「12回目も失敗、でも問題点は確定……、おそらく後は試行錯誤っスね……、」
口元を手でなぞりながら、彼女は失敗の結果を食い入るように見つめる。
この作業に貴方が出来ることはない、貴方は邪魔にならないようにその作業を見守った。
「多分、次いけるっス……」
彼女の淡々とした呟き、自身や気負いのない報告としての一言に貴方は頼もしさを感じるだろう。
彼女が無言で魔法陣に手を置き、貴方の聞きとれない言語を話す。
「
これまで幾度も見ていた光景、しかし彼女の集中力も変わらない。
「
魔法陣の中央で泡立つ血の池
今までで一番激しい閃光が辺りを照らす。
コトリと、硬い何かが魔法陣の中心に落ちる。
部屋の中心には、薄桃色を帯びた小さな赤い宝石があった
貴方が喝采の声をあげようとした時、彼女は首を振る。
「ダメっスね、物質として出力できても構造がグチャグチャで意味ないっス、紛い物もいい所っスよ」
彼女はその石を拾い上げると手をかざす。
――何をするつもりなのだろうか――
「物質を分解して処分するっスよ、けどまぁ……」
彼女はいつも物を自由に出し入れする。
今回も手の平で何かを念じるように彼女はその手のひらの石を睨みつけた。
しかし、石は変わらず彼女の手元にあった。
「面倒っスね、死ぬほど頑張って滅茶苦茶壊れにくい石ころ一つとかワリに合わないっすよ……」
――見た目は綺麗な石なんだから家にでも飾ればいい――
悩まし気な彼女を元気づけるため、貴方は軽い冗談を言ってみると彼女は吹き出した。
「ぷっ、そりゃ無理っすよ、こんなん家にあるのがバレたら処分確定のヤバい品物……、もー人間ちゃんてば能天気なんスから」
貴方は彼女の顔に笑顔を浮かべさせたことに満足する前に、聞き逃せない言葉を確かに聞いた。
――処分確定とはどういうことだろうか――
「あっ、ヤバ……」
明らかに隠していたことが見つかってしまったという様な彼女の表情を見て、貴方は彼女に詰め寄る。
「い、いや今のは言葉の綾というか……」
その言葉が噓かどうかぐらい、貴方は心が読めなくても分かってしまうだろう。
問い詰める貴方に、彼女は観念したかのように白状した。
「淫魔の社会は魔力の多寡で決まる。トップダウンのギッチギチな社会っス。そんな社会で上の命令を跳ねのけられる魔道具なんて、超ド級の犯罪っス。製造所持どころか製造知識を調べただけで極刑っス……、ア、アハハハ……、なんてね……、に、人間ちゃん顔が怖いっすよ?」
――つまりそれは死刑ということだろうか?――
「死? 人間ちゃんの世界ってバツの中で死が一番重いんスか? ハハッ、上級淫魔達がそんな甘っちょろい終わりを許すわけが――」
貴方は、彼女にリスクを負わせていることを理解していたつもりであった。
ここまで来て、いつでも、何度でも貴方はそう思った。
貴方を助けるために立場を賭けた。
貴方を返すため
そしてそれを自分は何一つ理解などしていなかったと貴方は考える。
「に、人間ちゃん? おーい? ど、どうしたんスか……、そんな悲しい気持ち、ならなくていいっスよ?」
貴方という人間がどれほどこの世界で貴重だと言えども、彼女の善意は本物だと感じる。
貴方を独り占めにして犯すことも出来た。
貴方を出世の道具として使うことも出来た。
だが、彼女はただ、貴方を貴方自身の世界に返すというほとんど見込みのない道に命を賭けている。
「と、とにかく元気出すっス!! ちょうど時間ギリギリだし! 美味しい物食べるっス! 美味しいものを食べる人間ちゃんは幸せパワーがヤバいっスからね!」
――なぜ貴方は自分の為にここまでしてくれるのだろうか――
「えっ、何すか急に」
急な問いかけに戸惑う彼女は頬に指をあてて少し考え、パッと明るい顔を咲かせる。
「人間ちゃんが好きだからっス!!」
その降り注ぐ光に耐え切れず、貴方は彼女を試すような最低な疑問を投げかけてしまう。
――それは淫魔の本能がそうさせるからだろうか――
しかし、貴方の言葉に彼女は花のような笑顔のまま、少しの慈愛を含んだ色を見せる。
「好きってのは、本能より面倒なもんっスよ? なーんて!」
その一言に貴方は何も言えなくなる。
「さぁ、今日も失敗失敗! 今日は尻尾を巻いて帰るっス!」
貴方は――