綾小路 in Cクラス 作:NIES
みなさん文才があって羨ましい限りですわ
無人島試験が終わってから三日。オレたち一年生は、与えられた休暇を思う存分楽しんでいた。
「─────ふふ」
目の前で本を読んでいる椎名の表情が、不意に緩んだ。優しい微笑みの意図を勘繰っていると、こちらの視線に気付いたのか、椎名と目が合う。
「………すみません。自分の推理が当たっていたもので」
「少し気分が上がったのか。よくあることだ」
今、オレと椎名は船内のカフェを訪れていた。時間は午前九時過ぎ。朝食と昼食の間の時間帯だからか、客はオレたち二人を除けば数人しかいない。
「あら、綾小路くんもはしゃぐことってあるのですか?」
椎名が不思議そうな顔を浮かべて尋ねてくる。なんとも失礼な話だ、オレだってはしゃぐことくらいある。
「ああ、当然あるぞ。好き放題アイスを食べれたりしたらな」
「…………また同じ話をされたいんですか?」
「あ、いや…………冗談だろ、本気にするな」
「あなたは通常の声に起伏がなさすぎて聴き分けれないんですよ」
確かに、抑揚がないとはよく言われるな。石崎や、龍園なんかにもお前マジで言ってるのかネタなのか分かんねぇからどうにかしろと数回言われた記憶がある。
『生徒の皆さんにご連絡致します。先ほど全ての生徒宛に、学校から連絡事項を記載したメッセージを送信致しました。各自携帯を確認し、その指示に従ってください』
オレが昼食のハンバーガーを美味しくいただいていたところ、船内にアナウンスが響いた。まだ無人島試験が終わって三日だってのに、騒がしい連中だまったく。
そして考える暇もなく、スマホが震える。宛先は当然高育。面倒なことが始まる気しかしないが、見ないわけにも行かないよな。
『間もなく特別試験を開始いたします。各自指定された部屋に、指定された時刻にお越し下さい。10分以上の遅刻をした者にはペナルティを科す場合があります』
ほら出た、特別試験。一年生なんだからもっと休ませてくれよ。ただでさえ二日も無人島にいて体がまだバッキバキなんだ…………。
所要時間は約20分、19時30分に206号室か。恐らく少人数で行われる特別試験なんだろう。オレの苦手な奴だぁ。
椎名や龍園と情報を交換し終えてから、時間になりオレは206号室へと向かっていた。ちなみに、偶然同じグループになった椎名と一緒にだ。オレは、夏休み中に今年の運を全て使ってしまったのかもしれない。
「そういえば、いくらプラスになったのか訊きました? クラスポイント」
船内の廊下を歩きながら、そんなことを訊いてきた。龍園が大金星を挙げた無人島試験だが、実際に最も多くのポイントを稼いだのはAクラスだったそうだ。
「確か、176」
「そんなに………加えてプライベートポイントまであれば、十分すぎますね」
「ああ。限られた情報の中でアイツはよくやった」
前から思っていたが、オレと龍園の思考は似ている。0ポイント作戦や、あえてバラして敵の隙を突く奇策。すべて、オレも思いついていたものだ。
「ですが、今回の試験は恐らく少数精鋭。すべてのグループに手が回せるとは限りません」
「まずは内容を聞かない限りには話が進まない。判断するのは説明の後でも遅くはないだろう」
船内で行われるであろう、第二の特別試験。どんな内容なのかは想像もつかないが、やれと言われたことをやるだけだ。
時間ジャストに部屋に入ると、既に二人中にいた。一人目は試験の説明役を務めるであろうBクラス担任の星之宮先生。二人目は、同じグループになった木下だ。
「Cクラスの綾小路くんと椎名さんね。席についてちょうだい」
彼女に促されるまま、目の前の椅子に腰かける。正面にはいつもとは違って真面目な顔をしている星之宮。サイドには女子と落ち着かない環境だ。
「じゃあ、説明を始めるわね。今回の試験では、一年生全員を干支に準えた十二のグループに分けているの。君たちは『巳』、つまり蛇グループね。そして、このグループ内で試験を行うわ」
