解ける。これは退去ではなく霊体化による物質体の消失だ。
ふわっと、アーチャーの気配が完全に消えたことで、周囲から一気に緊張が無くなったのが伝わってくる。
しばし止まっていたアルトリアは、はっと思いだしてマスターの下へと駆け付けた。
「すみません、マスター。少し離れすぎましたね」
「いや、大丈夫さ。ライダーと雑談に興じていただけだからね。君も厄介なモノを背負ったね」
「はい。アーチャーに関してはその通りです、勝手を言ってすみません。ですが、バーサーカーについては私が背負うものですから」
謝意と固まった意思を眼差しで返してくる。自らが発言したことを、覆す気は無いということでもある。
「……余がここにおるのを忘れておらんか、お主ら」
「忘れていないとも、ライダー。セイバーがああ言ったからね。君のことも必ずオレたちが倒すよ」
「がははっ! 良い啖呵だ。主従揃って好戦的な性格とは、呆れてものも言えんわ!」
ライダーの大きな笑い声が、倉庫街一帯に響き渡る。
それは今宵の戦、その一区切りとなった。
「さて、オレはこれから所用があるので去るつもりだが、君たちはどうする?」
響き渡る音が減少し完全に周囲が沈黙に包まれてから、発せられたエリゼからの問い。
それにいち早く答えたのは、ここまで沈黙を保っていた、未だ傷が治っていない双槍の騎士だ。
「今宵は主から撤退命令が出ている。少々不甲斐ない姿を晒してしまったからな、お叱りが待っていそうだ」
「確かにのぅ。お前さんらの戦いは見事であったが、同時にランサーは負けた。主君として折檻も致し方なし、と」
ランサーは肩を竦ませている。
ライダーの言葉を返さず、そのまま霊体化していった。
「ケイネス殿は撤退、妥当な判断か。後はライダーだけだ。出てこなかったサーヴァントへ仕掛けに行くか?」
「…………アサシンは既に敗退し、あの場に唯一姿を現さなかった英霊はキャスターよなぁ。だが魔術師とは引き籠る生き物。それに、今宵は多くの英霊に会えた故、余は大満足よ! 工房に突貫するのは勘弁してやろう」
「つまりは拠点に帰るって認識でいいかい?」
「うむ。ほれ坊主、お前も何かないか」
槍と騎の両陣営は今日のところは撤退することになった。最後にライダーが自身のマスターに華を持たせてやろうと声を掛けるも、残念ながらアーチャーが去ったことで緊張が緩み、そのまま気を失ってしまった。
「…………もう少し、シャッキリとせんかなぁ」
片腕で気絶中のウェイバーの首根っこ掴んだライダーはブラブラとさせながら、ため息をついた。
「まぁよいわ。ではなセイバー、そしてそのマスターよ。いずれ機会があれば酒でも飲み交そうぞ! ハァッ!」
戦車で空を駆け、ライダー陣営も去っていった。この場に残ったのは、いよいよエリゼたちだけになった。
「ふう。ひとまずお疲れ、セイバー」
「お疲れ様ですマスター。私たちも拠点に帰りましょう」
「そうしたいのは山々なんだけど、間桐について引き延ばすのもあれだし、今日中に済ませておこうと思うんだ」
帰還を施すアルトリアに対して、やれやれと言った感じで今夜がまだ終わらないことを伝える。
「マトウ……ランスロット卿がおっしゃっていた、聖杯を求めないマスターですか?」
「そうそれ。マスター本人は既に、死にかけていて助けられない。そもそも助けるつもりもない」
「……………………」
それは仕方のないことだ。セイバーは知らないが、雁夜の寿命はほとんど残されていない。貴重な魔術素材を消費すれば助けられなくもないが、それをするだけの価値が雁夜にはない。冷酷かもしれないが、魔術貴族の次期当主としてここは譲れない。
「だけど、ランスロットの言っていたマスターが救おうとしている少女。この子については助けに行こうと思っている。ちょっと面倒だと思うけどね」
「っ! マスター、いいのですか?」
「もちろん。元々その少女を助けることは予定に組み込んでいたからね」
件の少女、間桐桜は別だ。
彼女には様々な形で価値がある。もちろん、標本にする、という話ではない。普通に育ててワーグナー家に貢献させるだけでも十分にお釣りがくる程に将来は有望だ。
「けど、あの家には500年の妄執に囚われている妖怪翁がいる。魔力消費が大変なことになるけど、
頭の中でシミュレーションは済ませてある。
魔術師としての腕は、ケイネス戦から見ても分かる通り、いずれ最強に至れる素養はあるがまだまだ未熟。
ならばどうするか。当然、戦わなければいい。
「さて、今夜はまだやることは多い。大変だろうけど、君には頼らせてもらうよセイバー」
「っお任せを。貴方に降りかかる火の粉は私が全て払って見せます」
そうして、その場に残っていた最後の陣営も夜の闇へと消えていく。それと同時に、監視していた複数陣営の影もまた消えていった。
◇
