「アッテンボロー君! ケリムとバーラト、両星系の発展に、乾杯だ!」
祝杯が交わされるのは、とある高級レストランの個室。
そこでは二人の星系州知事が、親しい者同士の水入らずで会食していた。
ひとりは、実年齢よりも数段若々しい鉄灰色のウェーブ髪とそばかすが特徴の野党指導者。バーラト星系州知事ことダスティ・アッテンボロー。
そしてもう一人は、老年の域にして身長一八〇センチにもおよぶ大柄な体格で、海千山千の剛腕さを思わせる大物政治家。
「
「いやいやキミ、半年前会ったばかりじゃないか! キミも健康気をつけろよ? 最近はゲバラみたいに葉巻なんかくわえちゃってさ」
「あれ、演出なんで。実は中身ミントですし、普段は吸ってないです」
「伊達だったの? わっはっは!!」
同盟でも有数の工業力を誇るケリム星系を基盤に、強大な政治力を有する大御所であった。
彼は七三歳を迎えるが、とてもそうは思えない声量とフィジカルの持ち主である。
「肉を焼いていこう。やっぱり
二人の州知事が囲う夕食は、かつての東洋韓半島の大衆料理。
アッテンボローが数枚の牛ロースを丁寧に仕上げて味わう間に、権州知事は牛カルビと牛タンと
「権先生。ゆっくり食いましょうよ。べつに時間あるんですし。身体に負担でしょ」
「これがワタシの健康の秘訣だよ。男子たるもの、ドシドシ肉を喰え!」
権州知事は笑顔で、とにかく喰っていた。
他人に健康に気を遣えと忠告していたとは思えないほどの爆食っぷりであった。人間のカタチをした食欲工場は、その稼働を止めることはない。
「そういや、キミの懐刀のお姿が見えんねえ。あの男勝りのイケメン女の子」
「ああ、イヴ君ですね。懐刀というか、めったに懐に居ないですよ」
「ダメだよお、アッテンボロー君。焼肉はねえ、女の子といっしょに食べないとダメなんだよ! 肉、肉、酒、女! 肉、女、酒、
「わかった、わかったから。明日の会見はシラフで頼みますよ」
アッテンボローは苦笑いで受け流す。
ふと上がったイヴ・トリューニヒト議員の存在。話は自然とそちらにスライドする。
「そもそも彼女。我の強い問題児ですよ。色々ゴリ押ししますし」
「でも、お酌してくれるんだろ?」
「いやいや! 今時そんな要求したら糾弾されますよ。むしろ俺に『お茶をいただけるかな』なんて言ってきますけどね」
「なるほど。キミは、それがいいから彼女に肩入れしまくってる。転がされてるワケだ」
「そう見えます? 俺としては『もちつもたれつ』の仲なんですけど……」
権州知事のトングと鉄箸がすすむ。
焼いて、喰う。
焼いて、喰う。
もちろん酒もグイグイとすすむ。話も弾んでいく。
「だいたいねえ、我の強い問題児ってのはねえ、キミも大概だって」
「俺はずいぶん丸い人間だと思うんですが。とくに先生よりは」
「へえ? 士官学校時代ね、教授やってたワタシはよーく覚えてるよ?」
権州知事は三〇年以上前のエピソードを、つらつらと誦じながら懐かしむ。
いわく、キミの反骨精神はピカイチだったと。
面従腹背。陽奉陰違。
規則や暗黙の了解の穴を突いて、教条的な「指導」はのらりくらりと躱して、ひそかに同志を組織して、権利や主張を「手続きに則って」「至極まっとうに」体制側に呑ませるその姿。あれは士官の卵なんかじゃない。革命家の手腕だった、と。
ワタシは文民の教職だったから、呑気に眺めて楽しませてもらったけど、キミの狡猾さに負けちゃいけない教官殿は気の毒だし、悪巧みに付き合わされる学生も災難だなあと思っていたよ。などと。
若気の至りほど恥ずかしい話はない。
アッテンボローは、たまらず唸った。
「権先生。その辺で勘弁してくださいよ」
「うーん? 今も過去も変わらんから、過去の話はこのへんにしとくよ。で、今の話をするんだけどさあ……」
「今の話っていうのは、何ですか」
