私は宇宙人です。地球は魔境でした。   作:深瀬悠

7 / 7
発・極夜都市東京 3

3.

 

 

 

22時40頃、シグレと合流したヒイロたちはナギとその部下1人を連れて電車に揺られ、秋葉原へ向かっていた。

 

 

「見えてきたぜ」

 

 

そのカグヤの声にヒイロは窓の外を見る。

雨が降って来たようで、ガラスに水滴がつく。

少し向こうには、まるで巨大な怪物のような黒い塊が見える。

あれがそうだろう。

 

秋葉原のビル群は新宿や渋谷とは違ってネオンや投影広告数は少ない。

しかしビル構造は独特で、個人製作のデバイスやプログラムを販売する自営店たちと居住スペースが入混じり、建物と建物の間は狭く、立体道路が足場のように町中に設置されている。

 

それは街というより巨大な基地内部のように感じる。

勿論、それはこの世代の人間の秋葉原の代表的な風景ではあるが、他の区域ではレトロな街並みや飲食店が並ぶところもある。

基本的には一般人はそちらに行く。

 

そしてその区域に行くには、駅を基点としなければ行けない構造なので、こうして彼らは電車で来ている。

 

ちなみに秋葉原にある、警察署にはナギが話をつけてある。

どうも彼らも要塞内への無暗の立ち入りはしないようだ。

それは事件の起きた区域によるが、基本は事件発生の連絡を本部へ行うだけの形だけのもの。

それだけ犯罪内容が複雑なのだ、ここは。

 

やがて電車は、ビル群の間を抜けて秋葉原駅へと停車した。

 

駅内は最低限、基本的な機能しか設置されていない。

昔は常陸とを繋ぐ列車も開通していたが、あの県が何十年前かに立ち入りが制限されてからは使われておらず、勿論地下側に入れないようになっている。

 

 

「電気街出口から行きましょう」

 

 

シグレが言った。

 

現在、情報師のネットアクセス権限はムラクモ他の企業によって停止されている。

体内デバイスの交換手術によって新たにアクセス権限を獲得するしかない。

そこで個人製作の違法パーツが蔓延る電気街方面だ。

商売してるのかしていないのかわからないような店から、ビルの上部階層の住宅部でもお金次第で開発なり改造なりをしてくれる。

 

集団はその情報師を捨て石にした。

上記の手術代と謝礼金を条件にして。

現状、彼は手術を終えているかはたまたお金で仕事から足を洗ったかの2択になるが、十中八九、ここにいる時点で足は洗っていないだろう。

 

街をぶち抜くようにある中央通りを横目にヒイロたちは立体道路を歩いて進んでいく。

 

この時間でもそれなりに、人とすれ違う。

肉体改造は最低限が基本常識ではあるが、その中でも機械が身体表面に露出していたり、義手や義足のものもいる。

いや、ここが特殊なだけかもしれない。

 

 

「カグヤ、能力は使える?」

 

 

ヒイロの問いにカグヤは首を横に振る。

 

 

「千里眼を邪魔されてからどうも嫌な感じだ。

 勘だが、また能力を使ったら邪魔してきそうだぜ」

 

「こっちの位置はわかるのかな?」

 

「いや、向こうは千里眼能力力場に反応して仕掛けてきた感じだった。

 一瞬の干渉だったから俺の位置もわかってないはず」

 

 

カグヤの能力比率はESPよりPKの方が強い。

翻って第六感に似た感覚というのには、どちらかというと疎い。

それでも、彼がその能力力場を感じれるということは敵はESPが強いとカグヤは考えた。

 

 

「焦ってるね」

 

「ああ。

 同格の能力者がいるなんて思ってなかっただろうしな。

 今頃、情報師の保護…いや、抹殺に動いてるはず」

 

 

それがすでに終わったことという可能性は、考えにくい。

抹殺なりが済んでいるなら、カグヤの能力を邪魔する必要がないのだ。

組織に繋がる人間は死んでいるのだから、『処理した』死体から情報が洩れるなんてことはない。

 

 

「懇意にしてるジャンク屋の店長がいるんですよ。

 彼に男の情報、ないしは潜伏場所を探ってみましょう。

 デバイスの手術室は僕も知らない」

 