「それで? おめおめと帰ってきたわけか。たった一戦交えただけでサーヴァントを失うとは……魔術師に限らずマスターとしての才能*1すら持ち合わせておらんとは」
カカカと不気味に笑うのは、間桐家の現当主にして500年に渡って生き永らえるキエフの蟲使い、間桐臓硯。
そして彼の前、床に這いつくばっているのはバーサーカーのマスターであった間桐雁夜。その手甲には令呪は影も形も残っておらず、彼が聖杯戦争に敗北したことを明確に教えてくれる。
「ぜぇ…はぁ……だ、黙れ臓硯! 貴様が用意したバーサーカーが弱かっただけだ! あんな雑魚のような英霊を俺に寄越しやが…っ!? うがぁぁぁあ!?!?」
息も絶え絶えに臓硯に反論した雁夜だったが、話している途中で身体に巣くっている刻印虫が活性し始め、彼の肉をむさぼり始める。
「クカカッ。ほれ、もっと悲鳴をあげんか。全く、狂っていようと湖の騎士。ともすればアーサー王相手であろうとも互角に渡り合える英霊ぞ? 取り扱いがなっとらんな」
「いぎぃぃっっっ!?!? ……や、や゛め゛ッ!?」
「困ったもんよ。バーサーカーの魔力供給で苦しみ続ける貴様を見れると思って、刻印虫を植え付けてやったというのに…………」
既に虫の息だった雁夜をさらに追い詰めるように刻印虫は動き続ける。臓硯は今回の聖杯戦争を半ば諦めており、雁夜を参加者にしたのも間桐の魔術師としての血を完全に絶やす原因となった彼を弄ぶためだったりする。
「仕方あるまい。貴様の寿命もあと僅か、残りは音の鳴る玩具として儂が使い潰してやるか」
「はぁ……はぁ……ふ、ざけるな……だったら、死ん、だ方がマシ…だ」
「ほう、自ら死を選ぶと? 出来もせん癖によう言うわ。なら、桜への訓練も苛烈にせねばならんのぅ」
「はっ?」
使い道のなくなった雁夜をどう消費しようか悩んでいた臓硯に、死にかけながら言い返す雁夜。それを聞いた臓硯はニタニタと笑みを浮かべながら、桜への蟲蔵地獄を強めると宣言した。
「ほれ、こちらへ来い桜」
「……………………」
「さ、桜ちゃ……」
臓硯に呼ばれた桜。
彼女は階段の踊り場で、今さっきの出来事を濁った瞳で全部見ていた。
「可哀そうよなぁ、桜。この男のせいで、もっと酷い目にあうんじゃぞ、もっと苦しむんじゃぞ?」
「や、やめろっ臓硯! っ……あギャッ!? 桜ちゃん、は関係な……」
踊り場から降りてきた桜は、感情が抜けきった表情で臓硯の腕の中に収まった。
雁夜を見つめる眼は、酷く冷たく濁ったまま。
「関係ない……そんなわけあるまい? 言っておったではないか。『今日で地獄は終わり』であったか? クカカ、随分と都合の良い夢よのぅ」
「……………………」
「あ……あああ……や、めろ。やめてく、れ、桜ちゃん。そん、そんな眼で、俺を見ないで……」
魔力消費と虫による苦痛、ダブルパンチの影響で、今の彼には幻覚すら見えている。
何も映していないはずの桜の瞳を、動いていないはずの表情を勘違いして、勝手に絶望しているのだ。
「クカカ、やはり桜は効果覿面じゃな。もっと甚振りたかったが
ボロボロになった雁夜を横目に、外部からの観測者は問題ないが、介入を企てる存在への対策を講じるつもりだった臓硯は敵意を感じ取った。
200年以上かけて培われた屋敷は、サーヴァントの工房に匹敵する程の性能を誇る。たった今、そんな魔術師の工房に侵入者が現れたのを長である彼は認識した。
「ほう? このタイミングで侵入者とはのぅ」
知覚した臓硯は先ほどまでの思考を隅に追いやり、領域の精度を上げて入って来た存在が何かを調べ始める。
「……この反応はサーヴァント。となれば、やって来たのはセイバー。死に際のバーサーカーと何やら話しておった件か?」
たとえ魂が腐り果てようとも、年月を掛けて修練された思考回路は的確に侵入者の存在と目的を看破した。
敷地の入り口である鉄の格子扉が破壊され、庭を歩く侵入者。それは徐々に中心である屋敷へと向かっている。
そして、現在彼らが居るのは玄関。帰還した雁夜が玄関に倒れ伏したのを弄び始めたのが、先程の光景なのだ。
扉は開く。
ギィギィと音を立てながら、建付けの悪い玄関の扉はゆっくりと開かれていく。
「……夜分遅くに失礼する。我が騎士サー・ランスロットの嘆願を果たす為に、勝手ながら侵入させて頂きました。当主殿はおられるか?」
現れたのは西洋によくある鎧を身に纏った金髪の騎士王、アルトリア・ペンドラゴンだった。
「これはこれは。随分と常識知らずのお客人だ」
「重々承知しています」
突然の訪問に内心穏やかではない臓硯だが、それをおくびにも出すことなく平常に振舞っている。
「そうか、ならば何用か?」
「先ほどもお伝えしましたが、貴方たちが召喚したバーサーカーは生前、私に仕えていた騎士です。彼を介錯した際に『マスターである
「なっ……!?」
(バーサーカーが、最後にそんなことを?)