アッテンボローの問いに、権州知事はなぜか即答しない。
和やかに騒がしかったはずの会食に、一拍の間が生じた。
「イヴ・トリューニヒト議員は、どこだね」
「は?」
「今、どこにいる」
権州知事は途端に、腹の据わった声で訊く。
赤ら顔のままで。しかし酔いを飛ばすような、核心を突く言葉。
対するアッテンボローは、いたずらな顔で笑って躱す。
「どこかに旅行に行くっていってましたね。ま、そこはプライベートでプライバシーの話ってとこでお願いしますよ」
「旅行、かあ。いいねえ」
権州知事は上機嫌な微笑みを貼り付ける。
もちろん、瞳の奥はまるで笑っていない。
ワタシもたまには、温泉宿とかでのんびりしたいねえ、と。言葉面だけは穏やかだが、言わんとする真意は剣呑そのものであった。
「イヴ君のことだから、さぞ、知られざる穴場で満喫中なのだろうねえ」
「穴場には違いないでしょうね。実際、誰にも知られてないワケで」
ふうん? と。
権州知事の口角が上がる。
彼は政界の虚々実々を住まいとする、古狸の顔をしていた。
「行きたいねえ」
「権先生が行っても退屈だと思いますよ? そういう穴場って、ミーハーな観光客が喜びそうな飲食店も女の子も整備されてませんから」
「キミ、舐めてるだろ。ワタシは今でも学者だぞ。政治家以上にね」
権州知事の目つきに鋭さが増す。
静かに滲む覇気は、専門家としての矜持だろうか。
「ご専攻はマクロ経済学でしたね。近年著された本はたしか……」
「『経済原論再考 ー
暗に「読んだだろう?」と確かめる言葉。
しかしアッテンボローは、困ったように視線を空に漂わせる。
「ごめんなさい。正直に白状すると、忙しくて冒頭しか読んでないっすね」
アッテンボローは頭を下げて謝罪した。
それを受けて。権州知事は、別段怒るわけではなく、むしろしょんぼりとしていた。
「……読みにくかった? ごめんね」
「いえ、単純に忙しくて。たしかに失礼だったとは思いますが、そんなに落ち込まなくても」
「うん。忙しい人に読めっていうのは、配慮に欠けるよね。ごめんね」
「いや、そういうもりじゃ。てか肉焦げてますよ!」
その落胆ぶりは、いじけた子供のようであった。
アッテンボローは、どうにかして師の気持ちを上向かせようと質問を振り絞る。しかし書籍の内容はわからない。よって、書籍関係で湧いた疑問や興味で話題をつなぐしかない。
「あの。一つ、聞いても」
「……なに?」
「州知事職の人間が出版ってOKでしたっけ? 秘書さんとかに突っ込まれたりしませんでした?」
アッテンボローの無作法な質問は、権州知事の魂に火を入れた。
「いいんだよワタシは! それと思い出したが、キミの本はなんなんだ? 『革命戦争の回想』といったけど、やけに自己陶酔が激しい文面だったから、思わず全頁全行に赤を入れてしまったぞ!」
「そこはまあ、かなり昔に書いた自伝ですし? 判断は読者に委ねますよ。というかそこまで熱心に読んでくださって、ありがとうございます」
アッテンボローは頭を掻いてごまかした。
対する権州知事は「当たり前だろう?」と息を吐く。
かわいい教え子が大物になって書を著したのだから、穴が開くまで目を通すのがワタシなりの礼儀だ、と。
「で、本題だ。ダスティ・アッテンボロー君」
「なんです? 権州知事」
二人の州知事は再度、視線を合わせる。
「キミはイヴ・トリューニヒト議員を使って
「勿論そのつもりで。先生にはせいぜい、強力な共犯者になってもらいますよ」
「わっはっは。歴史が動くね、コレは」
思惑は合致した。カランと祝杯を交わす。
こうしてバーラト星系とケリム星系の代表は、自由惑星同盟内の非主流派としての互いの「意思」を確認した。
時、同じくして。
銀河を跨いでオリオン腕の、とある惑星。
「誰かが、銀河のどこかで私の噂をしているね」