「なるほど。

 その手術を請け負った人間に聞き込みをするってことか。

 そうでなくとも、名の立つ情報師なら潜伏先を提供する人間の関係性も聞けば見えてくる…と」

 

 

ナギの言葉にシグレは頷く。

彼らは、上へ、路地裏へ、下へと方向を変えながら灰色の街中を進んでいく。

そうか、これがナギの言っていた迷路要塞というやつかとヒイロは思った。

 

 

「なんていうか同じような景色ばかりだね」

 

 

ヒイロは、機器パーツの乱雑な展示を眺めながら呟く。

 

 

「覚える店…建物の形にポイントがあるんだ。

 あと少し歩くよ」

 

 

シグレはそう言って迷わず進んでいく。

ヒイロはそれに適当な返事をしながら、前を歩くナギを見る。

 

以前に見せてもらった身分データに記された内容を思い出す。

彼の肩書は【武装隊】だったか。

今は肩に紐で担がれた布袋に包まれた刀が目に入る。

 

 

「(こいつも刃物…)」

 

 

ヒイロの脳裏に、自身の兄の姿が現れた。

少し嫌な気分になったとき、そこでカグヤが話しかけてくる。

しかし、テレパシーによるもの。

脳内に彼の声が響く。

 

 

『…。ヒイロ、嫌な気配が増した』

 

『さっきからずっとある気配のやつ?』

 

『いや、違う。

 これが向こうのESPなら、敵に警戒されるのは相手もわかるはずだ。

 向こうの能力センサに引っかかるからな。

 強くなるのは変だ』

 

『つまり、別の何かが来てるってことか』

 

『ああ。こんだけ強いならこいつも超能力使いかもな』

 

 

ヒイロはカグヤには返事しなかったが、ウザったく思った。

地球に来てから超能力者なり、宇宙人なり遭遇率多くないかとのちの面倒ごとを想像して辟易する。

 

 

『最悪、そいつの後ろをついてけばいいでしょ』

 

 

ヒイロは、カグヤに面倒そうな目つきを向けた。

 

 

「あ、ここです」

 

 

シグレがそう言って、ある建物の2、3階層付近の店の前で立ち止まった。

ここは商売をする気があるようで、屋号なり、商品なりが見える。

シグレが店主の名前を呼びながら店内へと入っていく。

ヒイロたちも後に続いた。

 

店内は狭いというのが第一感想だ。

そもそもぎちぎちにビルが並び立っている中での、店内は電子パーツまみれ。当然と言えば当然だ。

 

 

「大きな声出すなよ」

 

 

その少し歳の行った低い声に設定された機械音声と共に、店主が姿を現した。

彼はまだ30代半ばと言ったところか。

店主はそこまで奇抜でもない。

身体が目に見えて機械改造跡があるとかでもなく、普通の人間だった。

 

 

「ああ。少し急ぎでね。

 今日はちょっと、聴きたいことがあって来たんだ」

 

「ふぅん。で、そちらは?」

 

 

店主がヒイロたちを見る。

そこでナギとその部下が前に出て身分データをデバイスに表示させながら言う。

 

 

「私は警視庁所属の刑事だ。

 今現在秋葉原に重大な犯罪をした情報師が潜伏している。

 その彼についての情報を伺いたい」

 

 

というわけと言った目線を店主に向けるシグレ。

店主は顎に手を当てると、情報師のデータを見せるように言った。

そして情報師の写真を見ると、納得と言った顔をする。

 

 

「知ってるよ。

 最近、東側の6階層ある店に来たって同業から情報があった。

 今時デバイス交換手術をここへしにきた、金持ちの客がいるってな」

 

「どれくらい前だ?」

 

「そうだな、3日前だ。

 そいつやっぱ変なとこに入り込んだりでもしたのか?」

 

「ああ。ムラクモへのハッキング容疑だ。

 今はネット接続権を剥奪している」

 

「ムラクモか!?なら相当な情報師だな」

 

「ああ。ユーザー名はDNBだ

 知ってるか?」

 

「有名な奴だよ、俺らン中では。

 そうか、こんな顔してんだな」

 

 

驚く店主をよそに、ナギもシグレもまだその店にいる可能性は高いと思った。

 

