日本と比べれば発生件数は少ないものの、EUでもノイズによる被害は起きていた。
その日、地中海に面するフランス南東の都市トゥーロンでノイズの発生が確認された。
海からノイズの出現した直後に避難命令が出されたが、混乱した市民によって交通網は完全に麻痺。
その間にもノイズは海岸から市街地に達しようとしていた。
その時、一機のヘリが現場上空にやって来た。
中にいるのはパイロットを除けば黒服にサングラスの男と修道服の少女。
「聖バルトロメオ、現場に到着しました」
「分かりました」
少女は首からX字型の十字架を下げ、ベールからは金色の髪が覗いている
白い肌に整った顔立ち。見惚れる人間がいてもおかしくない美貌だが、ただ一点、彼女の両目は暗く濁っていた。
黒服の男はそれを痛ましく思い、同時にそんな憐れみが偽善だと自覚して顔を歪める。
その表情を見られない事に小さな安堵を覚えながら、男は機内に置かれていた細長いケースを少女の顔の高さに上げて開く。
中に入っていたのは布に巻かれた古めかしい槍だ。
男のサングラスの奥の目が細まり、微かに息を漏らす。
「――聖槍。何度見ても惚れ惚れします」
「ええ。この盲いた瞳でもはっきりとその存在を視る事が出来ます」
聖槍は経済破綻し、デュランダルを手放さなければならなくなったフランスに残された完全聖遺物。キリスト教において重要な意味を持つそれはブラックアートと呼ばれる異端技術の中でも異端中の異端。
カトリックの総本山であるヴァチカンのローマ教皇庁から渡すように要求が来ているが政府は黙殺している。彼等は千年前に発見された際に偽物と断じている。そんな過去がある以上、あまり強くは出られない。
「ご武運を。アーメン」
「ありがとうございます」
男がヘリの扉を開けると、槍を抱きしめるようにして持った少女は躊躇なく飛び降り、体を空中に舞わせた。
地表まで数百メートル。常人なら即死の高度から苦もなく着地すると、彼女の整った唇が言葉を紡ぐ。
「マラナ・タ」
槍を掲げ、布を風に攫わせる。
「ホナサ」
完全聖遺物は一度起動させればフォニックゲインがなくとも励起状態に移行させる事が出来る。だから放たれる言葉は外へ向けたものではなく内へ向けたもの。恐怖を殺して戦意を高める為の自己暗示。
カストディアンを讃えるものでは断じてない。人々が望み、心に宿した架空の神。実体はなくとも多くの人を導いてきた存在への感謝だ。
穂先から柄の一部にぐちゃぐちゃな形の模様が浮かぶ。それと同時に彼女の両目が青い光を取り戻し、ノイズをはっきりと射抜いた。
一見すると大きなトカゲだが、尻尾は太く、そこにも口と牙を備えている。
他には蝙蝠のような小型のノイズが無数。
櫻井理論の解明に失敗した為シンフォギアを纏う事は出来ないが、それでも聖槍は単体で十分な力を持っていた。
彼女が聖槍を横薙ぎに振るうと、その軌道を追うように淡い光が放たれる。
ノイズの体に横一直線の線が走り、体が上下で僅かにズレた次の瞬間には塵となってノイズは炭素と飛散する。
あまりに呆気ない幕切れだが彼女は気にしない。
彼女の戦闘には人命がかかっているのだ。そこに勝負の余韻が挟まれる余地はない。
一粒の麦であれと自身に課した彼女にとって重要なのは無辜の人々を守れたかどうか。
ノイズとの戦いは苦しいが、やり遂げると誓った。
神の愛など存在しない世界に信仰を広めてしまった先祖達。それでも救いを求めて真摯な祈りを捧げる人々。
彼等に報いたかった。神が授ける愛はなくとも、長い年月に渡って人が隣人へ向けた愛は確かにあったと信じたいから。
討ち漏らしたノイズがいないかしばらく周囲を確認し、大丈夫だと確信を持った少女は黒服の男と合流。聖槍を渡す。
その時には彼女の双眸は閉じられていた。
ブログのアクセス解析で「戦姫絶唱シンフォギア オリキャラ」とかあったんでやってみた。
聖遺物といえばロンギヌスの槍だよねぇ。まあ、槍自体は当時どこにでもあったものなんだけど。
風鳴翼「私は一振りの剣です」
バルトロメオ「私は一粒の麦です」
後者はいまいち締まらない気もする。