臓硯の質問に答えたセイバー。それを床に這いつくばり、擦れゆく意識を繋ぎとめた雁夜は驚愕していた。
「聞けば少女を助けようとしているのだとか。マトウカリヤ、この認識に相違はありませんか?」
「あ、ああっ。そうだ! もうっ誰でも、いい! 頼む、桜ちゃんを助け゛え゛え゛ッ!?!?」
自身の英霊もやられ臓硯に刻印虫で弄ばれ、とどめの桜によって、もう既に自身の形がくずくずになった雁夜に差した一縷の望み。彼は縋った。この地獄から、少女が救われることを。
そして無意識ではあるが、希望が見えてほとんど麻痺しかけていた表情に光が籠った。それを気に入らなかった臓硯が苛烈に刻印虫を貪らせたことで、再び雁夜は絶叫したのだ。
「…………ご老体。私は今、この青年と話しているのです。口、ではないですが、邪魔を挟まないでいただきたい」
「使い魔風情が偉そうにしおって……この家の当主は儂だ。家のモノをどう扱うかは儂が決める事。貴様ら如きに、玩具も次代の胎盤も、何一つ渡すものは無いわ」
「っ…………ふぅ。マーリンとは、別ベクトルのゴミカス外道という訳ですね」
人を人とも思わない発言に、咄嗟に剣を抜きかけたアルトリアだったが、作戦を完璧に実行するために我慢した。代わりに夢魔の師匠をコケにした。
『いやー、流石にコレと一緒は心外だとおもうんだけどね~。お兄さんは悲しくて泣いてしまいそう』
「どうでもいいですが、泣けばよろしい。アヴァロンで姉にでも慰められておきなさい」
『魔術ミニアドが飛んでくるんだよねぇ』
ふと、この場にひどく不釣り合いで軽薄な声が聞こえてくる。それはアルトリアと言葉を交わしており、姿は見えない。
「それでマスターの方はどうですか?」
『ばっちりだとも。いつでもいけるそうだ』
「それは良かった。早いところ、この外道から少女を救い出さねばなりません」
直後、アルトリアの内側で生成されるたびに圧縮し練り上げられた魔力が、周囲に解き放たれる。これから彼女が行うことは、非常に多くの魔力を喰らう。この領域は既に臓硯の手中なので、邪魔されないように簡易的な魔力領域を組み立てた。
「おぬしら、一体何をするつもりじゃ!?」
「知れたこと。貴様のような外道から、苦しむ幼子を救い出すだけだ」
────竜炉心臓、臨界突破。
────魔術回路、疑似展開。
────英霊の座、接続安定。
────対象選択、円卓騎士。
「英霊召喚、限定発動。
────是は、聖杯を求める戦いではない」
英霊召喚、それは世界が刻んだ決戦術式。それを「格下げ」させることで、聖杯戦争は過去の英雄を召喚し、使役することが出来ている。
それはつまるところ、英霊召喚は聖杯戦争の専売特許ではないということ。英雄が英雄を召喚できない道理は無い。ましてや、生前の部下であった存在ならば尚のこと。
カッと目を見開いた彼女は、聖剣や聖槍を縛る十三拘束とはまた異なる言を紡ぐ。
そして声高らかに、その名を告げる。
「来てください。天上の騎士、ギャラハッド!」
彼女を中心に浮かび上がった召喚陣がより強く輝いて、人の輪郭をかたどっていく。逆光となったそこに、間違いなく誰かは召喚された。
いや、誰かではない。
「それが王の命とあらば、僕は応えよう」
ギャラハッド。
円卓の騎士の一人にして、最悪の席に座りながらも呪いを跳ねのけた傑物。
聖杯伝説の名高き英雄が、王の言葉に応えた。
◇◆◇
雁夜
……ヤバい、めっちゃ筆が動いたわ。
カリヤーンが苦しんでるところ。
臓硯
よくよく考えると第四次聖杯戦争って、めっちゃ見られてたんだよね。介入もさもありなんな状況で防いだ妖怪は立派だよ。
⋯⋯浄化されたけど。
ランスロット
早いところ退場してもらいました。
普通に召喚したほうが強いと思うんだけどなぁ。
ギャラハッド
なんで召喚されたんですか?
詳細は次話。