例え昨日手術したとしても体内デバイス術は、それなりに難しい。

だから皆、国の病院で行う。

個人の違法では設備も最新ではなく時間がかかるし、そして術後はしばらく自力で動けないのは、どちらでも一緒だ。

今押さえ込むことは簡単なはずだ。

 

 

「ああ。その店の名前を教えていただきたい。

 それで我々は退散する。

 夜遅くに邪魔をしたな」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

店の外へ出ると、ナギたちは走って聞き出した店へ向かう。

どうやらそれはもっと入り組んだところにあるようで、人間の姿は駅近くよりかは限りなく少なくなっている。

 

雨が本格的に降って来た。

そこらに付いた水滴たちが、人工物の光を反射して眩しい。

 

 

『ヒイロ、もう近いとこまで来てる』

 

 

カグヤのテレパシーが聞こえる。

 

 

『もう私にもわかる。

 いざとなったらカグヤ、頼むよ』

 

 

ヒイロとカグヤはやってくる刺客が、空から来ることを知っている。

この東京を覆う暗雲かつ夜の中なら、空を飛んでいようが目立たないというわけだ。

 

シグレは最短ルートでそこへの案内を続ける。

 

変わるがわる似た景色を横目に走るが、地球人なんか気にしなければ…なんて脳裏に考えてしまう。

ヒイロは超能力で片付けられない肉体変化だし、カグヤもあくまでも千里眼による透視が出来るという認識でいてもらいたい。

友だちの敵討ちは大事だが、最優先は<機構>の仕事だ。

今後それでやりづらくなっても困る。

 

それでも、ナギが危ないときは仕様がない。

 

 

「次を右に曲がったらすぐです!」

 

 

そうシグレが言ったが、ヒイロもカグヤも、そしてナギたちも立ち止まって上を見上げた。

 

 

「どうしたんですか!?」

 

 

シグレが振りかえってそう叫ぶように尋ねるが、3人はそれどころじゃない。

それはやはり上から、まるで怪物が降臨するかのように来た。

 

次の瞬間には細い糸…いや髪の毛が町全体に張り巡らされるように蠢く。

そして、髪たちはヒイロの周りの人間たちを気絶させていった。

 

 

「(刺客ってことはある。

  これで情報師や私たちの位置を把握するのか)」

 

 

ヒイロはこの行動の意味をすぐに理解した。

カグヤもきっとわかっているだろう。

能力で店への髪の侵入を防いだ。

 

そして、刺客…彼女は現れた。

少し離れた立体道路の中心に、子供…ヒイロと同い年くらいの少女がこちらを見つめている。

彼女は情報師の位置を知ったのだろう。

展開した髪を元の長さに戻すように街から収束させていく。

 

 

「(肉体操作の能力者か…)」

 

 

カグヤは、それ系は戦争で腐るほどみたなと、少し懐かしくも思った。

それは、この宇宙においてはありふれた能力だ。

 

 

「お前らは先に行け」

 

 

ナギが布袋から刀を取り出して言う。

カグヤがナギを見るが、彼もこっちを見ていた。

 

 

「超能力者といえど、一般人を戦わせるわけにはいかない。

 さっきの行動から見ても、刺客はコイツ1人のはずだ。

 俺でなんとかする」

 

「…わかった」

 

「XXXはこいつらについてやれ」

 

 

部下の1人にそう命じると、カグヤたちは場を離れさせる。

その中でヒイロはカグヤの右袖を掴んで、ひっぱった。

カグヤはそれの意味を察すると、すぐにテレパシーで呼びかける。

 

 

『どうかしたか?』

 

『能力で彼を監視しておいて』

 

『監視?』

 

『負けた時のことを考えて、ね。

 それにあの武器は気になる』

 

 

それを聞いてカグヤも彼女の兄絡みだろうなとすぐに合点がいった。

カグヤもどことなくアイツに似た雰囲気のナギの戦いには、興味がないわけではなかった。

いつか再び戦うアイツに勝つためにも。

 

 

『…わかった』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ヒイロたちが去った後、ナギは超人のようにビルの外付け階段から少女の方へ跳躍した。

立体道路へ彼も降り立つ。

 

少女は少しそれに驚いた顔をした。

 

 

「刺客がガキっていうのは驚いたが、お前が殺人犯なんだろ?

