貴方は淫魔の国へ渡る   作:ばばばばば

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3-48 ボス戦3

 

 

 意識が、暗い底へ沈んでいく。

 

 甘い臭気が思考を満たす。

 

 貴方という輪郭が、少しずつ溶けていく。

 

 

 

 その闇の底で、何かが瞬いた。

 

 

(過去シーン抜粋)

 

 

 泣いている彼女。

 

 笑っている彼女。

 

 諦めたように目を伏せる彼女。

 

 選ばれなかった彼女。

 

 それでも、誰かを選ぼうとした彼女。

 

 

 

 

 いくつもの夜が過ぎる。

 

 いくつもの言葉が過ぎる。

 

 何でもない冗談の隙間に隠れていた、彼女の傷が見える。

 

 

 

 

 彼女は貴方を選んだ。

 

 助け、隠し、庇い、逃がそうとした。

 

 

 

 そして最後に、自分だけを選択肢から外した。

 

 貴方を選んだ彼女は自分を選ばなかった。

 

 

 貴方は、それが……、それだけはどうしても許せなかった。

 

 

 

 ――ふざけるな――

 

 

 貴方の中で、何かが燃えた。

 

 

 ――どうして自分が貴女を選ばないと思っている……!――

 

 

(手を伸ばすAA)

 

 

 動かないはずの腕が、動く。

 

 

 

 工場長の声が遠くなる。

 

 腐るほど甘い臭気が、貴方を底へ引きずり込む。

 

 それでも、貴方は手を伸ばす。

 

 

 ――そんな選択など自分は()()()()!!――

 

 

 

 彼女が渡したものへ。

 

 彼女が命を削って残したものへ。

 

 貴方は自分の選択を叩きつける。

 

 

 

 

 指先が、紅い光に触れる。

 

 

 

 

 ――自分は、貴女を選ぶ……、だから貴女も自分を選べ!――

 

 

 

(彼女が迷い、そして強く人間をみるAA )

 

 

 

 その瞬間、赤い石が答えを返すように脈打った。

 

 

 貴方が彼女を選び、彼女が貴方を選び返す。

 

 

 

 その時、初めて貴方達の回路はつながった。

 

 

 

 紅い光が、貴方の指先から溢れる。

 

 

 

「な、何ッ――!?」

 

 

 

 工場長の声が歪む。

 

 

 

 紅い光は床を走り、砕けた魔法陣を越え、血と瓦礫の間を抜けて、彼女へ届いた。

 

 

 

 

「……勝手に、うちの人間ちゃんに触ってんじゃねぇっスよ」

 

 

 

 

 彼女は渦巻く魔力を立ち上らせながら工場長を睨みつける。

 

 

 

 工場長の顔から笑みが消えた。

 

 

「お前に残っていた魔力などないはず――」

 

「そうっスね」

 

 

 彼女は、ゆっくりと立ち上がる。

 

 

「私だけなら、もう残ってなかったっス」

 

 

 紅い光が、彼女の瞳に宿る。

 

 

「でも、人間ちゃんが選んでくれた――」

 

 

 それ以外の答えはいらないと、前を見据える。

 

 

「だったら私が消えるわけがねぇっスよ」

 

 

 工場長が息を呑むが、それは一瞬。

 

 凄まじい敵意を立ち上らせて彼女を睨む。

 

 

 

「ジャンク風情が調子に乗るなよ……」

 

「私はもう、アンタの部品じゃない――」

 

 

「ほざくなッ!」

 

 

 工場長は彼女の言葉を聞かずに腕を振る。

 

 しかしその攻撃は彼女へ届く寸前でほどけ、煙のように散っていった。

 

 

「コレは私のモノだ! 頂点へ届く! 世界すら買える奇貨だ!」

 

「毎度毎度、栄達だの、野望だの、大望だの……、口を開けばつまんねぇ話っスねぇ……」

 

「だから貴様は愚かなのだ! 価値の分からん愚物はそのまま這いつくばっていろ!」

 

「はぁ……、私はね、……なんだったら別にアンタに扱き使われようが、心底どうでも良いっス……」

 

 

「ならば大人しく壊れろ!」

 

「でもね――」

 

 

 工場長は、今までとは比べものにならない魔力を腕に渦巻かせ、彼女へ向けた。

 

 

 

「人間ちゃんと私の甘々生活を邪魔するならぶっ飛ばすっス」

 

 

 彼女の声が響く。

 

 

Circuit Activation(回路始動)

 

 

 その詠唱は今までのくぐもった音ではなく、透き通った彼女の声であった。

 

 

Target Definition(対象定義)

 

「させるか!!」

 

 

 工場長の腕から、全てをかき混ぜる魔力の奔流が放たれようとする。

 

 

Control Acquisition(制御掌握)――I have control 《アンタはもう何もできない》」

 

 

 工場長の目が驚きで見開かれる。

 

 

 そして、何も動かない。

 

 

 驚愕の表情も、宙に放たれた魔法も、吹き荒ぶ残骸すらも。

 

 

 まるで時を止めたように、全てが静止していた。

 

 

 

「これは支配じゃなくて制御っスけど……」

 

「あー……、これが相手を部品にした感覚ってヤツっスかね?」

 

 

 

 この空間にある全ては、彼女の許可がなければ動けない。

 

 舞う砂塵も、宙に浮いた瓦礫も、工場長の魔力すらも。

 

 ここは、彼女の作業台だった。

 

 

「なんていうか、微塵も面白くねぇっスね。」

 

「時間停止ものAVでもなきゃ、使う気にもならねぇっス」

 

 

 工場長は、動かない体のまま、目だけで彼女に憎悪を吐いた。

 

 

「そんで、アンタとは死んでも寝たくない」

 

「――System Shutdown(そこで一人寂しく寝てろ)

 

 

 工場長の全身から、魔力が穴を開けたガス管のように吹き出す。

 

 そのうねりは、まるで工場長の絶叫のように、部屋の中をのたうち回った。

 

 

 

 宙に浮いた瓦礫が、ようやく重力を思い出したように落ち始める。

 

 それと同時に、工場長は目を見開いたまま、糸が切れたかのように地面に倒れ込んだ。

 

 

 

 静寂が落ちる。

 

 

 

 つい先ほどまで部屋を満たしていた魔力のうねりも、工場長の狂気じみた声も、全てが嘘のように消えていた。

 

 残ったのは、崩れかけた工作室。

 

 

「人間ちゃん!!」

 

 

 彼女はすぐに貴方へ振り返る。

 

 

 貴方は――

 

 

 閉じかける瞼にこちらへ駆け寄る彼女を見た。 

 

 

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