あらかじめ日記を手に入れたいから未来デパートの商品転売してるけど、魔王って呼ばれてるっぽい   作:ゲケエベレッケ

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ムシスカン&掲示板

 

 

フランスの通信社から派遣されたその特派員は、本音を言えばこの退屈な極東の島国での取材など、来る気もやる気も大して無かった。

 

目前でフラッシュを浴びる日本の総理大臣。どうにもパッとしない、どこにでもいるような冴えない初老の政治家だ。世界中が彼を「泥沼の戦争を終わらせた奇跡の調停者」と持て囃しているが、特派員は冷めた目で見ていた。裏社会や一部のネットの噂通り、あれはどうせ「マオウノゲボク」と名乗る得体の知れないハッカーか情報機関の手柄であり、この男はただ表舞台で都合よく神輿に乗せられているだけだろう、と。

 

そんな冷笑的な思考は、頭上に振り下ろされる錆びた鉈の冷たい風圧によって、完全なる絶望へと塗り潰された。

 

(ああ、私はこんなふざけた怪物に殺されて死ぬのか)

 

悲鳴を上げる間もなく、彼女は強く目を閉じた。

だが、いつまで経っても頭蓋が割られる鈍い痛みは訪れなかった。

代わりに耳を劈いたのは、頭上から降り注ぐ大量のガラスが砕け散る鋭い音と、空気を切り裂く剣戟の響きだった。

 

恐る恐る目を開けた彼女の視界に飛び込んできたのは、信じられない光景だった。

あのパッとしない初老の総理大臣が、彼女と醜悪なゴブリンとの間に立っていたのだ。その手には、漆黒の鞘から抜き放たれた抜き身の日本刀が握られている。

 

「ギャガァッ!」

 

ゴブリンの増援が飛びかかってくる。しかし、総理の身体はまるで重力の法則を無視したかのように、雷光の如き速度で床を蹴った。

特派員の目には、彼が動いたようにすら見えなかった。ただ銀色の閃きが空間に走った直後、飛びかかってきたゴブリンたちの首が、音もなく胴体から滑り落ちたのだ。

 

「ルォォォォォォッ!!」

 

奥の空間の裂け目から、ひときわ巨大な影が現れた。見上げるほどの巨体を持つオーガだ。その手には、圧縮された大火球が燃え盛っている。

 

オーガがその大火球をホールに向けて解き放った瞬間、総理は逃げるどころか、真っ向からその炎の塊に向かって踏み込んだ。

刃が下から上へと跳ね上がる。それだけで、周囲を丸焦げにするはずだった爆炎は、空間というキャンバスごと縦に真っ二つに切り裂かれ、熱波すら届かないまま虚空へと消滅した。

 

さらにその後方から、岩のような皮膚を持つ凶悪なトロールが地響きを立てて突進してくる。

 

総理は表情一つ変えず、ただ刀を正眼に構えた。いや、特派員にはそう見えただけで、実際には刀に内蔵されたレーダーと自動制御システムが最適解の迎撃モーションを強制的に総理の肉体に行わせているだけなのだが、見ている者からすれば、それはまさに剣の絶技だった。

 

トロールと交差したほんの一瞬。刀が不可視の斬撃の網を展開し、あの巨大な怪物を一瞬にして文字通りの粉微塵へと変え、ホールの床に血の雨を降らせた。

 

政治家の顔ではない。

それは紛れもなく、物語の中から飛び出してきた本物の英雄の姿だった。

 

そして、この常軌を逸した光景を目撃していたのは、彼女だけではなかった。

 

パニックに陥りながらも、周囲を取り囲む世界各国のメディアのカメラは、そのレンズをしっかりと彼に向けていたのだ。

生中継の電波に乗って、ただのパッとしない初老の政治家が、どこからともなく現れたファンタジーモンスターの大軍を相手に、神がかった剣術で無双する映像が、全世界のモニターへとリアルタイムで放映されていた。

 

■■■■

 

【悲報】日本の総理大臣、官邸でゴブリンと死闘を繰り広げる【ガチ】 Part45

 

312: 名無しさん@生中継

おいおいおい、Xのトレンド全部これじゃねーか!

1位:総理無双

2位:官邸襲撃

3位:ゴブリン実在

4位:リアルサムライ

 

313: 名無しさん@生中継

現在進行形で総理が無双してて草生える

なにこれ? 映画のプロモーション?

 

314: 名無しさん@生中継

いや生中継だろこれ。特派員泣いてるじゃん。

てか何故魔物が? ファンタジーかよ

 

315: 名無しさん@生中継

でも総理かっけー! 他国ツイッター見たら「Real Samurai!!」とか言われててバズり散らかしてるぜ!

 

316: 名無しさん@生中継

うおおおお! 今度は雷オークキャスター(?)の放った雷を空中でぶった切ったぞ!!

 

317: 名無しさん@生中継

雷切ったwww もうあの刀「雷切」って呼ぼうぜ。

 

318: 名無しさん@生中継

これ本当に現実だよな……?

今はAI過渡期かと思ってたらファンタジー過渡期だったのかよ

 

319: 名無しさん@生中継

あっ

 

320: 名無しさん@生中継

え? 総理、止まった?

 

321: 名無しさん@生中継

おい、動けなくなってるぞ。

刀の駆動音みたいなの、今ので急に鈍らなかったか?

オークが棍棒振り上げてる!! やっべえ!!

 

322: 名無しさん@生中継

ファッ!?

横からすげえ銃撃の嵐!! オークがハチの巣に!!

 

323: 名無しさん@生中継

え、ちょっと待って。

なんか大統領来て私兵(シークレットサービス)にアサルトライフル撃たせてるんすけど。

なんでこの人、日本にいんの!?