 抵抗してもいいが、その場合はガキだろうが殺す」

 

 

ナギが少女を睨みながらそう告げると、少女は口を開いた。

 

 

「凄むね、お兄さん。

 でも怖くないよ。

 そんな鉄の棒一本で私に勝てるはずないんだから」

 

 

細い、髪の毛…それが複雑に絡み合い、鋼鉄のワイヤーの如くナギに向かう。

面による攻撃はきっと当たれば、細切れにされてしまうことは、想像に難くない。

 

ナギはそれをとてもただの人間には思えないスピードでいなして避けると、そのまま少女へ一気に接近した。

当然彼女もただでは近寄らせず、髪たちでさっきのように切断能力を付与された攻撃による防御をする。

 

そこで初めて、ナギは刀を抜いた。

瞬く間にそれらがすべて切られて、少女への道が開く。

 

ナギは、鞘先で少女の腹へめがけて刺突をする。

彼女はそれに避ける反応が出来ず、吹き飛ばされた。

 

 

「(刀身が見えなかった…!これが抜刀剣術か)」

 

 

少女は地面を転がるが、咳をしながらもすぐに立ち上がった。

カグヤの予想したように肉体操作の能力が少女の力だ。

とっさに狙われた腹を、軟体化した手で防いだおかげで、痛み以外支障はない。

 

少女は、アジトを出る前に組織の相談役に、気を付けるように言われたことを思い出す。

 

 

「(これがおじいちゃんが言ってた、剣鬼…)」

 

 

少女は、この間にも片手間で市民を回収し、道路わきへ投げているナギを警戒しながら髪を周囲に張り巡らせる。

それは彼も同じで目が合う。

 

 

「(髪が思ったよりも多かったな。

  8連撃すべてを髪に使ってしまった。

  次は一刀で切る)」

 

 

ナギの抜刀術は一度技を使うと別の技を繰り出すために、1度納刀する必要がある。そして連続して技を繰り出すことは出来ない。

その1回の技で敵を切るのが、ナギの修めた剣術のコンセプトだからだ。

 

ナギはその場で、踏み込みの姿勢で刀の柄に手を添える。

少女はその彼の狙いに気づいた。

 

 

「(さっきの跳躍力をフルで使って私の反応前に切るつもりか。

  でも、こっちも手数とスピードは髪の性質上負けてない。

  踏み込む瞬間に首を切り落とす)」

 

 

互いにそのまま固まるが、ナギの足が動き、その場から消えた。

いなくなった空間に、髪の攻撃が虚しくも空を切る。

ナギのスピードはあれが全力ではなかった。

ナギは自身へと直線に向かうのではなく、髪の探知機能には上からくると少女は探知した。

だが、それでもナギは刀を抜かない。

そして彼女は気づいた。

 

 

「(探知が四方同時に反応してる…!!

  どこ?分身?こいつも能力者?

  なんで…!?)」

 

 

ナギはその少女の様子を見て予想の的中を感じた。

彼女が髪での探知をしているのなら、普段からそれに頼りきり、動体視力…本体側は通常の人間と変わらないということだ。

例え、肉体操作で眼球の動きを早くしようが、脳の情報処理までは追い付いてない。

 

さっきの8連撃はほぼ同時に斬撃を繰り出しただけの、本来の技の半分の出力だ。

だが、その速さだけでいままでの人間を殺してきた。

 

そのスピードを今度は腕だけでなく、身体全身で行う。

光よりも音よりも遅いが、人間相手ならこれで十分だ。

ナギがほぼ同時にあらゆる角度で存在する状況にて、相手を攪乱する。

 

 

「(わからない…!)」

 

 

少女は癇癪を起した子供のように、大きく束になった複数の髪たちを、振り回してがむしゃらに辺りに攻撃をまき散らす。

それは嵐のように周りを荒らしていく。

道が、ビルが傷をついて、轟音を立てる。

 

 

「だからガキは相手にしたくないんだ」

 

 

ナギは一度それを諦めさせるために、展開中の髪をすべて切り落とすことにした。

ナギは何かを呟き、刀を振ると、それらすべてを地面へ落とす。

 

 

「(嘘、あの刀のリーチ以上の大きさだったのに…!?)」

 

 

