【完結】兄貴が異世界に行きやがったらしわ寄せは全部俺に来た ~背の低い不良男子高校生が、背の高い年上幼馴染の彼女ともう一度繋がるまで~   作:八月森

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~その頃の兄⑤~ 帰ったら小春にやってもらおうか

 街道沿いの林の中、拓けた空間で、オレは訓練用の木剣(ぼっけん)を握り、いつも通りエレナと――ではなく、トリーシャと向かい合っていた。

 

 毎日のエレナとの稽古と姫さんの治癒で徐々に身体はでき上がり、剣の扱いにも慣れてきた。そこで今度は、対魔術の訓練も考えるべきと、トリーシャから勧められたのだ。

 

 

「これから私が魔術を放つ。それをかい潜って私に剣を突き付けられたらアキトの勝ち。いい?」

 

「おう。分かった」

 

「――それじゃ、いくよ」

 

「おし、来い!」

 

 

 木剣を強く握り、気合を入れる。それを確認するとトリーシャは静かに目を閉じ、詠唱を朗々と口ずさむ。

 

 

「《――四方に集え水の精。天の雫。形のない拳。千の雨となりて眼前の敵を打ち据えん》」

 

 

 魔力を込めた言葉が響くと共に、トリーシャの周囲に無数の野球ボールほどの水の塊が浮かび上がっていく。それらは次の彼女の台詞を皮切りに、オレを目掛けて一斉に射出される。

 

 

「《拳雨散弾(けんうさんだん)……シュートレイン》」

 

 

 ヒュ――ドドドドドドド!

 

 

「うぉぉぉおおお!?」

 

 

 風切り音を鳴らして雨のように飛来する水の弾丸を、駆け回って寸前でかわしていく。水弾の群れはオレの後を追うように地面に降り注ぎ、大地を幾度も抉っていた。

 

 

「おぃぃぃ! 殺す気か!?」

 

「ちゃんと加減はしてる」

 

「ほんとか!? なんか地面に穴ぼこできてるけど!?」

 

「大丈夫。当たっても『かなり痛い』くらいで済むはず」

 

「それ大丈夫って言わねぇだろ!?」

 

 

 全力で右往左往しつつ粒の大きすぎる雨から逃げ回るが、オレがどこに走っても水弾は的確にこちらを追尾してくる。回り込んでもダメだった。ヤバい。全く近づける気がしない。

 

 

「ほら、〈解眼(かいがん)〉を使って。こういう状況にも対応できるか検証する意味もあるんだから」

 

「あぁぁあ、ちくしょう! 分かったよ!」

 

 

 オレは一旦距離を取り、両の目に意識を、魔力を集中させる。

 

 

(〈解眼〉……発動――!)

 

 

 別に唱えなくとも使用できるのだが、なんとなくカッコいいので胸の内で加護の名を唱える。すると――

 

 オレの身体から前方に、光の帯のようなものが伸びているのが視界に映る。これはおそらく、この状況で進むべき進路を指し示しているのだろう。

 

 現状では他に指針がない。導き出された答えに素直に従い、オレは光をなぞるように駆け出した。

 撃ち出された水弾の雨を迂回しながら前進し、ある程度まで進んだところで急速にインに切り込み雨をかいくぐる。その後はトリーシャの元まで直進し――

 

 

(――え、直進?)

 

 

 ここまでは上手くかわしてこれたが、オレとトリーシャの間にはまだ撃ち出されていない水が残っていた。このままでは何発かは貰いながら進むことになる。見えた答えがこれってことは……

 

 

(玉砕覚悟で突っ込むのが最適解!?)

 

 

 中空に浮いた水の塊が、改めてこちらに狙いを定めるのが見えた。

 

 

「……うぉぉ! やったらぁぁぁ!」

 

 

 おそらくは、当たっても致命傷にはならない魔術だからこその、喰らいながらの直進なんだろう。少なくとも今のオレでは、それが最適解なのだ。ならば覚悟を決め、突っ込むしかない。木剣を振りかぶりながら地面を蹴る。

 

〈解眼〉によって映し出された軌跡に沿って剣を振るい、大半を打ち落とすことに成功するものの……

 

 

「うっ!? ぐぇ!? ほんとに痛ぇ!?」

 

 

 何発かは手足や体に当たってしまう。それでも痛みを堪え、前進を続けたオレは――

 

 ピタリ――

 

 ――とうとう、トリーシャの首筋に切っ先を突き付けた。

 

 

「はぁ……! はぁ……!」

 

「――お見事」

 

 

 普段あまり表情を見せない彼女が、かすかに笑みを浮かべる。検証の結果に満足したということだろうか。それを見届けたオレは、途端に全身から力が抜け……

 

 

「あ……」

 

 

 トリーシャにもたれかかり、その場に押し倒してしまう。

 

 

「わ、悪い……!」

 

 

 体勢を立て直そうと腕に力を入れるが――痛い。

 打たれた箇所が痛む。全力疾走で息も切れた。近接戦とは種類の違う疲労が身体を包んでいた。すぐには立てない。

 

 

「……」

 

 

 トリーシャは無言でオレの下から抜け出すと、次にはその場に正座――というか、俗に言う女の子座り?――の姿勢を取る。そしてオレを仰向けに寝かせ、オレの頭を自分の太ももの上に乗せる。

 

 

(こ、これは……)

 

 

 頭部を包む柔らかい感触。なんかちょっといい匂いもする。見上げれば彼女の小さな微笑みが目に入り……

 

 

「あの、トリーシャさん。これはもしや、伝説の膝枕というものでは……」

 

「なんの伝説かは分からないけど、頑張ったから、ちょっとご褒美」

 

 

 オレは感涙にむせび泣いた。元の世界では色々とラッキースケベに遭遇していたオレだが、膝枕してもらう機会はついぞなかったのだ。帰ったら小春(こはる)にやってもらおうかな。

 

 この後、この状況を見咎(みとが)めた姫さんが「自分もしたい」と言い出したり、エレナがからかってきたりしたが……それは別の機会に語るとしよう。

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