「人間ちゃんにこの世界、魔界の話をするっスよ」
少し落ち込む貴方に彼女が仕切りだすように話しだす。
現在の貴方がこの世界について理解していることは少ない。
自分は淫魔たちが住む国に流れ着いた。
魔界は人が住むには余りにも過酷な環境。
この世界の人間は大昔に消失してしまった。
人間は魔族にとって非常に都合がいい種族らしい。
「まぁ、大体その理解で正しいっスね、太古の昔、この魔界と人間の世界は重なっていたらしいんスよね、ちょっと頑張れば行き来できる距離感で……、例えるならネトゲで自分のアバターで入れるみたいな? 互いの世界の物は持ち出せないけど存在は行き来できる感じっス」
俗な表現であるが、魔界の専門用語を捲し立てられても困るので、貴方は彼女の表現でそのまま理解する。
「太古の魔族は人間ちゃん達を使って大いに繁栄したっス。人間ちゃん達からエネルギーは取り放題、特に魔力そのものが存在の種族は、もはや人間ちゃんなしでは生きていけないレベルだったらしいっス」
――彼女の言い方を聞けば、魔力に依存しない種族もいるのだろうか――
「そういう種族もいるっス、そいつらが言うには人間ちゃんのお肉は柔らかくて力が満ちる。もっとも美味な滋養食らしいっス」
貴方はその言葉を聞いて少し身震いする。
「でもまぁ、なんかよく分からないんスけど世界が二つに剥がれた。次元の位相がズレただの、過剰な行き来に世界の防衛機構が発動だの、はては誰かが意図的に世界を隠した陰謀論だの、いろんな説が提唱されたっスけど、とにかくある日、人間ちゃんの世界と魔界は行き来できなくなったっス。向こうの世界の魔族は全員強制ログアウト、サーバーはあるはずなのにログインできない状態で大炎上っス」
「魔界は大混乱なんて表現じゃないくらいの大騒ぎっス。人間ちゃんが当たり前にいて、それ前提で世界が成り立ってた魔界はもうメチャメチャのクチャクチャっスよ」
いうなれば、現代社会で突然、食料とエネルギー資源の供給が突然途絶えてしまった状態なのだろうと貴方は想像した。
「魔界にも自力で魔力を生成する場所とか、魔力がなくても生きていける魔族もいたっスけど、ほとんどが人間ちゃん達に頼って生きていたッスから、めちゃくちゃな数の魔族が死んだッス」
「魔界は荒れて、魔力がなくちゃ存在できない魔族は他の種族の良質な土地を奪ったり……、相手をそのまま食べて魔力を奪ったり……、世界中で戦争しまくって、魔界にある魔力だけで何とか生きれる数まで数を減らしたっス」
「でも、ダメだったっス、相当文明が衰退してるのに、互いの種族は長い戦争で互いを憎しみから戦争を続けて……、緩やかに滅びる道を進んでいたっス」
「そんな時、淫魔の国の研究者達が画期的な発明をしたっス」
「枯渇せず持続的に利用できる高出力のエネルギー源を生み出す夢のような動力システム、通称“魔力炉”」
「特殊な魔力なんで、それを受け入れるための適合化は必要だったっスけど、それさえすればどの魔族だろうと魔力の消失による消滅を避けることが出来る。滅びゆく魔族にとっての救世の発明……」
「淫魔族はこの魔力炉を軸に世界の混乱を収めたっス。協力する種族にはエネルギーを提供して同盟を、そうでない者には、無限のエネルギーで相手を下す」
「そうやって、人間ちゃんの消失から幾星霜 “世界は淫魔族の元”、衰退した文明を復興すべく手を取り合っている最中である” ……なんて教練本には書いてあるっスね」
「まぁ、ここまで色々あったのにこの魔界にはいろんな国があるっス。つまりはそういうことっス」
「でも大まかな国同士の集まりでいうなら、一応は大雑把に三つに纏められるっすね、ここら辺はぼんやり知ってればいいと思うっス」
「まずこの世界は次元の異なる世界が重なる三層構造になってるわけっスけど……」
当然のように語られる。理解不能の常識に貴方は待ったをかける。
――待って欲しい、それはどういったことだろうか――
「え? 言葉の通りっスけど?」
――その三層という表現は比喩で、例えば海や山脈に隔てられて三つの土地があると?――
「いや、普通にこの場所以外に二つ世界があるっスけど……?」
――……つまり、宇宙にある別の惑星に住んでるということだろうか?――
「宇宙……? 惑星……? あぁ、人間ちゃんの世界ってそういう風な感じなんすね、いや、人間ちゃんにとってこの場所は同じ世界じゃないっすよね? それと同じっす」
貴方は隔絶した常識に頭を痛める。
貴方の住む世界を例に出して、物理法則はどうなっているかと訴えた。