 

324: 名無しさん@生中継

分からん。最近ずっと日本滞在してるって噂は聞いたぜ。

てか大統領自らショットガン構えてて草

 

325: 名無しさん@生中継

これマジで、俺等人類の過渡期に立ってる系?

現代ダンジョンの先駆けか?

 

326: 名無しさん@生中継

就活やめて冒険者になるわ

 

 

---

 

■■■■

 

「さあさあ、どんな地獄絵図になってるかな」

 

コントローラーを置き、やりかけだった『デビルメイクライ』の画面から目を離して、私は手元のタブレット端末を引き寄せた。

 

商売の基本は需要と供給だ。そして、手元で埃を被っている『世紀末ウェポン・お得セット』の在庫をあのトップ連中に高値で売りつけるためには、何よりもまず「兵器を喉から手が出るほど欲しがる状況」――つまり「敵」が必要だった。

恐怖が大きければ大きいほど、連中の交渉は雑になる。足元を見るなら、相手の心が折れかけている時に限る。だから私は昨日、自らの内に潜むもしもボックスの機能を使って、ちょっとばかり世界線を移動してみたのだ。

 

『もしも、ゴブリンスレイヤーに出てくるような、凶悪な亜人だらけの世界線に行ったら』と。

 

目論見通り、そこは醜悪で暴力的なモンスターが支配する素晴らしい世紀末世界だった。

 

私は群がってくるバケモノどもを相手に、「次元断裂者(リフトクリーヴァ)!」「龍鱗反発番の流星!」「多元抜刀!」「刹那五月雨斬り!」「八艘飛び!」と、思いつく限りの厨二病全開な必殺技を叫びながら蹂躙して回った。

 

……まあ、エフェクトもクソもない、ただ『どこでもドア』の空間接続を応用しただけの全部全く同じ「次元斬撃」なんだけど。名前を叫んだほうがテンション上がるから仕方ない。

 

もちろん、ただの雑魚ばかりではなかった。

『亜人王・ノスフェラトゥ』とかいう、いかにもな名前の強者もいた。こいつがまた、とんでもないチート野郎で、「転移無効」「攻撃無効」「魅了の霧」「完全再生」「猛毒爪」「アンデット生成」と、ぼくがかんがえたさいきょうのボスモンスターみたいな凶悪スキルのデパートだったのだ。

 

だが、『魅了の霧』は私を常時覆う【黒鎧】の空間操作で飛ばせるし、『転移無効』に至っては笑止千万だった。自分自身を別の座標へ転移させられないなら、話は単純だ。

 

『ノスフェラトゥ以外の、宇宙のすべての空間座標のほうをズラして、太陽の中心を彼の座標に重ねた』だけである。

 

チートボスと彼が生成したアンデッドの軍勢は、一瞬にして数千万度のコロナの中へダイブした。

 

『攻撃無効』のおかげで太陽の熱でも焼け死なないだろうし、宇宙空間での呼吸も要らなさそうだったが、絶対的な重力からは逃れられない。自力で恒星を脱出する推力がない以上、永遠に燃え盛るプラズマの海を漂い続け、そのうちカーズ様みたいに考えるのをやめるんじゃないかな。ナムアミダブツ。

 

ともかく、そうやって強者どもを片っ端から間引き、恐怖で屈服させたゴブリンなどの雑魚亜人だけを残した。

 

そして、未来デパートのひみつ道具『ムシスカン(飲むと周囲から猛烈な不快感と敵意を持たれる薬)』を『フエルミラー』で大量に増殖させ、ゲート越しに無理やり飲ませてやったのだ。

 

これを飲んだが最後、理屈抜きで周囲の人間と殺し合う運命になる。問答無用のパブリックエネミーの完成だ。

 

彼らを日本の、それも官邸のど真ん中に放り込んで大暴れさせれば、日本の怒りと恐怖を完璧に煽ることができる。通常兵器では対処しきれないとなれば、私の超兵器が飛ぶように売れるという完璧な算段だった。

 

「さてさて、どうなってますかな。そろそろ泣きついてくる頃合……」

 

Twitter(意地でもXとは呼ばない)を開き、トレンドの動画を再生した私の顔から、ニヤリとした笑みがスッと消え去った。

 

「ええ……全滅してるじゃん」

 

画面の中で繰り広げられていたのは、ゴブリンによる血みどろの虐殺ショーではなかった。

 

ただの初老であるはずの総理大臣が、雷光のようなステップで空間を跳び回り、オークの魔法を叩き斬り、トロールをサイコロステーキに変えていく、常軌を逸した剣戟アクションだった。

 

その動きは、先ほどまで私がプレイしていたDMCのバージルそのもの。いや、それ以上に洗練された、一切の無駄がない完璧な殺戮の舞踏。

特派員のカメラが捉えたその姿は、ネットの海で「スタイリッシュ総理」「リアルサムライ」と大バズりし、もはやカルト的な英雄として称賛の嵐を巻き起こしていた。

 

「……ああ」

 

私は思わず天を仰ぎ、額に手を当てた。

 

「私が名刺代わりに押し付けた、『名刀・電光丸』か」

 

不良品のジャンクとはいえ、未来の自動戦闘システムを組み込んだチート武器。持たせたのが素人だろうが老人だろうが、敵を全滅させるまで強制的に最適解の動きを引き出し続ける代物だ。

 

自分で渡しておきながら、その存在を完全に失念していた。

 

「……まいったな。これじゃただ、総理の支持率と好感度を爆上げする手伝いをしただけじゃん」

 

 

 

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