放課後の第3音楽室。夕日が差し込む教室で、春風どれみは真剣な表情でステッキを構えていた。
「今日こそ、宿題のドリルを代わりにやってくれる魔法を成功させるんだから!」
彼女は深く息を吸い込み、魂の底から叫んだ。
「ピーリカピリララ ポポリカペーペルト! 万象一切、灰燼と為せ――!!」
隣で見守っていたはずのはづきとあいが、息を呑む。
刹那、かわいらしい「ピリララ」という音色ではなく、地獄の底から響くような地鳴りが校舎を揺らした。どれみの手元にあるはずのペペルトポロンから、ピンク色の光ではなく、太陽の表面温度に匹敵する黒紫色の猛炎が噴き出したのだ。
「えっ……熱っ!? なにこれ、熱っ!!」
どれみの悲鳴も虚しく、目の前の机に置かれた算数ドリルが、一瞬で分子レベルまで分解され、消滅した。いや、ドリルだけではない。筆箱も、机も、床のワックスも、そして音楽室の壁さえもが、紅蓮の炎に包まれ、静かに「灰」へと還っていく。
「ど、どれみちゃん! 宿題どころか、学校が灰になっちゃうわよ!」
はづきがメガネを曇らせながら叫ぶ。
「どれみ! 落ち着け! その『卍解』みたいな構えをやめろー!」あいの制止も耳に届かない。どれみの背後には、いつの間にか炎で作られた巨大な骸骨のような幻影が浮かび上がっていた。
「あわわわ……。ステーキが食べたいって願えばよかったのかなぁ……」
炎の渦の中心で、どれみは涙目で立ち尽くす。彼女が放ったのは、愛と希望の魔法ではない。数千年の歴史を誇る護廷十三隊の総隊長が振るう、究極の破壊の力だった。
数分後。
そこには、煙ひとつ立たないほど綺麗に消滅した「元・音楽室」の跡地と、呆然と座り込む3人の少女の姿があった。
「……宿題、なくなったね」
「せやな。……っていうか、学校の一部が消えたな」
「……これ、お仕置きでステーキ抜きの刑どころじゃ済まないよね……」
煙のくすぶる「元・音楽室」の跡地に、クリスタルボールに乗ったマジョリカが突っ込んできた。
「どれみーーー! おんどりゃあ、何をさらしてくれとるんじゃーーー!!」
その剣幕は、BLEACH公式サイトに登場するどの死神よりも恐ろしい。マジョリカは、あまりの衝撃に水晶玉から転げ落ち、どれみの鼻先に指を突きつけた。
「宿題を消せとは言ったがな、存在そのものを歴史から抹消せぇとは言っとらんわ! 空間ごと削り取ってしもて、これじゃあ魔法の修行どころか更地業者やないか!」
「だ、だってマジョリカ、つい気合が入りすぎて……『万象一切』って言ったら、なんだか凄く強くなれる気がして……」
どれみがモジモジしながら言い訳をすると、マジョリカの血管がさらに浮き出た。
「当たり前じゃ! それは霊圧を極めた者だけが許される禁忌の言葉じゃ! おかげで魔女界の緊急連絡網はパニック、女王様も『なんか現世で太陽が生まれた気がする』って困惑しとったわ!」
マジョリカは「アイタタタ」と頭を押さえながら、灰になったドリルを指差す。
「ええか、どれみ。お前は今日から魔女見習い返上じゃ! 代わりに護廷十三隊の入隊試験でも受けてこい! 罰として、MAHO堂の掃除を1000年分、火を使わずにこなしてもらうからな!!」
「そんなぁ〜〜! 世界で一番不幸な美少女(と、死神代行)だぁ〜〜〜!!」
どれみの叫びが、灰の舞う空へと虚しく響き渡ったのであった。