「人間ちゃん?」
貴方は彼女が望むなら自分の身を如何様にもしていいと、そう伝えた。
そもそも、彼女のような美しい人と体を重ねるようなことになったとして、貴方に思い当たる損はない。
貴方の元居た世界なら大金を積んでも触れることすら怪しい程の輝く美貌の持ち主が彼女である。
貴方は心の底から彼女を望んだ。はずである――
「……嬉しいっスね、死ぬほど嬉しいっスけど、……けど」
彼女は少し寂しそうな笑みを見せる。
それを見て貴方は彼女が自分の誘いに乗らないようだと気づいた。
――これはつまり、拒絶されたということだろうか――
貴方の提案を蹴るはずはないと思い込んでいた貴方は固まってしまう。
「ちがうっス、……人間ちゃん、私は人間ちゃんが望むならいいっスよ、でもね、人間ちゃんが苦しそうなら絶対にしないっス」
その指摘は的外れに思えた。
今更隠すこともなく、貴方は彼女に性的に興奮している。
今までの余計な建前を抜きにすれば彼女を望むのは当然であった。
「……私もちょっと前なら、今みたいに言われたら問答無用で合体してましたっス、というか、なんで人間ちゃんは私をエッチな目で見てるのにヤらないんだろうってずっと不思議に思ってたっス」
――それは、理性を盾に自分が怯えていたからであろう、しかし貴女は魅力的であり、その抵抗は意味をなさなかった――
貴方の回答に、彼女はくすぐったそうに目を細める。
「嬉しいっス、でもね人間ちゃん、お話を聞いてくれないっスか?」
彼女は後ろ手に手を組み、恥ずかしそうに語りだす。
「私はね、初めは人間ちゃんがちょっとしたことで喜んで、自分を選んでくれるのが気持ちよくて気持ちよくて仕方がなかったっス」
――そのおかげで自分は救われた――
「ハハッ、冴えない主人公が幸運でヒロインをゲット! 薄幸人間ちゃんをお世話して惚れさせる ……って奴っス」
――そんな言い方は無いだろう、そしてそれは違う、全部逆であろう、幸運なのはどう考えても自分の方であると彼女に反論する――
「そう、それっスよ、人間ちゃんはなんとなくそれが分かってたんス、だから私を抱かなかった」
――自分は貴女をそのようになど思わない――
「人間ちゃんの心の奥底で見つけたっスよ、“こんな都合のいいこと” って気持ち、心のどこかで感じてたのをずっと人間ちゃんの心を眺めてた私は見つけちゃったっス」
――しかし、それはちっぽけでつまらない人のプライドだったと彼女に伝える――
「人間ちゃんの世界じゃこんな私が美人なんスよね? それでこの魔界じゃ人間ちゃんはチョー特別っス」
「人間ちゃんは、これが互いに“自分の価値を保証してくれる存在”を手放せないだけ、これって愛のフリしたレアカード交換じゃね? って思ってたんスよね?」
彼女の言葉に貴方は閉口する。
それは少し露悪的にも思えたが、まぎれもなく貴方の心にあった考えの一つだ。
「いやなんスよ」
彼女は貴方を見て、挑戦的な目をしながら微笑む。
「なんか、間にある。恩義だの、立場だの、見た目だの、ごちゃごちゃしたそういうの全部ふっ飛ばして……」
「私はただ貴方に選ばれたいっス」
貴方は、彼女の言葉の余りにも直線的な言葉に衝撃を受けた。
ありていに言えば痺れ、貴方は彼女を強く尊敬した。
対して貴方は、自分の浅はかさに恥を覚えるだろう。
彼女の覚悟の前で、貴方はあまりにも軽く、彼女と自分を扱っていた。
「だから今は人間ちゃんがお家に帰れるように頑張るっスよ!」
貴方は自分がとった軽率な行為を恥じた。
――ただ感謝を述べた――
「別にいいっスよ、お礼は今日も一緒に寝るっス!」
貴方は彼女と共に明日に備え、同じベッドに入った。
眠りにつく貴方は――
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