男装の令嬢、イヴがつぶやく。
「イヴさんが悪目立ちしてるからじゃねえのか?」
「お前さんが言えた話じゃないな。あと注文タグ、鳴ったぞ」
そして当然というべきか、同行人には成り行きで入国したポプランとコーネフも。三人が同卓していたのは、ショッピングモールのフードコート。
「800グラムの牛ステーキとは。イヴさんは、かなりの健啖家ですね」
「議員は体力勝負でね。普段からしっかり食べておかないと、肝心な時に頭も身体も動かない。それはナンセンスだ」
イヴは分厚い牛ステーキにナイフを入れていた。大の男ですら完食困難な肉塊に対面し、汗一つ見せない涼しい顔で、文句のつけようのない流麗な所作で、切り分けた肉が口に運ばれる。
食事ひとつを取っても、強さと美しさを兼ね揃えた、紛れもない傑物ぶり。それでいてイヴ自身は小柄で細身に類するのだから、人体の神秘というべきか。
「それにね、コーネフ氏。食が細かったり粗雑だったりすると、相手に舐められるんだよ。度量と育ちが見透かされる」
「なるほど。たしかに貴女の食事を見て舐めてかかる輩はいないでしょうね」
「議員なんて聞くと高尚そうに聞こえるが、やっていることは猿の群れと同じさ。それでもまあ、今こんなに肉を食べているのは、単に私が食べるのが好きだからだけどね」
イヴは食欲を満たしながら、人間の本能を嘆いた。そして肉の品評をする。
彼女は言う。庶民的な価格で、この質と量は驚異的だ、と。
「……よっと戻ったぜ。で、そのサル社会のリーダー格のイヴさんは、あっという間に岩みてえなステーキを食い進めているわけね」
ポプランがテーブルに戻ってきた。
彼は元々注文していた窯焼きピザのほかに、他の店舗で目についたドーナツの詰め合わせもテイクアウトしていた。夕食というよりは、後でホテルでつまむためのものらしい。
「してポプランくん。この
「んー、まあ、退屈な街だわな。スリルも色気もねえ」
ポプランはわかりやすくガッカリしていた。
「普通よお、大都市つったら、ギラギラしてパーっとしてるだろ? ココは街自体はデカくて不自由なく小綺麗っちゃそうだが、そういうのがねえんだよ」
ポプランは感覚で訴える。
いわく、街全体が人形みたいで熱量が無いのだと。
「そうかな。私にはキラキラに見えるよ。ほら、周りの子供たちとか」
敢えてなのか。イヴは別の視点で、フードコートの客層に言及する。
夕食というには早い時間なので、放課後の中学生や高校生ばかり。低価格帯のハンバーガーや、ドリンクやアイスクリームをお供に、流行りの遊びや、誰それが格好いいだのと、他愛のない話題で盛り上がっている。ノートを広げて学校の課題と格闘していると思しき姿も珍しくない。
「友達との買い食い。青春の一幕だよ。きみには、あの子達がお人形さんに見えるのかな」
「そういうことじゃなくて、店とか街の雰囲気自体がさ……。デザインが薄味っていうか」
ポプランは抗弁した。たしかに子供云々は視野に入ってなかったけど、そこまでは言ってねえよと、と。
「ここに来てから、その辺のやつらのファッションにしても、仕事帰りみてえなのしか見かけねえんだ。みんな一緒の軍隊じゃあるまいし。どうなっちまってんだ?」
「言いたいことは解るよ。社会全体が『清潔すぎる』のだろう?」
ポプランが違和感を覚え、イヴが指摘する歪さ。
「この首都ステラリア・コモンズこそが、統軍総長閣下ことウィザーズくんの理想。誰もが搾取や隷属から解き放たれた「平等な社会」というわけだね」
漂白された街。欲望が否定された結果であった。
その在りようは、まさに無菌室。その特徴は
誰もが無条件に享受できる衣食住。適性や希望に応じて任される職種。手厚い医療福祉の完備。遊技場や公園、ショッピングモールのような社交や憩いの場。機能面でのサービスは充実しているように見える。