「ふぅん……、無限に広がる暗黒空間、それに人間ちゃん達が住む丸い土地……、え? 丸い土地? なんかカワヨ……、人間ちゃん達はまん丸な土地に住んでるとかメルヘン度ヤバ過ぎじゃないっすか? うっわ、なんかこっちの三段重ねの階層構造とかクソダサく思えてきたっスね」
貴方からすればそちらの世界がファンタジーである。
「私達の世界の外には人間ちゃんの世界で言う宇宙とかは無いっスね、世界の端から先は次元の狭間で何もないっス、はぁ……、球状の土地とかおもしろすぎ……、なんでそんな形になってるんスか?」
そう問われて貴方の脳内に、重力やら引力やらの形にもならない答えが浮かぶが、何故世界がそうであるかを問われれば答えは出なかった。
――世界に端っこが出来ないように? いや忘れて欲しい――
「おいおい、理由が可愛すぎかよっス……、マジで人間ちゃんの世界に行ってみたいっスよ……」
どうやら話題が脱線しかけていると感じた貴方は、彼女に淫魔の社会について話題を戻すように伝える。
「えーっと、つまりっスね。人間ちゃんの世界で言う“別の国”じゃなくて、“別の世界”が三つ重なってると思えばいいっス」
「一つは私達淫魔の陣営の “魔界” 魔力なしには生きれない魔族は大体ここっス。ウチの国が魔力を作って、それで他の種族をしは……、仲間にしてるグループっスね」
「魔力が無くても生きれる種族だって魔力はあるに越したことはないっスからね、この魔界で一番たくさんの種族が集まってるっス」
「それで二つ目は魔力なしに生きれる獣人族や魔物族を中心とした陣営の “境界” っス」
「元から魔力なしに強靭な肉体を持つ奴らは人間ちゃん達が消えて起きた大戦争時代……、そこで一番勢力を伸ばしてたのはこいつらっスね」
「力こそ正義を地でいく修羅の国で、少し昔の戦争で私達の陣営とはバチバチにやり合ったっス、こっちが勝ったって教わるっスけど……、向こうもこちらに勝って魔力を提供させる条約を結んだって言ってるっス」
「実際は、もうこんなんやってたら全員滅ぶだろって段階で、魔力炉のカードを切って何とか互いに和平したというのが正確っスね」
「昔に国交を結んで今は少しづつ交流をして、淫魔の国でも普通に見かけるッスけど、国同士はよく争ってるニュースを聞くっスね」
「三つ目の陣営なんすけど……、こいつらは、なんというか……、何なんスかね?」
「天使族っていう奴らなんすけど……」
「最後の世界である“天界” に居るなんかヤバい宗教に全員染まってるヤベぇ奴らっスね」
――貴方は天使を擁護する――
「それっすよ!! どうしてアイツらが大昔で人間ちゃん達から謎に好感度が高いのが意味不明っス!! あんなぶっ飛んだイカレ集団が好きとかマジどうにかしてるッス!」
「まだ人間ちゃんと魔界が繋がってた大昔の時代で一番ヤバい種族がアイツ等だったっス。人間ちゃんを独占して、天使族以外の種族をガチで滅ぼそうとしていたサイコパス集団っスよ……」
「魔界での評判は最低っすね、ことあるごとに謎理論でケンカ吹っ掛けてくるし……、しかも奴らも私達淫魔族と同じで魔力に依存しているくせに、何故か飢餓大戦でその数と文明基盤のダメージが比較的少なくて……、あいつらは否定して証拠もないっスけど、もしかして人間ちゃん達の世界が分かれた原因ってこいつらのせいじゃね? って感じの陰謀論が根強いのはアイツ等の自業自得っすね」
「今は自分の国に引きこもって断交状態、そのくせこっちが魔力炉を増設したり、獣人族と貿易してると、世界の調和が云々とか謎教義でゴリ押しで妨害してくるトんでる奴らっス」
「まぁ、こんな感じが私達の世界っス、まぁ、人間ちゃんにはあんまり関係ないと思うんでぼんやり知っておくぐらいで良いと思うっスよ」
――思ったよりこの世界は物騒に思える――
「はっはっは! 時々、天使共が魔力炉を私達ごとふっ飛ばしに来たり、境界の過激派が炉の製造技術や核心素材をぶんどりに来るだけっスよ!」
――それを飄々と言えるのが物騒と言わずなんというのだろうか――
「あー、まぁ、今のはちょっと強がりもあったっス……、でも人間ちゃんが他の世界に行く必要はないっスよ、別次元への移動の魔法研究はこの魔界が一番進んでるッスから」
――そうなのだろうか――
「ともかく現状はそんな良く分からない国家間関係より、この魔界で人間ちゃんがどうやって安全かつ穏便に、社会進出するかっスよ!」
「ある程度、人間ちゃんを尊重してくれて、しかも友好的な組織に近づいて……、それともむしろ人間ちゃんのシンパを少しづつ増やす……? そしたら国相手に交渉を……、いや、これ無理ゲーでは?」
どうやら貴方が元の世界に戻るための道筋は果てしなく遠いようだ。
貴方は――
自分のために頭を悩ます彼女に加勢しようと、貴方はその展望を一緒に協議した