一年生全員を、ということは一グループ当たり十三~十四人の生徒が割り当てられているわけか。他クラスの生徒もほぼ均等に絡んでくると見て良いだろう。
「前回の試験ではグループワークに重点を置いていたけど、今回は違うわ。今回求められるのは、シンキング力よ」
シンキング力…………言葉通りの意味なら、考える力ということになる。やはり体力勝負ではなく、頭を使う試験ってことは確かだな。面倒くさそうだ。
「シンキング力っていうのは、‘‘現状を分析し課題を明確にする力’’、‘‘問題解決に向けたプロセスを明らかにし、準備する力’’、‘‘想像力を働かせ新たな勝ちを生み出す力’’のことよ」
いきなりそんなこと言われたって分からん。きっとすべて試験の内容に関わってくるんだろうが、肝心の内容が分からないんじゃ推理のしようがない。
言わば、登場人物のセリフだけ聞かされて犯人を当てろと言われてるようなものだ。これには彼の有名な小学生名探偵だってお手上げだろうさ。
「主な試験のルールはこの紙を読んで頂戴。全て書いてあるわ」
そう言われ、一枚のプリントが差し出された。見れば分かるが、A4サイズの紙にびっしりと文字が並んでいる。気が滅入りそうだな。
【夏季グループ別特別試験説明】
本試験では、各グループに割り当てられた『優待者』が基点となる。
定められた方法で学校に解答することで、四つの結果のうち一つを必ず得ることになる。
〇試験開始当日午前八時に一斉にメールを送る。『優待者』に選ばれた者には同時にその事実を伝える。
〇試験の日程は明日から四日後の午後九時まで(一日の完全自由日を挟む)
〇一日に二度、グループだけで所定の時刻と場所で一時間の話し合いをすること。
〇話し合いの内容は、グループの自主性にすべてを委ねるものとする。
〇試験の解答は、試験終了後午後九時半~十時までの三十分間とする。なお、解答は一人一回までとする。
〇解答は自分の携帯を使って所定のアドレスに送信することでのみ受け付ける。
〇『優待者』には解答を送る権利がない。
〇自身が配属された干支グループ以外への解答は全て無効とする。
〇試験結果の詳細は、試験最終日の午後十一時に全生徒にメールにて伝える。
「この試験で重要なのは、優待者の存在よ──────」
その後、星之宮から更なる試験の情報が開示された。まずは、必ず与えられる四つの結果について。これは、優待者が最後までバレない。優待者が全員に共有され暴かれる。試験終了を待たずに裏切り者が優待者を当てる、裏切り者が間違えるの四つだ。
全員で優待者を暴けば、全員に五十万プライベートポイント+優待者に追加で五十万。優待者が隠れ切れば優待者にのみ五十万。裏切り者が正解すれば回答者に五十万+該当者の所属クラブに五十クラスポイント。優待者を見抜かれたクラスは五十クラスポイントのペナルティだそうだ。
そして、一律に誰か一人でも回答を送信した段階でそのグループの試験は終了する。つまり、話し合いの場すらまともに用意できないまま試験が為す術無く終わる可能性もある。
試験について椎名とあーだこーだ言いながら歩いていると、ふとスマホが震えた。着信を見れば、非通知。真夜中ではないにしろ、こんな時間にかけてこられると警戒せざるを得ないな。
『─────はい。もしもし、綾小路ですが』
『─────夜分遅くにすみません。担任の坂上です。話があるので、今夜十二時に劇場でお会いできませんか?』
電話に出てみれば、相手はまさかの担任の坂上だった。何も問題は起こしていない筈だが、何の用だろうか。それに、夜を指定してくるあたり聞かれたくない話なんだろうか。
『分かりました』
『では』
返答をすると、少しの間を開けてから電話は切られた。隣で怪しげな視線をこちらに寄越している椎名になんて言い訳をしようか考えながら、オレは足を一歩踏み出した。