国家機構を整備してから、わずかな期間でこれほどの社会構築。学術的な見識を積んだ知識人ですら、招かれれば手放しで称賛してしまうだろう。
「ま、おれには水が合わねえな」
ポプランはあくびを堪える。
ここにはアドレナリンが沸き立つギャンブルもなければ、脳下垂体を突き動かすオンナもオトコも売られていない。サイネージ広告ですら控えめ。
金銭欲。色欲。物欲。人間の根源を煽るものが意図して脱色されている。強いていえば、せいぜい食欲に応えてくれるフードコートくらいだ。
「とはいえ、ポプランくんも街並みにケチをつける割には、ドーナツを買い込んでいるじゃないか」
「ここの政府からもらったカードでタダメシってんで、ついつい頼みまくっちまった。実際、味は美味えんだよな。もしかしてココでの娯楽って、メシだけ?」
ポプランは一瞬真実に辿り着きかけるも、その結論には釈然としない様子であった。
「ストレス発散に、なんか良いアイデアないか? おれはアドレナリンが出してえんだ」
「たまには刺激を絶った生活もいいんじゃないか」
「おれはイヴさんに聞いたんだけどなぁ、パズルゲームとクロスワードだけが友達のコーネフさんよお」
コーネフが会話に入る。
彼は軽めのサラダパスタをつまんでいた。
「おちついて本を読んだらどうだ。視野と見識が広がるぞ」
「へっ。枯れたジジイだぜ」
ポプランは息を吐く。そんな奴らばかりになったら、盛り上がりのないシケた国家になっちまうだろうが、とも付け加える。
「そもそもコーネフは人間を舐めすぎって話だ。国家作るくらい人間集まったら、絶対大勢居るぜ? おれみたいにエネルギー持て余した野郎どもが」
「ポプランくん。それは名推理だよ」
イヴはポプランの言葉を拾い上げた。
すなわち、欲望を押さえつけるだけでは当然、社会が成り立たない。真っ当に発散する場が必要だし、どこかに存在すると。まるで答えを知っているような素振りで、イヴはウインクしてみせる。
「わかった! スポーツだ!」
「ご名答」
イヴは拍手で褒める。
対するポプランも、ご満悦のようであった。
「そうと決まれば話は決まりだ。フライングボウル反則王の腕が鳴るぜ。明日はドーム行くかんな」
待ってろよ、まだ見ぬ名もなき野郎ども、と。
テンションが上がったポプランは、ようやく首都滞在に意義を見出したようで腕まくりをする。
相方のコーネフは、やれやれと首を振るばかりで静止を諦めていた。珍獣が世間様に放たれてしまった、と。
「……ポプランの妄言はともあれ。イヴさんはこの街、どう見ますか」
「妄言? ポプランくんの指摘は核心をついていると思うよ。この街は、人類の理想だ。繰り返しにはなるが、軍事指導者ウィザーズ・リーが造らせた理想の街だからね」
理想。理想の街。
イヴはその単語を強調する。
「理想、ですか」
「彼らの喧伝する『銀河の楽園』だよ。飢えも争いもない、永遠の理想郷だね」
見渡してみたまえ、と。イヴはフードコートのあちらこちらを示す。放課後の学生たち。未来。将来。輝き。瑞々しさ。他愛のなさ。平穏。日常……。
「ここは、ああいう誰かの幸せに尊さを感じられる人間じゃないと価値は見出せないよ」
「言わんとするところは解ります。自分が自分が、ってなってる人間には無理でしょうね」
「へえへえ、悪かったな。善良なお二方よお」
非難じみたものを感じ取ったのか、ポプランが会話に舞い戻った。
「尊さっていうか、下手すりゃ危ないヤツじゃねえか」
「そうかな? 可愛い子たちを見守るのは、心地良いものだよ」
イヴは頬杖をつきながら、しみじみと眺める。
彼女は遠い目をしていた。
「青春。制服姿。声。肌。わかるかい? この素晴らしさが。不可逆性が」
「いや、芸術みたいな同意を求められてもな」
「……すべてが『尊い』、ねえ」