次に少女は身体周辺を髪で覆うように展開する。

これで攻撃方法は突きになるはずだ。

少女も斬撃は連続で繰り出せないのは気づいていたから。

そして刀が振れた瞬間に相打ち覚悟でそれらを髪を槍のようにして貫くことを考えた。

 

 

「(そうくるか。…ただの斬撃で倒れなかった土産だ)」

 

 

ナギはそこで、1つの剣術の奥義を繰り出した。

一刀での切り捨ては変わらない。

しかし刀を振る動作、その刀身の軌跡がブレるように重なって、もう一撃がまるでゲームのバグ技のように世界に顕現する。

 

それはヒイロたち【鋼鉄の宇宙人】の使う4種の技の1つ、その亜種ともいえる技。

しかし、奇怪なことにその呼び名は一緒だ。

いや、同じだからこそ宇宙はその式解を映した。

 

 

 

 

 

 

「【降晴】ーー水月」

 

 

 

 

 

 

その妖刀は、真の刀身が髪の槍と防壁を切り裂き、異次元の刀身が少女の首を切断した。

 

着地し納刀するナギの背後で、少女の首が宙に舞い、その長い髪が雨のように降り注ぐ。

 

少女はその一瞬、脳に焼き付いた刀身の色に見入っていた。

それは緋色のように綺麗な赤で、自分から流れる赤が恥ずかしくなるほど素敵だった。

 

少女は絶命の瞬間、振り向くナギの横顔、その冷徹な笑みを見る。

 

それを最後に彼女の目の前は真っ黒になった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

カグヤは手術をした店の男を能力で壁に拘束し、ベッドで横になっている情報師をヒイロたちと囲んでいた。

 

ナギの部下が身分データを見せて、淡々と定型文を告げる。

それを聞いた彼は観念したような顔をした。

 

 

「…そうか。潮時か」

 

「色々聞きたいことはあるが、まずはお前の取引した組織の居場所を言え。

 情報師もやめるんだな。

 死にたくないだろう?」

 

「…ああ。組織からもらった金も半分使っちまったしな」

 

 

そう言って、苦しそうに顔を歪ませている男を見る。

 

 

「…浅草だ。

 奴らの拠点はそこにある」

 

「嘘だったら」

 

「わかってる。どうせこのまま連れてかれるんだ。

 牢屋の中ならアイツらに殺されることもないはずだしな」

 

 

情報師は、あの少女と面識でもあるのか、恐怖が顔に出ていた。

 

部下は彼の言葉に頷く。

今この部屋は、現在もカグヤの能力であの髪の侵入を防いでいる。

今までの殺人もあの髪によるものだろうと、ヒイロとカグヤも考えていたからだ。

 

 

「とりあえず彼を移動させてもいいんだよね?お医者さん」

 

 

ヒイロは壁の男に問いかける。

彼は必死に頷いた。

正直、拠点さえ聞ければヒイロには、この男の生死などどうでもよかったが今は警察の協力者だ。

流れには乗っておこう。

 

 

「ならあの子が死んだ後にでも、タクシーにでも放り込んで駅まで向かおう。

 

 カグヤ、あっちはどうなってる?」

 

 

ヒイロはカグヤに近寄って、小声で話しかける。

 

 

「……あ、ああ、勝ったみたいだ」

 

 

ヒイロの問いにカグヤは返答が遅れた。

カグヤは今の場面で、ナギがまじないの言葉を使ったのを見たのだ。

それは、ヒイロの兄の声で聞いた、忘れられない言葉。

故に、疑問が頭を埋め尽くしていた。

 

 

「?ふぅん。ならもう少しで刑事さんもこっちくるかな」

 

 

ヒイロはそれに一瞬ハテナとなったが、流して玄関側を見る。

 

 

「…そうだな、来てからこいつを運ぶか」

 

 

そうから返事するしかないカグヤは、あの光景を脳内で繰り返して考察をしていた。

まだヒイロに気づかれない内に、あの刑事に話をつけなければと考えた。

 

<機構>の兵士だったころは何体も敵がいた。

だからこそ、十分に実験が出来た。

ただ、この星では戦争という戦争はここ何百年の間起きていないはず。

となると…

 

「(お前も、その言葉を知るために何人殺したんだ?)」

 

 

 

 

 




補足
作中の二文字を唱えれば、誰でもその能力が使えるというわけではないです。
ナギは宇宙人ではありません。
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