自他共に認める雨男である陰山礼三。
密かにピクニックや海水浴に行きたいなと願いながらも、雨男の体質を受け入れている。
しかし、娘の結婚式を前に、心境の変化が訪れる…

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雨男 陰山礼三の幸福

陰山礼三のイベントはいつも雨だった。

小学校の遠足も。

中学、高校の修学旅行も。

何なら小〜高校までの運動会はほとんどが雨だった。

大人になってからもそれは続いた。

初めての彼女とのデート。

会社のゴルフコンペ。

結婚式だって雨だった。

今じゃ会社で接待ゴルフをする時に呼ばれなくなった。

仲のいい同僚同士の炎天下でのゴルフの時だけ呼ばれた。

いい感じでお湿りになって暑さが和らぐからだ。

このように陰山はすでに自他共に認める雨男だった。

 

ここまで精度が高くなると逆に重宝がられた。

なんせ、連れて行けば必ず雨が降るのだ。

先ほどの炎天下のゴルフしかり、嫌な取引先とのバーベキュー大会や、なかなか消えない山火事が起きた時などちょくちょく呼び出された。

特に陰山の勤め先が農協だった事もあり、雨が足りないと言ってはその都度呼び出された。お陰でこの辺りの田畑は日照りによる不作をここ十数年全く経験せずにいられた。

陰山もこの難儀な体質が他人様の役に立つならと喜んで駆けつけた。

 

さて、ここまで雨男という体質に振り回されていると、おかしな事に気がついたりする。

雨が降る条件だ。

雨男としての体質が発動するのには条件があったのだ。

 

それは、そのイベントを陰山自身が楽しみにしている事。

そのイベントが楽しみという気持ちが無ければ雨にはならないのだ。

だから山火事の時などは、わざわざ職場のマドンナ的美人に

「吉田さんちの果樹園まで延焼しないように、防火対策を手伝いに行きましょう」

と誘い出して貰ったりと、そこそこ手間なのだ。

 

しかし、この条件に当てはまらないパターンでも雨が降らなかったことがある。

例えば、運動会。

小学校から高校までほとんど雨だった。

でも小学校の2年間と高校の1回だけ、運動会の日に快晴だったことがある。

気になって調べてみると、それぐらいの時期に、転勤族の親に連れられて転校してきた生徒が来ていた事が分かった。

小学校の頃は2年間、高校の時は半年でまた引越して行ってしまったが、その時だけは陰山の体質は無効化された。

学校の行事に限ってではあるが。

陰山は密かにその2人の人物は「晴男」であると考えた。

事実、当時彼らと話した者達によると彼らは

「イベントの時に雨とか降った事がない」

と証言していた事が分かった。

世の中には自分の雨男体質を打ち消すほどの晴男がいる。

この事実は陰山にとって希望となった。

陰山だって、晴れた公園でピクニックや真夏の太陽の下で海水浴とか経験したかったのだ。

 

ある時、陰山は晴男を切実に求める事になる。

娘の結婚式が一年後に決まったのだ。

娘は、

「雨でも別に良いよ。ほら雨降って地固まるとかいうじゃん」

と言ってくれたが、式場を下見した時に、この娘には燦々と輝く太陽の下で大勢の人に祝福して貰いたいと強く願った。

だから以前より考えていた計画を実行に移す。

晴男探しだ。

陰山は勤め先を一年休職し、日本全国を旅行する事にした。

日本一周の観光旅行だ。

陰山のやることは一つ。

ただ旅行先の観光を楽しむ事。

そして、雨が降らなかった場所に陰山の雨男体質を打ち消すほどの晴男がいる。

 

そうして、陰山は日本中を旅した。

雨の中、日本中を、まる一年。

雨は止まなかった。

全国探しても見つからず、もう娘の結婚式まであと一ヶ月も残されていない。

そして、ついに陰山は晴男探しを諦める事にする。

失意の中帰宅し、家族に

「俺は結婚式には出ない」

と宣言する。

娘や娘婿は必死に説得した。

しかし、説得も虚しく、陰山の結婚式不参加の意思は揺らがなかった。

何としても父にも参加してほしい。

祝ってほしい娘。

そんな娘の希望を叶えてあげたい娘婿。

そこで娘婿が

「家族だけの結婚式を別に開きましょう」

と提案する。

家族だけでなら、迷惑をかけるのは最小限で済むと考え、陰山も渋々妥協する。

陰山は、娘婿の配慮への感謝と参加を伝えた。

 

結婚式の1週間前に行われる家族だけの結婚式。

その当日。なんだかんだとワクワクしながら、自宅で燕尾服に着替えている陰山はふと違和感に気付く。

イベントの時、いつも家の外から聞こえて来る雨音が聞こえない。

気になって窓から外を見る。

晴れている。

晴れているのだ。

もしやと思い、娘婿に聞いてみると、

「そういや、僕、今までイベントで雨とか降った事ないですね」

という。

いた!

こんな近くにいた!

娘のハレの日を晴天で迎える喜びに打ち震える陰山。

結婚式の次の日。

それでもまだ確信の持てない陰山は、娘と娘婿をピクニックに誘う。人生初の河川敷でのピクニック。

娘婿がサプライズで用意してくれたバーベキューに舌鼓を打ちながら、

「彼の晴男体質は本物だ」

と確信する。

ついに陰山は本番の結婚式にも参加を表明。

盛大に行われた結婚式で、大勢の人たちに祝福される娘を見守る事が出来たのであった。

 

娘の結婚から陰山の暮らしは一転した。

新たに増えた家族と、今まで雨のせいで出来なかった色々なイベントを堪能する。

父親を早くに亡くしたという娘婿はよく懐いてくれた。

何と素晴らしき日々。

ただ最近ちょっと娘婿を連れ回しすぎて、娘が

「旦那を取られた」

と嫉妬してくるのが唯一の悩みである。


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