「一番危ないヤツは、アンタってオチかよ」
イヴの見せるうっとりとした表情に、ポプランは引き気味につっこんだ。肌はありえねえだろ、と。さしものコーネフですら、ノーコメントの構えをとる。
「まさかアンタ、裏でそういうことしてねえだろうな? ネットで騒がれてる大富豪の裏リゾート話みたいなトコで」
「失敬だなポプランくん。これはわたしの名誉と尊厳に関わる話なので、強く反論させてもらうよ」
イヴはつらつらと論陣を張る。
いわく、触れられざる聖域だからこそ、尊いと。
私も一個の人間として、邪な感情が全くないと言えば嘘になるが、それは己の理性と良識を超えるものなどではない。容易に制御できる。内心の自由にとどまる。
なによりも。
もしも邪な手で、邪な言葉で、彼ら彼女らに触れてしまえば。『尊さ』のすべてが壊れてしまう。
幼き日々は、若き日々は、一瞬で過ぎ去る。刹那の光。とりとめのない喜怒哀楽のすべてが、個人にとってはかけがえのない不朽の財産。
だから我々大人たちは、その光を遮ってはならないのだ。己の一瞬の矮小な欲望のために、相手に永遠に等しい苦しみを生じさせるなど言語道断。万死に値する。
我々には、かつて若き日に受けた恩恵を、守られて育った恩義を、次の世代に引き渡す義務があるのだ。
私は守る者でありたい。与える者でありたい。
そうして誰かに引き継がれた幸せを、そっと眺めることで噛み締めたい……、と。
「すげえスピーチだな。政治家みてえだ」
「政治家だからね。私は理念に生きる者だよ」
イヴはぴしゃりと念押し、ステーキの最後の欠片を口に入れ、咀嚼し飲み下す。文句なしの完食であった。
「ともあれ二年間。
「とはいえ地方の事情が気になりますね」
「コーネフ氏の言う通り。もちろん、どこの国にも綻びはある。その矛盾にこそ、真実が存在する。私はそれが知りたい」
イヴは今後の予定に触れる。それは
「そのために、あのウィザーズくんから許可をもぎ取ったんだ。彼らに文句は言わせないよ」
なにかの突発的な事情がない限り、この謎多き国を丹念に周っていく。本当にまずいところは、いまも密かに尾けているであろう監視員の邪魔が入るにしても、そのラインこそが
「メシ食い終わったら、早いけどホテルに戻ろうぜ。フライングボウル乱入。明日が楽しみだぜ」
ポプランが英気を養うべく帰りを望んだところで。
彼の視界の先。ひとりの老人が、何もないところで倒れていた。
この人畜無害な街には似つかわしくない、主張の強い虎柄のスカジャンを羽織った老人であった。
彼はひどく酔っているようで、事実、少し離れた場所の三人の鼻につくレベルで酒臭かった。
「大丈夫かよジイさん。頭、打ってねえよな?」
ポプランは気怠げに介抱しにいく。この手のジジイはどこにでもいるもんだな、と。
「……触んなや、若造があ。そこの、嬢ちゃんが、いい」
「なんだこの泥酔ジイさん。いきなり減らず口かよ」
しかしポプランは勘づく。
このジイさんのツラ。声。どっかで会った気が。
「……あ? だい一三艦隊の、ポプランしょうさ、じゃねえか。てめえ、むかしからしってるぞ」
「はあ?」
泥酔老人はポプランに向かって、怪しい呂律でブツブツ呟く。
俺は上官だぞ。俺は提督だぞ。俺はヤン艦隊の一番槍だぞ。俺はバーミリオンの英雄なんだぞ。俺は同盟を救ったんだぞ。なんでカールセンが良くて俺がダメなんだ。俺は星条国連邦の提督なんだぞ。といった具合に。
一方のポプランも、泥酔老人の意味不明な独り言をヒントに脳細胞が記憶をたぐり始める。
アジア系で、好戦的で、虎柄好きなイケイケオヤジ。
そして、バーミリオン星域会戦で活躍した艦隊司令官。
かくして一つの結論に至る。
「こいつ! グエン・バン・ヒュー提督じゃねえか!」
その数奇な出会いに、とくに敬意は払われなかった。